桜の奇跡 作:海苔弁
『話すより、見せた方がよい』
そう言って、空狐は光の玉を出した。するとその光が反射し、部屋が消えある場所へと幸人達は移動した。
「……こ、ここって」
彼等が着いた場所……そこは桜の木々が咲き誇る、丘だった。
『志那国の秘境にある、丘だ』
「志那国にこんな所が……!
幸人!あそこ!」
桜の大木の下に、降り立つグリフォン……そこから、2人の者が降りた。
『あれが、晃と102年前の美麗だ』
「あれが……」
「ねぇ、あのグリフォンって」
『エルだよ』
「……」
『エルはね、本部にいた西洋獣妖怪の一匹なんだ』
「……え?
本部にいたって……
美麗の奴、本部から逃げ出したんですか?
それに……」
『……無理矢理、連れて行かれたんだ。
本部へ』
「!?」
『詳しい話は、もう少し時間が経ってからだ』
「……そんな事言わないで、全部話せよ!!
全部知らなきゃ」
“バーン”
突然響き渡る銃声……幸人達は、すぐに美麗達の方を向いた。
胸を銃弾で背後から撃ち抜かれ、そこから血を流しながら晃は倒れた。倒れる彼を、美麗は抱きながらその場に座り込んだ。
「……だ、誰が撃ったんだ!?」
『……
分からない』
「え?」
『ずっと、美麗の記憶を辿った……だが、どうしてもそこだけが、分からないんだ』
「……」
口から血を流した晃は、ゆっくりと口を動かして美麗に何かを伝えた。彼女は晃を抱き締めながら、大量の涙を流した。
その時、強風が吹いた。強風に揺られ桜の花弁を舞い上がった。そして、舞い上がった花弁と共に美麗に抱き締められた晃は消えた……花弁は天高く、舞い昇っていった。
消えたと同時に美麗は、目から大粒の涙を流し大声で泣き喚いた。
「……美麗」
『晃は、こうして死んだ。
美麗は、晃の最期を見届けているんだ。
本当なら、もっと後に見るはずだった光景を、まだ幼心が残る彼女は……』
「……」
「目の前で、大事な人が亡くなるくらい辛い事なんて……
無いよ」
涙を流す水輝を、暗輝は黙って抱き寄せ肩を擦った。
しばらくした後、そこへ天狐が舞い降りた。泣き喚いていた美麗は、泣き疲れたのか眠っていた。
『晃が亡くなって数日後、私は彼女を迎えに行った。
そして、彼女から本部での記憶と晃達の記憶を全て封じた。次に目覚めた時、何もない無から……始まって欲しかった』
彼女を抱き上げた天狐は、白い霧を放ちその中へと入り姿を消した。
映像はそこで終わり、彼等は自宅へと戻ってきた。
空狐は光の玉を消し、袖の中へ手をしまった。
『短いが、これが晃との別れだ』
「……」
「晃は死んだ後、美麗のことが心配で生まれ変わったって」
『まぁ、そうだな。
美麗の記憶が無い間だけ。
蘇ったら、紅蓮の記憶と魂から晃は消える』
「そんな……」
『紅蓮はね、元々2頭の黒狼だったんだ。
晃と美麗がまだ、あの家にいた頃よく遊びに来ていた……
でも、本部へ連れて行かれた時、邪魔をしたという理由で……』
「……殺されたのか」
『……
1頭は駄目だったけど、もう1頭の身体は辛うじて……
でも、どうしても土に葬ることが出来なくてね。
晃の魂を入れて、2頭の黒狼に名付けられていた名前の頭文字を並べて、『紅蓮』と付けた』
「……」
『……?』
ふと階段の方に目を向けると、目を擦る美麗がそこに立っていた。
「美麗」
階段を降りた美麗は、歩み寄ってきた地狐に抱き上げられ、彼の肩に頭を乗せた。
『どれ、少し外を歩いてくる。
その間に、話すことを話せ』
『分かった』
地狐から美麗を受け取り、空狐は外へ出た。
『さてと、話を最初に戻す。
今の美麗は、軽い記憶障害を起こしている。まぁ、時間が経てば元には戻る』
「記憶障害って……具体的に?」
『晃と別れたあとの記憶が空白なのと、今自分が何故、ここにいるのかと言うものだ。
記憶の空白は、明日私達が話す。その経緯で、お前達のことを話す』
「分かった」
その時、陽介の無線機が鳴り彼は失礼と言いながら、対応した。
「……分かった、伝えておく。
貴様は職務に戻れ。ご苦労」
「陽介、無線誰から?」
「梗介だ。
幸人、明日緊急会議を開くため、祓い屋全員本部へ来いとのご命令が下った」
「マジかよ……つーか、今から汽車に乗らなきゃ間に合わねぇぞ」
「とっとと支度しろ。
俺はお前を連れて来いと、元帥から言われた」
「相変わらず、忠実犬ですこと」
「ウダウダ言ってないで、支度しろ」
「ヘイヘイ」
重い腰を上げた幸人は、面倒臭そうにしながら自室へ入った。
外へ出ていた空狐は、美麗を自身の膝に乗せ地面に座っていた。傍には、紅蓮が寝そべっており空狐は彼の頭を撫でてやった。
『少しは落ち着いたか?』
「……」
泣いていたのか、目を腫れさせた美麗は涙を拭きながら、軽く頷いた。
「……晃は、死んだんだよね?」
『……あぁ』
「……晃に、もう会えないの?」
『……』
何も答えず、空狐は美麗の頭を撫でた。撫でられた彼女は、声を抑えて彼の胸に顔を埋め泣いた。
『全てを吐け。
その方が、心は軽くなる』
「……ンデ」
『?』
「何で、ママもパパも晃も……皆いなくなっちゃうの?」
『……』
「初めはパパがいなくなって……
次にママがいなくなって……
会いたい……
晃に、会いたい」
声を発しながら、美麗は泣いた。慰めるようにして、紅蓮は彼女の頭を鼻で撫でた。
その泣き声をかき消すようにして、エルは遠くに響くような鳴き声を上げた。