桜の奇跡 作:海苔弁
「止んだか」
「お前さん方、森に行くなら鈴を付けて入るといい。
鈴の音を聞いて、もしかしたら鬼達が現れて助けてくれるかも知れねぇ」
「分かりました」
鈴を受け取ると、彼等はすぐに出て行き森へ向かった。
森に入ってしばらくすると、辺りに霧が漂い始めた。足を止めた幸人達は、武器を構え警戒した。
その時、心地良い音が聞こえてきた。眠気を襲うような、メロディに幸人達はウトウトとし始めた。
「ね、眠くなってきた」
「何なの……これ」
眠らないよう必死に堪えていた時、突如幸人の背後から何者かが肩を叩いてきた。驚いた彼は、素早く振り向いた。
「……は?」
「どうした、幸人?そんな驚いた顔して」
目の前に立っていたのは、生前の姿をした天花だった。
「な、何で婆が……」
「何でって……
アンタが森に行ったきり帰って来ないから、陽介と探しに来たんだよ」
「陽介?」
ふと下を向くと、天花の傍に幼い陽介が彼女の裾を掴んで立っていた。
「ど、どうなってんだ……だって」
「幸人、中に入るぞ」
「……」
見覚えのある小さな家……いつの間にか、幼くなった幸人は嬉しそうに、中へ入ろうとした。
だが、次の瞬間時腕に激痛が走った。
「!!」
目を覚ました幸人は、辺りを見回した。目に入ったのは、自身の腕に噛み付く紅蓮だった。
「紅蓮……(夢だったのか)」
『無理矢理起こすには、痛みをと思って。
痛かったか?』
「……いや、大丈夫だ。
ありがとう」
『他の奴等は?』
「分からねぇ。
探さねぇと、俺と同じ状況なら……美麗は?」
『鬼達と一緒だ』
「鬼?」
『説明は後でする』
先に行く紅蓮の後を、幸人は噛まれた腕に布を巻きながら、追い駆けていった。
「秋羅」
(何だ……この声)
「秋羅、そろそろ起きないと、母さんに怒られるぞ」
(この声……まさか…そんなはず)
ゆっくりと目を開ける秋羅……そこにいたのは、ネクタイを締める生前の父親だった。傍には背広を持った母親がいた。
「……」
「やっと起きたか。朝ご飯、出来てるぞ」
「……」
「アラアラ、この子ったらまだ寝ぼけてるのかしら。
ご飯出来てるから、着替えて下へ降りてきなさい」
「…あ、うん」
久し振りに聞いた、母の優しい声。秋羅は、いつの間にか幼くなりそして、嬉しそうにベットから降りようとした時だった。
「起きて!!」
ハッと目を覚ます秋羅……目の前には、自身の手を握った美麗が、心配そうな表情をしていた。
「美麗……!?
何だ…これ」
秋羅の足元を覆う、黒い土のようなもの……美麗の傍にいた酒呑童子は、持っていた巨大徳利を傾け中から水を、その土に垂らした。土は、水に反応して硝子のようにパリーンと割れた。
「凄え」
『さてと、歩けるか?』
「あ、あぁ。
お前、誰?」
『あぁ、そうか……
ウチは酒呑童子。この森を守ってる鬼』
「鬼……
鬼!?」
「酒呑童子は、パパの右腕だから悪い奴じゃ無いよ!」
「わ、分かってるよ」
『アンタを森の出口まで案内するよ』
「いや、時雨達もまだこの森にいるんだ。俺1人だけ、出るのは」
『仲間が?』
「酒呑童子……」
『……安全は確保できないかも知れない。それでもいい?』
「構わない」
『じゃあ着いてきて』
そう言って、秋羅は美麗達とその場を後にした。
2人目が生まれたばかりなのに、大変ねぇ。
大丈夫じゃないの?息子さん、しっかりしてるから。
父さん、僕は必ず母さん達を守るよ……絶対に。
離してくれ!!まだ、母さんと蒼空が!!
2人を助けてくれ!!見捨てないでくれ!!
やめて……燃やさないでくれ……あそこには、まだ母さんが!!蒼空が!!
何で、僕の家を……何で、僕の家族を……
許さない……あの妖怪……
白髪の……あの妖怪だけは!!
「!?」
目を覚ます葵……目の前には、エルと愁、茨城童子が立っていた。
「……君等」
『気が付いたか?』
「……」
『立てる?』
「肩を貸してくれれば」
愁の肩を借りながら、葵は立ち上がった。バリバリと体を包んでいた黒い土のようなものが、粉々になり消えていった。
「……これは」
『メアの力だ』
「メア?」
『この森に棲む、妖怪だ。
俺達鬼は、大将に頼まれてここへ、人が入らないようにしているんだ』
「……そっか。
ありがとう」
『出口まで案内する。
ついて来い』
「いや、それは出来ないよ。
花琳達がまだ」
『……じゃあ、来い。捜すぞ』
先を歩く茨城童子の後を、愁はふらついている葵を、エルの背中へ乗せると手綱を引きついて行った。
奥へと来た秋羅達。木の傍に凭り掛かるようにして座り、黒い土に包まれていく時雨達を彼等は見付けた。
「時雨!梨白!アリサ!」
体を揺らし、彼等を起こそうとするが、3人が目覚める気配が無かった。
『……秋羅といったな?』
「え?」
『3人の口を開けろ』
「は?」
『眠らされている奴等を、叩き起こすには口に液を入れるのが手っ取り早い』
「な、何を飲ませる気だ?」
『酒だ、安心しろ』
「……」
『早く開けろ。助けたくないのか?』
「あ、はい」
酒呑童子の言う通り、秋羅は美麗と一緒に彼等の口を開けた。その口に、酒呑童子は巨大徳利から酒を流し込み、そして飲ませた。
飲ませた直後、3人は咽せ激しく咳をしながら飛び起きた。飛び起きた衝撃により、体を覆っていた黒い土が、粉々に消えた。
「あ!3人、起きた!」
「み、美麗ちゃん?!」
「何故あなたが、ここに?」
「お前等、平気か?」
「べ、別に何とも……
いえ……頭が少し、くらくらします」
「俺も」
「私も」
『そのくらくらは、歩いている内に治る。
他に仲間は?』
「あと、幸人達だけど……」
「幸人なら、紅蓮が助けに行ってるよ!」
「本当か!?」
『あとの者には、ウチの仲間がエル達と一緒に探している。
それにしても、少しおかしいな』
「おかしいって?」
『メアの奴、さっきから食糧となるはずの人間を、次々に解放しているのに……
一向に襲ってこない。普段なら、人を2人か3人解放すると、攻撃してくるのに』
「何か、訳があるのでしょうか?」
「訳って?」
「……先生」
「?」
「先生達の妖力で、満足してるんじゃ」
「!」
「可能性はありますわ。
本部の実験で、妖怪の力を手に入れたと言ってましたし」
『つまり、アンタ等の先生は、人でありながら妖怪の力を持ってるって事?』
「まぁ、簡単に言えば」
『……マズいね。
それが本当なら、4人が危ない』
「じゃあ、早く先生達を!」
『ウチについて着な!
遅れるんじゃないよ!』