桜の奇跡 作:海苔弁
俺は、同じ地にはずっといられない。だから、この森に棲んで人を守って欲しいんだ。
あの町の人達を。
お前達2人なら、大丈夫だよ。
だって、俺の右腕だから。
洞穴……
敷かれた藁の上に、美麗は寝かされていた。彼女を守るようにして、紅蓮は傍で横になっていた。
『まだ目が覚めないのか?』
『あぁ』
『全く、アンタが溝に一発入れたりするから』
『逃げようとするから、つい』
『ついじゃ無いよ!』
「……」
その大声に、美麗はスッと目を覚ました。顔を近付けてきた紅蓮の頬を、撫でながら彼女は起き上がった。
『目ぇ覚めたか?大将』
顔を近付けてきた者に、美麗は驚き後ろへ下がった。
「だ、誰?」
『誰って……
覚えてねぇのか?』
『頭、やっぱりこいつ大将じゃないような』
『え?大将だろ?
こんな綺麗な白髪、大将以外無いだろう?』
肩から垂れている三つ編みにされた髪を触りながら、その者は言った。触れるその手に、紅蓮は攻撃し唸り声を出しながら威嚇した。
『気安く主に触るな!』
『うわっ!おっかねぇ』
『頭!』
『平気!平気!
じゃあ、質問。アンタ名前は?
ウチは、酒呑童子』
「……しゅてん?
鬼の頭なの?」
『そうそう!
何だぁ!大将、やっぱり分かってるじゃん!』
「……私、お前が知ってる大将じゃないよ?」
『え?
じゃあ何で、ウチの名前知ってんの?』
「晃が書いた妖怪辞典に載ってたから」
『ひかる?
あぁ、麗奈の所のガキかな?』
「……れな?誰?」
『桜を咲かす、妖怪さ。
ウチ等と違って人の姿をした』
「桜を咲かす?
それって、桜の守のこと?」
『まぁ、そうだな』
「……」
『そんで、名前は?』
「……美麗」
『美麗……
なぁ、アンタの父さんの名前は?』
「?
り、麗桜だよ」
『……やっぱり』
『どうりで似てるわけだ』
「?」
『うち等、アンタの父さんの知り合いなんだ!』
「パパの?」
『あぁ!』
嬉しそうな笑みを見せる酒呑童子に、美麗はパァっと顔が明るくなった。
「じゃあじゃあ、昔のパパのこと知ってるの!?」
『もっちろん!』
「パパのこと、聞きたい!」
『良いよ!そんじゃあまず』
自慢気に話し出した酒呑童子を見て、傍にいた者は寄ってきた紅蓮の喉を撫でながら、彼女達を眺めた。
吹雪く外……森近くにある小屋から、アリサ達はそんな外を眺めていた。
「凄い吹雪ですね」
「早く中に入って正解だったね」
「吹雪の前に、まだ森にいる美麗が心配だ。俺」
「その彼女を、探しに行った愁も心配だね」
「仲間の誰か、あの森に入ったのか?」
テーブルにお茶を置きながら、老人は彼等に質問した。
「えぇ。
子供と彼等と同い年の少年が」
「そりゃあ大変だ。
鬼達に見つかってれば、良いんだが」
「鬼達に見つかればって……
俺等、鬼退治するためにこの森に入ったんだけど」
「退治?!とんでもねぇ!!
あの森に棲んでる鬼達は、俺等人間をるから守って下さってる、大事な守り神だ!」
「?」
「守り神って……」
「何か、ややこしいな」
「爺さん、あの森について知ってることがあるなら、話してくれねぇか?」
「え?」
「話の内容によって、やり方を少々変えたいので」
「……わ、分かった。
あの森には、昔なら厄介な妖怪が住んでるんだ」
「厄介な妖怪?
鬼達じゃなくて?」
「別の妖怪だ。
名前は、メアといってな。あの森に入った者達を眠らせ、夢を見させるんだ。そして、その心地良く眠っている間に、人の生気を吸い死へと誘うおっかない妖怪だ」
「眠ってる間に、死ぬねぇ」
「怖ぇ……」
「でも、夢ってどんなの夢なの?」
「嫌な夢だったら、普通起きますよね?」
「良い夢なんだ、個々にとって。
眠らされた人が、一番会いたい者。一番幸せだった頃。将来に希望を持っていた時期。
まだあるが、今分かっているのはこの3つの夢。この夢を見せられている間に、生気を吸われて……」
「死ぬって事か……
最高の一時だな」
「その夢を見せる妖怪と、守り神って言われている、鬼の関係は?」
「あの森の鬼達は、生前ぬらりひょんの右腕として称えられていた妖怪だ」
「え?!」
「ぬらりひょんの!?」
「この地に来たぬらりひょんは、メアを鎮めようと試みたが、駄目だった。そんで、人があの森に入らぬよう、見張り台として鬼達を置いたんだ
だから、あの森に棲む鬼達は人が森に入らぬよう守っているんだ」
「その話、本当かい?」
「本当だ。
俺の曾祖父さんは、あの森に入って死にかけているところを、ぬらりひょんに助けられたんだ。その恩返しに、森を管理して鬼達の負担を減らしているんだ」
「……その話が本当なら、町長は何で鬼退治を」
「あの森に、何かあるのか?」
「爺さん、森に珍しい物があるとか聞いたことあるか?」
「森の奥に、ぬらりひょんが植えた桜の木がある程度で、他には特に……」
「何か、あるな。町長の奴」
「ちょっと、森を探る必要があるね」
「吹雪が止み次第、探索と行きますか」
「捜索も兼ねてな」
酒呑童子が美麗と話しに夢中になっていた時、紅蓮達は何かの気配を感じ、洞穴の出入り口に目を向けた。紅蓮達と同じように気付いたのか、酒呑童子は話すのをやめた。
「……?
酒呑童子、どうかした?
!」
『人……ではないな。
獣が一匹』
『……来るぞ』
『美麗、ウチの後ろにいな』
出入り口を警戒する酒呑童子達……吹雪の中から、鳴き声が聞こえるそれはそのまま、洞穴に入った。
「……あ!
エル!愁!」
駆け寄ってきた美麗に、エルは体を擦り寄せエルから降りた愁は、彼女の顔や体を触りながら怪我が無いか探った。
「愁、平気だよ!
怪我してないよ!」
『……』
その時、愁が持っていた鞄がガサガサと動き、彼は鞄を開けた。開いたと同時に、中に入っていたアゲハが一目散に、美麗に飛び付いた。
「アゲハ!」
『キー!』
『草むらに隠れてたから、連れて来た』
『愁、ありがとう!』
『流石、大将の娘。
色んな妖怪を、引き連れてるんだね』
『へへ!』
『……お前等、誰?』
『ウチ等は、この森に棲む鬼。
名は酒呑童子。そんでこっちは』
『茨城童子だ』
『しゅてん……いばらき』
『そうそう!』
『パパのお友達だから、大丈夫だよ』
『……?』
突如、吹雪が止んだ。異様な状況に、愁は美麗を傍に抱き寄せた。
『……厄介な奴が目覚めたな。
美麗、すぐに仲間の所に戻ろう』
「でも……」
『この森は危険だ。
増して、アンタみたいな子供だけど強大な妖力を持った奴にとっちゃ』
「……」
『森の外まで送る。
茨城、美麗達はウチが連れていくから、敵の誘導お願い』
『あぁ』
『そいつ1人で平気なのか?』
『平気さ。
何だって、茨城はウチの右腕だからな!』