桜の奇跡   作:海苔弁

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秋羅と幸人が北西の森付近の町へ着いたのは、その日の夕方だった。

同時に陽介が、駅に到着し2人と合流した。


「最速スピードで来たつもりが、この時間だ」

「俺も少々権限を使って乗り継いだが、この時間が限界だ」

「俺は、アンタ等の偉大さに驚いた」


妖狐

新たな器……

 

 

我等の血を引く者……

 

 

その身体、貰い受ける。

 

 

「!!」

 

 

暗い森の中、熊の巣穴で眠っていた美麗は飛び起きた。

 

大量の汗を掻き、美麗は傍で眠っている紅蓮に抱き着いた。抱き着いてきた彼女に、彼はスッと目を開けた。そして自身の胴に顔を埋める美麗の頬を、鼻で撫でると頬を舐めた。

 

 

『怖い夢でも見たか?』

 

「……知らない声が聞こえてきて……私の身体を貰うって」

 

『……』

 

「もう平気……大丈夫」

 

 

そう言いながら、美麗は眠りに付いた。眠った彼女の頬を、紅蓮は舐めると尾を体に置きそのまま自身も眠りに付いた。

 

 

 

翌朝……

 

泊まった宿を後に、幸人達は森の中へ入っていた。しばらく森の中を歩いていると、森を抜け桜の木であろう木々が生い茂る広場へ出て来た。

 

 

「何だ……この場所」

 

 

不意に吹く風……地に咲き誇る夏の草花が揺らぎ、花弁を舞い上がらせた。その花弁を目で追うと、置かれている岩の上で身体から禍々しい黒いオーラを放ちながら、ぬらりひょん(クローン)がもがき苦しんでいた。

 

 

「ビンゴだな」

 

「だけど、美麗がいない」

 

「その内……?

 

 

!!

 

避けろ!!」

 

 

幸人の怒鳴り声に、2人はすぐにそこから離れた。突如として、放たれ暴れる黒いオーラ。オーラは、幸人達を攻撃するようにして、槍のように次々と地面へ突き刺さった。

 

 

「氷壁!!」

 

 

次の攻撃が来る瞬間、彼等の前に現れた氷の壁が、その攻撃を防いだ。氷の壁の前に、美麗と紅蓮は降り立った。

 

 

「美麗!」

「紅蓮!」

 

 

紅蓮から降りた美麗は、駆け寄ってきた幸人達の方を見た。

 

 

「ごめん……どうしても、調べたくて」

 

「話は後で聞く。

 

それより、怪我は無さそうだな」

 

「うん、平気。ずっと紅蓮が守ってくれてたから」

 

「そうか」

 

「話はここまでにして、奴をどうするか」

「陽介、待って!」

 

「?」

 

「あれ、クローンなんかじゃない」

 

「?」

 

「どういう事?」

 

 

氷の壁の一部を溶かし、美麗はぬらりひょん(クローン)の元へ歩み寄った。彼は彼女の姿を見た途端、攻撃を止め寄ってくる美麗をジッと見つめた。

 

 

(誰だ……分からない……

 

 

けど……襲っては駄目……傷付けちゃ駄目……

 

 

誰だ……誰だ)

 

 

再び苦しみ出したぬらりひょん(クローン)は、地面に膝を付き、頭を抑えながら地面を叩いた。

 

近付いた美麗は、握っていた黒曜石のペンダントをぬらりひょん(クローン)の手に握らせた。

 

 

『!!』

 

 

何かを思い出したのか、ぬらりひょん(クローン)は、ハッと顔を上げ美麗を見た。

 

 

『……これは』

 

 

『はい、あげる』

 

『黒曜石、よく見付けたね?』

 

『黒狼達に手伝って貰っちゃった』

 

『美優らしい。

 

 

綺麗な紐だね……どうしたの?』

 

『実は……

 

それ、私の髪の毛』

 

『え?髪の毛、切ったの?』

 

『何本か抜いて、束にして紐に。

 

平気よ。すぐに伸びるわ』

 

『でも……』

 

『心配しないで。

 

 

いつでもあなたを守るように、思いを込めたんだから』

 

 

『……美優……

 

 

俺は……』

 

 

 

 

『名前、決まったよ』

 

 

 

 

『美麗。

 

 

あなたと私の娘』

 

 

 

 

『美麗……』

 

 

彼女の名を口にした瞬間、身体に纏っていたオーラが消え、正気に戻ったかのように青い目をしたぬらりひょんは、手を握り涙を流す美麗を見た。

 

 

『……美麗』

 

「パパ……」

 

「美麗!!」

 

「パパ!!」

 

 

飛び付いた美麗を、ぬらりひょん……麗桜はしっかりと受け止め思いっ切り抱き締めた。

 

 

「美麗、ごめん。

 

パパ、すぐにお前のこと」

 

「いい……いい……

 

私だって、すぐにパパのこと分からなかったから」

 

「美麗……こんなに大きくなって」

 

「パパ……会いたかった!」

 

 

2人の光景を見た秋羅達は、驚きの顔を隠せないでいた。

 

 

「クローンじゃなかったって事か?幸人」

 

「……恐らくな」

 

「死んでいなかったという事か……」

 

「けど、何でクローンって……」

 

 

 

 

“バーン”

 

 

「!!」

「パパ!!」

 

 

突然鳴り響く銃声……銃声の方に目を向けると、そこには銃口を向ける、捜索隊の隊員がズラリと囲むようにしてそこにいた。

 

 

「いつの間に!?」

 

「感謝するぞ、月影。

 

 

クローン……

 

 

いや、ぬらりひょんである伊吹麗桜を見付けてくれて」

 

 

銃を持ち現れ出たのは、元帥だった。

 

銃弾……麻酔銃を撃たれた麗桜は、座る美麗の傍に倒れた。倒れたのを確認した捜索隊は、一斉に茂みから出て来ると、彼等の元へ近付いた。

 

 

「嫌だ……駄目……

 

 

駄目ぇぇえ!!」

 

 

叫び声と共に、いくつもの氷の刃が地面から現れ、近付いてくる隊員を攻撃した。

 

 

「流石、麗桜の娘」

 

「元帥、あなたは全て知っていたんですか?」

 

「この日記に書かれていたんだ。

 

 

114年前、総大将ぬらりひょんを手に入れたと」

 

「手に入れた?」

 

「ぬらりひょんは不死身……心臓を貫かれようが八つ裂きにしようが、決して死ぬことは無い。

 

無論、祓い屋達に封印されても身体は亡くなるが、魂だけは生き残る……と」

 

「……まさか、我々がぬらりひょんクローンと呼んでいたあの者は」

 

「察しの通り……

 

 

三代目、ぬらりひょん…伊吹麗桜だ」

 

「!?」

 

 

息を切らす美麗……その時、麗桜の身体から禍々しい黒いオーラが溢れ出てきた。秋羅の傍にいたエルは、手綱を持つ彼に攻撃し、手綱から手を離れさせた。自由になったエルは、翼を羽ばたかせて座り込んでいる美麗を飛びながら銜え、そして勢いを付けて自身の背中へ乗せるとそこから離れさせた。

 

次の瞬間、黒いオーラは近付いていた隊員達を、次々と攻撃していった。

 

 

「麻酔銃が効かないだと!?」

 

「パパ!!」

 

 

美麗の呼びの声に、応答するかのように攻撃するオーラの一つが、彼等目掛けて飛んできた。

 

 

「美麗!!」

『美麗!!』

 

 

“パーン”

 

 

当たる寸前、突然目の前に現れ出た尾っぽ……

 

 

『子供を殺す気か?

 

それとも、こう言うべきか……孫であり息子である彼の子供を』

 

 

9本の尾を揺らす天狐が、黒いオーラを放つ麗桜を睨みながら言った。遅れて、彼女の元へ8本の尾を揺らした地狐、同様9本の尾を揺らした空狐が降り立った。

 

 

「す、凄え……妖狐の勢揃いだ」

 

 

地面へ着地したエルから降りた美麗は、すぐに天狐達の元へ駆け寄った。

 

 

「天狐、あれはパパだよ!だから」

 

『攻撃はしない。

 

それより、下がっていろ。怪我をしたら麗桜が悲しむ』

 

 

寄ってきた地狐の背に乗り、美麗は秋羅達の元へ戻った。地狐は人の姿へ変わると、抱き抱えた彼女を幸人に渡し、そして元の所へ帰った。

 

 

『……やはり、生きていたか……』

 

『昔と変わらない姿だね。麗桜』

 

『祖父と父に、よく似ている』

 

『……だが』

 

『闇に染まってしまったんだね』

 

『闇に染まった妖怪は、この世にいてはならぬ存在』

 

『ここで消えて貰う』

 

 

妖狐達が放つ光線に当たった麗桜は、声を上げながら苦しんだ。

 

 

「パパ!!

 

天狐、止めて!!パパが苦しんで」

『今いるのは、麗桜ではない!』

 

「?!」

 

『息子であり孫である麗桜の身体を乗っ取っている者がいる』

 

『さぁ出て来い。

 

その姿、今こそ見せよ!』

 

 

纏っていた黒いオーラが、空へと上がった。オーラは人の形を作り出すと、粉吹きのように弾けた。

 

 

真っ黒に染まった2人の妖怪……スッと目を開けると、天狐達を睨んだ。

 

睨んできた2人に、3人は狐から人の姿へとなり彼等を見て微笑んだ。

 

 

『……久しいなぁ……』

 

 

 

 

『藤閒』

 

 

 

 

『李桜莉』

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