桜の奇跡 作:海苔弁
『逃げても無駄よ!この森は、私の可愛い子供達が、そこら中にいるんだから』
「クモ恐怖症になりそう……」
美麗を囲うようにして、周りの茂みを蜘蛛達が駆けてきていた。
森の広場へ出てきた美麗は、地面に陣を描いた。
「悲しき風の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ!!」
手に溜まる風の玉……茂みから飛び出てきた蜘蛛達目掛けて、その玉を投げ付けた。
「風よ!!
鋭い刃と為せ、目の前の者を切り刻め!!」
玉に近付いた蜘蛛達は、次々と八つ裂きになり傷口から赤い血を流しながら、ボタボタと落ちていった。雨のように血は降り、美麗の体を赤く染めた。
「……!!」
突然、腕に激痛が走った美麗は、その場に膝を付いた。腕を見ると、斬られた口から血が流れ、紫色に変色していた。
『仕込み毒が、体に渡ったか。
どうだ?私の子供達の毒は?』
「……」
毒で動けない美麗に、土蜘蛛は尻から糸を放った。起き上がることが出来なくなった彼女の上に、土蜘蛛は跨がり牙を向けた。
『さぁ、頂くとしよう!!』
「させるか!!」
木の上から、飛び出てきた二つの影。
一つは銃弾を土蜘蛛に放ち攻撃をした。土蜘蛛は、悲痛な叫び声を発しながら、そこから跳び上がり離れた。
「美麗、無事か!?」
駆け寄ってきた迦楼羅は、体に巻き付いている糸を切り、彼女を持ち上げた。
「迦楼羅、こっから離れる!」
「応!」
離れ体勢を崩した土蜘蛛の前に、幸人は煙玉を地面へ投げ付けた。投げられた玉から煙が上がり、土蜘蛛の目を眩ました隙に、彼等はそこから去って行った。
『小癪な人間め!!
逃しはしない!!』
杏子の亡骸の前に立つ、秋羅と火那瑪……秋羅はしゃがむと、彼女の首元を触り脈を探った。
「……死んでる」
「この人、確か先生達の」
「あぁ……でも、何で」
「……不思議ですね……
こんな体で、良く歩けたものですね」
倒れる彼女の下半身は、半分腐敗していた。
「……?」
しゃがんでいた秋羅は、スッと立ち上がると辺りを見回した。同じように、火那瑪も警戒しながら見回した。
その時、茂みから幸人達が飛び出してきた。幸人は彼等にハンドサインを送ると、再び茂みの中へと駆け込んだ。2人はすぐにそのサインを理解し、彼等の後を追い駆けていった。
森へ来た、水輝達……何かを察した保奈美は、すぐに錫杖を掲げ、呪文を唱え始めた。彼女と同じように奈々も両手を挙げ、呪文を唱えた。
すると、森を覆うようにして結界が張られていった。
「結界?何で……」
「見て!」
結界が完全に張られる寸前、幸人達が森から飛び出てきた。それと同時に森に結界が張り、彼等を追い駆けてきた蜘蛛達は、結界の壁に次々に衝突した。
「た、助かった~」
「何とか間に合った……」
迦楼羅に抱えられていた美麗は、彼から降りると幸人の元へ寄った。
「全員、無事みたいだね」
「良かったー!」
「あ、水輝。
美麗の腕の傷、診てくれねぇか?何か、さっき妖怪から攻撃食らってたみたいだから」
「分かった。
ミーちゃん、ちょっと腕診るよ」
服の袖を上げ、水輝は美麗の傷付いた腕を診た。既に血は止まっていたが、傷口を覆うようにして皮膚が紫色に変色していた。
「……毒に犯されるね。
すぐに解毒した方が良い」
「分かった」
美麗を抱き上げ、幸人は水輝達と森を離れた。森の中から、息絶えていた杏子の遺体を持ちながら、土蜘蛛は彼等を見続けた。
宿へ戻った美麗はベッドの上で、大地が自身のバックから道具を取り出す行為に、怯えるようにして身を縮込ませ、傍に座る幸人の腕にしがみついていた。
「……あの、幸君。
何か、ぬらちゃんが凄い睨んでくるんですけど」
「テメェが持ってるその注射に、反応してんだよ」
「解毒剤と解熱剤打たないと、治らないわよ?」
「だからって、注射使う必要あるか?」
「注射打った方が、早いでしょ。
さぁぬらちゃん、注射するわよー」
針を向けた瞬間、美麗は氷の礫を放った。礫は注射を持っていた手に当たり、手から離れた注射は、地面へ落ち割れた。
「ギャー!!注射が~!!
ぬらちゃん!!」
「何、人の患者勝手に診てんの!!」
大地は頭に水輝の拳骨を食らい、彼は頭を抑えながらその場に蹲った。
「全く……
注射怖がってる患者に、注射見せるな!!」
「子供は、眠らせてから治療した方が早く終わるのよ」
「そういう医者の所に、患者は来ない」
「っ……」
「お前、それが原因で研究員になったんだろう?」
「余計なお世話よ!!」
「幸人、ミーちゃんの腕抑えてて」
「分かった」
「ミーちゃん、ちょっと痛いけど我慢してね」
傷口を消毒すると、水輝はメスで腫れている部分を切った。切った口から、血と一緒に毒が出て来た。美麗は平気な表情で、手当てする水輝の手と傷口を交互に見た。
「……え?
泣かないの?普通泣くでしょ」
「泣く訳ねぇだろう。
お前、美麗の資料見てねぇのか?」
「一応読んでるわよ」
「資料に書いてあっただろう?
彼女は、森に住んでたんだ。そうなれば、医者に掛かる事なんて滅多に無い。
怪我すれば、自分でやるしかないだろう?毒の治療なんて、特に」
「……あ!」
「今頃気付いたのかよ、お前」
「注射で打つより、こっちの方がミーちゃんは慣れてんの。
ミーちゃん、もう終わったよ。飲み薬持ってくるから、ちょっと待っててね」
水輝が離れると、美麗は大きくあくびをし眠い目を擦った。
「眠たそうだな?」
「少し熱あるからな。毒抜きして、気が緩んだんだろう?」
「あとは私がやっておくから。
暗輝、皆に話すことあるんでしょ。話な」
「お前は良いのか?」
「平気。
後で聞くから」
隣の部屋へ集まる幸人達……
暗輝は図書館で借りた、新聞の記事2枚を広げ彼等に見せた。
「……死んでいたのか……」
「太蔵まで……
森の土砂って、普通に事故なのか?それとも」
「そこまではまだ……
ただ、滅多に人が入らない所だから……」
「何もしてなかったって事か……」
「じゃあ、ママ達と話してたあの人は、何者なの?」
「あの妖怪が操っていた…としか、言い様が無い」
「そんな……」
「それじゃあ、あの家の近くを通った人も」
「恐らく、土蜘蛛の手下」
「……」
「とりあえず、土蜘蛛のデータは必要だから、封印でそのまま僕チンに頂戴!」
「封印ってなぁ」
「あれ、凄ぇ体力使うんだぞ」
「いいじゃない。
疲れるんだったら、秋ちゃん達にやらせてみれば?」
「え?俺等?」
「……良い機会だな。やらせるか」
「俺、賛成」
「私も」
「幸人!!勝手に決めるな!!」
「そうやって、考え無しに決めるのは止めて頂けませんか?」
「アタシ、まだママとしかやったことない!」
「体で覚えろ」
「火那瑪、怖いから……ちゃんと教えますから、その脇差納めて」
「大丈夫よ。すぐに慣れるわ」
「保奈美、3人に教えろ」
「分かったわ。
皆、いらっしゃい」
先に出て行った保奈美に続いて、奈々達は外へと出た。
残った幸人と迦楼羅は、大地と暗輝に目を向けながら、話し出した。
「あの森について、調べた。
調べていて、分かったことがある」
「?」
「あの森を中心とするここいら一帯は、蟲妖怪の住処だったらしい。
途中から、人が来て村を作った。ぬらりひょんがいる元で、森の半分を人に与えた」
「あら、そうなの?
昔は共存できていたって事?」
「土蜘蛛は、子育ての時期以外は人を殺さず生気だけを吸う妖怪だ。
ギリギリ生かしておく。吸われた奴は、1週間で元通りだ」
「子育て時期になると、村の奴等が肉や村で取れた果物や野菜を、定期的に供え物として供えてくれていたらしい。
だが、イタコが来てからその風習がなくなってしまった」
「イタコ……まさか、杏子の」
「そう……
杏子の祖母だ」
「杏子の祖母さんが、その風習を止めさせたのか?」
「そうらしい。
この村に長く住む、爺からの話だと……」
「今の状態をやっていると、いつか妖怪に食われる。
そう言われたらしいよ」
「……」
「つまり、その言葉が原因で供え物を辞めた……
そして、今に至る」
「ここに妖怪が襲いに来なかったのは、蟲妖怪達が足止めをしていてくれていたから」
「何か、半分可哀想ね」
「杏子の遺体は……どうするんだ?」
「村の奴に聞いて、太蔵の墓の隣に埋める。
しっかり、供養しねぇと」
「……」