桜の奇跡 作:海苔弁
僕等が帰ってくるまで、家を頼むよ。
必ず、帰ってくる。約束するよ。
結局、お前は帰ってこなかった……
まだ幼い、美麗を残して……
見えるか?彼女、お前が死んでから何日も泣き喚いたんだぞ。こんなに目が腫れるまで……
お前が生まれ変わり別の姿で帰ってくるのを、私は待とう。美麗と地狐、空孤、そしてあの妖怪達と。
お前が好きだった、あの桜の下で……
美麗と愁が花畑にいる頃、幸人達は森を抜けとある高原に着いた。
そしてそこには、2階建ての大きな家がありその家を囲うようにして、柵が立てられていた。裏口の戸を開け、彼等は地狐に案内されて、中へと入った。正面にした家の傍には、林檎の木がありその傍にはいくつもの鉢植えが置かれていた。
「凄え……」
「デケぇ家だな」
『ここが、美麗と晃……2人の家だよ』
「ここが?」
「何か、蘭丸さんの家みたいだな」
『蘭丸は多分、この家をモチーフに建てたんだと思うよ。
新兵だった彼は、よく天花に連れられてここへ来ていたから』
「へー……
しっかし、やけに鉢植えが多いね。
オマケに、畑まで」
『晃の家は、自給自足だ。
鉢植え類は、花を育てていたから』
「晃が花を?」
『いや、美優だ。
美優の奴、花々が好きでよく種を拾ってきては色々育てていた』
「美麗の花趣味って、母親譲りだったのか」
『中、見るかい?』
「え?
良いの?俺等が見て」
『構わん』
そう言って、天狐は鍵穴に鍵を入れ戸を開けた。
中は、入ってすぐの部屋には4つの椅子と机が置かれており、その奥には台所があった。
その部屋の左には、2階へ続く階段とすぐ傍に1つドアがあり、右にももう1つのドアがあった。
「随分と、綺麗にされているね」
『一応、定期的に掃除してるからね』
「凄い数の本だなぁ……」
『晃は読書家だったから、暇があるといつも読んでいたよ。
そういえば、彼の真似して美麗もよく本を読んでいたっけ』
「……あの、この棚に置かれている写真って」
火那瑪が指差す棚には、いくつもの写真立てが置かれていた。幸人と秋羅は、不意に写真を手に取った。
幸人の取った写真には、2人の男女と年老いた女性、その隣に無表情の少年が写っていた。
「……これって」
『晃が、まだ麗桜達に会う前に撮った写真だよ』
「晃の後ろにいる人達が、ご両親?」
『そう。
彼の父親は、独自の妖怪研究をして自身の辞典を出していた。母親はその研究の手伝い。
晃は幼少期、面倒を見られない両親に変わって、祖母の静葉さんが彼の面倒を見ていたんだ』
「よく詳しいね」
『ちょっとね……
静葉さんと僕等、知り合いだったから』
「へー」
秋羅が取った写真には、麗桜と美優に挟まれた晃と彼に抱かれた幼い美麗が、写っていた。
「数年で、こんなに変わるんですね……人って」
「うわぁ、本当だ。
先輩の写真と偉い違いだ」
「秋羅、お前も来た頃と今とは偉い違いだぞ」
「幸人!!」
「そうそう。
火那瑪も来た頃は、そりゃあもう」
「それ以上余計なことを言いますと、その口切り落としますよ?」
「オー怖」
「そんな事言うなら、うちの邦立なんて!」
「あんまり余計なこと喋ると、もう一緒に寝ませんよ?」
「キャー!邦立!!」
「お前、まだその癖治ってなかったのか」
「うぅ……だって」
「まぁまぁ良いじゃん!
ねぇ、2階には何があるの?」
『晃達の部屋だよ』
地狐達に案内され、幸人達は2階へ上がった。2階は廊下が左右に続き、いくつものドアが並んでいた。
『こっちだよ』
先を歩いた地狐のは、一番奥にある部屋のドアを開け中を見せた。
中は、正面に窓がありその隣にベッドが置かれており、隣には衣装戸棚が置かれていた。向かいに机と本棚が置かれ、その隣に置かれた棚には、木の玩具が入った箱や動物のぬいぐるみ、そして二つの写真立てが綺麗に置かれていた。
『ここが、美麗の部屋だよ』
「何か、幸人達が用意した部屋と然程変わらないな?」
「ねぇ、この写真に写ってるのって……」
2つの内1つの写真には、赤ん坊の美麗を抱える美優とその隣に晃、彼等の肩に手を掛け抱き寄せる麗桜が写っていた。もう1つの写真には、討伐隊の制服を着た2人の男女と、女と晃の手を繋ぐ美麗が写っていた。
『その写真は、美麗がまだ赤ん坊の時に撮ったものだよ。
もう1つは、天花が蘭丸をここへ連れて来てね。その時に撮った写真だよ』
「この家、写真がいっぱいだね」
「だな」
「えーっと……本棚には、絵本にスケッチブックに小説に……
おいおい、こんな難しい本まで読んでたのか?あいつ」
『美麗は、晃に似て読書家だったから。
難しい本も、難なく読めたんだよ』
「この木の玩具って……」
『それ類は、この下にあった町の人が、美麗のために作ってくれた物だよ。
美麗、幼少期はまだ自分の力をコントロール出来なかったから、町の子供達と遊べなかったんだ。それを可哀想に思った町の人が、玩具類を作ってくれたんだよ。寂しくないようにって』
「へー」
何気なく、秋羅は本棚に並べられていた1冊のスケッチブックを、手に取り広げて見た。
そこには、クレヨンで描かれた花や木、2匹の黒い犬に2人の人が描かれていた。
「……なぁ、地狐。
この2匹の黒い狼って、今は?」
『……もういないよ。
以前に話したよね?紅蓮は、ここへ遊びに来ていた黒狼達の名前の頭文字をとって、名付けたって』
「……まさか、この二匹が」
『そう……
この、頬に傷がある奴が紅羽(クレハ)……そして、もう一匹が蓮実(レンマ)。
この2匹は、2人によく懐いていて……必ず、彼等の元に来てきた。
あの日も、そうだった』
「あの日?」
『何でも無い』
『晃の部屋でも見るか?
貴重だぞ、妖怪博士の部屋は』
「入る!」
「迦楼羅!」
「迦楼羅先輩!」
晃の部屋へ来た幸人達……
美麗の部屋と然程変わりは無いそこには、本でいっぱいの本棚が2つと、整理された机、窓際の壁にベッドが置かれていた。
「凄え本の数……」
『様々な本を読み比べながら、妖怪辞典を作っていたからね。
あの頃は、今みたいに狂暴な妖怪は数えるほどしかいなかったから』
「そういや、北西地域から妖怪被害があったって、あんまり聞いたことねぇな」
『この地域は、僕等はもちろん麗桜の娘である美麗がいるから、彼等は暴れたりはしないんだ。
大将がいるのに、暴れる人なんていないだろう?』
「まぁ、確かに」
『……?
どうやら、帰ってきたみたいだね』
ガタガタと窓硝子が鳴った。気になった秋羅達は、表へ出た。
皆が庭先へ向かう中、幸人はリビングに置かれていた写真を思い出しながら、美麗の部屋に行きそこに飾られた写真をもう一度見た。
(……おかしい。
赤ん坊の頃と幼少の美麗は、瞳が青なのに……
成長し普通の少女となった美麗の瞳は、赤くなっている……
何でだ?)
写真を気にしながらも、幸人は遅れて庭先へと向かった。