桜の奇跡 作:海苔弁
そう、亡くなったんですか……
?
おや?あの子は?
引き取り手がいない?こんなに親族の方が来ているのに?
そうですか……引き取りたくないと……
お嬢さん、僕の所へ来ませんか?
神々しく光る弓矢を、手から作り出した愁は矢を弦に嵌め引き、黒い木の根の中心部目掛けて放った。
『ギイャァァアアア!!
い、嫌だ!!光は!!』
「凄い嫌がってる……」
「あの姿って」
「まさか」
黒い木の根の中心部に現れた、黒い鬼……愁はエルから降り、その鬼の前に立った。
『……闇は、消えろ!』
光る矢を、愁は再び弦に嵌めた。鬼は咄嗟に、繭に包まれたアリサとマリウスを引き寄せ、刃を向けた。
『良いのか!?攻撃するなら、この者達の命は無いと思え!!』
「遠慮無く行け!!愁!!」
「2人を返して貰いますよ!」
繭に飛び乗った幸人と葵は、同時に繭を切り開き2人を引っ張り出した。苦しみながら焦る鬼は、咄嗟に地面を揺らし、そこから木の根を出し攻撃した。突然来た攻撃に、彼等は慌てて避けた。避けた衝撃に、美麗は紅蓮の背から落ち、地面に尻を着いた。
『美麗!!』
『捕らえた!!』
地面から伸びた木の根が、美麗を包み込もうとした。一筋の光までもが、黒い木の根で塞がれかけた時、そこから入ってきた手が、彼女を引っ張り出した。
『な、何!?』
引っ張り出した美麗を抱き寄せる愁……髪を靡かせながら、紅く光る目を鬼に向けながら、口を開いた。
『これ以上、大将を傷付けることは許さねぇ』
鋭く光るその目に、鬼は一瞬怖じ気付いた。
愁は美麗を自身の後ろへ行かせると、光る矢を弦に嵌め引き放った。矢は鬼の胸に突き刺さり、黒く覆っていたオーラ消え、本来の姿になりながら倒れた。
その鬼の元へ、酒呑童子と茨城童子はすぐに駆け寄り、彼を起こした。
『……頭……。
俺、どうしても皆の仇が取りたくて……それで』
『もういいよ。分かってるから。
後は、うち等に任せて……アンタはもう休みな』
『……』
その言葉に安心したのか、鬼は目を閉じた。すると、鬼の体は闇の粉となり、酒呑童子と茨城童子の周りを飛び交った後、空へと消えた。
『この森には、うち等の仲間が眠ってるんだ。
その仲間の魂が、闇に染まって……長い間苦しんでるんだ。
何とか救おうと、色々やったけど駄目だった……
やっぱ、凄いな。大将の傍に就いてたくらいの事はあるよ。桜の守』
不意に背後に立った幸人達に言う様に、酒呑童子は話した。そして、流れ出ていた涙を拭うようにして、腕で顔を拭いた。
「先生!」
「先生!」
幸人達の元へ、アリサ達は駆け付けた。
「君達」
「外で待っていろと」
「外で待って何て、いられません!」
「先生は?!」
地面に寝かされたマリウスと花琳。不意に吹く風が、2人の髪を靡かせた。
「……先生?」
「あの、先生は……
先生は、いつ目を」
「ちょっと待ってろ、起こすから。
おいマリウス、花琳起きろ」
「こんな所で寝てたら、風邪引きますよ?」
「……」
「……」
ピクリとも動かない2人……その様子を見た美麗は、不意に口走った。
「……2人共、死んじゃったの?」
「そんな……
先生!!目を開けて下さい!!先生!」
涙を流しながら、アリサは座り込みマリウスの体を揺らした。疑った幸人と葵は、すぐに2人の脈を測った。
「……脈が…」
「動いてない……」
『ちょっと退いて!
アンタ等、こいつ等の弟子?だったら、呼び掛けながら手を握ってろ!』
「は、はい!」
行動に出た茨城童子は、マリウスとアリサの口を開けた。そこへ、酒呑童子は巨大徳利に入っている酒を、一滴飲ませた。
飲ませてからしばらく待ったが、2人は目覚めなかった。
『……駄目か……』
「駄目って……」
『あの黒い繭に包まれたら、最期なんだ。
永遠の眠りに付いてしまう』
「それって……」
「……死」
『うち等が、もっと早く助けに行けば……』
「……嫌よ……
こんなの嫌よ!!」
「アリサ」
「嫌よ!!嫌!!
先生!目を開けて下さい!!先生!!
私を……
私を1人にしないで……」
涙を流し、師の手を強く握るアリサと梨白……
すると、美麗はブレスレットを1つ外すと、寝かされたマリウスと花琳の間に座り、胸に手を当てた。
「美麗、何を?」
「悲しき光の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ……」
翳した手から白い玉が現れ、それは2人の胸の中へと入って行った。
「光を遮る見えなき闇よ、光なくして闇は在らず、聖なる光で闇夜を薙ぎ払え!」
中へ入った白い玉は、その呪文と共に強烈な光を放った。
光?
あぁ……そういえば、同じものを昔感じましたっけ。
暗かった僕と花琳の心に、差し込んだ光……
その先にあったのは……
『先生!』
アリサ?
そうだ……早く戻らないと。
光……
そういえば、私の所に差し込んだのは、2つの光だったっけ……
1つは、湊都……マリウスが現れた時。
もう1つは、幸人達と……
『目を開けてくれ……先生』
梨白?
そうだわ……早く戻らないと。
握っていたマリウスと花琳の手が、ピクリと動いた。それに2人はすぐに気付き、顔を上げ彼等の顔を見た。動いた手は、握るアリサと梨白の手を握り締めた。そして、ゆっくりと瞼が開いた。
「そんな顔したら、綺麗な顔が台無しですよ」
「そんな顔したら、綺麗な顔が台無しよ」
そう言って、2人は微笑んだ。起き上がったマリウスと花琳に、アリサと梨白は周りの目を無視して飛び付いた。
『さっすが大将の娘!!
上出来だよ!』
「本当?」
『あぁ!』
酒呑童子と茨城童子に褒められている美麗の元へ、愁はブレスレットを持って寄ってきた。
「あ!愁!
ブレスレット、ありがとう!」
美麗はブレスレットを受け取り、手に着けた。着けたのを見た愁は、彼女を抱き上げ頭を撫でてやった。すると、彼の鞄に入っていたアゲハがヒョッコリと顔を出し、美麗の頭に乗り触角で彼女の頭を撫でた。
「それにしても愁、今回は大活躍だったな!」
「本当。君があんな力を持っていたなんて」
『……力?』
「エルも、よくやったな」
秋羅の褒め言葉に、エル鳴き声を発した。立ち上がった美麗は、寄ってきたエルの頬を撫でた。
喜びに満ちる彼等を前にして、愁は自身の手を見つめた。
(……俺の…力)
「秋羅達待たせるし、とっととこの不気味な森から出るとするか」
「だね」
『出口までは、うち等が案内するよ!』
「頼む」
アリサと梨白に支えられながら、マリウスと花琳は立ち上がった。
美麗は紅蓮の背に飛び乗り、愁はエルの手綱を引くと、酒呑童子達の後をついて行った。
雅……
いつも髪の毛梳かしてくれて、ありがとう。
切ろうと思ったんだけど、あの人が長いのが好きだから嫌だって言うんだ。全く、人の気も知らないで。
本当、アンタは器用にやるね。纏まってて、邪魔じゃ無いよ。
白い花が、赤い花に変わった……
いつもの様に、髪をやっても褒めてくれない……
あの人は、倅を残してどこかへ行った……
何で……
どうして……
結局、あの方は帰ってこなかった……戻ってこなかった。
生きている間に、もう一度……あの笑顔を見たかった。
また、巡り会えたら……今度こそ。