桜の奇跡 作:海苔弁
すると、中から創一郞が煙草箱を持ちながら出て来た。
「敬の容態は?」
「さっきまで起きてたが、すぐに寝た。
ガキの記憶力って、凄いねぇ……昔のこと、しっかり覚えてやがって」
「任務放棄の件か?」
「放棄したんじゃねぇ。断念したんだ」
「どうだか……」
「……
今から話すのは、全部俺の独り言だ。聞きたきゃ勝手に聞いてろ。
依頼を受けた日、あの暗い森へ行った。ところが、突然別の妖怪に襲われた。後で知ったが、そいつは産女鳥。
産女鳥の対処に追われた俺は、いつものように銃弾を放った。
弾は産女鳥に命中。だが、そのすぐ後だった……茂みから、小さい敬が出て来たのは。
一瞬、そいつの親を探した……だが、周りには誰もいなかった。
それで悟ったんだ……敬は、妖怪に育てられてるって。
俺はすぐに、敬を連れて宿へ戻った。その後、宿に敬を置いて村へ行った。だが、連中の話じゃ危害を加えている妖怪の姿、能力を知る奴が1人もいなかった。
対処のしようが無いと、奴等に伝え任務を断念した。
そんで、宿に残してた敬を連れて帰った」
「随分と、長い独り言だな」
「ほっとけ」
「敬は、最初っからお前に懐いてたのか?」
「懐くわけねぇだろう。
野生児その者だ。半年から1年は手の付けられないクソガキだった」
「あれだな。
弟子達の代は、皆拾われっ子だな」
「?
火影の所の弟子もか?」
「火那瑪もだよ~」
大あくびをしながら、迦楼羅は幸人達の前に現れた。
「ユッキー、俺にもタバコ~」
「ヘイヘイ」
「サンキュー。
火那瑪は、裏の店で働いていた子だったんだよねぇ」
「裏の店?」
「男女交際が頻繁な所。
依頼主の奢りで、その店に来たんだ。そんで、俺の相手が火那瑪だった。
一瞬、女の子かと思ったよ。あんな綺麗な顔立ちの持ち主でしょ?
でも、ちょっと嫌な仕事をやらさえれてたみたいでね」
「まだ、そんなことをしてる店があったとは」
「俺も当時はびっくり。
ほっとくのも嫌だったし、そろそろ弟子を取らなきゃいけない時期だったから、オーナーに話をつけて買っちゃった!」
「女子みたいな買い方するな」
「すげぇよな。弟子全員が、拾われっ子だったなんて」
「それ、さっき俺が言った言葉」
「俺等の代は、貰われっ子だったのにな」
「人生、何があるか分からねぇな」
「だね」
昼過ぎ……
ベットの上で、水輝から傷の手当てをして貰っていた美麗は、飛び回るアゲハを目で追っていた。飛び回るアゲハに、目を動かしていた美麗は後ろへ倒れた。
「ほらミーちゃん、じっとして!
足の傷はすっかり良くなったか……」
「他の傷は?」
「診るから、ちょっと大人しくしてて」
動こうとした美麗を、傍にいた愁は彼女を抱き上げ自身の膝に乗せた。すると美麗の膝に、飛び回っていたアゲハが降り乗った。
「仲良しさんだね。
腕の傷も、良いみたいだ……もう包帯取って平気だよ」
「じゃあ、北西の森行っていい?!」
「それは幸人に、聞いてごらん」
アゲハを頭に乗せ、美麗は幸人の元へ行った。
「幸人!北西の……」
部屋へ飛び込むと、そこには陽介と奏歌がいた。彼女の姿を見た美麗は、警戒し少し怯えながら幸人の元へ駆け寄り、彼に抱き着き後ろへ隠れた。
「寝てると聞いたが、起きているな?月影」
「さっき起きたんだよ」
「まぁ良いが。
そういえば、絶滅したとされている桜の守がいると聞いたけど」
「そいつなら」
タイミング良く戸が開き、外から愁が部屋へやって来た。
「絶妙なタイミング」
『?』
「彼が例の?」
「あぁ」
愁を見つめる奏歌……次の瞬間、愁は彼女に向かって回し蹴りをしてきた。突然の出来事に、幸人も陽介も対処することが出来ずにいると、奏歌は愁の回し蹴りを難なく受け止めた。
「……!」
すぐに状況把握した幸人は、愁の元へ行き彼を抑えた。愁は怒りに満ちた目で、奏歌を睨み付けていた。
「報告書には、大人しいと書いてあったけど?」
「そのはずなのですが……」
陽介の傍にいた美麗は、愁達の元へ駆け寄った。そして、愁の手を引き彼女は部屋を出た。
「……あの桜の守、夜山美麗には懐いているようだな?
まぁ、彼のことは後で良い。引き続き頼んだぞ、月影」
「了解」
「大空准将、帰るぞ」
鏡が入ったケースを手に、奏歌は出て行った。幸人は、深く息を吐きながら頭を掻いた。
「他人に攻撃する事なんざ、無かったのに。愁の奴、どうしたんだ?」
「何かが疼いたんだろう」
「中二病か?」
「黙れ。
引き続き、頼んだぞ」
「ヘーイ」
陽介が部屋を出て行ってからしばらくして、幸人は宿の外へ出た。
外では、擦り寄ってくるリーチュを撫でる美麗と愁がいた。
「あ!幸人!
話し終わったの?」
「終わった終わった。
愁はどうだ?」
「今んとこ平気だよ」
美麗の傍で、アゲハの頭を愁は撫でていた。2人の後ろでは、横になっていた紅蓮が大あくびをした。
「ねぇ!任務終わったから、北西の森行こう!」
「まだ諦めてなかったのかよ」
「約束は約束!
ねぇ行こうよ!ねぇ!」
「分かったから、手を離せ。
葵に連絡してくるから、行くのはそれからだ」
「ワーイ!ヤッター!」
喜びながら、跳ね回る美麗の様子を見て、幸人は軽く溜息を吐いた。
暗い森の跡地へ来た敬と創一郞……
建てられていた墓に、敬は花を供えた。何もない平地には、所々から草花が芽を出し始めていた。
「なぁ、先生。
この辺りも、いつか森になるのかな」
「なるだろうよ。
風乗って飛んでくる種が、この地に根を宿し、いつか森になる」
「そっか……
死んだ奴等も、やっと太陽を拝めるってことか」
「だろうな」
「それにしても、大蛇から俺を助けた奴、誰だったんだ?」
「?
助けた?」
「あぁ。
飲み込まれた意識朦朧とはしてたんだけど……大蛇の声が一瞬聞こえたんだ。
『何故お前がここに!?』って」
「……大蛇はそいつを知っていたのか?」
「かもしれねぇ。その後大蛇の腸を切り裂いて、中にいた俺を引っ張り出してくれたんだ」
「容姿は覚えてるか?」
「いや……暗かったから、全然。
でも、聞き覚えのある声だったな……美麗が暴走した時と同じ声だったような気が」
「それ、本当か?」
「う~ん……
うろ覚えだから、あんまり自信は」
「……」
「え?北西の森?」
幸人からの電話に、葵は思わず言葉を繰り返した。
「あぁ。一応約束しちまってるから、連れて行かねぇとうるせぇんだよ」
「良いお父さんしてるね、幸人」
「引っぱたくぞ」
「オー怖い」
「お前、今暇か?」
「う~ん、どうかなぁ。
今、ちょっと調べものしてるから」
「無理ってことか?」
「そうだね。
あぁ、だったら時雨だけ向かわせようか?彼女、今暇そうにしてるから」
「師匠?!」
「嘘嘘、冗談。
陽介に話は?」
「あとで連絡する」
「そう……じゃあ、気を付けてね」
「あぁ」
電話を切った葵は、深く息を吐いた。そして、机に広げられた資料を眺めた。
(……まだ、伝えるべきじゃ無いよね)
夕方……
宿を後にし、創一郞達と別れた後、幸人達は暗い森の跡地へ来ていた。
「そんで……
何で、テメェ等までついてくるんだ?迦楼羅」
「まぁまぁ、良いじゃん!
仕事、当分無いし」
「師匠、暇暇とうるさくなるんで、連れて行って下さい」
「火那瑪!!」
「お前、本当大変だな」
「そんで、どうやって行くんだ?
こっから北西の町って、相当遠いぞ」
「今、そこまで連れて行ってくれる奴を呼んでるところだ」
「呼んでる?誰を?」
木笛を吹く美麗……木笛の音は遠くまで響いていた。
しばらくすると、どこからか竜の鳴き声が響き空からネロ達が、美麗の元へ降り立った。
「ネロ!」
ネロの頭に美麗は飛び付いた。共に来ていたゴルドとプラダは、飛び付いた美麗の服の裾を掴み引っ張った。
「あ!ゴルド!プラダ!」
「あの2匹の竜、デカくなってねぇか?」
「竜の成長は、早いらしいからな」
「そういや、生まれて半年経つと、人1人を乗せられる大きさに成長して、1年経つと普通の竜の大きさになるって、梨白が言ってたな」
「凄い成長速度ですね」
「普通の竜の大きさって、どのくらいなの?」
「そんなの事良いから、早く乗れ」
「迦楼羅と火那瑪は、ゴルドに乗って」
「え?大丈夫なの?」
「平気だよ。何もしなければ。ねー」
顔を撫でられたゴルドは、甘え声を発しながら美麗の頬を舐めた。
「水輝はプラダに乗って。
幸人達はネロ」
「平気なのか?俺等で」
『攻撃はせん』
「……へ?
今、誰が喋った?」
「ネロだよ」
紅蓮と顔を合わせるネロは、彼等をチラリと見るとすぐに目線を逸らした。
「私達は良いとして、ミーちゃんはどうするの?」
「私は愁と一緒に、エルに乗っていく。
紅蓮はネロの背中。
ねぇ、早く行こう!」
「分かったから、裾から手を離せ」
幸人達は、ネロ達の背に飛び乗った。自身の頭に乗っていたアゲハを、美麗は愁の鞄の中へ入れた。
全員が乗ったのを確認すると、ネロを先頭にエル達は一斉に飛び立った。
北西の森……
水面に映る彼等を、天狐と地狐、空孤は見ていた。
『北西の森、来るみたいだね』
『まぁ、見られても問題は無いが』
『他の者達に、知らせてくる』
『頼んだ。
地狐、ちょっと来い』
『はーい』
森から出た2人は、美麗と晃の家へと行き玄関の戸を開けた。
『久し振りに来るね、ここ』
『窓を開けろ。全て』
『了解』
全ての部屋の窓を開ける地狐と天狐……2階の窓を開けた天狐は、ふと外を眺めた。
広がる一面の森……不意に吹いた風が、天狐の髪を靡かせた。
(……久し振りだ……
この部屋で、この風を浴びたのは)
『あれ?天狐。
どうしたんだい?こんな時間に』
蘇る記憶……窓から入った天狐を、晃は動かしていた手を止め、迎え入れるようにして笑顔を浮かべて向いた。
『別に、私が何時に来ようと勝手だろう?』
『構わないけど。
あぁ、美麗は起こさないでね。さっき寝付いた所なんだから』
晃のベッドで、幼い美麗は猫のぬいぐるみを抱いて眠っていた。
『まだ、お前と寝ていたのか』
『別にいいだろう。僕が一緒に寝たいんだから』
『とか何とか言って、夜泣きされるのが嫌なんだろう?』
『鋭く付くね、天狐は。
でも、一応は成長してるんだよ。
僕か添い寝しなくても、1人で寝られるようになったし』
『それは成長というのか?』
『成長は成長。
小さな成長を見ないと、子供はすぐに大人になっちゃうから』
『父親みたいだな』
『兄のはずだったんだけどね』
その部屋に、あの日の思い出の光景が天狐の目には映った。彼女は、しばらくその部屋にいたが、すぐに別の部屋へと行った。