桜の奇跡 作:海苔弁
木の幹に、幸人達は札を貼っていた。
「こんなに罠張って、平気か?」
「一応、村長代理から許可は貰っている」
「けどなぁ」
「ほらほら、手が止まってるよ!」
「あ、はい……」
「しかし、この森凄い静かですね。
妖怪が現れ出ても、おかしくないのに」
風でざわつく木々……
動物達の鳴き声に、足音……
鳥が羽ばたく音……
そんな音が、森に響いていた。
「確かに、静かだな」
「妖怪はいっぱいいるよ?」
木に登っていた美麗は、枝に足を絡めぶら下がり、顔をヒョッコリと出した。
「いるって……どこ…
!」
美麗と同じように、木の葉や木の枝に低級霊の妖怪達が、ぶら下がった。
「……」
「ね?いるでしょ?」
「……はい」
「猿みたいにぶら下がるな。すぐ降りろ」
「ハーイ」
枝に座り直り、枝を器用に使いながら美麗は木から降りた。彼女の傍に降りた妖怪達は、足下を走り回ったりエルや紅蓮の背中によじ登ったりと、遊んでいた。
「……低級霊の妖怪というのは、自由奔放ですね」
「こいつ等は、誰の言う事も聞かないよ。
晃が言ってた」
「へー」
「さてと、これくらい貼っとけば良いだろう。
宿に戻るぞ」
「美麗、森で遊ぶ!」
「帰るって言ってんだろ!」
「えぇー!!」
『幸人、俺はラルの所に行ってくる』
「分かった」
「美麗も行く!」
『お前は幸人達といろ。
安全が確認するまでな』
「安全?」
『こっちの話だ』
振り返ると紅蓮は、森の奥へと駆けていった。追い駆けようとした美麗を、エルは銜え自身の背中へと乗せた。
「エルは随分と、小さい子の扱いに慣れていますね?」
「昔から一緒だったみたいだから、小さい美麗の扱いには慣れてんだよ」
「昔から?」
「追々話すよ」
「そろそろ日が暮れるし、早く宿に戻ろう。
暗輝達も戻ってきてる頃だろうし」
「だな。
秋羅、行くぞ」
「あぁ」
「火那瑪ー行くぞー」
「師匠、とっとと歩いて下さい」
「幸人、弟子交換しない?」
「秋羅は火那瑪より、口うるさいぞ」
「うぅ……」
森を抜けると、そこへ昼間に出会った杏子が歩いてきた。
「あれ?幸人君、こんな所でどうしたの?
迦楼羅君も水輝ちゃんも」
「仕事でちょっとな」
「そういう杏子は?」
「私、この近くに住んでいるから……散歩かな?」
雑談する幸人達……その様子を秋羅達は、遠くから眺めた。
「まーた、俺達蚊帳の外だな」
「ですね。
しかしあの女性、妖怪が出ているというのに1人でこんな所まで来るとは……」
「怖い物知らずか、ああ見えて強靱か……
って、美麗?」
「秋羅君、あそこ」
エルに乗っていたはずの美麗がいなくなっており、辺りを見回すと、火那瑪が見付け指差した。彼女は幸人の元へ駆け寄ると、後ろから彼の腕に飛び付いた。
飛び付いてきた美麗に、杏子は目を向けた。
「この子、確か暗輝君と一緒にいた……」
「幸人が討伐隊本部から預かってる子供だよ」
「子供?討伐隊は何で……」
「色々事情があるんだよ」
杏子を見詰める美麗……目が合うとすぐに逸らし、幸人の後ろへ隠れた。
「今日はもう遅ぇから、また後日仕事終わったら話そうぜ」
「えぇ」
「じゃあな」
「またね」
別れを告げ、幸人達は歩いた。幸人の服の裾を握りながら、美麗はチラッと後ろを見た。手を振っていた杏子は、振るのを止めると振り返り向こうへ歩いて行った。
「……」
「ミーちゃん、どうかした?」
「……何でも無い」
「?」
美麗の行為を不思議に思いながら、水輝は歩いた。幸人の隣を歩いていた迦楼羅は、彼に近付き小声で話し掛けてきた。
「幸人」
「……調べる必要がある。
結果が出るまで、誰にも言うな」
「あいよー」
夜……
森の地図を広げ、そこに印を付けながら幸人は話した。
「この印を付けた箇所に、罠を仕掛けた。
人間に効かない、妖怪だけに効く罠だ。通ればそいつを捕まるようになっている」
「意外に簡単ね。
捕まったと同時に、殺しちゃえば良いのに」
「殺さずに捕獲。これは鉄則よ」
「だそうなんで」
「あらあら」
「保奈美達の方は?
イタコには会えたのか?」
「それが……」
保奈美はイタコの家が留守だったこと、通り掛かった人に聞いたら、10年前にいなくなった事を話した。
「行方不明ねぇ……」
「けど、帰ってきてるって話なのよね?そのイタコ」
「まだ見てないから分からないけど、夜は灯りが点いているから恐らくそうだろうって」
「そうか……
暗輝、そっちは?」
「妖怪に関しては、前は襲われたことあったみたいだが、どういう訳か30年前からパッタリと襲われなくなったらしい」
「それ以外は」
「あとは……
行方不明になったイタコが、村長と掛け合って森を出入りするのを禁止したってくらいかな。
大地、そっちは?」
「何もございませーん」
「何拗ねてんだよ」
「だってー、ぬらちゃんの検査出来ないんだもん」
「あのなぁ」
「せめて脳波だけでも測らせてよ!
じゃないと、所長に怒られちゃう!」
「知らねぇよ。
美麗が嫌がってんだから、仕様がねぇだろう」
「そこを何とか説得して!」
土下座する大地に、幸人達は軽く溜息を吐いた。
「これなーに?」
コードとテープを手で触りながら、美麗は水輝に質問した。彼女は機械の電源を入れながら、答えた。
「ミーちゃんの脳波を測る物だよ」
「フーン」
「ほら、それ貸せ」
「これどうするの?」
「お前の頭に着けるんだ。ジッとしてろ」
椅子に座る美麗の頭に、暗輝はコードを額に貼った。大人しくしている彼女を、大地は悔しそうに見ていた。
「何で……何で僕チンの言う事は聞かないで、2人の言う事は」
「最初の無理矢理注射を、根に持ってんだよ」
「だったら、水輝達は」
「あいつ等は、何もしてない。
水輝はいきなり抱き着いたけど、まぁ時間が解決したな」
「やはり、泊まり込む必要が」
「脳天ぶち抜くぞ」
「大地、悔しがってねぇでこれ見ろ。
お前が測りたいって言ったんだろう?」
「そうですけど……」
覗き見ていた大地が姿を現した瞬間、美麗はすぐに水輝の後ろへ隠れた。
「ぬ、ぬらちゃん……何もしないから、出て」
「嫌!」
「……」
「相当ダメージ食らったな?こいつ」
「固まってるよ」
大あくびをした美麗は、眠いのか目を擦りながら水輝の服の裾を握った。
「眠くなったみたいだな……
水輝、頼んで良いか?」
「良いよ」
「大地、行くぞ」
「……」
「大地!」
「!!
ぬらちゃん!嫌って言わないでよ!!
まだ何もしてないじゃない!!」
「うわっ!正気に戻った!!」
大声出した瞬間、美麗は手から氷の礫を出しそれを大地に投げ付けた。鼻に当たった彼は、仰向けに倒れ鼻血を出しながら素早く起き上がった。
「大声出すな!
美麗の奴、ぐずりだしたじゃねぇか!!」
「年齢は116歳のはずなのに、何でこうも幼児みたいになってるんだ……」
「知らねぇよ。
オラ、行くぞ。美麗が眠れねぇだろう」
首根っこを引っ張り、暗輝は大地を連れて部屋を出ていった。2人が出て行った後、幸人は中へと入りぐずる美麗を抱き上げた。
「やれやれ、余計な事しやがって」
「いつもの事。
どうする?散歩してくる?」
「あぁ」
「何か、本当にお父さんって感じだね。
ミーちゃんは、甘えん坊の娘って感じで」
「ほっとけ」
「そういえば、愛も昔そうだったよね。
アンタと一緒じゃないと、夜1人でトイレに行けなくて」
「昔の話だ」
「……あれ?
散歩、必要なくなったみたい」
「?」
幸人に抱かれた美麗は、大きくあくびをすると、重くなっていた瞼を閉じ、寝息を立て始めた。
「寝ちゃった……
幸人が抱くと、ミーちゃんすぐに寝るね」
「偶然だろ」
「あとは私が見るから、幸人はやることやりな」
「そうさせて貰う」
眠った美麗を、水輝に渡すと幸人は宿を出た。そして、外で待っていた迦楼羅と共に、彼は夜道を歩いて行った。
ラルの所へ来た紅蓮。
住処へ来ると、彼の元へ中くらいの狼の子供が駆けてきて体を擦り寄せた。
『おや?また来たのか?』
『あぁ。
ちょっとした仕事でな』
『空孤から話は聞いている……
美麗の様子はどうだ?』
『普通にしてる。
まぁ、ちょっと変な癖が付いたがな』
『癖?』
『いや、こっちの話』
『そうか……
紅蓮、お前達が今身を置いている村を早く去った方が良い』
『?
何でだ?』
『あれが解かれている。
そうなれば、美麗の身が危ない』