桜の奇跡 作:海苔弁
「鬼退治?」
お茶を飲む葵が言った言葉を、幸人は繰り返し言った。
「そう、鬼退治」
「お腰に付けたきびだんごを、3匹に渡せば良いだろう?」
「冗談言わないで。
ちょっと、人数が必要なんだよ。協力頼むよ」
「人数が必要って……
あと、誰が来るんだよ」
「マリウスと花琳とその弟子達」
「わざわざ外国から来るんですか?!あの人達」
「仕事がしばらく無くて、その間こっちに来てるんだ」
「それで、あの2人に依頼したと」
「その通り。
彼等とは、現地で合流する予定なんだ」
「行っても良いが、2人オマケが付くぞ」
「2人?
1人は美麗だとして、もう1人は?」
その時、裏口から美麗と泥だらけになった愁が中へと入ってきた。
「何があった?その泥」
「馬達が愁を引きずり回しちゃって……
ドロドロになっちゃった」
「とりあえず、風呂に入ろうか」
秋羅に釣られ、愁は風呂場へと行った。美麗は、先に飛んで行ったアゲハを追い駆け、テーブルの上に置かれていた林檎を一つ手に取りながら、幸人の元へ寄った。
「……彼、誰?」
「愁だよ」
「シュウ?誰?」
「美麗と同じ理由で、ここに置いてる」
「……後で、詳しく聞かせて貰うよ」
「んで?2人共、良いか?」
「構わないよ」
「どっか行くの?」
「北国に、鬼退治だ」
「北……
ねぇ、鬼退治終わったら北西の森に行きたい!」
「え?北西の森?」
「美麗、無茶なこと言うな」
「えー……行きたい!行きたい!」
「うるせぇぞ!!」
幸人に怒鳴られた美麗は、頬を膨らませながらシュンとした。
「幸人、そんな怒鳴らなくても……
美麗、良いよ。仕事終わったら、北西の森に行こう」
「ヤッター!!」
「悪いな、葵」
「別にいいよ。
少し、様子を見に行きたいしね。北西地域に」
『北西?』
お風呂から上がった愁は、言いながら首を傾げた。
「ちょ、ちょっと!!服着てよ!」
「下は穿いてるぞ」
「幸人!女の子いるんだがら、上半身裸は止めて!!」
「だとさ。
愁、シャツ着ろ」
手に持っていたシャツを、愁は着た。美麗は手を引き、彼の部屋へと行った。
「身体に問題は無いが、まだ誰かの手を借りねぇと私生活は少し困難だ」
「見れば分かるよ」
「そういえば、美麗ちゃんの髪秋羅がやったの?」
「違ぇよ。
愁がやったんだよ」
「え?彼が?」
「アイツ初めて会ったには、妙に美麗に懐いてんだよなぁ」
「へー」
「暗輝か水輝に連絡入れるから、どっちかが着たら出発で良いか?」
「構わないよ」
数時間後……
準備をし終え、幸人達は牧場へ集まっていた。
「水輝さん、残念でしたね」
「仕様がねぇよ。
今月と来月に、この辺り一帯の健康診断の手伝い任されてて、予定がびっしりなんだから」
「大変だね、医者は」
「獣医師の君は?」
「しばらく無いが、多分そろそろ来る」
「お疲れ」
「さてと、そろそろ出発するよ」
そう言って、葵は地面に陣を描くと、首に掛けていたオカリナを手に取り、それを吹き出した。清らかに奏でられるオカリナの音色に反応して陣が輝きだした。すると、地面から水が噴き出し、それは幸人達を包み込んだ。
そして、外の景色が次々に変わっていき、着いた先は雪が積もった山の麓だった。
「はい、到着」
「雪だぁ!」
「この辺りは、まだ雪が溶けてないんですね」
「北国だからね。
中間か来月辺りで、歩けるくらいには溶けるよ」
「雪が完全に消えることは、無いんですね」
「あるよ。
夏の間は、ずっと。だけど、ここんところ異常気象で、夏でも雪が降るから」
「……」
「そんで、依頼主はどこだ?」
「ここから少し歩いた先にある、町だよ。
北国では珍しく、発展している町だよ」
「歩くのかよ」
「どうせなら、町の前まで飛ばせよ」
「そんな無理言わないで。
水星に、そんな力あるわけ無いだろう?」
「だったら、月にもねぇよ」
「文句言ってる暇があるなら、足を動かす。
ほら、美麗をご覧よ」
紅蓮とエル、アゲハを連れて美麗は真っ白な雪に足跡を付けるようにして、歩き回っていた。
「アイツは、雪に慣れてるからだ」
「オマケに、疲れれば紅蓮かエルが背中に乗るだろう」
「さぁ、文句言わずに出発!」
雪の中を歩く一同……
美麗は、辺りの積った雪に片っ端から突っ込んでは、足跡を付けたり小山に突っ込んだりと遊んでいた。
「美麗ちゃん、普通に遊んでるね……」
「久し振りの故郷だから、嬉しいんだろ」
「この辺り、妖怪がいねぇな」
「北国には妖狐が住んでるから、余り妖怪被害はないんだ。
まぁ、時々被害はあるけど」
「さすが、天狐と地狐」
「トップクラスは、格が違うわ」
しばらくして、町を囲う壁が見えてきた。雪で遊んでいた美麗は、壁が目に入るとすぐに秋羅達の元へ駆け寄り、隣を歩いた。
関所に着いた時、葵達が先に話を付けに警備している者の所へ行った。その間に、幸人は美麗に髪の毛を隠すようにしてフードを被せた。
「一応、被っとけ。
何があるか、分からねぇからな」
「珍しいからって、さらわれたりしたら元も子もねぇからな」
フードを弄る美麗を、愁はヒョイと抱き上げた。
「……まぁ、こっちの方が安全だな」
「オー!高ーい!」
『キー!』
愁の頭に乗ったアゲハは、鳴き声を上げながら触角で美麗と愁の頬に触れた。
その時、背後から何かが美麗のフードを引っ張ってきた。引っ張られるフードを抑え、振り返るとそこにはドラゴンと竜、合わせて4頭いた。
「あぁ!梨白達の竜だ!」
顔を寄せてきたドラゴンと竜達の頬を、美麗は撫でた。撫でる彼女の頬を、彼等は交互に舐めた。
「時間ピッタリだね」
「まぁ、これでも紳士なのでね」
「紳士だから、何だよ」
「お前等の竜が、飼い主以外に懐いてて良いのか?」
「知りません」
「勝手に懐いてるのよ」
愁から降りた美麗は、竜の背中へ乗り飛ばそうとしていた。
「勝手に飛ばそうとするな!!
梨白!!」
「やれやれ……アリサ」
命令された2人は、すぐに竜達の元へ駆け寄り飛び立つ寸前で、手綱を引き止めた。
「あぁー」
「勝手に飛ばすな」
「ほら、降りなさい」
「ブー」
竜から降りようとした時、美麗は足を滑らせ落ちた。慌てて梨白が受け止めようと手を伸ばすが、瞬時に傍にいた愁が、落ちた美麗をキャッチした。
『平気?』
「平気だよ!」
「……誰?」
「……どちら様?」
「うちで一緒に暮らしてる、妖怪の愁だ」
「一緒にって、どういう事?」
「あとで説明するよ」
「君、少しは躾けて下さい」
「してるつもりだ」
「どこがよ」
「……」
「まぁまぁ、喧嘩しないで。
ほら、中に入るよ。
あ、幸人、紅蓮に首輪着けといて。エルは手綱。
竜達は、外で待機」
「紅蓮に首輪着けるの?何で?」
「町の決まりだよ。
竜は……言わなくても分かるよね?」
「分かってますよ」
「アゲハは?」
『キー?』
「……風船みたいに、紐を着けて連れて」
町近くにある、森……
木の影から、4つの目が彼等を見つめていた。
その視線に紅蓮は、振り返り森を見た。
『……』
「紅蓮、どうかした?」
『……いや、何でも無い』
「?」
振り向いた先の森から、既に視線は感じなかった。紅蓮は辺りを警戒しつつ、秋羅に首輪を着けて貰いそのまま彼等と町の中へと入って行った。