桜の奇跡 作:海苔弁
「あぁ」
「何か、パンドラの箱を開いた気分」
「そう言うな」
「となると、美麗の母親はぬらりひょんが生まれる前から、生きていたって事か?」
「いや……
もしかしたら、まだ“祓い屋”という言葉がなかった頃だろう。祓い屋紛いの者がいても、不思議じゃない」
「なるほど」
「ということは……
この日記は、“祓い屋”という言葉が伝わった頃に書かれたって事か」
「だろうな」
「それじゃあ、上へ戻りましょうか。
奈々がそろそろ飽きてる頃」
「ママ!怖い人が来た!!」
涙目になり、そう叫びながら奈々は部屋の戸を勢い良く開けた。
「怖い人って?」
「討伐本部に行った時にいた、片腕のないおじさん!」
「!?」
「元帥が何で!?」
「あと、髪がクルクルした人」
「まさか、所長?」
「何で、2人が」
「すぐに上がるぞ」
垂れているロープを伝い、上へと登った幸人は穴から出た。その部屋にいた梨白が、手を貸し彼を引き上げた。部屋は辺り一面氷付けになっており、幸人は見回りながら驚いた。
「な、何だ……これ。
秋羅、状況説明」
「えっと……
元帥?とあの大地さん達の所長が、その突然ここに来て……二人を見たら、美麗の奴が怯えだして」
「怯えてる美麗ちゃんに所長さんが近付いたら、妖気を放っちゃって」
「そのまま、外に」
「……」
「それで、元帥達は?」
「アリサと敬が、外に出た美麗を追って……
それに合わせて、二人も」
上がってきた陽介と共に、幸人は外へ出ていった。
外へ出ると、所々が氷付けになっておりそれを辿りながら行くと、巨木に彼等はいた。
2人の姿に気付いた敬は、奏歌の肩を叩き彼等を指差した。
「あら、月影」
「何やってんだ、アンタは」
「水輝達から今まで送って貰っていた資料映像と、前回送られてきた映像に写っていたぬらりひょんの子供が、成長していたように見えてね。
確かめたくて、彼女を本部へ連れて行こうとしたんだけど、凄い妖気を発しちゃって」
「捕まえるだけで、一苦労だ」
美麗の片手を掴み引きずりながら、元帥は二人の元へ歩み寄った。
「ら、乱暴にしない方が」
「貴様は黙っていろ、土影の弟子」
「は、はい……」
「元帥、その子の手を離して下さい。
痛がっています」
「こうでもしないと逃げるだろう」
「俺が捕まえときます。
早く離さないと、ここいら一帯が消えますよ」
「……」
スッと手を離す元帥……離された美麗は、すぐに腕を引き幸人の元へ駆け寄ると、彼にしがみついた。
「やはり、貴様には懐くか……
本部にいた頃も、そうだったな。弱っている妖怪は、必ず貴様に懐き、貴様が窮地に陥ると真っ先に助けに来ていた」
「……」
「大空大佐もそうだったな」
「はい」
「して元帥。
何故、このような場所へ霧岬所長と?」
「私達の元へ、この手紙が届いたからだ」
そう言って、2人は幸人達が貰ったあの青い手紙を出し彼等に見せた。
「先生のと同じ手紙……」
「これが届き、仕事がある程度片付いたから、岬と来た」
「み、みさき?」
「霧岬所長の事だ」
「失礼。長い付き合いでな」
「約30年前、私は元帥とこの施設を卒業した。
元々、一二を争う仲でね。私が研究員となり、彼が討伐隊に入隊した」
「手紙は誰かからか、分かっていますか?」
「いや、分からない。
ここへ来れば、出した本人が来ているだろうと思ったが……」
「的外れだったみたいね」
「……」
「さて、長居しても無駄だ。
早く、そのぬらりひょんの子供……美麗を渡せ」
「無理だ。
この状態を見て、それ言うか?」
「必要な検査なら、私達の所でやる」
そう言って、暗輝と水輝が幸人達の元へ辿り着き、彼等の隣に立った。
「あらいいの?
あなた達にはあなた達の仕事があるのに」
「別に。どうせ仕事の合間にやるだけ何で、負担にもなりませんよ」
「物好きね。
あなた達と良い龍輝と良い、何故そうまでして妖怪の味方になる」
「俺も妹も親父も、考えが一緒だからですよ。
妖怪と人は、また共存することが出来るって」
しがみついている美麗の頭を、2人は交代に撫でた。
『やはり、手紙を出せば人は来るものだな?』
どこからか聞こえる声に、幸人達は辺りを見回した。
すると、エルの背中に乗るようにして、声の主が現れ出た。
そこには、幼女の姿に赤い着物に青い帯を締め、肩下まで伸ばした髪を下ろした者が、悪戯笑みを浮かべながら幸人達を見ていた。
「だ、誰だ?」
「妖怪か?」
『妾はこの土地の神だ』
「土地神?」
『そうだ。
大きくなったな?ぬらりひょんの娘。
やはり、ぬらりひょんだけあって、容姿と妖気は父親譲りだな』
「……誰?」
『覚えていないのも無理はないか。
最後に会ったのは、お主が産まれた頃だったからな』
「それで、何で俺等をここへ呼んだんだ?」
『お主達に知って貰いたかったからさ。
読んだんだろ?あの日記を』
「まぁ……」
「一応……」
「なぁに?日記って」
「こっちの話だ。
来たか」
巨木へ集まる葵達……駆け付けてきた秋羅に、幸人は美麗を渡し、後ろに下がるように言うと、前を向き土地神を見た。
『これで全員揃ったという訳か……
お主等をここへ呼んだのは、ある者を消して欲しいからだ』
「何を偉そうに」
『偉そうに?
では、問う。
一体、誰のせいでこの世界がこんなにも乱れているんだ?』
「っ……」
『昔は妖と人は共存し合い、互いの領域を弁えていた。だが、ある日を境にその秩序は乱れ、今の形になっている。違うか?』
「それは……」
「迦楼羅、少し黙ってろ」
「はいぃ……」
『お主等に見せてやろう……
この地で、大昔何が起きたのかを……』
突如、辺りが暗転した……怖くなった奈々は、すぐに保奈美の元へ駆け寄り、くっついた。
「な、何だ?」
暗闇が消え、辺りは巨木以外何もない草っ原が広がっていた。
「ここって……」
『ここは、アスル・ロサが建つ前の所だ』
「建つ前って……あら?」
草っ原に現れる一人の男……白い短髪に、青い目をした男は地面へ座った。
「この人って……」
『初代ぬらりひょんだ。
美麗の曾祖父さんだ』
「へー……だってさ、美麗…!?」
自身に抱き着いていた美麗の姿がないことに、秋羅は気付いた。
「み、美麗がいない!!」
「何!?」
「元帥と所長もいない!!」
「嘘!?」
「水輝達もいねぇぞ!!」
『邪魔者は、別のものを見せている。
心配するな』
「別のものって……」
『そうだなぁ……お主等人で言う、思い出…とでも言っておこう』
「思い出……」
『さぁ、このまま見てもらおう。
初代ぬらりひょんと、お主等祓い屋の歴史を』