桜の奇跡 作:海苔弁
「や、やっと着いた……」
「北西の地に着いただけだ。
こっからまだ歩くぞ」
「だったら、近くの町まで送ってくれれば良いのに……」
「それ、無理だよ」
「へ?」
「北西に住む妖怪達は、皆町へ行かないようにしてるんだもん。
一部がそれ破ったら、皆行っちゃって問題になっちゃうよ!」
「何か、ちゃんとしてるんだな……ここの妖怪達」
「こっからは、エル達は別行動!
紅蓮、お願い」
エルの手綱を外すと、美麗は頭に乗っているアゲハを紅蓮の頭へ移した。紅蓮は彼女の頬を一舐めし、エル達を目で誘導しながら、森へ入った。ネロ達は翼を羽ばたかせ、紅蓮の後について行った。
「凄え……
エル達、しっかり紅蓮の言う事聞いているよ」
「北西の森は、主に黒狼達が仕切ってるから。
ねぇ、早く行こう!」
「分かったから、そう急かすな」
夕方……
町へ着いた幸人達は、その町の光景に驚いた。
屋根に留まる、低級霊の妖怪達。賑わう市場にも妖怪達はいたが、決して人間に害を加えるようなことはせず、ただただ野良猫達のように、悠々としていた。
「ど、どうなってんだ?一体」
「妖怪と共同生活してる」
「この町、大丈夫なのか?」
「平気だよ!
北西地域は、全部天狐と地狐と空孤、あとリル達がいるから安全なんだ!」
「さすが、妖狐」
「ねぇ、早く行こう!」
「待て待て。
先にここの役所に行って、北西の森の通行許可証を貰わなきゃいけねぇんだ」
「面倒だな、それ」
「北西の森一帯は、陽介が管理しているような者だ。
奴の許可書を提示の上で、役所からの許可書を発行して、それで入れるんだ」
「前回、そんな事しなくてもすぐに入れたじゃん」
「あれは、持ち主である本人がいたからだ」
役所へ来た幸人達は、窓口で必要の書類を受け取っていた。
「あれ?
幸人先輩に迦楼羅先輩!」
聞き覚えのある声の方を振り向くと、そこには翠と邦立がいた。
「オー、チビ子!」
「変なあだ名つけないで下さい!!」
「何でお前等がここに?
担当区域じゃねぇだろう?」
「旅が終わって今は仕事無いんで、少し旅行を。
北西の地域には、前々から来てみたかったし!
先輩方は、何で?」
「美麗の故郷がここで、彼女が行きたがってたから、今回な」
「へー……!
先輩、でしたら私達も!」
「……まぁ、仕事じゃねぇし……
構わねぇよ」
「ヤッター!さっすが、幸人先輩!」
「ちょっとユッキー、俺と扱い何か違くない?」
「良いから、行くぞ。
美麗がうるさくなる」
「幸人!」
外へ出ると、美麗は低級霊の妖怪達と戯れていた。傍にいた愁は、幸人達に気付くと戯れる妖怪の群れから美麗を抱き上げ、彼等の元へ歩み寄った。
「相変わらず、妖怪に懐かれるな」
「もう行ける?」
「あぁ、行ける行ける」
「ワーイ!
あれ?翠と邦立だ!」
「よっ!美麗!
久し振り!」
「どうしたの?こんな所で?」
「小旅行だとさ」
「フーン……
ねぇ、早く行こう!」
「さっきからそればっかりだな、お前」
「……じゃあ、先行ってる!」
愁から降りた美麗は、低級霊を連れて一目散に町の中を駆けていった。
「待て!美麗!!」
「余計なことを言うな!迦楼羅!!」
「え?!俺なの?!」
「ミーちゃん、待って!」
町を駆け抜ける美麗……その時、擦れ違った女性が不思議そうに彼女の背中を見つめていた。
(……あの子)
「美麗!待ってぇ!!」
「早いよー!」
「テメェ、何とかしろ!」
「俺に振るなぁ!」
町を出た美麗は、森の中にある川辺で休んでいた。しばらくして、息を切らした幸人達が到着した。
「あ!幸人!
遅…」
言い掛けた瞬間、美麗は幸人から強烈な拳骨を食らった。それを遠くから見ていた迦楼羅は、殴られたのかタンコブを撫でながら、眺めていた。
「美麗、可哀想に」
「アンタが余計なこと言ったからでしょうが」
「俺、何言ったんだ?」
「あのね……
ミーちゃんは、自由行動を制限されてるの。
どこ行くにも、幸人に聞いてから行動するか、彼か秋羅君、愁君と一緒に行動するかのどっちかなの」
「だから、彼女ずっと急かしていたのですね」
「あぁ。
前までは単独行動させてたけど、やっぱり彼女を狙う輩が多くなったし……1人でいる最中に、もしもの時があったら、陽介さんに殺されるって幸人が……」
「陽介先輩らしい」
「それを、アンタが『そればっかりだな』何て言ったから、ミーちゃんは『じゃあ、言わなくても良いんだ!』って、思い込んじゃって行動に移したの!!分かった!?」
「は、はい」
その時、茂みから獣が姿を現した。右目に傷痕を付け額に三日月の痣を作った大熊が、幸人達を睨み警戒しながら、川の水を飲んだ。
「ど、どうしよう……」
「動けねぇ……」
「何か、今にも攻撃しそうな……」
水を飲み終えた大熊は、幸人達の方を見てきた。緊迫する空気が漂う中、風にに揺らぐ草木と流れる水の音が響いていた。
すると、幸人の傍にいた美麗は、そっと大熊の元へ歩み寄った。大熊は、鳴き声を発しながら彼女の方に体を向け、鼻で突っ突いた。
慣れた手付きで、美麗は大熊の頬を撫でた。大熊は甘え声を発し彼女の頬を舐めると、川を渡り茂みの中へ帰って行った。
「三日月は、この辺りの森の警備してるんだ」
「警備?」
「間違って入っちゃった人や、遊んで入っちゃった子供を、町の近くまで案内するんだ。人が北西の森に入ってこないように」
「へー」
「じゃあ、先に」
「行こうとするな」
「ウー」
「この先にある、廃墟の村で一泊する。
役所の奴の話だと、村にはまだ使える廃屋がいくつかあるから、野宿するならそこでとのことだ」
「そこで泊まって、大丈夫なのか?
妖怪に襲われたりしないか?」
「そん時は、そん時だ」
「オイ!」
「平気だよ!
寄っては来るけど、攻撃はしないよ!」
「……確かに。
ミーちゃんが帰ってきてるって、紅蓮達が伝えているなら私達に攻撃はしないとは思うけど」
「でも、万が一って事も」
「チビの割に、臆病だな?お前」
「先輩!!
怖いものは怖いんです!祓い屋になろうと何になろうと!」
「無駄話は、歩きながらしろ。
美麗抑えるこっちの身にもなってみろ!」
美麗は抜け出そうと、握られている腕を引っ張り幸人の手を外そうとしていた。
すると、傍にいた愁は彼女を抱き上げ持ち幸人達をチラッと見ると、そのまま森の中へ歩いて行った。
「……って、待て!!」
「えー?!行くんですか!?」
「文句言わずに、歩く歩く!」
「ウー」
「先生、行きますよ!」
「もー!
邦立!今夜、隣で寝かせて!」
「半分、お断りしたいです」
「邦立!!」
陽が沈み辺りが暗くなった頃、幸人達は廃墟になった村に辿り着いていた。
「ふぇー、どの家もボロボロだな」
「野宿するには丁度良さそうだな」
「ウー、何か怖い」
「先生、引っ付かないで下さい」
「俺と迦楼羅、美麗で薪取ってくる。
その間、ここを頼む」
「ヘーイ」
「え?美麗、連れて行くの!?」
「妖怪に出会したら、俺等が死ぬ」
「この森で、銃でも使えば怒りを食らう」
「無駄な戦いは避けたいからね!」
「何かあったら、すぐに逃げろ。いいな」
「分かった」
月明かりが照らす夜道を、美麗は幸人達を気にしながら慣れた足取りで、歩いていた、
「美麗!あんまり遠くに行くな!」
「ハーイ!」
「本当に分かってんのか?アイツ」
「良い父親してるね~、ユッキー」
「そのニヤニヤしている口を、引き千切るぞ」
「そう怖いこと言うなって!
いいじゃねぇか!成長が見られて!
考えても見ろ、弟子達はもう二十歳過ぎだぜ?成人してるんだぞ」
「1人を除けばな」
「そう考えると、また子供を育ててる幸人が羨ましいよ、俺は」
「そういうもんかね」
「そういうもんだ。
お前さ、弟子に言ったの?あれ」
「言う訳ねぇだろう。
時が来たら、言うつもりだ」
「遅れないようにね?」
「ヘイヘイ」