桜の奇跡 作:海苔弁
もう、やりたくない……
『やらなきゃ、晩飯は抜きだ』
食欲ない……
いらないから、もう嫌だ……
「!!」
目を覚ます翠……汗だくとなった彼女は、ふと隣で寝ている水輝を見た。
(……夢か。
?)
向のベッドに寝ているはずの美麗の姿が、どこにも無かった。起きた翠は、その足でベッドから降り部屋を出て、宿の表へ出た。
「……!」
宿から少し離れた所にある公園で、翠は美麗と愁、幸人の姿が見えた。
近付いてくる足音に、幸人は振り返った。
「何だ?翠、こんな夜中に」
「ちょっと、悪夢に魘されてね。
美麗達は?」
「美麗が、夜ぐずって外行こうとしたから、俺と愁であやしついでに散歩」
「美麗、まだぐずるの?」
「あぁ。
頭では、晃は死んだって理解してるが……やっぱり気持ちが、追い付いてないんだろうな」
地面に何かを描きながら、美麗は傍にいる愁と遊んでいた。
「家族が死んで悲しむか……悲しまなかった私は、普通じゃないのかな」
「お前のは、例外だろう」
「ハハハ!例外か!」
「……未だに、独りは無理か?」
「駄目だね。
男性恐怖症が治っても、独りになるのはまだ無理。
この低身長で、もう30過ぎてるのにさ。情けないよね」
「弟子が嫌がってなきゃ、別にいいんじゃねぇの?」
「まぁ、そうなんだけど」
話ながら、翠は空を見上げた。空には満天の星が輝き、丸く大きな月が辺りを照らしていた。
「凄ぉい……こんな星空、初めて見る」
「この辺りの地域、町があそこだけらしい。
だから、夜になれば灯りなんざ無くなるから、綺麗に見えるんだとさ」
「え?誰から聞いたんですか?」
「天狐達」
「あぁ、あの妖狐さん……
あれ?彼等は?」
「自分達の巣に帰った」
「……」
『幸人』
彼の名を呼びながら、愁は眠そうに目を擦る美麗を抱いて歩み寄ってきた。
『美麗、眠くなってる』
「みてぇだな。
翠、お前等の所に愁入れて良いか?」
「別に構わないけど……
ベッド、3つしか無いよ?」
「同じベッドに寝かせる。
愁、美麗達の部屋に行け」
落ちそうになる美麗を持ち直し、愁は翠と共に宿へと帰った。幸人はしばらくの間夜風に当たり、そして宿へと戻った。
翌朝……
フワフワと何かが顔を、撫でていた。翠はそれを手で退かしながら、目を覚ました。
『キー?』
「……うわっ!ビックリした!」
目の前にいたアゲハに、翠は飛び起きた。アゲハは彼女が起きるのを確認すると、今度は向で眠ってる美麗と愁を同じようにして、起こした。
「良い目覚まし時計でしょ?」
「水輝先輩……
まさか、先輩もあの起こされ方を?」
「される前に起きた。
愁、着替えるから部屋戻って」
ムクッと起きた愁は、大あくびをするとベッドから降り、部屋を出ていった。
布団に包まっていた美麗に、アゲハは再び触角で彼女の顔を撫で起こした。
「ほらミーちゃん、起きな。
愁、着替えに行っちゃったよ」
不機嫌そうな表情をして、美麗はムクッと起き上がった。起き上がった彼女の元へ、アゲハは頭を擦り寄せた。
「何か、凄いご機嫌斜めだな」
「昨日のが、響いてるのかも……
ミーちゃん、着替えちゃいな」
「……」
無言で服を着替えると、美麗は部屋を出ていった。
2人が服に着替え、部屋の外へ出てロビーに行くと、先程まで不機嫌だった美麗は、嬉しそうな顔でソファーに座っている愁の膝に座っていた。
「機嫌、治ったみたいですね?」
「起きた時に、愁がいなかったら機嫌悪かったのかな?」
「木影様」
宿の主が、電話の子機を持ちながら2人を呼んだ。邦立と翠は振り返り、カウンターへ行った。
「木影は私達だけど、どうかした?」
「お電話が入っております。美羅様という方から」
「……何の用だろう」
子機を受け取った翠は、耳を当て話し出した。しばらくすると、翠は段々と面倒臭そうな表情を浮かべて、頭を掻きしゃがみ込んだ。
「……ユッキー、あれ」
「可能性大だな。
お前、時間は?」
「ハッキリ言って無理だ。
俺の地域の依頼がある。ユッキーは?」
「連絡無いから、今の所は」
暗い表情で、翠は電話を切った。そして振り返ると、助けを求めるような眼で幸人達の前で土下座した。
「お願いします!!任務、手伝ってください!!」
「やっぱりな」
「俺は無理だよ」
「私も。というより、仕事が入っている」
「幸人先輩は?」
「入ってないが……報酬は高くつくぞ」
「……お願いします」
「水輝、暗輝に連絡できるか?」
「連絡してもいいけど、多分無理だよ。
私も暗輝も、仕事が立て込んでるから」
「マジかよ……」
「そういえば、二人がダメな時って、どうするんです?」
「……」
「……あれ?幸人先輩?」
「とっとと向かうぞ」
先に出た幸人に続いて、美麗は愁と共に表へ出た。彼等に続いて、迦楼羅達も外へ出ていった。
町を後にし、広場へ行くとそこにはネロ達が待っていた。
「あれ?妖怪達のお見送り?」
『まぁな』
『また、美麗を頼むよ』
「あぁ。
秋羅、美麗、愁。今から、このチビ介の依頼受けけるからそのつもりで」
「……だそうです」
「先輩!!」
「え~、帰んないの~」
「このまま、北東に行く」
「北東?」
「北東の奥の方に山があって、その山にある村から最近雪女が頻繁に、村人を襲うようになったからそいつ等を退治してくれって」
「雪女?
珍しいな、この時期に」
「そうだよね」
「ほら、駅に向かうぞ。
あいつに、連絡しなきゃいけねぇんだから」
「あいつって?」
「美麗は知らない方がいい」
「……北東に行く前に、蘭丸の所に行きたい!」
「また今度な」
「ブー」
『雪女か……
少し、気を付けた方がいい』
「?どういうことだ?」
『空狐に見せられただろう?
美麗の曾祖母』
「……」
『雪女は、仲間意識が強い妖怪だ。
何もないとは思うが……』
「それで、気を付けろ……
まぁ、頭の片隅に置いとく」
『くれぐれも、美麗を頼んだぞ』
「ヘイヘイ。
行くぞ」
「あ!幸人!
美麗、愁!行くぞ!」
ネロ達の頬を撫で、別れを告げると美麗は愁と共に先に行った幸人達の元へ駆けて行った。
彼等の背中が見えなくなるまで、天狐と地狐、空狐は見届けた。そして、ネロ達を連れて、彼等は北西の森へと帰っていった。