桜の奇跡 作:海苔弁
美麗は、窓際で愁の膝の上に座り、外を眺めていた。愁は彼女を抱きずっと頭を撫でていた。
「……秋羅、こいつ大丈夫なのか?」
「汽車が苦手でな。
美麗を膝に乗せておけば、何とか平気なんだ」
「……」
「まぁまぁ、いいじゃない!
気長に、向かいましょうよ!邦立!
そういえば先輩、水輝先輩達の代わりは誰が」
「おっ久し振りでーす!先輩!!翠!!」
個室の戸を勢いよく開け、入ってきたのは荷物を持った翔だった。
「……」
「……」
「あれ?何で、皆黙りなの?」
「何で寄りによって、こんなうるせぇ奴なんだよ」
「本当。
翔より、大地先輩の方が有能なのに」
「翠、テメェ!!
俺は俺だぁ!!」
『お前、嫌い』
「愁!!」
「秋羅、愁達連れて家畜車行って来い」
「ヘーイ」
「エル達の所に行く!」
「おぉー、行って来い」
「先輩!!」
「ちょっと、何大声出してるの?
こっちまで、丸聞こえよ」
そう言いながら、横からヒョッコリと現れたのは保奈美と奈々だった。
「保奈美先輩!」
「久し振りね、翠」
「何でテメェがここにいんだよ。
担当地域じゃねぇだろう?」
「翔から連絡があったのよ。翠の所で、仕事が入ったけど人手不足だから助けてくれって」
「人数多い方が、賑やかになるじゃないですか!」
「本当は、北担当の葵先輩を呼ぼうと思ったんですが、別の仕事が入っていたみたいで!」
「それで、暇そうにしている私の所に連絡を?」
「そうそう!保奈美先輩は」
「翔、その口切り落とされたくなければ、少し私語を慎みなさい」
「は……はい」
「ママ、美麗と一緒に家畜車行ってくる!」
「はい、行ってらっしゃい」
「奈々、行こう!」
「うん!」
先に行く2人の後を秋羅はついて行き、保奈美をジッと見ていた愁は、彼女を気にしつつも秋羅達の後を追い駆けた。
「……あの子が、例の?」
「あぁ」
「不思議な子ね。
最近の様子は?」
「至って普通だ。
まぁ、あの霧岬って奴に攻撃したくらいだな」
「所長、何かしたんすか?」
「いや、何も」
「じゃあ、何で……」
「知らねぇよ、んな事」
目的地の駅へ着く汽車……
「……え?」
「どうなってんの?」
「今何月だ?」
「6月よ?確か」
「寒……」
「凍え死ぬ」
線路に積もる雪……
深々と小雪が降っていた……薄着をしていた彼等は、順々にくしゃみをした。
駅近くにあった服屋で、彼等は防寒服を購入した。
服を揃えていた亭主は、色々と幸人達に話をしてくれた。
「驚かれましたでしょ?この時期にこの雪で」
「あぁ」
「妖怪の仕業ですか?」
「え、えぇ。
数日前から、雪山に住んでいる雪女達がこの先にある村に姿を現すようになったんです。
理由は分かりませんが……」
「その村に、何か変わった風習とかはあるか?」
「特には。
あるといえば、雪祭りくらいです」
「雪祭り?」
「詳しくは知りませんが、それがこの辺りの名物となっており、毎年観光客が来ます」
「……そうか」
「幸人!秋羅!早く行こう!」
「すぐ行くから、少し待ってろ!」
「可愛い娘さんですね」
「ま、まぁ。
世話になった」
「よい旅を」
服屋から出た幸人は、外で待っていた保奈美達と共に、村へと向かった。
深く積もった雪の上を、美麗と奈々は面白おかしく歩き回っていた。深くなっていた雪に足を入れた美麗は、そのまま腰までハマってしまった。
「かなり積もってるみたいだな」
「無闇に足突っ込むな」
雪から持ち上げた美麗を、幸人は寄ってきた紅蓮の背中へ乗せた。
「6月なのに、何なんだ?この雪は」
「普通に考えて、妖怪だね。犯人は雪女!」
「勝手に決めるな。
翠、あとどのくらいで着く?」
「この雪道を越えれば、もうすぐのはずです」
「はずって何だよ、はずって」
「この視界だから、周りが分からないの!
文句あるなら、アンタが案内しなさいよ!」
「俺に八つ当たりするな!」
「コラ、喧嘩しない!」
喧嘩をしている時だった……突如、紅蓮が耳を立て辺りを見回し始めた。紅蓮に続いて、美麗と愁、エルも何かに気付いたのか、キョロキョロとした。
「?
美麗、どうかしたか?」
「……何か、いる」
「え?」
『仲間の遠吠えが、微かだが響いてくる』
「遠吠え?
私には、聞こえないけど」
「普通の人じゃ、聞こえないよ。
紅蓮、炎で皆に合図」
空に向かって、紅蓮は火を吹いた。すると、あちらこちらから遠吠えが聞こえ響いてきた。
「村、あっちの方!」
「凄えありがてぇ」
「美麗、全員誘導しろ」
「分かった。
紅蓮」
後ろをチラッと見た紅蓮は、美麗を乗せたまま歩き出した。彼の傍にいたエルは、奈々を乗せ愁に手綱を引かれながら、ついて行きその後を幸人達は歩いた。
ようやく、村へ着いた幸人達は、飲み屋のテラスに入り体に付いた雪を払った。
「小降りでも、やっぱり積もりますね」
「そりゃそうだろう」
「村長の家を聞いてくるから、ちょっと待ってろ」
そう言って、幸人は中へ入った。体の雪を落とした紅蓮は、まだ雪を払う美麗の傍へ寄った。
払い終わると、愁が持っていた鞄が動き、彼は蓋を開けた。中にいたアゲハは、開けられた蓋から触角を出し辺りを見ながら、身を乗り出した。
だが、出た途端冷気に触れたアゲハは、体を震えさせながら、中へ身を潜めた。
「ありゃりゃ、中に入っちゃった」
「寒かったんだよ。虫って、寒さに弱いもん」
「でも、前は平気だったのに。
?」
視線を感じた美麗は、深々と小雪が降る外を見た。その中に、1人の女性が佇んでいた。
(……誰?)
女性はしばらく彼女達を見詰めると、スッと消えた。
アッと思い、そこへ行こうとしたが、すぐに戸が開く音が聞こえ振り向いた。
「村長の家、聞いたが……誰行く?」
「普通に考えて、依頼頼まれた翠達でしょ?」
「どなたでもいいんで、先輩のどっちか来ていただけませんか?」
「あら、どうして?」
「そ、それは……」
「この背なんで、行く処行く処……俺と先生の立場が逆転するんです」
「あ、納得」
「納得しないで下さい!!」
「保奈美行って来い。
俺はこいつ見張っとかなきゃいけねぇし」
今にも何かをしようとする、翔の首根っこを掴みながら幸人は言った。
「……普通に考えて、美麗が機嫌損ねたら大変ですもんね」
「そうね。
分かったわ。奈々は置いていくけど、いいかしら?」
「構わん」
「奈々!少し出るから、留守番お願いね」
「はーい!」
「俺等、店で待機してるから」
「分かったわ」
「じゃあ、あとお願いします!」
フードを被り、翠達は村長宅へ向かった。その後、愁と美麗で店の傍にある、ヤク小屋へエルと紅蓮を入れ、そのまま店の中へ入った。
懐かしい、妖気……
でも、違う……
何で?
何で、あの人が殺されなければいけなかったの?
何で?
妖気は同じなのに、容姿が違うの?
彼女は、あの人の元へ行った。そして、殺された。
憎い……
人が……
『ここの人達を、守ってやりな。それが、あの人の願いだからね』
深々と小雪が降る外を、ココアを飲んでいた美麗は、カップを手に持ったまま見ていた。
「なかなか止まないね、雪風」
「吹雪にならなきゃ良いが」
「6月なのに?!」
「山の中に入らない限り、吹雪はそうそう起こらないよ」
そう言いながら、店のマスターは秋羅達にコーヒーを出しながら言った。
「え?何でですか?」
「この辺りに出る雪女達は、この雪山を作った妖怪なんだ。まぁ、簡単に言うと雪山の母親だ」
「雪山のママ……」
「雪女達は、何で攻撃を?」
「うーん……それは分からないな、俺等にも。
今まで、攻撃したことはなかったから」
話をしている最中に、愁の鞄の中にいたアゲハが、ヒョッコリと顔を出し触角を動かしながら、身を乗り出してきた。
「……あ!アゲハ!
鞄から出る?」
身を乗り出したアゲハを、美麗は抱き上げ膝に乗せた。
「おや?珍しい生き物だね。虫かな?」
「え、えぇ…まぁ」
「お店の中、暖かいから出て来たんだね!」
「随分、大きな虫だね」
触角を動かし、アゲハはキョロキョロとすると、美麗の体を伝い頭に乗った。
「お、定位置に着いた」
「やっぱ、そこが落ち着くみたいだな」