桜の奇跡 作:海苔弁
黒く染まった藤閒と李桜莉……彼等を、妖狐達は目から涙を流し見詰めていた。
「……天狐達、泣いてる」
『流石妖狐……何百年経っても、姿は変わらないな』
『俺達が、人に封印されて何年経つ?』
『500年……いや、それ以上かも知れない』
『そんなに……
月日が経つのは、やっぱり早いね~。
あ……あの子、麗桜の子?』
李桜莉はそう言いながら、美麗の方に目を向けた。そして、彼女に向けて手を差し伸ばしてきた。すると、幸人と秋羅はまるで何かに操られているようにして美麗の前に立ち、幸人は彼女を抱き寄せ彼を睨んだ。
『……いつの世も、人はやはり己の都合でしか動かないのだな』
『これでは、新たな器が手に入らぬ』
『……!?
月影!!すぐに美麗を連れて、ここから離れろ!!』
『逃しはしない』
逃げようとした彼等の前に、黒く染まった氷の壁が現れた。その氷の壁は、捜索隊を含む全て者を囲むようにして、立ち揃え逃げ道を消した。
『新たな器』
『我等は、ソナタの身体を貰い受ける』
突如幸人達の前に、李桜莉が現れ美麗の周辺にいた彼等を全員突き飛ばした。
「皆!!」
『これで邪魔者はいない』
『さぁ、その身体我等に』
「嫌だ!!」
差し伸ばした手を振り払うようにして、強風が吹き彼等の手を攻撃した。少し距離を置いた彼等に、美麗は小太刀を抜き構えた。
『……反抗するのか?我等先代ぬらりひょんに』
「うるさい!!
私は、誰の物でも無い!!」
『……
ソナタ、記憶を封印されているな?』
「え?」
『闇の力の源である、その記憶を封じられていれば力は発揮しない』
「封印?
(……あれ?確か、柊がそんな事)」
『……蘇らせてやろう』
そう言うと、藤閒は美麗の背後へ回り退路を塞いだ。逃げ道を失った彼女の周りに、黒いオーラが上がり彼女を包み込みだした。
『藤閒!!李桜莉!!止めろ!!
そんな事をして、何になる!!』
『我等の目的……』
『全ての人を、亡き者にすること』
『その為には、器が必要なんだ。
最も強力な器が』
美麗の頭を鷲掴みにした李桜莉は、彼女を軽々と持ち上げた。
『美麗!!』
『さぁ、思い出せ。
ソナタの過去を!』
額の模様が見る見るうちに消えていった……暴れていた美麗は、段々と大人しくなっていき、そして目から大量の涙を流し始めた。
勝ち誇ったかのようにして、微笑む藤閒と李桜莉……だが次の瞬間、彼等の闇を追い払うかのように何かが輝きだした。
『な、何だ!?』
地面に振り落とされ倒れる美麗の前に現れたのは、強烈な光を放った美優だった。
『祓い屋の力、甘く見るな!!』
「あ、あれって……」
「み、美優…さん?」
突然苦しみ出した2人は、闇のオーラと共に麗桜の身体へと戻った。すると、周りを囲んでいた氷が溶けた。倒れた彼を、捜索隊はすぐに捕獲し檻の中へと入れた。
「貴重なデータが取れた。
後日、夜山美麗のデータを取りに行く。準備をしておけ」
「……」
「引き上げろ」
元帥の掛け声と共に、捜索隊は麗桜が入った檻と共にそこから離れていった。
静まり返る広場……美優は、倒れる美麗を抱き上げ駆け寄ってきた天狐に渡した。渡された彼女は、涙を流し静かに眠っていた。
『……記憶は恐らく、晃が死んだ部分だけが蘇っている。
あの日々の記憶の封印は解かれていないわ』
『厳重にしといて、よかったみたいだね。姉君』
『あぁ』
『私は麗桜の元へ行く。あとは天狐達に任せる』
『分かった』
『……月影』
「?」
『娘をお願いします』
一礼をして、美優は光の粒となり風と共に消えた。
静かに吹く風……天狐に抱えられた美麗の元へ、エルは駆け寄り心配そうに、嘴で彼女の頬を軽く突っ突いた。
『エル、止せ』
『ひとまず、ここを離れた方が良さそうだね』
『あぁ。
月影、家まで送る』
「頼む」
「無論、お前等妖狐達も来るんだろう?」
『一応』
『記憶を蘇った彼女を、1人にしてはおけないからね』
白い霧を放ち、地狐達は幸人達を家へ送った。
家で待っていた水輝と暗輝は、帰ってきた彼等を出迎えるようにして、外へ出てきた。天狐に抱かれている美麗を、水輝は受け取り彼女の部屋へ行きベッドへ寝かせた。
「さてと、今後どうするかだ」
「これから、討伐隊がどう動くか……
正直、皆目見当も付かない」
「……」
「なぁ、天狐。
美麗の親父は、何で闇の力を……」
『闇の力は伝染しやすいんだ。
ぬらりひょんは不死身。心臓を貫かれようが八つ裂きにしようが、身体が亡くなろうが、魂だけは生き残る。
だが、傷が回復し意識を取り戻した時、記憶障害が起きることが稀にある』
「……まさか」
『そのまさか。
李桜莉は不治の病に掛かった際、闇の住人となっていた藤閒から、闇の力を与えられそして幼い麗桜と妻を残して消えてしまった』
『けど、その後すぐに祓い屋達が闇の力と共に2人を封じた。
お主達にも見せたであろう?封印された彼等を』
「……」
『その後は、特に変動も無く平和だった。
麗桜が生きていると、風の噂を聞くまではな』
「え?」
「知ってたのか?」
『風の噂だ。
ぬらりひょんは不死身。もしかしたら生きているんじゃないかって、噂が流れるようになっていた』
『探そうにも、姉君は北西の森の管理。
僕は美麗の見張り。どちらにせよ、確かめには行けなかった』
「何で?
空狐に、頼めば」
『小生はその頃、この地にはいなかった。
天狐の命で、北東へ行っていたのでな』
「……」
『そして、お前達から聞いたぬらりひょんクローンが逃げ出したと聞いて、すぐに捜索した。
だが、どうしても見付けることが出来なかった』
『けど、紅蓮から聞くと……会っているみたいだね?彼に』
「確かに……
初めは、エルが保護されてた村。
次に、竜の里。
そんで、漁師の町」
「あとは本部で会った」
『まぁ、それだけ会っていれば……消えている記憶が、沸々と蘇るわけだ。
美麗の記憶は、晃が死んだ部分だけが蘇っている』
「……晃と美麗に、何があったんだ?」
暗い空間を流れるようにして、眠る美麗……
そこに、一筋の光が差し込みその光は人の形となった。
光は晃へとなり、彼は眠る彼女の頭を撫でながら耳元で囁いた。
『姿が見えなくても、僕はずっと君の傍にいるからね』
それだけを伝えると、晃は光の粒となりそこから消えていった。
『次に咲く、あの桜の木の下で、僕は君を待っている。
必ず、君がここへ来ることを……僕は信じている』