桜の奇跡   作:海苔弁

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眩しさに目を閉じていた幸人だったが、何かに気付いたのか目を薄らと開けた。


「!?」


燃え盛るアスル・ロサ……燃えた柱に下敷きとなり、息絶えた教員、生徒達。

その火の中を、誰かが歩いていた。


着流しに身を包み、長い髪を降ろした者……鼻歌を歌いながら、体から黒いオーラを放っていた。その者は、不意に振り返った。


「……は?

何で、テメェが」


再び強烈な光に包まれて、幸人は目を閉じた。


昔の思い出

眩しさが消え、ゆっくりと目を開ける幸人達……

 

そこは、元の場所…アスル・ロサだった。

 

 

「も、戻ったのか?」

 

 

『随分と、余計な話をしてくれたな?』

 

 

地面に降り立つ、天狐と地狐。彼等の姿に、土地神はクスッと笑うと、腰下まで伸ばした白髪に、狐の面を頭に着け、浅葱色の着流しに身を包み肩に桜の柄が描かれた羽織りを掛けた男に、姿を変えた。

 

 

「き、狐!?」

 

『やはり、人というのは騙されやすいな?

 

からかいがあって面白い』

 

「何だと!!コラァー!!」

 

「向きにならないで下さい。恥ずかしい」

 

「なっ……」

 

『美麗には、何を見せたんです?』

 

『楽しかった日々……それだけだ』

 

 

そう言って、手を差し伸ばした。すると宙が光り、そこから美麗が落ち、差し伸ばした彼の腕に着地した。

 

 

「……あれ?」

 

 

彼女と同じように所々の宙が光り、そこから水輝達と元帥達が落ちてきた。

 

 

「戻ってきた……みたいだな」

 

「テメェ、何者だ」

 

『小生は、空狐。

 

 

そこにいる、天狐の弟だ』

 

『正確には、双子の弟だ』

 

「マジかよ……」

 

『小生は神に近い存在。

 

崇めてもよいぞ』

 

「いや、それは…(絶対、遠慮したい)」

 

『それで兄君、そろそろ美麗を返して貰えませんか?』

 

 

自身の腕の中で、キョロキョロする美麗を空狐は降ろした。降ろされた彼女は、彼を気にしながらそこから離れ、幸人達の元へ駆けて行った。

 

 

『主達に話したのは真実。

 

 

刻一刻と、その時は迫っている。ゆっくり考えている暇はないぞ?祓い屋達よ』

 

 

そう言って、空狐は白い煙を放ちその場から姿を消した。

 

 

 

『全く、余計な話を』

 

『姉君、顔怖いよ』

 

『黙れ。

 

 

お前等が見たであろう出来事が、この施設がある地で起きた』

 

「……」

 

「何が起きたの?」

 

「ちょっとね」

 

「?」

 

「美麗は何見てたの?」

 

「昔の思い出。

 

スッゴい懐かしかった!

 

 

家で晃達と過ごしてた思い出が、いっぱい流れてね!

 

 

 

でも、何か変な所で途絶えちゃったんだよね」

 

「変な所?

 

それって、どんな所?」

 

「何かね……

 

庭に咲いてた花に、水あげててそしたら……」

 

「そしたら?」

 

「そこで途絶えちゃった」

 

「何それー!めっちゃ中途半端!」

 

 

楽しそうに話す美麗と奈々を見ながら、地狐は天狐に耳打ちをした。

 

 

『本当に、楽しい日々しか見せてないみたいだね』

 

『あぁ……少し冷や汗掻いた』

 

 

 

「楽しいお喋りはそこまでだ」

 

 

立ち上がり、幸人達に歩み寄る元帥と奏歌。2人に、美麗は素早く秋羅の後ろへ隠れた。同時に、走り寄ってきたエルは鳴き声を放ち落ち着きがない行動を取り、紅蓮は唸り声を出し牙を剥き出しにしながら2人を睨んだ。

 

 

「狐に嫌なものを見せられた。

 

 

その代償として……夜山美麗」

 

「?」

 

「即刻、本部へ来なさい」

 

「え?」

 

『どういうつもりだ』

 

「つもりも何も、送られてきたデータを見て以前と容姿がまるで違う。

 

今あるデータを全て書き換えなければならない。その為には、本人が必要だ」

 

「言ってる事が、さっきと違うぞ」

 

「黙れ。こっちは機嫌が悪いんだ。

 

 

雲雀、とっとと連れて来い」

 

「おまけ付きでも良いかしら?」

 

「好きにしろ」

 

 

無線機で何かを話す元帥の元へ、奏歌は歩み寄った。

 

 

『相変わらず、勝手な奴等だ』

 

「全くだ」

 

「まぁ、所長命令だから、ぬらちゃん連れて行くけど……

 

 

付き人、誰連れて行きたい?」

 

「とりあえず、水輝達は絶対だ。この二人じゃないと、テメェ等に検査何ざ無理な話」

 

「へいへい、そうですね」

 

「その次に……

 

天狐、地狐、どっちか行けるか?」

 

『僕が行くよ。姉君は長期間森を離れられないし』

 

「分かった」

 

『頼んだぞ』

 

『了解』

 

「言っとくが、エルと紅蓮は留守番だからな」

 

 

その言葉に、エルは連れて行けと言わんばかりに、幸人の頭を甘噛みした。

 

 

「人の頭を噛むな!!無理なものは無理だ!」

 

「そうそう。

 

エルはともかく、紅蓮が来たら真面な検査ができないからね!」

 

『テメェの頭を、今すぐにでも噛み砕いていいんだぞ?』

 

「やめて!!殺さないで!!」

 

「秋羅、仕事任せていいか?」

 

「べ、別に構わねぇけど……え?幸人、ついていくの?」

 

「当たり前だ。このド変人と変人に、美麗を任せられるか」

 

「俺は正常だ!!」

 

「ちょっと!!変人って何よ!!」

 

 

騒ぐ彼等を見ていた秋羅の服を引っ張り、美麗は不安げな表情で口を開いた。

 

 

「本部に行かなきゃ駄目なの?」

 

「ちょっと検査が必要みたいだからな。

 

大丈夫、幸人達が付いてるし、それに地狐も」

 

「……行きたくない」

 

「え……」

 

「行きたくない。お家帰る」

 

 

寄ってきたエルの頭を撫でながら、美麗は不機嫌顔で言った。

 

その事ににいち早く気付いた幸人は、彼女の様子を見ると言い争っている大地と水輝達の仲裁にするようにして、間に入った。

 

 

「言い争い中、申し訳ないが……

 

大地、元帥達に美麗は体調崩したから連れて行くの無理だって、伝えといてくれ」

 

「ハァ!?」

 

「どういう事?幸人」

 

「本部って聞いて、急にご機嫌斜めに」

 

「……」

 

 

その場に座り込み、不機嫌顔でいる美麗に、エルはただ傍で座り時々嘴を擦り寄せた。

 

 

「あの調子じゃ、絶対に行かない…つか、行けねぇな」

 

「説得しても無駄って事?」

 

「何日かかるか」

 

「……

 

 

分かったわよ。その代わり、水輝と暗輝、やって貰いたいことを説明するから、ちょっと来なさい」

 

「ヘーイ」

「ハイハーイ」

 

「翔、アンタも!」

 

「ウーッス!」

 

 

去って行く4人に、軽く溜息を吐く幸人に葵と保奈美は、彼の肩に手を置いた。

 

 

「お疲れ」

「お疲れ」

 

「さっさと帰って、自分の布団に寝たい」

 

「まぁまぁ、もう少しよ」

 

 

ふと美麗の方を見ると、彼女は狐の姿になっている地狐の尾っぽに、顔を埋め気持ち良さそうに横になっていた。横になる美麗の頭を、天狐は薄らと微笑みながら優しく撫でた。

 

 

「呑気に横になってるし」

 

「気が緩んだんでしょ?

 

元帥と所長がいないから」

 

 

「幸人、この1週間の期間、ミーちゃんを私に貸してくれ」

 

 

手書きで書かれた資料を、突き出しながら水輝は血走った目で、幸人に話した。

 

 

「水輝、顔怖いわよ?」

 

「何だ、この数は……これを全部、調べろって言うのか?」

 

「そうよ。

 

さっき、所長に聞いてそれを水輝達にそのまま伝えたんだから」

 

「所長、マジで顔が怖かったッス……」

 

「連れて行く予定の子が、連れて行けなくなったからね。

 

所長、予定が狂うのが一番嫌いだから」

 

 

八つ当たりなのか、奏歌は元帥に何度も正拳突きを当てており、その突きを彼は右手で対処していた。

 

 

「……ねぇ、あの2人どういう関係?」

 

「同じ施設出身ってだけで、あそこまで親しくなるか?」




夕方……


幸人達と別れた奏歌は、元帥と共に馬車で本部へ向かっていた。


「あーあ、予定が狂ってイライラする」

「相変わらず、細かい女だな」

「アンタが雑なんでしょ」

「ほっとけ」

「煙草、吸うわよ」

「俺にも寄こせ」


ポケットから出した煙草ケースから、煙草を一本取りだした奏歌は火を点けた煙草を、元帥の口に入れた。入れると自分も煙草を加え、火を点け息を吸った。二人同時に煙草を口から取り、煙を吐き出した。


「煙草嫌いだったお前が、煙草を吸う様になるとは……世の中何があるか分からないもんだな」

「吸ってないと、やってられないのよ。

どっかの誰かさんが、次々に仕事を入れてくるんですもの」

「もう音を上げたか?」

「馬鹿にしないで。


アンタの左腕なんだから、これくらいのことで音を上げるわけないでしょ」

「まぁ、そうだな。




寝る。着いたら起こせ」

「了解。お休み」


顔を伏せると、元帥はそのまま寝息を立てて眠ってしまった。落ちかけている、彼のコートを奏歌は掛け直した。


(本当……私と一緒の時だけしか、気を抜かないのね)
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