桜の奇跡 作:海苔弁
庭に置かれている植木鉢を眺める美麗……
先程、天狐達から話を聞き一応頭では理解しているものの、やはり気持ちの整理が付かないでいた。
そんな彼女の様子を、秋羅は瞬火と窓越しから見ていた。
「……」
『ずっと、ああしているな』
「柊の花だから、少しは気が楽なのかも知れねぇな」
すると、牧場からエルの鳴き声が聞こえてきた。座り込んでいた美麗はスッと立ち上がると、彼女の元へエルが駆け寄ってきた。
エルは彼女の周りを駆け回ると、後ろへ回り銜えると勢いを付けて後ろへ投げ、背中へ乗せると一目散に駆け出し空へ飛んでいった。
『……空の散歩だな』
「ちゃんと、帰って来いよ……」
昼過ぎ……
馬車の音と馬の鳴き声に、食器を棚にしまっていた秋羅は、手を止め表へ出た。
馬車から降り、門に手を掛け開ける蘭丸が、出て来た彼を見て微笑んだ。
「蘭丸さん!?何で」
「妖狐達から話を聞いて、美麗の様子を見に来たんじゃ」
「天狐達が?」
「ところで、美麗は?」
「あぁ、今エルと……!
帰ってきました」
牧場に降り立つエル……エルの背中から降りた美麗は、彼の頬を撫でた。
「美麗!!」
秋羅の声に、こちらを向いた美麗は蘭丸に気付いたのか、一気に駆け出し近くまで寄るとそこから勢い良く跳び、彼に飛び付いた。
「オーオー!
元気みたいじゃな?美麗」
「空の散歩したから、少し顔色良くなったな!」
「お腹空いた!」
「分かった分かった。
蘭丸さんもどうですか?」
「少し、頂くとするかな」
「そんじゃあ、すぐに用意します」
蘭丸の周りを駆け回る美麗に、ホッとしながら秋羅は中へ入り2人も続いて中へ入った。
彼等の様子をエルは眺め、中へ入ったのを確認すると頭を軽く振り、他の馬達と牧場を駆け回った。
昼食後……
美麗は、ソファーの上で蘭丸の膝に頭を乗せて眠っていた。そんな彼女に、秋羅は毛布を掛け床に落ちていた猫のぬいぐるみを抱かせた。
「すっかり蘭丸さんに甘えちゃって……」
「たまには良いじゃろ」
気持ち良さそうに眠る美麗の頭を、蘭丸は撫でた。そして撫でながら、口を開いた。
「……話は、全て妖狐から聞いておる」
「……」
「その後の美麗の様子はどうじゃ?」
「……
一応、何となく整理は付いているみたいなんですが……
まだ」
「そうか……」
「あの、蘭丸さんは知ってますか?
美麗が、何で本部へ連れて来られたか」
「……さぁなぁ……
詳しい話は全て、上層部にしか伝わらなかったからのぉ。
ただ、この子が来た頃はずっと大泣きで大暴れじゃった。連れてきた先輩達は大怪我を負い、その事で危険だと判断されて、地下牢に入れられて……
連絡を受けた儂は、先輩より一足先に本部へ戻り、先輩が任務から帰ってくるまでの間、ずっと面倒を見ておったわい」
「そりゃーそうなりますよ……
勝手に連れて来られて……」
「昔、儂もそう思った。
暴れるのも泣き喚くのも、説明無しにここへ連れて来られたのが原因。
先輩が、何度も返すよう上に訴えたが結局聞く耳を持ってはくれなかった」
「……天花さんって、美麗が本部からいなくなった後どうしたんですか?」
「しばらくは、妖怪の討伐と人による犯罪の取締をやっておった。
その後、同期の男と一緒になりそのまま除隊した。
最後に会ったのは、先輩のご主人が殉職した葬儀の時だった」
「……」
「それから、儂も上に立つようになり、先輩と交流が途絶えてしまった。
次に会ったのは……
亡くなった後じゃ」
「……そこで、幸人達と?」
「あぁ。
大人しい子達じゃった。葬儀中、涙一つ見せないでジッと下を向いたままじゃった。
だから、儂が声を掛けた。そしたら2人は、すぐに顔を上げた。
葬儀が終わり、親族が部屋から出て行った後、彼等から先輩の色々な話を聞いた。話していく内に、2人は溜めていた何かを吐き出すようにして、泣き出した」
「……そりゃ無理ですよ。
家族が1人いなくなるって、凄い辛いことですよ……」
話をしている時、突然強風が吹き窓を叩いた。気になった秋羅は、立ち上がり表へ出た。牧場に降り立つ3頭の竜……走り回っていた馬達は、少し離れ竜達を見詰めていた。
「あれって……まさか」
「ほぉー、ネロか。
ん?何じゃ、ネロの奴子供を産んだのか」
「はい……って、知ってるんですか?!ネロのこと!」
「エルと同じく、地下に閉じ込められていた妖怪の一匹じゃ」
「……」
「ん~……秋羅?」
眠い目を擦りながら、美麗は秋羅の元へ歩み寄った。
「ごめん、起こしちまったか」
「誰か来たの?」
「ほれ、お前さんにお客さんじゃ」
「?
あ!ネロ!」
一気に眠気が吹っ飛び、美麗は外へ飛び出しネロの元へ駆け寄り、頭に飛び付いた。
「妖狐、心の傷を癒やすために行ける者をここへ、来させておるのじゃろ。
人で言うならば、見舞いじゃな」
「気が利くというか、何というか……」
「まぁ、気が紛れるんじゃ。少しは感謝せんとな」
ネロとしばらくじゃれていると、美麗はエルに乗り彼等と空へ飛んでいった。
「さて、いない間に馬達を少し走らせるとするか。
1頭、借りるぞ」
「あ、はい」
一頭の馬に手綱と鞍を着けると、蘭丸はそれに乗り走らせた。その馬に続いて、他の馬達もついて行った。それを見届けた秋羅は、寄ってきた牛を撫でながら牛の綱を引き小屋の方へ行った。
陽が沈む空を飛ぶ美麗とネロ達……ネロの背中に乗っている紅蓮の頭を撫でながら、夕陽を眺めていた。
『またいつか、会えるよ』
フッと聞こえる晃の声……無意識に流れ出てきた彼女の涙を、紅蓮は慰めるようにして、頬を舐め擦り寄った。
『そんな顔してたら、晃の奴が心配するぞ』
「……だって」
『晃がいつも言ってただろ?
例え、死んで消えても魂はいつも、お前の傍にいるって』
「……ママみたいに?」
『あぁ。
現に、美優はいつもお前の傍にいたじゃねぇか』
「……
また、会えるよね?晃に」
『会えるさ』
紅蓮の言葉に、美麗は微笑み彼を抱き締めた。空を飛ぶエル達は、鳴き声を放ち空一面に響き渡せた。