桜の奇跡   作:海苔弁

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暖かな日差し外を包み込み、森や草原に春の草花が咲き出した頃。

庭に置かれた鉢植えに咲いた赤い花に、美麗は嬉しそうに水を上げていた。


その時、馬の鳴き声と馬車の音が聞こえ美麗は顔を上げた。馬車から降りてきたのは、陽介と翔だった。


「……あれ?

陽介、何で?」

「幸人達はいるか?」

「秋羅は、単独で任務に。

幸人は、仕事部屋」

「彼をすぐに呼んで来い」

「え……あ、うん」


クローンの再来

「そんで、話ってなんだ?」

 

 

大あくびをしながら、幸人は頭を掻いた。キレかけている陽介は、翔から資料を奪うとそれをテーブルの上に叩き付けた。

 

 

「その資料に目を通せ」

 

「……

 

 

 

 

!!?」

 

 

資料に目を通した幸人の顔が、見る見るうちに強張った……読み終えると、しばらく黙った後口を開いた。

 

 

「……事実か?」

 

「数多くの目撃情報が、本部へ来る」

 

 

3人が話をしている間、美麗は庭でエルを洗っていた。洗い終えると、エルは体を激しく揺らし水飛沫を立てた。飛んできた水に、美麗は掛かり軽く頭を振ると甘えてきたエルの頭を撫でてやった。

 

 

「……?」

 

 

何かに気付いた美麗は、ふと顔を上げた……

 

目の前に降り立つ、ぬらりひょん(クローン)。

 

 

彼の姿に固まっていた美麗の前に、エルは立つと威嚇するようにして鳴き声を放ち前足を上げ翼を羽ばたかせた。

 

 

「ん?

 

何か、外騒がしくない?」

 

「?

 

 

!!美麗!!」

 

 

外にいるぬらりひょん(クローン)に気付いた幸人は、戸を勢い良く開け陽介と共に外へ飛び出した。

 

彼女に触れようとしたぬらりひょん(クローン)の足下に、陽介は銃弾を放った。銃弾に驚いた彼は、撃ってきた陽介の方に目を向けた。

 

 

銃声に美麗は驚き耳を塞いだ。その様子を見たぬらりひょん(クローン)は、突然苦しみ出し頭を押さえて叫び出した。

 

 

「な、何だ?!」

 

「先輩、大変ッス!!

 

ここ一体の妖力が一気に上がってる!!」

 

「?!」

 

 

苦しむぬらりひょんから放たれている黒いオーラが近付いてくる幸人に攻撃をし、さらにエルにまで攻撃してきた。

 

 

「エル、逃げて!!」

 

 

逃げるのに戸惑っているエルを、美麗は氷の道を作りそこから逃がした。黒いオーラはエルが出て行ったと同時に、氷の道を壊し彼女を完全に閉じ込めた。

 

 

その時、黒いオーラが彼女目掛けて攻撃してきた。

 

 

「美麗、避けろ!!」

 

 

“パーン”

 

 

彼女の周りに出来た、氷の壁……壁は次々とくるオーラの攻撃を防いでいった。苦しく息切れをするぬらりひょん(クローン)に、突然火の球が飛んできた。球を素早く避けた彼は、黒いオーラを押さえ攻撃をやめた。

 

消え掛かっているオーラを飛び越え、美麗の前に降り立つ紅蓮。氷を消した美麗は、紅蓮の元へ駆け寄り目の前にいるぬらりひょん(クローン)を見た。

 

 

『去れ。ここはテメェがいるような地ではない』

 

『……お前は、俺を知っているのか?』

 

『知っていようといないと、関係ない。

 

こいつに危害を加えるのであれば、早々に立ち去れ』

 

 

紅蓮の体から燃え盛る炎に、ぬらりひょん(クローン)は黒い霧を放ち、それと共に消え去った。

 

消えると、美麗は腰が抜けたかのようにしてその場に座り込んだ。

 

 

「び、ビックリしたぁ……」

 

「何でいきなりあいつが……原因は分かるか?」

 

「あいつが来たと同時に、ここいら一帯の妖力が上がったって事があるくらいで原因までは……」

 

「……とりあえず、中に入ろう。

 

翔、馬達入れるの手伝ってくれ!」

 

「俺、研究員ですよー」

 

「言い訳するなら、テメェの脳天撃ち抜いても良いんだぞ」

 

「手伝いますから、銃口を向けないで下さい」

 

「陽介、美麗頼む」

 

「あぁ」

 

 

走り回っている馬達の元へ、幸人達は駆けて行った。その間に、陽介は美麗を立たせ一緒に家の中へ入った。

 

 

しばらくして、外は雨が降り出した。ザーザーと降る中、水輝と暗輝は幸人達の家へやって来た。2人は彼等から、ぬらりひょん(クローン)の話を聞いた。

 

 

「ぬらりひょんが!?」

 

「あぁ……」

 

「み、ミーちゃんは?!」

 

「自室にいる。

 

まぁ、ちょっと整理付いてないみたいで横になってる」

 

「……」

 

「先輩方は、何故ここへ?」

 

「……テメェの上司から、美麗の一ヶ月の健康状態を送れって命令があってね」

 

「毎日この時間に、それをやりに来てんだよ」

 

 

顔は笑っているが、声が怒りに満ちている2人に翔は素早く陽介の後ろへ隠れた。

 

 

部屋に籠っていた美麗は毛布を頭から被り猫の抱き枕を抱きながら、ボーッと横になっていた。戸をノックする音に目を向け、毛布の中からの外を覗いた。中へ入ってきたのは、水輝達だった。

 

 

「とりあえず、いつも通り診察するから。

 

まぁ、時間は掛かるだろうけど」

 

「分かった。

 

 

美麗、水輝達来たぞ」

 

「……」

 

 

ムクッと起きた美麗は、不機嫌そうな顔で抱き枕を抱きながらこちらを見てきた。

 

 

「スッゲぇご機嫌斜めだな」

 

「さっきの事があってから、ちょっと機嫌がな」

 

「ミーちゃん、検査するよー」

 

「……」

 

 

チラッと水輝を見ると、美麗はプイッと背を向けた。

 

 

「……駄目だこりゃ」

 

「明日に……」

 

「伸ばしたところで、あの所長が許すか?」

 

「ですよねー」

 

「時間が経てば、多少機嫌直るだろう。

 

それまで、待ってろ」

 

「そうするわ」

 

「ミーちゃん、また来るよ」

 

 

パタリと戸が閉まると、美麗は抱き枕を抱いたまま横になった。

 

 

(……あいつ、知ってる……

 

 

でも、分からない)

 

 

『大丈夫。

 

晃と森に行くだけだから』

 

「?」

 

 

聞こえる声……

 

場所が変わり、美麗は見覚えのない部屋にいた。

 

 

窓の隣に置かれたベッドの上に、自分は横になっていた。向かいに机と本棚が置かれ、床には木の玩具やぬいぐるみが転がっていた。

 

 

(……ここ、私の部屋……

 

 

何で)

 

 

床に落ちている狼のぬいぐるみを、美麗は不意に持ち上げた。

 

 

(……これ……

 

 

ママが作ってくれた奴だ)

 

 

その時、外から物音が聞こえ美麗は外へ出た。

 

部屋を出た途端、戸は消えそこは森の入り口付近だった。そこには、美優に抱かれた幼い自分とぬらりひょんと晃が森の前に立ち、ぐずっている幼い自分の頭を交代に撫でていた。

 

 

『そんなに泣かなくても、もう少し大きくなったら連れて行ってあげるよ』

 

『美麗は、大人しく美優さんとお留守番しててね』

 

『ヤー!

 

ミレも行く!』

 

『そう言うなって。

 

美麗は良い子に、ママと一緒にお留守番してて』

 

 

泣く幼い自分の頭を、ぬらりひょんは撫でた。そして、晃と共に森の中へと入って行った。

 

 

「……パパ?」




「……」


目を開ける美麗……元の部屋に置かれたベッドから起き上がり、彼女は部屋を見回した。外はすっかり暗くなり、月明かりが外を照らしていた。


「……」


意を決意したかのようにして、美麗は必要な物をバックに入れると部屋の窓から外へと出た。

外には、さも何かを悟っていたかのように紅蓮が待ち構えていた。


『お前がどこに行きたいか分かってる』

「……あのぬらりひょん、多分パパだよ。


パパは、小っちゃい頃に亡くなってるから覚えてなかった。写真でしか、見たこと無かった」

『とりあえず、確かめに行こう』

「……うん」


髪を結うと、美麗は紅蓮の背中に乗りそのまま森の中へと姿を消した。
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