桜の奇跡   作:海苔弁

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村長宅から戻った翠達は、店で待っていた幸人達に村長から聞いたことを話した。


「話の内容からして、すぐにやった方がいいな」

「そうですね。

けど、今日はもう遅いですし」

「実行は、明日からにしましょう」

「だな。

おい翠、いつまで落ち込んでんだ?」

「どうせ…どうせ、私は」

「駄目だこりゃ。完全に落ち込んでる」

「ねぇ幸人、奈々は?」

「奈々なら、美麗達と一緒にヤクの小屋に行った」

「あらそう」

「そうだ……

幸人先輩、美麗にこの薬飲ませて下さい!寝る前に」


そう言って、翔は粉末剤を1袋出した。


「……自分で飲ませろ」

「いや、俺が差し出すと飲まないから、先輩にお願いしてるんじゃないですか!」

「嫌なこった」

「先輩!!」

「翔、その薬何なの?」

「知らない。

所長が、寝る前に飲ませろって、持たされたから」

「明らかに危険じゃない!」

「絶対、美麗の奴飲まないぞ」

「だから先輩にお願いしてるんです!!」

「自分で何とか飲ませろ。

俺は手伝わねぇからな」

「先輩!!」


氷の柱

村長に用意された部屋で、幸人達は寛いでいた。

 

 

「村に宿がないなんて……」

 

「駅近くの町に、宿が沢山あるからここに建てる必要がないんだってさ」

 

「観光客は何も無い村より、ちゃんと設備が整った町の方が良いんでしょ」

 

 

「ハァ~~~~~……

 

何とか、飲ませた」

 

 

疲れ果てた様子で、翔は部屋へ入り床に敷かれた布団に倒れた。

 

 

「あの薬、飲んだの?」

 

「村に売ってた果物に紛れ込ませて、それを食わせた」

 

「よく食ったな」

 

「秋羅が買ってきて、幸人先輩が剝いた物って言って渡したら普通に食った」

 

「……

 

 

保奈美、そいつの頭抑えとけ」

 

「ハイハイ」

 

「え?な、何を……あ!保奈美先輩!!あ、頭!」

 

 

“バーン”

 

 

「?」

 

 

隣の部屋で、枇杷を食べていた美麗は、後ろを振り向いた。

 

 

「何か、隣から凄い音したよ?」

 

「何やってんだ?幸人達は……」

 

 

 

大きいタンコブを作り、布団の上で伸びる翔……

 

 

「普通に、自業自得ですね」

 

「チッ、手ぇ痛ぇ」

 

「あとで冷やしてあげるわ」

 

「頼む」

 

「撃ち殺されなかっただけでも、良しとしますか!」

 

 

 

 

その夜……

 

 

各々の布団で眠る保奈美達……

 

部屋の奥に敷かれた布団で、寝ていた美麗に覆い被さる1つの影。影は窓をソッと開け中へと入り、彼女を見下ろすとゆっくりと座り込み、頭に手を差し伸べた。

 

 

「……寒っ。

 

窓開いてるの?」

 

 

そう言いながら、奈々は起き上がった。ハッとした影は、差し出した手を引っ込め窓から逃げた。

 

 

「……あれ?

 

何かいた?」

 

「どうかしたの?奈々」

 

「窓が開いてる」

 

「え?

 

あら、本当」

 

 

布団から出た保奈美は、窓を閉めようと手を掛けた。

 

その時、微かに妖気を感じ取った彼女は、窓の外を見た。外は小雪が深々と降り、静まり返っていた。

 

 

「……」

 

「ママ?」

 

「何でも無いわ。寝ましょう」

 

「うん……」

 

 

布団から出ていた美麗の手を、保奈美は中へと入れた。ふと、掛け布団を見ると、小さな雪の結晶が落ちていた。

 

 

(……まさか、美麗を?)

 

「ママ、どうかした?」

 

「何でも無いわ」

 

 

布団へ入った保奈美は、奈々を寝かせ眠りに付いた。

 

窓から影の主は、部屋を見ていた。しばらく美麗を見つめていると、影の主は暗い外へ姿を消した。

 

 

 

翌朝……

 

 

雪山への入り口付近で、山へ入る支度をする幸人達。 秋羅の傍にいた美麗は、眠そうにあくびをし目を擦った。

 

 

「何だ美麗、眠いのか?」

 

「ううん……眠くない」

 

「でも、凄え眠そうな顔してるぞ?」

 

「昨日の夜、美麗ずっと寝てたよ。

 

まぁ、起きたらいなくなってて驚いたけど」

 

「俺等の部屋にいた時には、驚いたぜ」

 

 

心配そうに、エルは彼女に顔を擦り寄せた。擦り寄せてくるエルの顔を、美麗は撫でた。

 

 

「支度できたよー!」

 

「はーい!

 

美麗、立てる?」

 

 

フラフラとしながら美麗は、奈々に支えられながら立ち上がり、傍にいるエルの背中へ乗った。エルの手綱を愁は手に持ち、美麗を心配しながら先に行った、幸人達の後を歩いて行った。

 

 

 

山の中へと入ると、先程まで小降りだった雪が増し、風が吹いてきた。

 

 

「風が出て来ましたね!」

 

「この調子だと、吹雪になるぞ!」

 

「どうする?一旦降りる?」

 

「いえ、これが原因で山に入れなくなってるんです!

 

このまま突っ切りましょう!」

 

 

先頭に立つ翠は、行く先を指差しながら言った。

 

向かおうとした時、エルに乗っていた美麗は滑り落ちるように降りると、雪の上で嘔吐した。

 

 

「美麗!?」

 

『大丈夫?』

 

「き、気持ち悪い……」

 

「幸人!」

 

 

秋羅に呼ばれた幸人は、すぐに彼女達の元へ駆け寄った。

 

 

「風邪引いたか?お前」

 

「額触ってみたけど、熱は無い」

 

「……保奈美!

 

美麗連れて、戻ってくれ!」

 

「あなたはどうするの!?」

 

「任務続行する。

 

翠!ここは保奈美達任せて、俺等は先を急ぐぞ!」

 

「あ、はい!」

 

「保奈美、あと頼む」

 

「分かったわ。

 

美麗、立て」

 

 

伸ばしてきた保奈美の手を、美麗は叩き払った。そしてフラフラと立ち上がると、両手を上げ勢い良く振り下ろした。

 

 

「保奈美!!」

「奈々!!」

 

 

振り下ろす寸前に、傍にいた二人を幸人と秋羅はそこから離れさせた。同時に、エルは愁を自身の背中へ乗せるとそこから離れ、紅蓮もそこを離れた。

 

次の瞬間、美麗の周りに氷の柱が生え彼女を囲った。ゼエゼエと息を切らしながら、美麗は地面に膝を付いた。

 

 

「な、何?!

 

美麗、どうしたの?!」

 

「……!?

 

幸人!美麗の目が!」

 

 

赤から青、青から赤へと変わり写る美麗の目を、秋羅と幸人は目の当たりにした。

 

 

「ヤバい……

 

 

保奈美!!翠達連れて離れろ!

 

秋羅!!」

 

 

槍と銃を構えた2人は、美麗が出す氷に警戒しながらゆっくりと近付いた。

 

近付く2人に、美麗は息を切らしながら後ろへ下がった。威嚇するようにして、氷の柱を出した。

 

 

2人が何も手が出せない時、避難していたエル達が美麗の傍へ行った。エルの姿を見た彼女は、少し落ち着きを取り戻したかのようにして、近寄ったエルの頬を撫でた。

 

エルから降りた愁は、エルを撫でる美麗の元へ駆け寄り、彼女の前に座り頬に触れた。

 

 

『皆味方、大丈夫』

 

「……」

 

 

愁が触れた頬を撫でていくと、変換していた美麗の目が元の赤い目に留まった。深く息を吐きながら、美麗はその場に座り込んだ。

 

 

「……お、治まったのか?」

 

「秋羅、美麗を頼む」

 

「分かった」

 

「翔、話があるからちょっと来い。

 

翠と保奈美、お前等もだ」

 

「危険アンテナがビンビンに立っているのは、気のせいッスか?」

 

 

怯える翔の首根っこを掴み、幸人は保奈美達と共にその場から少し離れた。

 

 

「何がどうなってんだ?」

 

「さぁ……」

 

「美麗、大丈夫?」

 

 

美麗の傍へ奈々は、心配そうに歩み寄った。近寄ってきた彼女に、美麗は傍にいた愁にしがみついた。

 

 

「あれ?何で?」

 

「今はソッとしといてくれ」

 

「え?」

 

「まだ、混乱してるんだ。ソッとしとこう」

 

「うん……」




『こっち』


微かに聞こえた声……美麗は、顔を上げながら辺りを見回し立ち上がった。


「美麗、どうした?」

「……聞こえた」


『こっち』


「ほら、また!」

「え?」

「何か聞こえるか?」

「いや、全然」


すると、突然吹雪が治まり辺りに静けさが戻った。

不穏な空気に、秋羅達の傍を離れていた幸人達は、辺りを見ながら彼等の元へ戻ろうとした時だった。


突然と揺れる地面……揺れに驚いた秋羅達は、地面に尻を着いた。すると、止んでいた小雪が降り始めた。


「雪?

!奈々!!邦立!!」


バタバタと、2人は倒れた。2人の元へ行こうとした秋羅も、強烈な眠気に襲われ地面に倒れた。3人を起こすようにして、美麗と愁は彼等の体を揺さぶった。だが、起きることはなく、次第に2人も眠気に襲われ、そのまま地面に倒れてしまった。


彼等と同じようにして、幸人達も地面に倒れていた。


そこへ2人の女性が、彼等の前に姿を現した。彼女達はジッと彼等を見つめると、吹雪を起こし幸人達と秋羅達と共に姿を消した。
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