桜の奇跡 作:海苔弁
「馬での移動距離に、依頼してきた村があるなんて……」
「今まで、汽車の距離だったからな。
たまには良いんじゃねぇか?」
「馬達も久し振りの遠出だから、大喜びだな」
「美麗待って!早いよ!」
美麗を乗せた紅蓮は獣道をエルと共に走り、その後を奈々は馬に乗って追い駆けていた。
「奈々!こっちに来なさい!馬はそんな所通れないわよ!」
「でも美麗が……あ!美麗!そこ崖!」
崖と言われた箇所を、紅蓮は軽々と下りエルは翼を広げ降り、途中で止まると後ろを向き幸人達を待った。
「流石黒狼……高い段差もへっちゃらてか?」
「何か、小さくなったから……凄い心配」
「初めの頃は、俺等もそうだった……」
「あの蛍の村に行った時は、寿命が縮んだ」
「確かに……」
水飲み場で、水を飲む馬達。その中に、エルと紅蓮も混ざり、飲んでいた。その見張り役として、奈々と美麗、暗輝は外で待ち、幸人達は依頼人の元へ行きそこで話を聞いていた。
「随分と質素な村だね」
「長閑な所で、良いでしょ?」
「まぁ、確かに……」
「どうも、お待たせしました。
村長はただいま出ておりまして……私から説明をさせて貰います。
妖怪が出るようになったのは、先週のことです。それまでは、何事も無く平和に暮らしていたのですが……」
「何事も無く?」
妖怪に襲われたこと無いのか?この村は」
「えぇ、全く。
どういう訳か、妖怪の被害に遭ったことはありません」
「珍しいわね。妖怪に襲われない村があるなんて」
「村に、祓い屋関係の仕事をしている人とか、いますか?」
「祓い屋関係……
あ、1人います。イタコの血を引いている方で……
そういえば、その方が来た頃からここを妖怪が襲うことは無くなりました」
「そんじゃあ、その人と話をして妖怪退治と行きますか」
「だな」
「それで、妖怪はどこから現れるの?」
「村の奥にある森からです。
ちょっと待ってて下さい。地図出しますから」
その頃、外では暗輝が大あくびをしながら、体を伸ばしていた。
「話長ぇな、あいつ等」
「アタシも話聞きたかった。
何で秋羅さんと火那瑪さんが聞けて、アタシが聞けないんですか?」
「そう言うなって」
「幸人達まだぁ?」
「もうちょっとだ」
「あら?
もしかして、暗輝君?」
そう呼ばれ、彼は声がした方に顔を向けた。そこにいたのは、赤い三つ編みに緑色の目をした女性だった。
「……」
「誰?」
「やっぱり、暗輝君だ。
どうしたの?こんな所に」
「い、いや……それは……」
「暗輝、顔赤いよ」
「少し黙ってろ!」
「あら?暗輝君、子供いるの?」
「いや、こいつ等は……」
「アタシは祓い屋の弟子!
美麗は違うけど、この人の子じゃないよ!」
「そう」
「あれ?杏子じゃん!」
家から出て来た水輝は、女性の姿を見るなりその名を言いながら、彼女の元へ歩み寄った。水輝に続いて、幸人達も家から出て、女性の元へ行った。
「水輝ちゃん!
あれ?もしかして、幸人君に大地君、迦楼羅君に保奈美ちゃん?
久し振り!」
「杏子、久し振りね」
「どうしたの?皆でこんな所に」
「仕事でちょっとな」
「仕事?」
「俺と保奈美、幸人は祓い屋やってるんだよ」
「祓い屋!凄ぉい!
あれ?でも確か、幸人君は陽介君と一緒に討伐隊に入ったんじゃ」
「すぐ辞めた、あんな所」
「そうなの……
陽介君は?元気?」
「ピンピンしてる」
「ちなみに、僕チンは討伐隊本部の研究員で、水輝と暗輝は人と動物の医者をやっているんだ!」
「まぁ、凄い!
流石、水輝ちゃんと暗輝君!」
賑やかに話す幸人達を、秋羅と火那瑪は奈々達の元へ行った。
「見るからに、師匠達のお知り合いみたいですね」
「そうみてぇ……オッと」
幸人の元へ行こうとした美麗を、秋羅は寸前で抱き上げエルの背中へ乗せた。
「少し待ってろ」
「あいつ、違う」
「え?」
「何か、違う」
「違うって、何が?」
「分かんない」
しばらくして、幸人達は話し終えたのか秋羅達の元へ戻った。馬達の綱を引き、彼等は宿へと向かった。
「幸人、あの人誰?」
「昔の同期だ」
「施設にいた頃のな!」
「こんな所に住んでるなんて、驚き」
「え?何で?」
「卒業した後、連絡してなかったから」
「フーン」
後ろを振り返る美麗……そこには、手を振る杏子がいた。
(……何か、変)
宿へ着いた幸人達は、部屋で村の地図と森の地図を広げ、印を付けていた。
「さてと、イタコを探す奴と森に罠を仕掛ける奴に分けるぞ」
「イタコの方は、いる場所が検討着いているから2人くらいで良いんじゃないの?」
「そうだな」
「女性の方が話しやすいから、保奈美達で良いんじゃねぇか?」
「じゃあ、水輝と美麗も行け」
「分かった」
「美麗も森行きたい」
「だったら僕チンも」
「おい暗輝、この馬鹿見張っとけ」
「了解」
「暗輝と変態は、町の聞き込みだ」
「ヘーイ」
「何でよ!!」
「残った奴等は、森に罠仕掛けるぞ」
「ハーイ」
「ちょっと幸君!!僕チンがぬらちゃんの傍にいないと、記録が取れないでしょう!!」
「俺が取っとくから、安心しとけ」
「出来るわけないでしょ!!」
「んじゃ、私が行くから。それで安心だろ?」
「それも出来ない!!」
「うるせぇ。
森に行くぞ。保奈美、そっち頼んだぞ」
「えぇ。奈々、行くわよ」
「ハーイ!」
「美麗、行くぞ」
「うん!」
「幸君!話はまだ!」
「オラ、聞き込み行くぞ」
「そんなぁ!
ぬらちゃん、幸君を説得」
大地の言葉を無視して、美麗は幸人の後を嬉しそうについて行った。
「ぬらちゃん……」
「行くぞ」
「うぅ……」
住所が書かれた紙を頼りに、保奈美は奈々と一緒にイタコの家へ向かっていた。通り掛かる人に聞きながら、2人はようやく家に着いた。
保奈美は家の扉をノックするが、中から物音一つしなかった。
「……留守かしら?」
「お仕事に行ってるんじゃないの?」
「かも知れないわね。
別の日に来ましょう」
帰ろうとした時、人が通り掛かった。保奈美は通り掛かった人の元へ駆け寄り、イタコの家のことを聞いた。
「え?帰ってない……」
「もう、10年くらい前かしら……森へ行ったきり、帰ってきてないのよ。
奥さんが行方不明になってからは、ずっと旦那さん1人で暮らしてたみたいだけど……
今度は旦那さんが、森に行ったきり帰って来ず……今はどうしているか」
「それじゃあ、この家は10年間物家の空なの?」
「そうよ。
でも、最近灯りが点いている時があるから……もしかしたら、帰ってきてるのかも知れないわ」
「……」
良い餌……
流石、大将の子供……
あいつ等、邪魔だな……
どうにかして、引き離すか……