桜の奇跡 作:海苔弁
エルに乗っていた愁は先に降りると、あとから降りる美麗に手を貸し、彼女を降ろした。
「……!
あ!秋羅!幸人!」
歩み寄ってくる2人の元へ、美麗は駆け寄った。
「リルの奴、元気だったか?」
「うん!
でも、何か体調崩したみたいで横になってた」
『歳が歳だからね。
体調を崩すことが、しばしあるんだよ』
「?
美麗、その花どうしたんだ?」
「さっき、愁達と花摘んでたの!
こっちに、ママと桜の守達のお墓があるから、そこにお供えしようと思って!」
美麗が指差す方の森には、獣道がありそれは奥へと続いていた。
「幸人達も来る?」
「……折角だから、行かせて貰うか」
「だな」
獣道を、あとから来る幸人達を気にしながら、美麗は先を歩いていた。
しばらくして、彼等は小さな広場へ着いた。そこには、桜の大木が生えており、その下には墓石が3つ置かれていた。
「凄え……こんな立派な桜の木、初めて見たわ」
墓石の前に、美麗は摘んできた花を供え、手を合わせ目を瞑った。彼女に合わせて、幸人達も手を合わせた。
晃達の家へ幸人達は戻った。久し振りに帰ってきた家に、美麗は嬉しそうに家の中を見回っていた。
「美麗、スッゴい嬉しそう!」
「3年振りだからな、ここに来るのは」
「……なぁ、今思ったんだけど、その部屋何なんだ?」
迦楼羅が指差す方には、戸が1つあった。
『そこは、晃と彼のお父さんの仕事部屋だよ。
物が多いから、入るのはお勧めしないな』
「仕事部屋……」
その時、階段から駆け下りてきた美麗は、天狐の元へ駆け彼女に飛び付いた。
「……
天狐」
『?』
「晃の仕事部屋、行って良い?」
『別に構わないが……
大丈夫か?』
「うん、平気」
美麗は天狐から離れると、仕事部屋の戸を開けた。
中は、窓際に勉強机と真ん中にテーブル、部屋の壁一面には天井まである本棚が置かれていた。
「……凄過ぎて、言葉が出ねぇ」
「これ全部、妖怪に関する本ばかりだ」
「晃、このテーブルに本棚にある本を広げたり、討伐隊本部から取り寄せた資料を広げて、いつも何か調べてた」
「そっか……
その間、ミーちゃんは何してたの?」
「庭で黒狼達と遊んだり、本読んだり、お絵かきしたりしてた……
晃」
今にも泣きそうな美麗を、傍にいた水輝は抱き寄せ慰めるようにして肩を擦った。
部屋を見回していた愁は、ふと机の引き出しが気になり中を開けた。
中を開けると、置くからビー玉サイズの玉が転がってきた。愁はそれを手に取った。
すると、玉が突然光り出した。驚いた彼は、思わず玉を落とし光に気付きこちらを向いた秋羅達の所へ駆け寄った。
「な、何だ!?」
「愁、お前何やった?!」
光っていた玉はやがて、ある人を写した。その者を見た美麗は、水輝から離れ駆け寄った。その者に触ろうと手を伸ばすが、透けているのか触れられなかった。
『ごめんね、これは幻影だから君に触れることは出来ない』
「……晃」
『晃、お前』
『僕の魂の一部を、この玉に封じていたんだ。
同じ桜の守の妖気で、目覚めるようにして』
「それを触った愁は」
『彼は、雅さんの生まれ変わりだよ』
「雅?」
「誰?」
『僕も詳しくは知らない。
話では、麗桜さんの祖父・藤閒さんに仕えていた桜の守だとしか』
『雅の……
どうりで、似ているわけだ』
「晃、パパが生きてた」
『そうみたいだね。
美麗、エル達を散歩させてきてくれないかな?』
「え?何で?」
『多分、そろそろ…』
言い掛けた晃の言葉を遮るようにして、エルとゴルド達が鳴き声を上げた。
(毎度ながら、何ちゅー気遣いの良い妖怪)
『ほら、一緒に散歩しようって』
「うん、行って来る!」
晃から離れ、美麗は表へ出ると待っていたエルに乗り彼等と共に空へ飛んで行った。
「アイツ1人で、大丈夫か?」
『平気だよ。
彼等は、美麗の遊び相手であり用心棒だから。何かあれば、彼等が彼女を守ってくれるよ。
さてと、少しお話しても良いかな?』
「アンタは、どこまで知ってるんだ?今の状況を」
『紅蓮から見ていたから、大体は目についているよ。
何を知りたい?辞典に載せていないことなら、多少話せるよ?』
「じゃあ、まず……桜の守について。
元々は、どういう妖怪だった?」
『春を呼ぶ妖怪……
僕等は、春の訪れを桜の木に知らせるんだ。桜は蕾を開花させて、花を咲かせる……そうすると、自然と人が集まって、春の宴をしていた。僕等はそれを見て楽しむ……そんな感じの妖怪だよ』
「いつから、ぬらりひょんに仕えていたんだ?」
『ある日、狂暴な妖怪に襲われた時、僕等だけじゃ対処できなかった……
そんな時、麗桜さんの祖父が僕等を助けてくれた。
それからは、ずっと彼に……
と言っても、話は全部祖母から聞いたんだけどね』
「え?晃のお祖母さん、桜の守なの?」
『そうですよ。
君等の記録だと、多分桜の守は僕の血で途絶えているよ。あの当時、桜の守で生き残っているのは、もう僕1人だけだったと、聞かされていたから』
「……
討伐隊本部にあった、桜の守のDNAは」
『僕のものだよ』
「……」
「アンタは、ずっとぬらりひょんと一緒に居たの?」
『いや……
僕の父親が人でね、僕を含む一部の桜の守は故郷である、この北西の森に身を置いたんだよ。
一部と言っても、僕の両親と祖母の3人だけ。
麗桜さんのことは、全て祖母から聞いたんだ』
「……晃さんの、祖母の名前って分かる?」
『……静葉。
夜山静葉。祖母の名前だよ。
ちなみに、美麗の祖母の名前は麗奈。
他に聞きたいことは?』
「闇の力って何?
妖怪辞典には、その力に関して載っていないけど」
『載せるわけ無いよ。
あの力は、人が知ってはいけないものだから。知れば最期、死ぬだけ』
「けど、お前等一族はその…闇の力を封じることができる一族だって、お前の辞典に」
『封じる……確かに、できるにはできる。
けど、それは……君等の力を借りて、ようやく封じることができること』
「君等?」
「誰のことです?」
『普通に分かってるよね?
僕が何を言っているか。君等のお師匠さんは、ちゃんと伝えているはずだよ』
怪しげに光る紅い目に、幸人達は目線を反らした。その様子に、晃は鼻で笑いながら書棚に入れられていた本に触れようと、手を伸ばした。だが、本には触れられず、手はスッとすり抜けてしまった。
『……やっぱり、幻影だと現世のものには触れられないみたいだね。
祖母が言った通り』
「その幻影は、何の為に?」
『死んだ際、もう一度美麗に会うためだよ。
でも、もうこの手じゃ彼女を抱きしめる事も、撫でる事もできないみたいだね』
「……」
『天狐、美麗は何歳になった?』
『117歳だ』
『……もう、そんなになったのか。
時が経つのも、早いもんだね』
「最期に会ったのは、いつなの?」
『彼女が14歳の時さ。
討伐隊に撃たれて、彼女に最期の言葉を言ってそれっきり。
泣いていたな……
目に沢山の涙を溜めて……拭おうとするんだけど、腕に力が入らなくなってね』
「……」
ガタガタと鳴り響く、硝子窓が風に叩かれる音……晃は、ふと外を見た。外には空から地へ舞い降りる、エル達が見えた。
『どうやら、帰ってきたみたいだね。
愁といったね』
『?』
『君は、美麗が大事?』
『大事?』
『言い方を変えよう。
いる時といない時、どっちが落ち着く?』
『いる時』
『じゃあ、大事だね』
『?』
『君に、彼女を任せるよ。
傍を離れないでね、愁』
『……俺で、平気…なのか?』
『君は桜の守。
ぬらりひょんの傍にいるのが、一番幸せなことだよ』
『幸せ?』
『その内分かるよ』
「晃ー!散歩終わったー!」
部屋へ飛び込んで来た美麗……幸人達が振り返ったと同時に、晃の幻影はスッと消えてしまった。
「煙のように、消えやがった……」
『晃らしい』
『全くだ』
「晃?
ねぇ、晃は?」
「時間切れで、消えちまった」
「……お話、したかった」
落ち込む美麗……慰めようと、秋羅が傍に行こうとした時、先に愁が彼女の元へ行き、抱き上げ部屋を出ていった。
「美麗のことは、愁に任せておくか」
「だな」