桜の奇跡   作:海苔弁

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氷張りの部屋へ幸人達は、案内された。


「わぁ!美麗、外が見えるよ!」


氷の窓に駆け寄った奈々に、愁に抱かれていた美麗は、彼から降り彼女の元へ駆け寄り、一緒に外を見た。


「本当だ!

あれ?雪が止んでる」

「さっきまで、吹雪だったのに」

『今は力を抑えて、吹雪を止ませているんだ』

「流石雪女」

「それで、頼みとはどういうものなんだ?

美麗がいなきゃ、出来ないって言っていたが」

『頼みを言う前に、話をさせてくれ。


何故、妾達が吹雪を起こしているか』


一瞬、場の空気が変わった事に美麗は瞬時に気付いたのか、秋羅の元へ駆け寄り抱き着いた。彼女と共に、奈々も保奈美の隣へ行った。


『元々、妾達が住むこの地には、恐ろしい妖怪がいた。

名は氷象。


人がこの地に村を作り出したことにより、氷象は活発化した』

「どういう経緯で、活発化した?」

『人がこの山に入り、氷雪花を採るようになったからだ』

「氷雪花?」

「何それ?」

「雪山にだけに生える、氷の花。

管理してるのは、雪女達って晃が前に話してくれた!」

「氷が作れる妖怪が、作るんじゃ無いの?」

「自然に生える花なんだよ。

凄い珍しいし、生える本数も限られてる。オマケに咲いている時期も短いんだよね」

「言ってる事、正しいか?」

『正解だ。


氷雪花は、氷象の食糧だったんだ。

とは言え、氷象は全てを食べるわけでは無く、ある程度の本数を残すんだ。そうすれば、子孫を残せる。

妾達雪女は、氷雪花を薬として育てていた。そのおかげで、本数は年々増すようになっていた。


だが、人がこの山へ来るようになった途端、花は激減した。それを知ったのか、氷象は怒り人を喰らうようになった』

「まんま、あの村のせいじゃん」

「けど何で、あの村の人達その氷雪花?

採るようになったんだ?」

『氷雪花は、人にとって万能薬のようだ。

だから、採っては薬にしていたのだろう。詳しいことは知らぬが』

「成る程」

『手に負えなくなった村人達は、妾達に助けを求めに来た。姉はすぐに、氷象を相手に戦った。

だが、強過ぎた……倒すことが、出来なかった。



姉は倒すことを断念して、氷象を氷付け……永久冷凍したのだ』

「それが溶けたって事か?」

『封印が解けたとしか、言い様がない。

千年も経てば、封印は弱くなる……


何度か、妾達で封印を試みたが駄目だった』

「……話は分かった。

要は、太古に封印した妖怪・氷象を再び封印して貰いたいって事だろう?」

『頼みを聞いてくれるか?』

「もっちろん!


封印すれば、吹雪を止ませるんでしょ?」

『まぁな』

「吹雪を起こしていたのは、被害が起きない様にか?」

『そうだ。

姉が、あの人と約束をした。妾はその約束を守っただけだ』

「約束?」

『時が来たら、話す。


案内及び助っ人として、氷雨を連れて行くがいい』

「そうさせて貰います!」


太古の妖怪

城から出た幸人達……山道を歩く秋羅の傍を、美麗は離れようとせず、ずっと彼の服の裾を掴み、隣を歩いていた。

 

 

先を歩いていた翠は、それを見ながら傍を歩いていた幸人に耳打ちをした。

 

 

「何か美麗、凄い大人しくなってません?」

 

「そうか?」

 

「いや、そうですよ!

 

 

雪女達に会うまで、ずっと好き放題に雪で遊んでたじゃないですか。それが、何か……」

 

 

振り返り見る翠の目に映るのは、秋羅の隣を歩いていた美麗が傍へ来た愁の元へ寄り、彼は寄ってきた彼女を持ち上げると、紅蓮の背中へ乗せた。

 

 

「あくまでも推測だが、どっかの馬鹿が飲ました薬の影響で、一時的に出会った頃のアイツに戻ってるだけだと思う」

 

「え?美麗って、出会った頃あんな感じだったんですか?」

 

「1度だけ、1人で留守番させたことがある。

 

ほんの数時間程度だったんだけど……経緯は忘れたが、紅蓮と一緒に俺等を迎えにきて、姿を見てホッとしたのか大泣きさ」

 

「……何か、今の彼女からは余り想像が出来ない」

 

 

山道を抜けた時、エルと紅蓮が歩みを止めた。2匹に続いて、氷雨も足を止め辺りを見回した。

 

 

「?

 

どうかしたんスか?氷雨さん」

 

『……何か、いる』

 

「何かって?」

 

「……!?

 

 

皆、伏せて!!」

 

 

美麗の叫び声と共に、彼女の横を突っ切り何かが秋羅達目掛けて吹っ飛んできた。彼等は慌てて、地面に伏せその攻撃を避けた。

 

 

「な、何?!」

 

「幸人、後ろ!!」

 

 

美麗が指差す方向にいたのは、巨大な体に鋭い牙を持った象の姿をした妖怪が彼らを見下ろし、そして咆哮した。

 

 

「す、凄い響く!」

 

『次の攻撃が来るぞ!!』

 

 

咆哮した氷象は、長い鼻幸人達目掛けて振り回した。避けた美麗は、紅蓮の背中から降りると鼻の上へ登った。

 

 

「美麗!!」

 

「んもー!!視界が悪いから、ボウガンが打てない!」

 

『すぐに吹雪を止ませる!』

 

「頼んだ!」

 

 

氷雨は宙へ飛ぶと、吹雪いている雪を手の中へと吸収していった。

 

鼻を伝い象の頭に登った美麗は、手から氷の礫を作り出し攻撃をしようとしたが、次の瞬間象は彼女を落とそうと、頭を激しく振り暴れた。

 

 

吹雪が止んだと同時に、美麗は雪の上へ落ちた。象は咆哮を上げると、彼女を踏み潰そうと前足を上げた。

 

 

『美麗!!』

 

「晴れた!

 

今だ!先生!!」

 

 

木の葉を纏った矢を、翠は引き金を引き放った。矢は氷象の上げた前足に刺さり、痛みで狙いを外したかのように、美麗が倒れている場所より少し離れた場所に足を勢い良く降ろした。

 

 

雪飛沫が上がる中、紅蓮は美麗を自身の背に乗せると、素早くそこから離れ幸人達の元へ行った。

 

 

「視界潰そうと思ったけど、駄目だった!」

 

「見りゃ分かる!」

 

『美麗!特大級の氷を出せるか?』

 

「特大?

 

 

出せる!」

 

 

そう言うと、紅蓮から降りた美麗はブレスレットを1つ外した。

 

その時、以前にも感じたことのある感覚が、彼女の身体に走った。沸々と湧き上がる妖力……息を乱しながら、美麗は、手を地面に叩き付けた。

 

次の瞬間、特大の氷の槍が地面から生え伸び、氷象に攻撃した。

 

 

「な、何だ!?今の……」

 

「凄い、妖気を感じたけど……」

 

「……?

 

み、美麗?」

 

 

美麗の額にあった、小さな雪の結晶の模様が体全体に広がっていた。覆われた彼女の目は、獲物を捕らえたかのような目付きで、ギラギラと青く光っていた。

 

 

「(ヤバい!!)

 

 

奈々!!離れろ!!」

 

「え?何……キャア!!」

 

 

突然攻撃された奈々は慌てて避けたが、足を雪に取られ彼女は地面に尻を着いた。

 

 

「奈々!!」

 

「秋羅!!すぐに美麗を抑えろ!!

 

 

翠!!そのまま邦立と一緒に、攻撃を続けろ!」

 

「えぇ!?せ、先輩!?」

 

 

奈々に攻撃しようとする美麗を、駆け付けた秋羅は背後から抑えた。彼女は小太刀を振り回しながら暴れ、自身を抑える彼の手を振り払おうとした。

 

 

「大人しくしてろ!!幸人!!」

 

「札貼る!そのまま抑えてろ!!」

 

 

お経が書かれた札を、幸人は美麗の額に貼ろうとした。だが、その瞬間地面から氷の槍が生え、秋羅達を攻撃した。彼等は素早く美麗から離れ距離を置いた。

 

 

「クソ!!」

 

「幸人!どうする!?」

 

「近付けなきゃ、何にも出来ねぇ!」

 

 

息を乱す美麗……その時、どこからかアゲハが鳴き声を発しながら、彼女の前に舞い降りた。

 

アゲハを見た美麗は、落ち着きを取り戻したのか乱れていた息が元に戻り、アゲハに手を差し伸べた。アゲハは伸ばしてきた手の平に、頭を擦り寄せた。

 

 

「……

 

 

愁、エルを美麗の所に」

 

『分かった』

 

「秋羅、ここを頼む」

 

「あぁ」

 

「保奈美!ここは2人に任せる!!」

 

「分かったわ!

 

奈々、行くわよ」

 

「う、うん」

 

 

幸人達が氷象の元へ行ったと同時に、エルは美麗の元へ歩み寄り嘴を寄せた。寄せてきたエルの嘴を、彼女は優しく撫でた。落ち着いたのを見た秋羅は、武器をしまい美麗の元へ歩み寄った。

 

 

『……!

 

 

秋羅!下がって』

 

 

愁に後ろへ引っ張られた秋羅は、地面に尻を着いた。その時、氷象が放った氷の礫が、秋羅が立っていた場所に落ちた。

 

 

氷象は鼻を上げ、大地に響く咆哮を上げた。そして鼻から複数の氷の礫を放ち、幸人達を攻撃した。

 

 

『地面に伏せろ!!』

 

 

氷雨の怒鳴り声に、幸人達は地面に伏せた。同時に彼女は、彼等の前に立ち次々と飛んでくる氷の礫を、地面から出した氷の壁で防いだ。そして、吹雪を起こすと氷象の目を眩ませ、そこから幸人達を連れて離れた。

 

 

視界が戻った氷象は、氷の壁を壊し辺りを見回した。幸人達がいないのを確認すると、吹雪の中姿を消した。




森の中にある洞窟……


そこに、幸人達は避難していた。奥の方で焚き火を囲い、休息していた。


「ひぇー……何とか、助かったぁ」

「邦立、礫が当たった箇所見せて」

「あ、はい……痛!」

「打撲になっているわね。


奈々の腕と同じく」

「誰も俺の心配をしてくれないんスか?」

「する価値無し」

「同じく」

「俺の扱い!!」


大声を出した瞬間、翔の背後から彼の頭を拳で殴る、索敵をしてきた幸人と秋羅がが現れた。


「静かにしろ。美麗の奴、寝てんだぞ」


洞窟の奥で、愁とエルの傍で美麗は丸まって眠っていた。


「寝てるって言っても、ただ丸くなって横になってるだけですけどね」

「誰のせいで暴走してると思ってんだ」

「お、俺のせいにしないで下さい!」

「テメェの盛った薬のせいで、ああなってんだろうが」


騒ぐ2人を背後に、秋羅は愁達の元へ歩み寄った。近付く足音に、美麗は抱え持っていた小太刀の束を握り、彼を攻撃しようと鞘から抜こうとした。


『美麗、秋羅は味方。

大丈夫だよ』


束を握る美麗の手に、愁はソッと手を置き静かに言った。彼女は、束から手を離し愁の手を握った。


「美麗の奴、どうだ?」

『まだ、秋羅達を敵って見てる。


暴走してる、妖力収まれば……』

「元通りになるか……


外した制御装置が、あれば良いんだが」

『今の状態、あまり良くない。


さっきまで小太刀の束、握ってたから。今は大丈夫だけど』

「完璧に敵として、見做されてるな」

「それで、外はどうだったの?」

「一応、氷雨の吹雪で目眩ましにはなってる。

氷象の姿も無い」

「しばらくの間は、ここで待機だね。

怪我と美麗のこともあるし」

「しょ、しょーっスね」


幸人にボコボコにされた翔は、腫れた頬を雪で冷やしながら話に参加してきた。


「あの、翔さん大丈夫ですか?」

「こ、殺しゃれかけ…まひた」

「一番は所長さんだけど、次に悪いのはあなただからね」

「んな、理不尽な」

「自業自得だな!翔!」

「翠!!お前くらい、俺を心配しろ!!同期だろ!」

「嫌なこった!」

「翠!!」


2人の声がうるさいのか、美麗は愁からタオルを取りそれを頭から被り、耳を塞いだ。


『美麗、うるさいって』

「う……」

「こんな所で、喧嘩しないで頂戴」

「は、はい……」
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