桜の奇跡   作:海苔弁

157 / 228
森の中を駆ける美麗……その後ろから、土蜘蛛が毒針を放ちながら追い駆けてきていた。


『逃げても無駄よ!この森は、私の可愛い子供達が、そこら中にいるんだから』

「クモ恐怖症になりそう……」


美麗を囲うようにして、周りの茂みを蜘蛛達が駆けてきていた。


森の広場へ出てきた美麗は、地面に陣を描いた。


「悲しき風の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ!!」


手に溜まる風の玉……茂みから飛び出てきた蜘蛛達目掛けて、その玉を投げ付けた。


「風よ!!

鋭い刃と為せ、目の前の者を切り刻め!!」


玉に近付いた蜘蛛達は、次々と八つ裂きになり傷口から赤い血を流しながら、ボタボタと落ちていった。雨のように血は降り、美麗の体を赤く染めた。


「……!!」


突然、腕に激痛が走った美麗は、その場に膝を付いた。腕を見ると、斬られた口から血が流れ、紫色に変色していた。


『仕込み毒が、体に渡ったか。

どうだ?私の子供達の毒は?』

「……」


毒で動けない美麗に、土蜘蛛は尻から糸を放った。起き上がることが出来なくなった彼女の上に、土蜘蛛は跨がり牙を向けた。


『さぁ、頂くとしよう!!』


「させるか!!」


木の上から、飛び出てきた二つの影。

一つは銃弾を土蜘蛛に放ち攻撃をした。土蜘蛛は、悲痛な叫び声を発しながら、そこから跳び上がり離れた。


「美麗、無事か!?」


駆け寄ってきた迦楼羅は、体に巻き付いている糸を切り、彼女を持ち上げた。


「迦楼羅、こっから離れる!」

「応!」


離れ体勢を崩した土蜘蛛の前に、幸人は煙玉を地面へ投げ付けた。投げられた玉から煙が上がり、土蜘蛛の目を眩ました隙に、彼等はそこから去って行った。


『小癪な人間め!!


逃しはしない!!』


蟲妖怪

杏子の亡骸の前に立つ、秋羅と火那瑪……秋羅はしゃがむと、彼女の首元を触り脈を探った。

 

 

「……死んでる」

 

「この人、確か先生達の」

 

「あぁ……でも、何で」

 

「……不思議ですね……

 

 

こんな体で、良く歩けたものですね」

 

 

倒れる彼女の下半身は、半分腐敗していた。

 

 

「……?」

 

 

しゃがんでいた秋羅は、スッと立ち上がると辺りを見回した。同じように、火那瑪も警戒しながら見回した。

 

その時、茂みから幸人達が飛び出してきた。幸人は彼等にハンドサインを送ると、再び茂みの中へと駆け込んだ。2人はすぐにそのサインを理解し、彼等の後を追い駆けていった。

 

 

 

森へ来た、水輝達……何かを察した保奈美は、すぐに錫杖を掲げ、呪文を唱え始めた。彼女と同じように奈々も両手を挙げ、呪文を唱えた。

 

すると、森を覆うようにして結界が張られていった。

 

 

「結界?何で……」

 

「見て!」

 

 

結界が完全に張られる寸前、幸人達が森から飛び出てきた。それと同時に森に結界が張り、彼等を追い駆けてきた蜘蛛達は、結界の壁に次々に衝突した。

 

 

「た、助かった~」

 

「何とか間に合った……」

 

 

迦楼羅に抱えられていた美麗は、彼から降りると幸人の元へ寄った。

 

 

「全員、無事みたいだね」

 

「良かったー!」

 

「あ、水輝。

 

美麗の腕の傷、診てくれねぇか?何か、さっき妖怪から攻撃食らってたみたいだから」

 

「分かった。

 

 

ミーちゃん、ちょっと腕診るよ」

 

 

服の袖を上げ、水輝は美麗の傷付いた腕を診た。既に血は止まっていたが、傷口を覆うようにして皮膚が紫色に変色していた。

 

 

「……毒に犯されるね。

 

すぐに解毒した方が良い」

 

「分かった」

 

 

美麗を抱き上げ、幸人は水輝達と森を離れた。森の中から、息絶えていた杏子の遺体を持ちながら、土蜘蛛は彼等を見続けた。

 

 

 

 

宿へ戻った美麗はベッドの上で、大地が自身のバックから道具を取り出す行為に、怯えるようにして身を縮込ませ、傍に座る幸人の腕にしがみついていた。

 

 

「……あの、幸君。

 

何か、ぬらちゃんが凄い睨んでくるんですけど」

 

「テメェが持ってるその注射に、反応してんだよ」

 

「解毒剤と解熱剤打たないと、治らないわよ?」

 

「だからって、注射使う必要あるか?」

 

「注射打った方が、早いでしょ。

 

さぁぬらちゃん、注射するわよー」

 

 

針を向けた瞬間、美麗は氷の礫を放った。礫は注射を持っていた手に当たり、手から離れた注射は、地面へ落ち割れた。

 

 

「ギャー!!注射が~!!

 

ぬらちゃん!!」

 

「何、人の患者勝手に診てんの!!」

 

 

大地は頭に水輝の拳骨を食らい、彼は頭を抑えながらその場に蹲った。

 

 

「全く……

 

注射怖がってる患者に、注射見せるな!!」

 

「子供は、眠らせてから治療した方が早く終わるのよ」

 

「そういう医者の所に、患者は来ない」

 

「っ……」

 

「お前、それが原因で研究員になったんだろう?」

 

「余計なお世話よ!!」

 

「幸人、ミーちゃんの腕抑えてて」

 

「分かった」

 

「ミーちゃん、ちょっと痛いけど我慢してね」

 

 

傷口を消毒すると、水輝はメスで腫れている部分を切った。切った口から、血と一緒に毒が出て来た。美麗は平気な表情で、手当てする水輝の手と傷口を交互に見た。

 

 

「……え?

 

泣かないの?普通泣くでしょ」

 

「泣く訳ねぇだろう。

 

お前、美麗の資料見てねぇのか?」

 

「一応読んでるわよ」

 

「資料に書いてあっただろう?

 

 

彼女は、森に住んでたんだ。そうなれば、医者に掛かる事なんて滅多に無い。

怪我すれば、自分でやるしかないだろう?毒の治療なんて、特に」

 

「……あ!」

 

「今頃気付いたのかよ、お前」

 

「注射で打つより、こっちの方がミーちゃんは慣れてんの。

 

ミーちゃん、もう終わったよ。飲み薬持ってくるから、ちょっと待っててね」

 

 

水輝が離れると、美麗は大きくあくびをし眠い目を擦った。

 

 

「眠たそうだな?」

 

「少し熱あるからな。毒抜きして、気が緩んだんだろう?」

 

「あとは私がやっておくから。

 

 

暗輝、皆に話すことあるんでしょ。話な」

 

「お前は良いのか?」

 

「平気。

 

後で聞くから」

 

 

 

隣の部屋へ集まる幸人達……

 

暗輝は図書館で借りた、新聞の記事2枚を広げ彼等に見せた。

 

 

「……死んでいたのか……」

 

「太蔵まで……

 

森の土砂って、普通に事故なのか?それとも」

 

「そこまではまだ……

 

ただ、滅多に人が入らない所だから……」

 

「何もしてなかったって事か……」

 

「じゃあ、ママ達と話してたあの人は、何者なの?」

 

「あの妖怪が操っていた…としか、言い様が無い」

 

「そんな……」

 

「それじゃあ、あの家の近くを通った人も」

 

「恐らく、土蜘蛛の手下」

 

「……」

 

「とりあえず、土蜘蛛のデータは必要だから、封印でそのまま僕チンに頂戴!」

 

「封印ってなぁ」

 

「あれ、凄ぇ体力使うんだぞ」

 

「いいじゃない。

 

疲れるんだったら、秋ちゃん達にやらせてみれば?」

 

「え?俺等?」

 

「……良い機会だな。やらせるか」

 

「俺、賛成」

 

「私も」

 

「幸人!!勝手に決めるな!!」

 

「そうやって、考え無しに決めるのは止めて頂けませんか?」

 

「アタシ、まだママとしかやったことない!」

 

「体で覚えろ」

 

「火那瑪、怖いから……ちゃんと教えますから、その脇差納めて」

 

「大丈夫よ。すぐに慣れるわ」

 

「保奈美、3人に教えろ」

 

「分かったわ。

 

皆、いらっしゃい」

 

 

先に出て行った保奈美に続いて、奈々達は外へと出た。




残った幸人と迦楼羅は、大地と暗輝に目を向けながら、話し出した。


「あの森について、調べた。

調べていて、分かったことがある」

「?」

「あの森を中心とするここいら一帯は、蟲妖怪の住処だったらしい。


途中から、人が来て村を作った。ぬらりひょんがいる元で、森の半分を人に与えた」

「あら、そうなの?

昔は共存できていたって事?」

「土蜘蛛は、子育ての時期以外は人を殺さず生気だけを吸う妖怪だ。

ギリギリ生かしておく。吸われた奴は、1週間で元通りだ」

「子育て時期になると、村の奴等が肉や村で取れた果物や野菜を、定期的に供え物として供えてくれていたらしい。


だが、イタコが来てからその風習がなくなってしまった」

「イタコ……まさか、杏子の」

「そう……

杏子の祖母だ」

「杏子の祖母さんが、その風習を止めさせたのか?」

「そうらしい。

この村に長く住む、爺からの話だと……」

「今の状態をやっていると、いつか妖怪に食われる。


そう言われたらしいよ」

「……」

「つまり、その言葉が原因で供え物を辞めた……

そして、今に至る」

「ここに妖怪が襲いに来なかったのは、蟲妖怪達が足止めをしていてくれていたから」

「何か、半分可哀想ね」

「杏子の遺体は……どうするんだ?」

「村の奴に聞いて、太蔵の墓の隣に埋める。

しっかり、供養しねぇと」

「……」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。