桜の奇跡 作:海苔弁
そこにある広場のベンチに、幸人と秋羅は座っていた。彼等の視界に入る所で、美麗は水輝達と一緒に、広場に植えられた草花を眺めていた。
「ヤッホー!ユッキー!」
聞き覚えのある声に、幸人は反応し振り向いた。そこには、手を振る迦楼羅と彼の後ろに火那瑪と創一郞、敬の姿があった。
「うわ、嫌な奴が来やがった」
「幸人!」
「幸人!そんな事言わないで!!」
「帰りたい」
「美麗!」
「とっとと依頼内容言え」
「ヘーイ。
大型妖怪の封印。依頼主は、討伐隊本部から」
「本部から?何でまた」
「今回のターゲットが、必要らしいよ」
「何の実験やんだか、あいつ等」
「それで、何で東担当のお前と南西担当のお前に、当てられたんだ?」
「俺は暇だったからだけど……創一郞、お前は?」
「この町に、1度来たことがあるからだろうよ。
それはそうと、何でこの変態双子の妹が来てんだよ。兄はどこ行った?」
「暗輝は仕事だ!
入れ違いに、私が来たんだ」
崖を降りていく幸人達……
下へ下へと降りて行く幸人達を背に、美麗は軽々と降りて行った。
「幸人!早く!」
「少し待て!
愁、先に行ってくれ」
『あぁ』
「こんな絶壁を降りるなんて、聞いてないんだけど」
「この下の森を住処にしてるんだ。仕方ねぇだろう」
「その大型妖怪、いつからいたの?」
「話によると、100年前からいるらしい」
「フーン……
(だとすれば……)
紅蓮」
『分かった』
前を歩いていた紅蓮は、方向を変え崖を飛んで行きながらどこかへ行った。
「紅蓮の奴、どうしたんだ?」
「ラルの所に行ったの。
ねぇ、早く!置いて行っちゃうよ!」
「あ!こら!」
「なんちゅう身軽さなんだ、美麗の奴」
「森育ちだからな」
「そう言う敬も、意外と早いな」
「まぁ、アイツも森育ちだからな」
「え?」
「いや、こっちの話だ」
崖を降りていき、ようやく地面に辿り着いた美麗は、段差から飛び降りた。空を飛んでいたエルは、美麗の元へ降り立ち彼女に擦り寄った。
しばらくして、次々と地面へ幸人達は降りた。降りた敬は、辺りを見回した。
(……ここって)
「敬、どうかしたか?」
「……いや、何でもねぇ」
「かなり暗い森だな……」
「この山のせいで、陽があんまり当たらないんだ。
けど、なぜから草木が芽生えている。不思議だろ?」
「確かに」
「……幸人!
愁と一緒に、この森空から見て良い?!」
「頼む!」
「愁、行こう」
エルの背中へ乗ると、2人は空へと飛び立った。
「水輝、2人のことお願いして良いか?」
「了解した」
「そんじゃあ、俺等は探索と行きますか」
「とっとと行きますよ、先生」
「火那瑪!酷いこと言わないで!
てか、置いてかないで!」
「相変わらず、下に敷かれてるな」
森を歩く敬と創一郞……辺りを見ながら、敬は生え並ぶ木々を見た。
「……なぁ、先生」
「ん?」
「この森に、鳥みたいな妖怪いなかったか?」
「鳥?
何で?」
「いや、ちょっと気になって……」
「……敬」
「……悪い!
やっぱ、何でもねぇや!」
自身に見せる敬の笑顔は、無理矢理作られている……創一郞には、そう感じ取れた。
エルの背に乗り、空を飛んでいた美麗と愁は、そこから森を眺めていた。
「暗い森……
何でこんなに」
『……微かだけど、人の気配がする』
「幸人達じゃなくて?」
『うん……』
「……誰かいるのかな……
一旦、戻ろっか」
『うん』
エルの手綱を引き、美麗は方向を変えると幸人達の元へ戻った。
丁度、水輝がいる元へ降り立った時、森を探索しに行った幸人達が、帰ってきた。
「お!グッドタイミング!」
「美麗、何か収集あったか?」
「森が暗いのと、多分この森に人が住んでると思う」
「え?人?」
「こんな所に?」
「愁が、人の気配がするって。
私達以外の」
「こんな真っ暗な森にいる人間って、誰だよ」
「文句言わない。
とっとと調べに行けば良いでしょ?」
「他人事だと思って……」
「もう一回、偵察だな。
?」
場の空気が変わった……その空気に、美麗の頭に乗っていたアゲハは怯えだし、愁が肩に掛けていた鞄の中へ隠れた。
「……幸人」
「少し黙ってろ。
(何だ……この気配)」
(妖怪だが……
強大過ぎる)
キョロキョロとしながら、美麗は小太刀の束を握った。
その時、森の方から鎖が美麗の腕に巻き付くようにして飛んできた。
「美麗!!」
傍にいた愁はすぐに、その鎖を掴み引っ張った。すると、木から黒装束の者が落ちてきた。鎖を持つ手が緩んだ時、愁は鎖を高く投げそれを幸人は弾を撃ち、鎖を切った。
「一体何だ!?」
「その女子を、ここへ置いて立ち去れ」
黒装束の者は立ち上がり、クナイを構えながら言った。
「そいつは無理な話だ」
「置いて行けと言ってるんだ」
「嫌だと言ったら?」
「力尽くで、奪うまで!!」
飛んできたクナイを、幸人達は素早く避けた。だが、美麗の背後には既に、クナイを飛ばした敵が彼女目掛けてクナイを振り下ろしてきた。
“キーン”
振り下ろされてきたクナイを、美麗は小太刀で防いだ。後ろへ下がった美麗は、暗い森の中へ入って行きその後を、敵は追い駆けていった。
「美麗!!」
「美麗!!」
「何でこんな真っ黒な森に、人がいるんだ?」
「前来た時は、いなかった……あ」
「創一郞、どうかした?」
「いや、気になる集落が一戸あったわ」
「え?!」
「この森にあんのか?!集落!?」
「あぁ。
確か、妖怪を守護神として称えてる集落で……ヤバい」
「何?何がヤバいの?」
「その集落、自分達で贄を出さずこの森に入った部外者を妖怪に捧げてるんだ」
「それって……」
「奴が美麗を狙ったのは」
「……生贄!?」
「正解」
「正解じゃねぇよ!!
とっとと追い駆けて、この森から抜けるぞ!!」
「出直しですね」
「先生、大事な話はもっと早く話せ」
森の中を駆ける美麗……暗い中を、彼女は手当たり次第に駆けていた。
駆けていた時、美麗は足を踏み外して溝へ落ちた。
「痛ったぁ……」
痛めた足を押さえながら、美麗は見上げた。夜のような真っ暗な空が、外に広がっていた。
「あの山のせいで、太陽の光が入ってこないんだ……
(そういえば、この森昔来たなぁ。
いつだったっけ……確か、晃と一緒に……あの妖怪)」
ウトウトとしていた美麗は、重くなった瞼を閉じ横になった。
夕方……完全に陽が山の向こうに隠れてしまい、森は一面暗闇に包まれた。
「すっかり暗くなったな……」
「これ以上、美麗を捜すのは危険だ」
森から出て来た秋羅と幸人は、ランタンを片手にしながら森の方を見た。
「エルと愁は?!」
「もう少ししたら……あ」
地面へ降り立つエルから、愁は降り幸人達の元へ駆け寄った。
『美麗、どこにもいない』
「そうか……」
「あの輩に、捕まってなきゃ良いんだが」
「美麗のことだ、捕まってないだろう」
「とにかく、一旦町に戻ろう。
準備を整え次第」
『俺は残る』
幸人の言葉を遮るようにして、愁は言った。
「危険だ!」
「そうです!
この暗さです!どこから敵が襲ってくるかも分からないんですよ!!」
「愁、今は俺等と」
『それじゃあ、美麗が泣く!
母親が亡くなった後、アイツは夜中必ず……
あれ……
何で、俺……
美麗の親を……』
「愁、大丈夫か?」
『俺……俺……』
フッと意識を無くした愁は、その場に倒れた。
「愁!!」
「愁!しっかりしろ!!」
呼び続ける秋羅と幸人の声が、愁の耳に響いた。その声はやがて、別の者の声になった。
どこか懐かしく、優しい女性の声……
その声はやがて消え、同時に彼は意識を失った。