桜の奇跡 作:海苔弁
あくびをしながら、起きた大地は水輝と美麗の部屋に入った。ところが、美麗が寝ているはずのベッドは物家の空になっており、もう一つのベッドでは水輝が寝息を立て眠っていた。
「ギャァァアアア!!
ぬらちゃんがいなーい!!」
大地の叫び声に、眠っていた水輝は飛び起きた。別室で寝ていた迦楼羅は、部屋から出ると彼の頭を思いっ切り殴り黙らせた。正気に戻った彼は、ズカズカと部屋へ入り脳波を測っている機械を調べた。
「……と、途中までしか撮れてない」
「ミーちゃん、もしかしたら幸人の部屋に行ったのかもね」
眠い目を擦りながら水輝は言い、彼女の言葉に大地はすぐに彼等の部屋へ行き、扉を勢い良く開けた。
中では既に起きた秋羅と、眠っている幸人を起こそうとする美麗がいた。
「大地さん、どうかしましたか?」
「ぬらちゃん!コード取っちゃ駄目でしょ!
ちゃんと大人しく、測ってよ!」
「……嫌!!」
歩み寄ってくる大地に、美麗は手に持っていた氷の礫を投げ付けた。見事顔面に当たった彼は、鼻を押さえながら持ち堪えた。
「ぬらりひょんのクソガキが!!
調子扱いたことすんじゃねぇ!!」
大地の怒鳴り声に、美麗は泣き出した。その泣き声に慌てて駆け付けた水輝は、すぐに中へ入った。怒鳴り荒息を立てる大地を、暗輝は落ち着かせようと話し掛けた。
「お前落ち着けよ、子供相手に」
「イライラすんだよ!!こっちが優しくすると、調子扱きやがって!」
「お前“男”出てるぞ」
「黙れ!!だいたいお前等が」
言い掛けた彼の頭を、幸人は拳骨を一発入れた。目を回しながら床に倒れた彼をあとから来た迦楼羅は、支え歩き部屋へと行き同じように水輝も美麗を連れて部屋を出ていった。
「……寝起き、最悪?」
「……最低だ」
森へ来た幸人達……
設置した罠を確かめると、そこには低級霊の妖怪達が引っ掛かったているだけで、他の妖怪はいなかった。
「外れか……」
「幸人、こっちもだ」
「こっちも!」
「こっちもです」
「迦楼羅と火那瑪の所もか……」
「あとは、美麗が仕掛けた所だけだぞ」
「確かめに行ったきり、まだ戻ってきてないからな……
?
なぁ、美麗が仕掛けた罠の所に行ったのって、どのくらい前だ?」
「え?
1時間くらい前だったかな。森全体って言っても、この森小さいから、そこまで広くないし」
「……」
気になっていたその時、突如木々がざわつき彼等は上を見上げ、武器を構えながら辺りを警戒した。
すると、木の枝と木の葉と共に何かが上から落ちてきた。落ちてきたのは、息を乱した美麗だった。
「美麗?」
「何か、様子おかしくない?」
「美麗、どうした?」
秋羅が歩み寄り、彼女の肩に手を置いた。すると、美麗は正気に戻ったかのようにして、震える体で秋羅に抱き着いた。
「美麗……
どうした?何か、あったか?」
「……」
何も答えない美麗は、体を震えさせながら、ずっと秋羅にしがみついていた。
「怖いもんでも見たんじゃねぇの?」
「かもな。
……」
何かを察したのか、幸人はケースから銃を取り出すと、銃弾を美麗と秋羅の足下に撃った。
驚いた美麗は、すぐに離れた。尻餅を着いた秋羅は、幸人の方を向き怒鳴った。
「何やってんだよ!!俺はともかく、美麗に当たったら」
「テメェ、誰だ?」
幸人の言葉に、秋羅は顔を顰めた。離れた美麗は、スッと立ち上がると、その姿を変えた。
巨大な蜘蛛の姿となり、蜘蛛は鳴き声を放ちながら幸人達に、毒針を放った。
幸人は秋羅の首根っこを掴みながら、迦楼羅達と共にその攻撃をかわした。
「え?美麗が?
何で?」
「あの蜘蛛妖怪が化けてたって事か?」
「だろうな」
「同じ祓い屋のはずなのに……師匠」
「気付いてたわい!!」
襲ってきた蜘蛛に、幸人は銃弾を放った。弾が体に貫通しても尚、蜘蛛は毒針を放った。その毒針を、秋羅と火那瑪は槍と脇差で全て払い避け、隙を見せた瞬間、迦楼羅と幸人は銃弾と火の玉を放ち、蜘蛛を倒した。
「……この森、まさか」
「あぁ……
秋羅、火那瑪と一緒に美麗を探せ」
「え?幸人は?」
「親玉を探す。
迦楼羅、行くぞ」
「ヘーイ」
その場から去る4人……去って行く彼等を、木の上から何者かが眺めていた。
獣道を歩く美麗……鼻歌を歌いながら、彼女は1人幸人達がいるであろう場所へ、辿り着いていた。
だが、そこには誰もおらず、美麗は辺りを見回した。
「……幸人?
秋羅?」
「こんな所で、1人で何やってるの?」
声の方に振り向くと、そこには杏子が立っていた。
「……」
「幸人君達は?」
「いなくなった……
お前、誰?」
「ん?
私は」
「お前、幸人達が知ってる杏子じゃない」
「どうして、あなたにそれが分かるの?」
「だってお前、人の血とは別の匂いがする」
「血とは別のにおい?」
「……本で読んだことがある。
妖怪の中には、人の生気を吸って生きている奴がいるって。吸った後、それを自身の子供に食べさせる……
お前、土蜘蛛だね?」
「土蜘蛛?
それは、妖怪なの?」
「惚けるな!」
手に持っていた氷の刃を、美麗は杏子の後ろへ投げ付けた。後ろの何かが切れ、杏子の体は力無くそこへ倒れた。
『フン、流石ぬらりひょんの子供だよ』
木の上から何かが降りてきた。上半身は女の体だが、下半身は巨大蜘蛛の体を持った妖怪だった。
「やっぱり、操り人形だったって事か。
その人」
『私の変装を見破るとは、流石だね』
「初めから、何かが違うと思ってたけど……
その人、どうしたの?」
『なーに、木の下で息絶えていた哀れな女さ』
「木の下?」
『お喋りはそこまでだ。
さぁ、アンタの妖気を頂くよ!!』
幸人達が森にいる頃、村にある図書館で暗輝と大地は調べ物をしていた。
「ハァ……
これだけ調べても、何も無いなんて……暗輝、そっちは?」
「新聞記事調べてる最中だ。
暇ならテメェも調べろ」
「ハイハイ。
?
へー、ここで行方不明者が出てるんだ」
「え?」
「ほらここ。
10年前、村外れの家にいた奥さんが雨の日に森へ入って以来、行方不明らしいよ」
「村外れ?
確か、イタコの家も村外れだったはず……」
「そういえば、篠田も確かイタコの血を引いていたわね」
「?篠田?
誰?そいつ」
「あら?覚えてない?
杏子の名字。
彼女、イタコの元で産まれたんだけど、育てる人がいないって理由で、施設に来たんじゃない。
卒業後は、ここへ戻ってきたって。旦那になった太蔵と」
「……」
「どうしたのよ?
そんな、呆気に取られたような顔して」
何が思い出したかのように、暗輝は新聞記事を漁った。そして、記事を見付けそれを大地に見せた。
その記事にはこう書かれていた。
『篠田太蔵、横転した木の下敷きになり死去。
行方不明になった妻を捜索中にか』
「……え?
太蔵、死んだって事?」
「それだけじゃない……
これ」
再び見せられた別の記事。
『篠田杏子、森へ入った後大雨による土砂崩れに寄り、生き埋めに。旦那の死後、掘り返されたが巨木が乗っており、遺体回収を断念』
「……え?
杏子、死んだの?」
「おかしいと思ってたんだ……
俺、この記事読んだんだよ。この2枚。
だから違和感があったんだ……杏子は死んでいるはずなのに、何で今ここにいるのか。
そして、この村に来てから……誰も、杏子のことを話してない」
「……」
「これが事実だとしたら……!!
大地!!」
「水輝達には、僕チンが知らせるから、アンタは早く行って!!」
「頼む!!」