桜の奇跡 作:海苔弁
物音で起きた翠は、あくびをしながら廃屋から外へ出た。
「あれ?先輩方、何やってるんです?」
焚き火の前には、水輝が淹れたコーヒーを飲む迦楼羅と幸人が座っていた。
「お!チビが起きた」
「先輩、いい加減怒りますよ?」
「悪い悪い」
「翠も飲む?コーヒー」
「頂きます!
久し振りですね!こうやって、水入らずでほのぼのするの」
「そうだな。
弟子が出来たから、何かと集まれなかったからな!」
「変人双子は普通に、俺の所に遊びに来てたけどな」
「まぁね!あそこ、居心地よかったから!」
「弟子取って10数年か……
早いものだね~弟子達はもう大きくなって、だらしない俺等の尻を蹴るようになったんだから」
「主に幸人と迦楼羅ね」
「俺はそんな蹴られちゃいねぇよ」
「どうだか」
水輝から受け取ったカップを手に、翠はふと空を見上げた。空には、満天の星空と月が輝いていた。
「凄ぉ……
こんな光景、見たこと無い」
「町も村も、近くに無いからな」
「人が作った灯りがない分、空の星が凄く綺麗に見えるんだ」
「へー……
美麗も、昔はこうやって晃って人と見てたのかな?」
「かもな」
廃屋に目線を移す幸人……中では、愁の腕を枕に頭を置き眠る美麗は、気持ち良さそうに丸まって眠っていた。
「こうやって見ると、普通の子供と変わらないですね」
「中身は、100歳超えた女の人間なんだけどな」
「確かに」
「何か、不思議ですよね。
今こうやって野宿してると、普通に妖怪が私達を襲いに来てもおかしくないのに……
この森は、なぜか何も襲ってこない」
「それだけ、この森が安定してるって証拠だよ」
「この森というより、この北西地域が安定してるんだ。
……祓い屋がいないのに、被害数は0だ」
「あれ?北西の担当祓い屋って、誰でしたっけ?」
「……愛だよ。
北西地域担当は、冥影……」
「……」
「亡くなってからは、討伐隊が担当している」
「……
先輩、今でも愛が好きですか?」
「知らねぇよ、そんな事。
先に休む」
「あ~、幸人先輩!誤魔化さないで下さいよ~!」
「早く寝ないと、背が伸びねぇぞ」
「もう手遅れです!」
早朝……
林に囲まれた道を幸人達は歩いていた。その林を抜けると、そこは廃墟となった街だった。
「見るからに、随分と発展していた町だったみたいだね」
「この町抜ければ、もう北西の森だよ!」
「そうか」
「ねぇ、美麗と晃の家はどこにあるの?」
「この先」
「え?
この先って、北西の森でしょ?」
「森の中にあるの」
「……」
「……あ!
幸人!こっち!」
茂みを指差しながら、美麗は中へ入った。幸人達は、慌てて彼女の後に続いて、茂みの中へ入った。
茂みを抜けた先は、木々に囲まれた広場だった。するとそこへ、鳴き声を発したエルとネロ達が舞い降り、美麗の元へ寄ってきた。
甘えてくるエルの喉を美麗は撫で、頭に乗ってきたアゲハの体に手を置いた。エル達の鳴き声に呼ばれたのか、茂みから次々と獣妖怪達が姿を現し、美麗の元へ駆け寄り、飛び付いていった。
「凄ぉ……多種多様の妖怪だらけ」
『全て、この森に住む妖怪達だ』
声の方へ振り返ると、そこには紅蓮と共に来た天狐と地狐が立っていた。
「天狐、地狐」
『久し振り、秋羅、幸人』
「その顔……全部、お見通しってか?」
『もちろん。
彼女の我が儘を聞いてくれて、どうもありがとう』
「あ!天狐!地狐!」
頬を舐めてくる虎を退かした美麗は、地狐達の元へ駆け寄り飛び付いた。
『元気だったかい?』
「うん!
ねぇ、リルは?」
『いつもの所だ。
紅蓮にでも、連れて行って貰え』
「そうする!
紅蓮!行こう!」
紅蓮の元へ駆け寄り、彼に飛び乗った美麗は奥へと入って行った。彼女の後を追い駆けようと、愁はエルの背中に飛び乗った。
「愁!美麗のこと、頼んだぞ!」
『何かあれば、彼等が守ってくれるよ』
『それよりどうだ?
2人が過ごした、家でも見るか?』
「え?
お家、あるの?」
『あるよ。
いつか、帰ってくる彼等のために』
「……」
『どうする?』
「見学させて貰う」
「お前、即答だな」
川を渡り、紅蓮は近くにある洞穴に着いた。そこに着くと、美麗は彼から降りた。
「……リル?」
『……美麗か』
「リル!」
洞穴の置くで、横になっているリルの元へ、美麗は駆け寄り抱き着いた。抱き着いてきた彼女を、リルは鼻先で撫でた。
『元気そうだな』
「うん、元気だよ!
リルは大丈夫?元気ないの?」
『何、少し体調を崩しただけだ。時期に治る』
「よかった!
あ!ちょっと待ってて!
愁!愁!」
彼の名を呼びながら、美麗は降り立つエルの元へ駆け寄った。
『……あれか?
桜の守は』
『あぁ』
美麗に手を引かれ、歩み寄ってくる愁の姿が、リルの目には一瞬晃の姿と重なって見えた。
(……晃?)
「愁、リルだよ!」
『リ…ル?』
『生き残っていてよかった、桜の守よ』
『桜……守?』
「愁、まだ分かってないよ?」
『そうか……
愁、少し森を歩いてきたらどうだ?
ここは、お前達の先祖の故郷だ』
『故郷?
ここが……』
『美麗、久し振りの帰還だ。
母の墓参りに行かなくて良いのか?』
「あ!行く!
お花、咲いてる?」
『咲いてる。
紅蓮、案内しなさい』
『あぁ』
「愁、一緒に行こ!」
『うん』
愁を連れて、美麗は紅蓮と共に茂みの中へ入って行った。彼女の後を、エルとゴルド達はついて行った。
『お前の子供達も、ついて行ったぞ?良いのか?』
『構わない。
それより、体の具合はどうだ?』
『何……平気さ。
あの子が、総大将になるまでは死にはしない』
森の中を歩き、倒れた大木を跳び越えた美麗は、後からついて来る愁を気にしながら、歩いていた。
しばらくして、森を抜け草原に出た。そこには、色とりどりの花々が、咲き誇っていた。
「ワーイ!咲いてる!
何も変わってなーい!」
花畑へ走った美麗の姿を目にしながら、愁は花畑を見回した。
その時、走馬燈の様にある映像が、愁の頭に流れた。
同じ花畑で、子守歌を歌う女性……膝には、白髪の男が横になっており、彼等の隣で自分は座っていた。
『……!
美麗?』
花畑から突然、美麗を見失った愁は辺りを見回しながら、彼女を探した。
『美麗……美麗……
美麗!!』
「プハァ!」
花に埋もれていたのか、美麗は勢いよく起き上がり姿を現した。彼女を見つけた愁は、すぐに駆け寄った。
頭に付いた花弁を落としながら、美麗は駆け寄ってきた愁を見上げた。彼に続いて、ゴルドとプラダが寄り彼女に甘えるようにして、鼻先で頬を突っついてきた。
「へへ!くすぐったいよ!」
『美麗、花付いてる』
そう言って、愁は美麗の頭に付いていた黄色い花を手に取った。
「ありがとう!
ねぇ、花摘もう!ママ達のお墓にお供えするの!」
『達?』
「昔ね、晃が言ってたの。
愁と同じ、桜の守が眠ってる土地だから一緒にお参りしようって」
『俺と一緒……』
「お墓行けば、何か思い出すかも知れないね!
摘もう!愁」
『摘もう!〇』
一瞬、別の女性と美麗が重なって見えた。愁は頭を抑えながら、その場に座り込んだ。
「愁?どうしたの?
大丈夫?」
『……平気。
美麗』
呼びながら、愁は美麗を抱き寄せ抱き締めた。不意に流れ落ちてくる涙が、美麗の頬に辺り彼女は顔を上げ彼を見た。
「愁、泣いてるの?」
『分からない……
ただ…凄い、ここが痛い』
胸を手で触れながら、愁は美麗の頬を撫でた。流れる涙を、美麗は愁の頬に手を触れさせながら拭いだ。
「消えないよ。
私は、愁の前から」
『……』
「だから、泣かなくて良いよ」
『……うん』
すると彼を慰めるようにして、アゲハは愁の顔を触角で撫でた。アゲハに続いて、美麗の傍にいたゴルドが愁の膝に頭を乗せ甘える様にして頭を擦り寄せ、エルも彼の頬を嘴で撫でた。
愁は寄ってきた3匹の頭を、交互に撫でた。微笑を浮かべた彼に、美麗は笑顔を向け笑った。釣られて、愁も笑顔を浮かべた。