桜の奇跡 作:海苔弁
まだ、皆が眠っている頃に愁は目を覚ました。隣には、気持ち良さそうに眠る美麗の寝顔があった。
顔に垂れる彼女の髪を、耳に掛けると額に掛かる前髪を退かし、自身の額を当てた。
(……暖かい)
「……ヒカル…」
(……まただ……)
『同じ容姿だね』
『夜みたいな黒い髪に、透き通った紅い目。
お前、晃と同じなの?』
美麗の言葉を思い出した愁は、起き上がり部屋の隅に置かれた鏡を見た。
(……黒い髪に、紅い目……
俺は、晃なのか?)
「……ヒカル……
ヒカル……晃?」
彼の名を呼びながら、美麗は半べそを掻きながら起き上がった。秋羅と幸人、暗輝に起こさないように、愁は彼女を横にさせ、手を握りながら隣に横になった。
しばらくして、鼻を啜りながら泣いていた美麗は、愁の手を握りながら眠りに付いた。眠った彼女の顔を眺めながら、愁も眠りに付いた。
「えー!!北西の森行けないの!?」
突然の美麗の大声に、愁は目を覚ました。
「創一郞と迦楼羅から、依頼があったんだよ」
「迦楼羅ならともかく、創一郞の任務なんて放棄すれば良いじゃん」
「合同任務だ」
「だから、北西の森はまた今度な」
「……ブー」
「そう膨れるなって。
連れて行かないって言ってねぇだろう?」
「……」
膨れる美麗に、起きた愁は宥めるようにして頭を撫でた。
「お、愁の奴起きたか」
「ならいいや。
秋羅、葵達と町長の所に行ってくるから、あと頼んだ」
「分かった」
コートに腕を通しながら、幸人は部屋を出ていった。
『キー!キー!』
外からアゲハの鳴き声が聞こえ、秋羅は戸を開けた。すると外からアゲハと、アゲハを追い駆けてきた時雨は突然開いたドアに驚き、急ブレーキを掛けられずそのまま秋羅の胸にダイブした。
「……時雨、大丈夫か?」
「ごめん……
アゲハ追い駆けたら、突然ドアが開いて……」
「何か、ごめん」
「あ!アゲハ!」
『キー!』
飛んできたアゲハは、美麗の頭に留まると触角で彼女の顔を撫でた。
「エルと同じく、美麗から離れたくないんだな」
「くすぐったいよ!アゲハ!」
『キー?』
「美麗、アゲハ連れて部屋戻れ」
「何で?」
「着替えてこい」
「ハーイ」
「愁、お前も着替えろ」
『うん』
「時雨、頼んで良いか?」
「ええ。
美麗ちゃん、行こう」
「うん!」
ベッドから降りた美麗は、時雨の元へ駆け寄り彼女と共に部屋を出て行き、隣の部屋へ行った。
その頃、町長宅から出て来た4人は、並んで宿へと向かっていた。
「やれやれ、話が何とかついてよかった」
「幸人は相変わらず、無理を強いるわね」
「ほっとけ」
「この貸しは必ず、返しますね」
「こっちもよ」
「ヘイヘイ」
「……ねぇ、幸人。
ちょっと聞いていいかな?」
「ん?何だ?」
「……美麗は、100年間北西の森で寝ていたって言っていたよね?」
「まぁ、そう聞いてる」
「……起きてたって事無いの?」
「え?」
「葵、どうかしたの?」
「メアの森で見た夢で、思い出したんだ。
母さんと蒼空を焼死させた炎を点けた、犯人の姿を」
「!?」
「後ろ姿だったけど……
犯人は、美麗と同じ真っ白な髪をしていた。
燃え盛る炎の中、その姿を僕は見たんだ」
「……視野に入れといても、おかしくないな」
「月影!」
「あり得ることだ。
俺も、似たようなのを空孤に見せられた」
「え?」
「どういう事?」
歩む足を止め幸人は、彼等の方を見て空孤に見せられた、最期の『アスル・ロサ』の風景を伝えた。
「……それが、犯人って事?」
「可能性はある。
美麗は妖力の関係上あの姿だが、年齢は俺達より100も上の116歳。もうすぐで117歳だ。
天狐と地狐の言い分だと、美麗の本来の姿は10代後半から20代前半の女性。妖怪からすれば絶世の美女と称えてもおかしくないほどの、容姿らしい」
「彼女には、裏と表の顔があると言うことですか?」
「まぁ、そうだろうな。
その方が、目の色に関しての辻褄が合う」
「……」
「幸人ー!」
呼び声に振り返ると、宿から駆けてくる美麗の姿があった。飛び付いた彼女の頭を、幸人は雑に撫でながら微笑んだ。
「……ここから見れば、普通の女の子と変わらないわね」
「少し、違う目で見た方が良いのかも、知れませんね」
「……そうですね」
昼過ぎ……
メアの森へ来た愁。彼の手には、数本の花が握られ、それは立てられていた墓石の前へ置いた。
『花を添えてくれるのかい?』
同じように、花を持った酒呑童子と茨城童子がそこへ降り立った。
『……ここには、桜の木はあるのか?』
『あるよ。
桜は、大将の好きな花だったから』
『大将だけじゃない……
彼を尊敬していた奴等も、桜が好きだった。毎年、春になれば皆でよく、花見をした』
『……その、大将の奥さんは、どんな人だった?』
『確か、美優って言ってたな。
凄い、綺麗な半妖でね。精霊の長って言うの?精霊の姫で、桜が大好きだって言ってたっけ』
『……2人の傍に、桜の守はいなかったのか?』
『いたよ。
というか、そいつの元に行くために麗桜は、旅をやめたんだよ』
『そいつの名前、分かるか?』
『えっと……
何だっけ?』
『確か……
静葉と言っていた』
『静葉……』
『ちなみにさ、アンタは美麗を守る気ある?』
『え?』
『藤閒の傍にいた桜の守も、李桜莉の傍にいた麗奈も、皆彼等を守ろうとした。
己の命に代えて』
『……
俺には、分からない。
美麗に会う前の記憶は無い……だけど、アイツを1人には出来ない。
いや、しちゃいけないんだ』
『……長生きしてよ、アンタは』
『?
それって?』
「愁!」
茂みから花冠を持った美麗が現れ、彼女は愁の本へ駆け寄った。
『よぉ!美麗!』
「あ!酒呑童子に茨城童子!
見てみて!雪の下に花が咲いてたから、それで花冠作ったの!」
『凄いな!流石、大将の子供!』
褒められた美麗は、嬉しそうに笑顔を見せながら、花冠を墓石の前に置いた。
「皆が待ってるよ!
愁、行こう!」
愁の手を引き、美麗は2人に別れを言いながら、森の外へと出ていった。
『……本当、長生きしてよ。
桜の守、愁』
ねぇ、聞いたことある?
妖怪に育てられた子供の噂。
妖怪に育てられた子供はね、知らない内に妖怪と同じ力を持つんだって!
けど、1つだけ力を消す方法があるの。
それはね………