桜の奇跡 作:海苔弁
その時、戸が開く音が聞こえ後ろを振り返ると、幸人が入ってきた。
「話し終わったの?」
「あぁ。
美麗の奴は?」
「薬が効いて、眠ってるよ」
「そうか……?
何だ、またお前のタオル握ってるのか?」
「眠そうにしてて、中々寝なくてね。このタオル、握らせたんだよ。
そしたら、すんなり」
握っているタオルを、頬に当てながら美麗は大人しく寝ていた。
「でも、時々寝言言ってるよ。
晃って……」
「……」
「やっぱり、会いたいんだろうね。
ミーちゃん、昼間は全然だけど、夜になると何振り構わず、甘えてくるから」
「……婆がよく話してたなぁ。
美麗は、夜になると泣きながら婆の部屋へ来たって……」
「そっか……
それじゃあ、私暗輝達から話を聞きに行くね」
「あぁ。任せて悪かったな」
「良いって!」
夕方……
目を覚ます美麗。あくびをしながら、起き上がり周りを見た。
「……」
自分以外、誰もいない部屋……ベッドから降りるとテーブルの上に、置かれている自身のバックを手に取ると、部屋を出ていき裏口から表へ出た。
出た美麗は、小屋へ行き戸を開けた。すると、彼女の姿を見たエルが鳴き声を発した。
戸を閉じ、中へと入った美麗はエルの元へ行った。エルは、柵から出した嘴で彼女の頭を噛み、頬を舐めた。
「くすぐったいよ!エル!
ハハ!」
小屋から聞こえる彼女の声に、通り掛かった大地が気になり、中へと入った。
「あら、ぬらちゃん!
もう起きて平気なの?」
彼の声に、美麗は柵を跳び越えエルの後ろへ隠れた。
「ぬ、ぬらちゃん……
何もしないから、出て来てよ」
「……」
「ぬらちゃーん、ねぇったら~」
近付こうと柵に身を乗り出した大地に、エルは嘴で突っ突いた。
「痛ったぁぁぁあああ!!」
彼の叫び声に、外にいた暗輝が駆け付けた。頭を抑え蹲る彼に、少々呆れながら話し掛けた。
「何やってんだ?お前」
「ぬらちゃんに近付こうとしたら、このグリフォンが突っ突いてきたんだ!」
「そいつ、美麗を怖がらせる奴には容赦なく攻撃するぞ」
「ンもう~!!」
「気色悪……」
「ぬらちゃん!!」
「美麗、幸人が森に来いってさ」
「ハーイ」
柵を潜り抜け、美麗はエルの頬を撫でると暗輝の元へ駆け寄り、一緒に小屋を出て行った。出て行く間際に、大地は彼女のフードに何かを投げ着けた。
「……ちょいと、撮らせてね」
森の前で、陣を描く秋羅……
そこへ、暗輝に釣られて美麗が森に到着した。同時に、白狼を連れた紅蓮が着き、彼女の元へ寄った。
「あ!紅蓮だ!」
「随分、長かったな?」
『少し、話し込んでな』
「何のお話?」
『お前のことだよ。
それより、この森について分かってんのか?お前等』
「一応」
「蟲妖怪のことも」
『なら良い』
「保奈美と迦楼羅は、外で奴等が逃げないよう結界を張っといてくれ」
「分かったわ」
「了解」
「暗輝達は、外で待機を頼む」
「応」
「その他は、森に入って楽しい封印だ」
「楽しかねぇよ!!」
森の中へと入った火那瑪と奈々は、指定された位置へ行き待機していた。秋羅は森の広場に陣を描き、美麗は紅蓮達と、辺りを見張り警戒していた。
「凄え静かだな」
「昼間、あんなにざわついていたのに」
「何も無きゃ良いが……」
「……
何か変」
「?」
『「何をやっているの?
幸人君」』
その声に、2人はすぐに振り返った。そこにいたのは、赤い目を光らせた杏子だった。彼女は、不敵な笑みを浮かべながら、口から毒針を放った。瞬時に美麗が、氷の壁で毒針を防いだ。
「……杏子」
「幸人、あいつは」
「分かってる」
『「どうしたの?幸人君」』
「気安く人の名前、呼ぶな。
もう正体は分かってんだよ」
『「あら……」
それは残念』
杏子の体から抜け出る土蜘蛛……彼女の体は、力無くそこに倒れた。
「死人か……」
『もう10年前ね……
この森に入ってきてね、何だろうって思ったら……私達を敵と見做した、あの憎きイタコの孫だったんだ』
「杏子を事故に見せかけて殺したのも、太蔵……そいつの旦那を殺したのも、テメェの仕業って訳か……」
『おめでとう……その通りよ。
騙すなら、まず身近な人が良いでしょ?』
「……」
『まぁ……極上の餌を、連れてきてくれたから少しは感謝するわ』
「目の前にいるのは、お前等妖怪の総大将の娘だぞ」
『そんな昔の男なんて、知らないわ
大将が亡くなって以来、私達蟲妖怪は苦しい生活をしてきたのよ』
茂みに現れ出てくる、蟲妖怪達……攻撃態勢に入った紅蓮は、唸り声を出しながら周りにいる彼等を睨んだ。
『既に、お前達は包囲されている。
ここから、どうやって逃げる?』
「……美麗」
「うん……
悲しき光の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ!!」
『な、何だ!?』
「目を眩ませ!!閃光!!」
辺り一面が眩く光った。目を眩ませた隙に、幸人は駆けて行き、美麗は紅蓮の背に飛び乗りながら森の中を駆けていった。
広場へ来た幸人……辺りを警戒していると、上から杏子が舞い降り、彼の前に不敵な笑みを浮かべながら立った。
「いい加減、その化けの皮を外せ!!」
『「あら?そんなに、この子が嫌いなのかしら?」』
「ダチを妖怪に好きなように扱われるのが、嫌い何だよ、俺は。
秋羅!火那瑪!奈々!
今だ!!」
彼の掛け声と共に、地面が光り出した。光った箇所から、鎖が伸び彼女の体をがんじがらめにした。
『「な、何だ!?」』
「封印術!!」
「発動!!」
光り輝く陣に置かれた壺に、ゆっくりと引きずり込まれていった。
「止めて!!幸人君!!」
その叫び声に、突如封印術が弱まった。勝ち誇った笑みを浮かべて、土蜘蛛はその陣から離れ木の枝に飛び乗った。
「嘘!?どうして結界が!?」
「わ、分かりません!」
「幸人!!」
『封印術は、人の声や気配を感じ取った時、極稀に弱まることがあるのさ。
やはり、この女に乗り移っといて正解だった』
「死人はあの世へ逝け!」
後ろから現れた美麗は、土蜘蛛を体当たりし弱まった結界の中へ入れた。
出ようとした土蜘蛛の周りを、覆うようにして白狼の群れが集まった。
木から落ちる杏子の遺体を、幸人は受け止めた。そして、後ろを振り返り叫んだ。
「封印だ!!」
彼の掛け声に、3人は再び構え経を唱えた。すると、結界が強くなったのか、地面から鎖が伸び土蜘蛛をがんじがらめにし、強い風と共に引きずり込まれていった。
壺に封じ込められ、蓋に封印札が貼られた。一息吐いた秋羅達は、その場に力無く座り込んだ。
「せ、成功した……」
「い、一時はどうなるかと思いましたが」
「た、助かったぁ……」
座り込んでいる秋羅の元へ、子狼の白狼は駆け寄り頬を舐めた。舐めてきた白狼を、秋羅は撫でてやった。
村の隅にある墓場……そこに新たに建てられた、墓石の前に幸人達は立っていた。
「ようやく、眠りに就けたな。
杏子」
「私達のおかげで、愛する人の隣にいられる様になったんだから、今頃太蔵と一緒に感謝しているでしょうね」
「だな」
「まぁ、とりあえず……
あの森は、僕チン達討伐隊本部の研究所が責任持って、管理するわよ!」
「任せたぜ!」
「それはさておき……
どうする?彼等」
水輝が指差す方向には、木に凭り掛かった秋羅達が、仲良く寄り添いながら眠っていた。
「相当疲れたみたいだね」
「2日は起きないぞ」
「んなもん、分かってる」
「何日か、泊まっていきましょう」
「あぁ。
秋羅、宿戻るぞ」
「ん~……」
「ほら、奈々。
こんな所で寝てたら、風邪引くわよ」
「眠い~……」
「火那瑪、起きろ。
ベッド行くぞ」
「あ、はい……今…すぐ」
眠い目を擦りながら、3人は立ち上がり幸人達に支えられながら、宿へと戻っていった。