桜の奇跡 作:海苔弁
蟲妖怪達が住む森へ来た、美麗……
森にある小さな花畑で、鼻歌を歌いながら花を摘み何かを作っていた。
傍で、池の水を飲んでいたエルは何かを察知したのか、作業している美麗の元へ寄った。
「……?」
落ち着かせようと、エルの嘴を撫でながら美麗はふと森の方を見た。
茂みに潜み、襲うわけでも無くジッと彼女を見詰める無数の目。
「大丈夫だよ、エル。
出ておいでよ!何もしないから!」
彼女の呼び掛けに、茂みにいた目が動き出て来た。それらは全て、蟲妖怪達の眼だった。彼等の姿を見た瞬間、エルは威嚇するように攻撃態勢を取った。
「エル、駄目。座ってて」
立ち上がった美麗は、エルを宥めながら座らせた。エルの胴を背もたれに、美麗は座ると再び手を動かし鼻歌を歌い出した。その鼻歌が心地良いのか、蟲達は彼女の傍に身を置きその歌を聞いた。
杏子の墓の前に佇む暗輝……
手には、ボロボロになった御守りが握られており、虚ろな目で墓を見詰めていた。
『はい、あげる』
『……何、これ?』
『見ての通り、御守り。
暗輝君、水輝ちゃん達と一緒に討伐隊本部の研究所に入るんでしょ?』
『そうだけど……』
『凄いなぁ。私なんて、故郷に戻ってお祖母ちゃんがやり残したこと、やらなきゃいけないし』
『残したこと?』
『祓い屋と似たようなお仕事。
ねぇ、卒業して暇が出来たら、是非来てよ』
『うん、絶対行くよ!そんで』
『私達、待ってるから』
『……え?
私達って……』
『杏子!』
駆け寄ってきた太蔵……杏子は嬉しそうに、立ち上がり楽しそうに彼と話した。暗輝はすぐに悟り、無理に笑いながら2人に祝福の言葉を贈った。
『暗輝君ったら!』
『まだお祝いの言葉は、早ぇぞ!』
2人の笑い声が、遠くから聞こえてきた……暗輝は振り返り、墓場を後にした。
その頃、迦楼羅と幸人は馬の手入れをしながら話をしていた。
「なぁ、幸人」
「?」
「暗輝の奴、杏子の墓場に行ったみたいなんだけど……
アイツって、杏子のこと好きだったのか?」
「何だ?藪から棒に」
「アイツ、この村に来て杏子と話している時、凄えタジタジだったからさ。
そういう、淡い恋心でも持ってたのかなぁって。
動物には優しかったけど、俺等人には全然だったじゃん」
「……まぁ、持ってたんじゃねぇの?
アイツが、人から動物の医者に転職したのは、俺達の後だ」
「……確かに」
「けど、好きだったと思うぜ。
アイツ、花摘んでは杏子にあげてたから」
村の中を、転々とする暗輝……畑仕事をする男性、買い物をする女性、地面に絵を描き遊ぶ子供。
村は、何事もなかったかのような時間が過ぎていた。
(……何か、虚しいなぁ。
もう一回、行こう)
墓場へ来ると、杏子達の墓の前に美麗が立っていた。彼女は、気配を感じ後ろを振り返り暗輝を見た。
「あ!暗輝」
「何やってんだ?こんな所で」
「花冠、供えてた」
「花冠?」
墓の前には、二つの花で出来た冠が置かれていた。彼女の傍には、数匹の蟲妖怪が寄り添っていた。
「どうしたんだ?これ」
「さっき作った。
エル達と」
「……
凄えな……誰から教わったんだ?花冠の作り方」
「ん?
ん~……晃だよ」
「晃さん、花冠作れたのか?」
「うん。
ママから教わったって言ってた。
私も小さい頃教わったんだけど、あんまり覚えてない。でも、晃から教わったのは覚えてるんだ。
晃が生きてた……まだ、傍にいた頃ね。四季の花でね冠作って、いつもママとパパとお墓に供えてた」
「……」
「でも、不思議だった。
私、2人が死んでも……そこまで、寂しいって思ったことなかった。
悲しかったのは、ほんの少し間だけ。でも、それ過ぎたら……全然、悲しくも…寂しくもなかった……
だけど……」
目から涙を流す美麗……涙を腕で拭きながら、話を続けた。
「ひ、晃がいなくなってから……凄い、寂しい。
昼間は何ともないのに……夜になると」
「……」
「会いたい……
晃に、会いたい!」
その場に座り込み、美麗は声を上げて泣いた。暗輝は、そんな彼女を抱き寄せ、宥めるようにして頭を撫でた。
しばらくして美麗は泣き疲れたのか、暗輝の胸の中で眠っていた。すると、そこへ花束を持った水輝達がやった来た。
「あれ?暗輝」
「やっぱり、ここだったんだ」
「あぁ……」
「ミーちゃん、眠っちゃったの?」
「泣き疲れてな」
「泣き疲れたって……何かあったのか?」
眠る美麗を、幸人に渡しながら先程のことを話した。
「……思い出しちゃったんだね。
晃のこと」
「俺達より年上なのに、心はまだ甘ったれのガキって事か」
「施設にいた頃、いたよね。
昼間は何ともないのに、夜になると泣き始めて先生達の所に行ってた子。
ま、陽介と幸人の場合は互いのベッドに行き来してたみたいだけど」
「一言余計だ」
「そう怒鳴るなって。
娘、起きるぞ」
そう言った次の瞬間、迦楼羅の体に幸人の蹴りが入った。倒れている彼の頭に、銃口を当てながら笑みを溢して言った。
「誰が父親だ……オイ」
「すみません……ふざけすぎました」
「ほらほら、喧嘩しない。
美麗が風邪引くわ。早く宿に戻りましょう」
言いながら、保奈美はエルの手綱を持ちながら、迦楼羅と幸人の背中を押し、墓場を後にした。
残った水輝は、暗輝に供え用の花束を差し出した。
「ほら、アンタが供えなよ」
「……」
「……まだ好きだったんでしょ?
杏子のこと」
墓の前に花束を供えると、暗輝は手を合わせた。
「……もう、吹っ切れてたつもりだったんだけど。
やっぱり駄目だわ。
アイツの顔見た瞬間、言葉が出なくなって……」
「……まさかと思うけど……
暗輝、分かってたんじゃ無いの?
杏子が操られているって」
「薄々な。
アイツ、いつも太蔵と一緒だったのに。あの時だけ、一緒にいない上に、誰にも言わなかったじゃん。太蔵は元気だって」
「勘が鋭いこと」
「だから……
やべ……無理だ……
水輝……」
歩み寄った水輝は、暗輝をソッと抱き寄せた。彼は彼女に抱き着くと、子供のように泣いた。泣き喚く暗輝を、水輝は黙ったままずっと、頭を撫でてやった。
翌日の昼頃……
小屋から、幸人達は馬を出していた。宿から出て来た秋羅達は、大きくあくびをしながら体を伸ばした。
「まだ体の怠さがとれねぇ……」
「うぅ……まだ、頭痛い」
「しばらくは、任務休みね」
「次期に馴れる。
初めの内はそんなもんだ」
「火那瑪、大丈夫か?
何か、二日酔いの親父みたいだぞ」
「師匠、ちょっと黙っててもらいますか」
「お、応……」
「幸人!
こいつ、連れて帰っていい?」
森の方から帰ってきた美麗は、頭に蛾の妖怪を乗せながら幸人の元へ駆け寄った。
「デカ!!」
「な、何……それ」
「アゲハ」
「いや、名前じゃ無くて!」
「あの森から連れて来たのか?」
「ううん。ついてきた」
「犬猫じゃあるまいし」
「まさか、他の奴等も……」
「森にいる蟲妖怪達は、ラルが面倒見るって」
「で、何でそいつだけ」
「分かんない」
『キー?』
鳴き声を発したアゲハは、触角を伸ばして美麗の頬を撫でた。
「見た所、悪さしなそうだな……」
「家の中にいても、問題無さそうだし……
良いぞ、連れて帰って」
「ヤッター!」
「お前の家、妖怪屋敷だな」
「ほっとけ」