桜の奇跡 作:海苔弁
自身に凭り掛かり、ウトウトしている美麗を陽介は自身の膝に頭を乗せさせ、横にならせた。彼の膝を枕に、美麗は頭を乗せ膝に顔を埋めるとそのまま眠りに入った。
彼女の向に座っていた愁は、眠った姿を見るとそれに釣られてから壁に凭り掛かり、眠りに付いた。
2人が寝付いた後、幸人は少し疲れた様子で、席へ戻ってきた。
「連絡着いたか?」
「何とか。
先に到着するから、始めておくとさ」
「そうか。
あれだな。貴様の家は、いつの間にか賑やかになったもんだな」
「ほっとけ」
「俺も帰るのが、少し楽しみだ。
昔は、貴様と月影師匠しか居なかった……」
「……そういや、アイツ言ってたな。
あの家は、元々下宿として建てられたって。前は広すぎたが、今となっては丁度いい」
眠る2人の寝顔を見ながら、幸人は微笑を浮かべながら言った。
牧場で日なたぼっこをするエル……
大人しく寝ていたかと思いきや、エルは突然立ち上がり家に向かって鳴き声を発すると、そのまま柵を跳び越えて駆けて行った。
帰路を歩く幸人達。美麗は飛び回るアゲハを、道脇にある花畑で、追い駆け回っていた。
紅蓮の隣を歩いていた愁は、初めて見る光景に少々驚いた様子でいた。
「お前が住んでた村より、静かだろ?」
幸人の問いに、愁は頷いた。その時、聞き覚えのある鳴き声と共に、空から何かが花畑に降り立ち美麗に寄った。
「察知の早い、グリフォンだな」
花畑で転がった美麗は、笑いながらエルに飛び乗った。エルは飛ばずに、幸人ではなく何故か愁の元へ駆け寄り、嘴を彼に擦り寄せた。
「おい……
あのグリフォン、確か初回の奴には懐かないんじゃなかったか?」
「俺に聞くな……」
家に着くと、中は物で溢れかえっていた。その山積みになった物の中から、秋羅が呆れ顔で帰ってきた幸人達を迎えた。
「おい、この荷物どうする?」
「……」
「貴様、随分と整理していなかったようだな」
「……」
「物がいっぱーい!」
「あ、こら!入るな!」
「一日掛けてやるか。
美麗、愁に牧場を案内しろ」
「はーい!
愁、行こう!」
愁の手を引き、美麗は牧場へと行った。秋羅は彼を見ながら幸人に質問した。
「アイツが例の?」
「そう」
「見た感じ、俺とあまり変わらないように見えるが……」
「まぁ、調べたところ10代後半から20代前半。
君の兄弟と言っても、差ほどおかしくは無い」
「フーン」
「さてと、とっとと片付けるか」
日が沈み、辺りが暗くなり始めた頃……外に出していた馬達を小屋へと入れた美麗は、エルの手綱を引き中へ入れようとする愁の所へ行き、一緒に小屋へと入れた。
「お家入ろう」
『……花……』
「花?
花、見たいの?」
『……うん』
「じゃあ、行こう」
牧場を出て行き、植木鉢が置かれた庭へ美麗は愁を連れて行った。鉢には、土に埋めた種から芽が出て花を咲かせていた。
「ほら、綺麗でしょ!
この花はね、柊の花なんだよ」
『柊?』
「私のパパのお友達。
でも、もういない……」
『……美麗、寂しい?』
「分かんない……
パパは離れてるし、ママも晃もいない……
愁は?」
『……分からない……
家族……いたのか…いないのか』
「……
ハックション!
寒い……中、入ろう」
そう言って、美麗は愁と共に家の中へ入った。
中は多少片付いたものの、まだ物が置かれていた。その山積みの中に、幸人は陽介と共に物を整理していた。
「うわぁ……まだ物がいっぱい」
「ったく、よくここまで溜め込んだもんだな」
「貴様、師匠が死んだ後遺品整理したのか?」
「面倒だったから、してない」
「それが原因だ!!」
「……?」
段ボールに入っていた古い巾着袋を、美麗は目に入りそれを手にとり、袋の口を開け中を見た。中には、桜のビー玉がいくつもあり、その中に布で包まれたものがあり、それを開くとそこには桜の形をした氷が、大事に包まれていた。
「……これ」
「何だ?それ」
「幸人、これは?」
「あ?
あぁ……確か、随分前の師匠が弟子だった頃に、誰かから貰ったって……」
「誰かって、誰?」
「知らね」
「肝心なところだけは、抜けているな」
「ほっとけ!」
「これ、どうするの?」
「どうするって……捨てるのもなぁ……」
「桜の氷は、こちらで引き取る。
ビー玉は、美麗。貴様が持っておけ」
「はーい」
「まだ掃除終わらないから、エル達と一緒に散歩しててくれ」
「分かった。
愁も連れてっていい?」
「あぁ」
「ワーイ!
行こう!お散歩!」
氷を布に包み直し美麗はそれを陽介に渡すと、そのまま裏口から外へと出た。
「……ところで陽介、何でそれを引き取った?」
「似たようなのを、曾祖母の遺品にあったんだ。
それを、俺が持っている」
「じゃあ、それを美麗が作った?」
「可能性は高い。
彼女の記憶は、確か本部にいた頃の記憶は無い」
「見覚えが無くて、当然だな」
「まぁ、この話はまた今度だ。
さっさと部屋を片付けるぞ。
元後言えば、貴様が整理していなかったのが」
「分かったから、いちいち言うな!!」
夜が更けた頃、散歩をしている内に眠った美麗を愁は抱えながらエルから降りた。エルの手綱を引き、小屋へと入れると、彼は家の中へ入ろうとノブに手を掛けた時だった。
『桜の守とは、君のことかな?』
『?』
振り返った先には、地狐が立っていた。彼を見た愁は、咄嗟に抱えていた美麗を守るようにして自分の背を盾にした。
『……襲いもしないし、その子を奪いはしないよ。
僕は、その子の父親の友達なんだ』
『……』
「美麗!片付いたから、そろそろ……
あれ?地狐、何で」
家から出て来た秋羅は、少々驚きながら外にいる二人を交互に見た。
『久し振り、秋羅。
中に、入ってもいいかな?』
「構わねぇけど……
どうしたんだ?いきなり」
『美麗の様子見』
愁に抱えられていた美麗は、起きたのか目を擦りながら体を起こした。
「秋羅、腹減った」
「家に入ったら、食おうな」
「……あれ?
何で、地狐がここにいるの?」
『お話をしに来たんだよ』
「お話?」
夕飯を食べた後、美麗は自室のベッドで寝かされた。寝息を立て眠る彼女に布団を掛けた秋羅は、戸を閉め下へ降りた。
リビングでは、お茶を飲む地狐と彼を不思議そうに見る、愁が向かい合って座っていた。
「そんで、話は何だ?」
『率直に聞くね。まぁ、その方が手っ取り早いんだけど……
彼、桜の守でしょ?よく見付けたね』
『桜?守?』
『君のことだよ。
君は、とても珍しい希少価値のある妖怪なんだ』
『希少……価値』
「話じゃ、確かこいつの一族は100年前に滅んだって、聞いたが?」
『確かに、僕等が彼等……というより、彼等の血を引いた者を見たのは、102年前。
それ以降は、全く確認がされなかった。彼等は普通の妖怪と違って、繁殖方法が変わっていたからね』
「変わっている?」
「妖怪は変わってるだろう?」
『君等人間や動物と同じように交尾して、子孫を産む妖怪もいれば、卵を産みそれから孵化する妖怪もいるし、蟲のように幼虫から蛹、蛹から成虫になる妖怪もいる。
でも、彼等は別。
彼等は、木から生まれる』
「木?」
『木と言っても、何でもいいって訳じゃ無い。
今では、数カ所しか生えていない木……桜。
桜の木から、彼等は生まれる』
「桜……」
「100年前には、確か美麗が生まれ育った北西の森が、桜の名所だったって聞いたけど」
『その通り。
桜の守の先祖が、あの森で生まれたからだよ。
大昔は……そう、美麗の曾祖父が生きていた頃は、それは綺麗な場所だった。
毎年、春になると桜が咲き乱れて、いつも木の下で花見をしたなぁ。その地の酒を仲間達と飲んで……本当、幸せだった』
『桜?
どんなの?』
「ん?
そうだなぁ……」
リビングに置かれた本棚から、植物図鑑を取りページを捲り、あるページで手を止めそれを愁に見せた。
「この、白い花を咲かせた木が、桜だ」
『……この木、村にあった』
「え?」
『村の…外れの…林に……』
「そんなところ、あったか?」
「知らない」
『……どうやら、愁君。
その木から、生まれたみたいだね。
桜の守は、生前していた守の魂が洗い流されて、また新たな命として蘇る……
輪廻転生って奴だね、君等で言う』
「……」
「誰の魂なのか、分かるか?」
『それは、僕等にも分からないよ。
知っているのは、多分仏だね』
「……」
『でも、君が生まれてきてくれて、よかったよ。
これで、しばらくは安泰だね』
「どういう意味だ?」
『その内、分かるよ。
まぁ、僕には……
彼が……
あの人に見えるよ』