桜の奇跡 作:海苔弁
賑わう町へ来た幸人達。男に案内され、辿り着いた場所は町から少し離れた、庭付きの豪邸だった。
「で、デカい……」
「さぁ、どうぞ」
敷地内に入ったと同時に、空からエルと共に来た紫苑は、庭に降り立ち人の姿となっていた紅蓮と共に、彼の背中から飛び降りた。
「紅蓮、エルと一緒にいて」
『了解』
手綱を紅蓮に渡し、紫苑は幸人達の元へ駆け寄った。
向かい合い座る幸人達……テーブルに並べられた資料を、紫苑はシングルソファーに座り目を通していた。
「その書かれている事全てが、子供を手放してからの被害リストです」
「……被害と言いますが、ほとんどの被害がこの家ですね」
「そうなんです。
一体、何故家だけを狙うのか……」
「……
無闇に動物を殺したからじゃないの?」
「?」
「どういう意味だ?」
「別に……
そこにいる息子さんに、聞いてみれば?」
そう言った途端、少年は目を微かに動かし紫苑を睨んだ。
「あ!紫苑だぁ!」
戸が開いたと共に入ってきた、女の子が紫苑の元へ駆け寄り彼女に飛び付いた。
「菊乃!お父さんは今、大事なお話をしてい……
紫苑……」
入ってきた母親は、持っていた籠を地面に落とした。その様子を見て、幸人と秋羅は顔を合わせた。
「……紫苑」
「?」
「表に出てろ」
「え……」
「エルがそろそろ、鳴き喚く頃だ」
幸人の言葉通り、エルの鳴き声が聞こえてきた。
「エル……」
「行って来い」
資料を置き、紫苑は部屋を出て行った。彼女の後を菊乃は追い駆けていった。籠に落ちた物を入れた母親は、幸人達に一礼すると、部屋を出て行った。
「……娘さん、凄い懐きようですね?」
「姉のように慕ってましたから……妻も妻で、実の娘のように可愛がったいましたから」
「……」
庭へ出た紫苑は、裏へと回りそこにいたエルの元へ歩み寄った。エルは彼女の姿を見ると、紅蓮の手から離れ駆け寄った。
「わぁ!大きいお馬さん!」
「菊乃、危ないから近付くのは」
「平気だもん!紫苑がいるから!」
そう言って、菊乃はエルに触れようと手を伸ばした。その手を、傍にいた紅蓮は止め彼女を紫苑の元へ引っ張った。
「いきなり触ると、蹴られるよ」
「え?!そうなの?!」
(相変わらず、オーバーだな……)
「ねぇねぇ!どうすれば、触れるの?」
「顔見せてあげて」
正面へと来た菊乃に、エルは嘴で突っついた。蹌踉け転び掛けた彼女を、紫苑が支え立たせ菊乃は彼女に笑顔を見せると、エルに手を差し伸ばした。エルは、彼女の手に自身の嘴を触れさせた。
「触れた!触れた!」
喜ぶ菊乃を見ていた母親は、微笑ましく見ていた。
その時……何かの気配を感じた紅蓮は、辺りを警戒しだした。彼と同じようにして、エルも辺りを気にし始めた。
「エル?どうかしたの?」
「……!」
気配を感じ取った紫苑は、菊乃を母親の元へ返すと腰に挿していた小太刀の柄を握り、辺りを見回した。
「紫苑、何か……」
「中に入って!!」
そう叫んだ瞬間、茂みから現れ出た妖怪に紫苑は襲われた。
「キャァアア!!」
外から聞こえた叫び声に、幸人達はすぐに外は飛び出した。外では紫苑を抑え込む妖怪が、口を開け押さえ付けていた彼女の腕に噛み付いた。それと同時に抑えられていなかった手で、紫苑は妖怪の体に小太刀を刺した。妖怪は痛がり鳴き声を上げ力を緩めた。その隙に紫苑は転がり離れた。
離れたのを見ると、紅蓮は手に炎を纏い妖怪を殴った。熱がった妖怪は、何かを睨みながら柵を跳び越え森へ逃げ込んでいった。
「……!
紫苑!」
腕から血を流す紫苑の元へ、秋羅と幸人は駆け寄った。彼女は腕を押さえながら、立ち上がろうとしたが足がふらついた。倒れかけた紫苑を、紅蓮は支え立たせた。
「ざっくりやられてるな……」
寄ってきた幸人は、紫苑の腕の傷を見ながらそう言った。母親に抱かれていた菊乃は、母親から飛び降り彼女の元へ駆け寄り、幸人達を見ながら話し掛けた。
「紫苑、大丈夫なの?」
「手当てすれば平気だ」
「でしたら、私が」
「お願いします。
秋羅、付いてってやれ」
「分かった」
「俺は森に行って、様子を見てくる。
紅蓮、お前も一緒に来い」
『……』
「紅蓮、幸人に付いてって」
『でも……』
「私は大丈夫だから」
『……分かった』
先に行った幸人の後を、紅蓮は追い駆けた。そして彼等が見えなくなったのを機に、紅蓮は狼の姿へと変わり幸人を乗せ森の中を歩き出した。
部屋で傷の手当てをして貰う紫苑……包帯を巻くと、母親は器具を片付けながら言った。
「これで大丈夫よ。
紫苑のことだから、少し寝れば傷口はすぐに塞ぐはずよ」
「良かったね!紫苑!」
「……」
「紫苑?」
こっくりこっくりとしていた紫苑を、秋羅は寝かせた。
「紫苑、寝ちゃった……」
「多分、疲れたんだろう。
ここ来てから、何か気ぃ張ってたみたいだし」
「……」
「菊乃、お父さんの所に行ってなさい」
「ハーイ!」
元気よく返事をした菊乃は、部屋を出て行った。二人っきりとなった途端、母親は秋羅に話し掛けた。
「あの、紫苑は今そちらで」
「えぇ。こちらで面倒を見ています。
と言っても、互いに面倒を見てるって感じですね」
「……この子、ちゃんとご飯食べてますか?」
「えぇ…まぁ」
「……良かったぁ」
安堵の息を吐くと母親……次第に彼女の目から、数滴の涙が流れ出た。
『名前、無いの?』
なまえ?
『無いなら菊乃が付けてあげる!』
つけて、あげる?
『このお花の図鑑に、綺麗な花があったの!』
はな?
『えっとね……
あった!これ!この名前が良い!』
……
しおん?