桜の奇跡   作:海苔弁

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『美麗……』


懐かしい声……美麗はスッと目を開けた。

彼女がいた場所は、晃と自身の家だった。庭には、彩りの花が咲き乱れ、その奥に生えている桜の木から下がったブランコに、幼い自分が座っていた。すぐ近くには、実った野菜を収穫する、晃の姿があった。


「あ!晃ー!」


駆け寄ったが、美麗は彼を通り抜けた。


「……あれ?

何で?」


自身に気付いていない晃は、ブランコに座る幼い自分の元へ歩み寄ると、伸ばしてきた彼女の手を握り家の中へと入った。


「……そういえば、晃がよく言ってなぁ。


小さい頃、私は片時も目を離せなかったって。




あれ?そういえば、秋羅達は……」


『今映っているのは、お主の追憶だ』


現れる土地神……美麗は、半透明の姿で現れた土地神を、不思議そうに見た。


「追憶って……私の記憶?」

『そうだ。

しばらく、思い出に浸っていろ。こっちはこっちで、説明しなければならないのだからな』


そう言って、土地神は姿を消した。

暗かった周りが明るくなり、そこは家の中だった。食卓に座っている幼い自分は絵を描き、その向かいの席で晃は、書物を読みながら何かを書いていた。


「……




晃」


追憶

地面に座った男は、笛を奏でた。その音は森全体に響き渡り、やがて茂みから動物や妖怪達が姿を現し、彼の元へ歩み寄っていった。

 

 

『初代ぬらりひょんは、物静かな奴でな。

 

 

ああやって、いつも一人で笛を奏でていた』

 

「綺麗な音色……」

 

「何か、竜の里で聞いたあの歌に似ているなぁ……」

 

『幾年もの月日が流れていき、やがてぬらりひょんは多くの妖怪を率いて人里へと、降りた。

 

これが、人と妖が出会った瞬間とでも言える』

 

 

ぬらりひょんを前に、背後に立つ無数の妖怪達。その中には、今まで会ったことのある妖怪の先祖が、数多くいた。その中には、今と姿が変わらない天狐と幼い地狐が彼の隣に立っていた。

 

 

「あれって……天狐?」

 

「あの狐女、こんな昔からいたのか」

 

『何だ?天狐に会ったのか?

 

天狐は、ぬらりひょんや他の妖怪達がが生まれる前から、この地に住んでおる妖狐だ』

 

「どんだけ長生きなんだよ……こいつ」

 

『ざっと千年は生きている』

 

「スゲェ」

 

『やがて、このぬりひょんは恋した雪女と結ばれ、子を宿した。

 

 

それが、二代目ぬらりひょんであり、美麗の祖父だ』

 

「雪女と結婚したの!?初代ぬらりひょん!!」

 

『そうだが?』

 

「美麗が氷系統の技が得意なのは、曾祖母からの受け売りなのね……」

 

 

幸せに満ちた表情をする、ぬらりひょんと雪女。母親に抱かれた子供は、無邪気に笑っていた。彼等を見守るようにして、妖怪達が周辺に集まっていた。

 

 

「美麗のお祖父ちゃん、何か幸せそう……」

 

『この幸せが長く続けばいいと、ずっと思っていた……だが、そう簡単には続かなかった』

 

 

突然と暗くなる周囲……再び照らされた場所には、血塗れになった妻が、我が子を守るようにして倒れていた。

 

 

「……え」

 

「どういうこと……」

 

『この近くにある村の者が、彼等に恐れを乱して初代ぬらりひょんの妻と子を殺したんだ。だが、幸運な事に、二代目は傷を負っていたものの、命に別条はなかった。

 

 

最愛の妻を殺されたぬらりひょんは、怒りで我を失い…そして』

 

 

黒いオーラに包まれる初代ぬらりひょん……彼は、禍々しい妖気を放ちながら村へ赴き、自身の姿に怯え逃げ惑う村人達を、次々と滅多刺しに殺していった。やがて村は、漆黒の炎に包まれ滅びた。

 

自身の家へ戻ってきたぬらりひょん……そこには、かつてのあの温厚な彼はいなかった。

 

 

眠る子供の傍にいた天狐は立ち上がり、涙ながらに彼の頬を引っ叩いた。

 

 

『何やってんだ!!闇の力を使って!!

 

使ったら、もう後戻りは出来ないんだよ!!息子に会えなくなるんだぞ!!』

 

 

何も答えないぬらりひょん……天狐は、悔し涙を流し掌から血が滲み出るほど拳を握った。

 

 

 

『これが、初代ぬらりひょんが闇に染まった瞬間だ……

 

 

間もなくして、彼は子供を置いて忽然と姿を消した。誰にも行先を伝えずに……煙のように、そこから姿を』

 

「子供は……美麗のお祖父ちゃんは?」

 

『二代目ぬらりひょんは、天狐の他に交流のあった妖怪達の手によって、育てられた。

 

 

成長した彼は、まるであの時……若き頃の初代ぬらりひょんとよく似ていた』

 

 

天狐の傍で、寝そべる二代目ぬらりひょんは氷で色々なものを作り、傍にいる妖怪達を楽しませていた。無邪気に笑う顔は、初代ぬらりひょんが見せていた笑顔がそこにあった。

 

 

「凄い幸せそう……」

 

「……あれ?

 

でも、確かぬらりひょんって、大昔祓い屋達の手によって封印されたんじゃ……」

 

『それはまだ、先の話だ。

 

 

やがて、二代目ぬらりひょんは桜の守と恋に落ち、そして子を宿した』

 

「桜……」

 

 

舞い上がる桜の花弁……その中に、二代目ぬらりひょんと妻である桜の守は、自分達の子供を抱いていた。

 

 

「……なぁ、幸人」

 

「?」

 

「あの桜の守、晃に似てないか?」

 

「あ?晃に?」

 

「ほら、顔立ちというか雰囲気というか……

 

何か、こう……」

 

「……気のせいだろう」

 

 

『何年もの月日が流れていき、子供……

 

 

麗桜が、5歳になった頃だった……

 

お主等人間達の中に、祓い屋と呼ばれる前の者達……9つの星から力を貰った者達が、闇に染まった2人のぬらりひょんを封じたのは』

 

「2人って……

 

まさか、美麗の親父さんと祖父さんが」

 

『違う。

 

 

 

 

曾祖父と祖父だ』

 

「?!」

 

 

突如として現れ出た闇に染まった初代ぬらりひょん……彼等を囲うようにして、結界を張る九人の男女。

 

 

 

「どうして!?

 

どうして、二代目が!!」

 

『植え付けていたんだ……

 

 

初代が二代目に、闇の力の種を』

 

「闇の力?」

 

「それって、何なの?」

 

『本来、妖怪の妖力は自然の力から作られている。

 

一部を除いて、自然の中に属しているのは、その為だ。

 

だが、人間が誕生してから事態は変わった……

 

 

 

 

彼等から出る、負の力が自然の力を消してしまった……』

 

「負の力?」

 

「憎しみや妬み、恨みと言ったものだ」

 

「まぁ確かに、この世はそればかりで溢れかえってるもんな」

 

『初代ぬらりひょんは、最愛の妻を殺された人間への恨みと憎しみで、負の力を手に入れてしまった。

 

 

妖怪にとって、負の力……闇の力は、禁忌の力。

 

その力を手に入れたら最後、もう元には戻らぬ』

 

「元には戻らないって……じゃあ」

 

『破壊と殺戮を糧にして、この地を滅ぼす妖怪になる。

 

そして、それを止められるのは、神の領域の力を手に入れた者だけ』

 

「その領域に入ってるのが」

 

「僕達、祓い屋」

 

『そうだ』

 

 

凄まじい光と共に、闇に染まった二人のぬらりひょんは、消滅した……彼等と共に、祓い屋達もそこから塵のように消えていった。

 

 

『9人の祓い屋達の命と引き換えに、ぬらりひょんは封印された……

 

 

残された三代目ぬらりひょん……麗桜は、故郷を離れ放浪の旅へ出た。

 

何十年何百年と、旅を続けた彼の周りには、かつて初代ぬらりひょんと同じように、妖怪達が集まった。そして、彼は人にも恵まれた。

 

きっかけは、困っていた人々に手を差し伸ばし手伝った。それが徐々に広がり、人に恵まれた。やがて、人は妖怪に恋をするようになった。人に限らず、妖怪も人に恋をした』

 

 

広がる妖怪と人間が、和気藹々に時を過ごす風景……

 

産まれた子供を抱え買い物をする家族……

赤い目をした子供達と駆けっこをする人間の子供達……

妖怪とお喋りをする人達……

 

 

「スッゲぇ、幸せそう」

 

「美麗が言ってたな。

 

 

小さい頃、よく妖怪達と一緒に花見をしたって」

 

『長い月日が経った頃だった……

 

 

麗桜に、恋人が出来たのは』

 

 

桜色の長い髪を風に靡かせた美優が、桜の木の下で本を読み、彼女の膝を枕代わりに頭を乗せ、心地良さそうに麗桜は眠っていた。

 

 

『この頃が、一番平和だった……妖怪も人も、誰も争うことも無い、本当に幸せな日々だった。

 

 

だが、幸せというのは、やはり長くは続かないものだ』

 

 

次の追憶へ行こうとした瞬間、閃光弾の様に突然辺りが光り出した。




『生き残ったの、あの2人だけなんですってね』

『可哀想に』

『1人はまだ軽傷だけど、もう1人は左腕を亡くすほどの重傷を負ったそうよ』

『生きてるのが不思議だって言ってたわね』




安心して……私が必ず、あなたの左腕になるから。










絶対に……不自由はさせないから……
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