桜の奇跡 作:海苔弁
紫苑は、藁を外へと出すと深く息を吐き、被っていた麦わら帽子を取った。
「……暑い」
「今年もまた、暑くなりそうだなぁ……」
傍にあった水筒から水を飲みながら、秋羅は太陽を見た。
「秋羅ぁ!秋羅ぁ!」
家の方から聞こえてきた幸人の声に、外にいた紫苑は小屋の中にいた秋羅の元へ行った。
「秋羅、幸人呼んでる」
「え?
あ、本当だ。ここ頼んでいいか?」
「うん」
小屋の仕事を紫苑に任せ、秋羅は家へと戻った。
寄ってきたエルを撫でると、紫苑は小屋の仕事をし始めた。
「買い物?」
「あぁ。
今、祭りで色々な物が安く売ってる。リスト渡すから、これら頼むわ」
「食い物と日用品と……何か、怪しい物が書かれてるけど」
「こないだの仕事で、結構使ったからな。
薬類も頼む」
「……」
賑わう市場……その中を歩く秋羅。日用品と食料を買い、薬品を買おうと店に入った時だった。
「ああ!秋羅さん!」
何やら困った顔をしていた亭主が、秋羅の姿を見るなりホッとしたような表情を浮かべて、手を振ってきた。亭主の前には、貴族の格好をした男と少年がいた。
「どうかしたんですか?」
「いや、この人が妖怪を祓ってくれる人を探しているらしくて」
「……」
目の前にいる男は、少々偉そうな表情で秋羅を見ていた。その隣にいる少年も、彼と同様偉そうに秋羅を見ていた。
「……話だけなら聞きます。
引き受けるかどうかは、師に聞かないと分からないので」
「構わん。それでも」
「では、俺と一緒に来て下さい。
あ、亭主!このリストに書かれてる薬くれ」
「まいど!」
必要な薬を買い、町の外に止めていた馬車に荷物を置くと、秋羅は二人を馬車へと乗せ馬を歩かせた。
数時間後……馬の鳴き声に、馬達の見張りをしていた紫苑は、柵を跳び越え玄関へ向かった。
玄関前では、秋羅が馬車から馬を放している最中だった。
「お帰り」
「ただいま。こいつ、戻しといてくれ」
「分かった。おいで」
手綱を引かれ、馬は牧場へと入った。紫苑は手綱を外し、馬の尻を軽く叩いた。馬は駆け出し、待っていた仲間の元へ駆け寄ると共に走り出した。
「広い牧場をお持ちなんですね」
「まぁね。
仕事がない日が続く時があるんで、その時には作物等を売って、生活してるんで」
「ほぉ」
「さぁ、中へ。
幸人!依頼人!」
リビングへ案内された二人は、ソファーに腰を下ろした。すると二階から、寝ていたのか大あくびをしながら幸人が降りてきた。
「何?依頼人?」
「そうだ……って、寝てたのかよ!」
「うたた寝だ!うたた寝!」
「起きてろ!」
「いいから、さっさと買ってきた物しまっとけ!」
文句を言いながら、秋羅は買ってきた物をしまい出した。その間に、幸人は男から話を聞いていた。
内容は、ある子供を手放してから、妖怪が自分が管理している町を襲うようになった。襲ってくる妖怪の退治と、頭であろう妖怪の始末をして欲しいとのことだった。
「妖怪退治ねぇ……」
「その手放した子供って、今は?」
「知りません。
娘が気に入ったので、地下の方で買った子でしたから。その後の行方など」
「何故手放したんですか?」
「息子の手に、その子供が飼っていた犬が噛み付いたもので。
危険と判断して、返品したんです。全く、無駄なお金を使ってしまいましたよ」
「……」
「ねぇ、馬の他に何か動物いるんですか?」
窓から牧場を見ていた少年は、秋羅に質問した。
「あ、あぁ。牛が数頭。
あと、黒大狼が一頭と西洋妖怪のグリフォン」
「西洋妖怪がいるんですか!?」
「あぁ。前の依頼で引き取ったんだ」
「見せて下さい!」
「え?」
「父様、いいですよね?」
「構わん」
「やったぁ!
さぁ、早く見に行きましょう!」
「いや、まだ許可出して……」
「行って来い。
あいつが傍にいれば、平気だろ?」
「それもそうか……」
「早くぅ!」
「今行く!」
牧場へと出た少年と秋羅……丁度そこへ、空の散歩をしていたエルが、地面へと降り立った。彼の元へ、秋羅と少年は駆け寄った。エルの背中に乗っていた紫苑は、飛び降り擦り寄ってきたエルを撫でた。
その時、出迎えに寄ってきていた紅蓮が、牙を剥き出し唸り声を上げながら、戦闘態勢を取りだした。
「紅蓮?……!」
歩み寄ってきた秋羅の隣いる少年を見た瞬間、紫苑は紅蓮の首根っこを掴んだ。次の瞬間、その手を振り払おうと暴れ出した紅蓮。彼の変貌ぶりに、秋羅は少年を後ろへ行かせ、紫苑の元へ駆け寄り話した。
「どうしたんだ?!紅蓮の奴」
「あいつが来たから、襲おうと!
紅蓮!大人しくして!」
「あいつって……
あのガキと知り合いなのか?」
「……」
その時、エルの鳴き声が聞こえた。ハッと振り返ると、エルは前足を上げ、目の前にいる少年を襲おうとしていた。
「エル!駄目!!」
紫苑の声に、エルは少年を襲う寸前でやめ、地面に足を突いた。駆け寄ってきた紫苑に、エルは擦り寄ると少年から引き離すかのようにして、彼女を銜え勢いを付けて自身の背中に乗せた。そして紅蓮の傍へ行き、彼と共に駆け出し柵の外へと出て行き、森の中へ入って行った。
「……わ、悪いな。
あのグリフォン、あいつにしか懐いてなくて」
「あの子は?」
「仕事関係で、引き取った子供」
「……名前は?」
「あいつは」
「秋羅!」
名前を言おうとした時、幸人が彼の名を呼びながら歩み寄ってきた。
「これからすぐに、そいつの親父さんと一緒に町に行くぞ」
「え?!今から!?」
「そうだ。
って、紫苑は?」
「空の散歩」
「……呼び戻しとけ」
「は~い」
怠そうにあくびをしながら、幸人は家の中へと入った。軽く溜息をする秋羅に、少年は話し掛けた。
「あの、紫苑って……」
「さっきの子の名前。
お前は先に家の中に入ってな。俺は紫苑を連れ来るから」
「はい」
そう言うと、秋羅は森の中へ入って行った。彼を見送った後、少年は不敵な笑みを溢した。
(……こんな所に、住んでたのか……紫苑。
俺の下部)
森の中へと来た秋羅……奥の方へ行くと、ため池の所に、紫苑達はいた。エルは大人しく池の水を飲み、その傍で紅蓮の胴に凭り掛かり座る紫苑が、彼の頭を撫でていた。
「紫苑!」
呼ばれた紫苑は、立ち上がり秋羅の方を向いた。
「これから、依頼であの男の町に行く」
「え……」
その言葉を聞いた途端、水を飲んでいたエルが紫苑の傍へ行き、秋羅を威嚇するようにして吠えた。
「エル!」
「何か、お前限定だな」
「違う……
あいつの所に行こうとするから……行くなって」
「……知り合いなのか?」
「……
昔の……主」
「……」
「幸人達に引き取られる前、別の主の所にいたの知ってるでしょ?」
「一応……
それが、あの二人の所」
「……」
『噛み殺していいなら、今すぐにでも』
「いや、駄目に決まってんだろ。
距離置いといていいから、ついて来い」
「……」
「命令だ!
任務に同行しろ!」
「……秋羅、ウザい」
「うるせえ!!」