桜の奇跡 作:海苔弁
『アゲハ、美麗起こさないでね』
『キー?』
すると、伏せていたエルが頭を上げ外の方を見た。外から紅蓮が戻り、体に付いた雪を振り払い氷雨に一撫でされると、秋羅達の元へ駆け寄った。
「紅蓮、見つかったか?」
『あぁ、何とか』
口を開けると、牙に掛かるようにしてブレスレットはあった。それを銜えたまま、紅蓮は愁の元へ行った。
紅蓮の足音に、美麗は目を開け腕の中にいたアゲハを撫でながら、起き上がり振り向いた。
「……」
口に銜えられているブレスレットを、受け取ろうと美麗は手を伸ばした。その瞬間、ブレスレットが一瞬氷付いた。
「!!」
「な、何で?!」
驚いた美麗は手を引き、地面に付いた。すると、地面の一部が凍り始め、美麗は咄嗟に手を離し戸惑っているかのように、息を乱しキョロキョロと辺りを見た。
「(志那国の時と、同じだ……
という事は)
テメェ等、一旦外に出るぞ」
「え?」
「説明は後でする」
「先輩、説明なら今…グヘ!」
服の襟元を持ち、幸人は翔を引きずって外へ出た。彼等に続いて、秋羅達も外へ出ていき最後になった奈々は、美麗を気にしつつ、保奈美に呼ばれ外へ出た。
誰もいなくなり、美麗は少し落ち着きを取り戻したかのように、愁の傍へ寄った。
『……美麗』
「?」
震えている彼女の手を、愁は自身の頬に触れさせた。頬は氷付いりついて行き、美麗は離れようと手を引くが抜くことが出来なかった。
『皆、味方。
誰も、美麗を傷付けない』
「……」
『だから、安心して』
紅蓮からブレスレットを取った愁は、それを彼女の手に着けた。そして、そのブレスレットを包むようにして、愁は手を添えた。
『この力は、大事なものを守るためのもの。
傷付けるものじゃないから、大丈夫』
淡い光と共に、愁の手から白い花弁が舞った。花弁に包まれた美麗は、意識を無くし愁の胸の中へ倒れた。
(……美麗。
絶対、守る)
『はい、美麗。
あげる』
?なーに?これ。
『御守り。
麗桜さんと美優さんが、君が7歳になったらあげてって言われてね』
パパとママが?
『その御守りが、美麗を守ってくれるよ。
僕と一緒に』
フワフワと何かが顔に当たり、美麗は当たってくるそれを手で退かした。
「アゲハ、駄目だよ!
美麗、まだ寝てるんだから!」
薄らと目を開けると、目にはアゲハが奈々に持ち上げられている光景が映った。
「……アゲハ?」
『キー!』
奈々の手からアゲハは抜け出し、美麗に飛び付いた。飛び付いてきた勢いで、彼女は後ろへ倒れた。
「美麗!
ママ!美麗が起きた!」
奈々の声に、幸人と秋羅は一目散に彼女の元へ駆け付けた。
「あ!幸人!秋羅!」
起き上がった彼女の目は、元の赤い目になっていた。
「お前、気分は?」
「?
頭少し、クラクラする」
「それ以外は?」
「何にも」
自身の手を伝い、頭へと乗るアゲハを美麗は撫でながら、秋羅の質問に答えた。顔を寄せてくる紅蓮とエルを撫でる彼女を、2人は安堵の表情を浮かべて、交互に頭を撫でた。
「ねぇ、あの妖怪はどうなったの?」
「まだ戦闘中だ」
「今は休戦中だけどな。
あれ?愁の奴、寝てるのか?」
エルのお腹に頭を乗せ、愁は眠っていた。美麗の頭に乗っていたアゲハは、愁の元へ飛び移り触角で彼の顔を触った。
「愁、愁!」
『……
?
美…麗?』
目覚めた愁に、美麗は抱き着いた。愁は抱き着いてきた彼女を受け止め、頭を撫でた。
『美麗、体調平気?』
「うん!」
『……よかった』
「愁も起きたことだし、戦闘開始していいんじゃねぇの?」
「あ、あぁ……
愁、行けるか?」
『平気』
「私も!」
「それじゃあ、俺翠さん達に伝えてくる」
「頼んだ」
出口付近にいる翠達の元へ、秋羅は行った。立ち上がった愁と共に、エルも立ち上がり体を振るうと、顔を座っている美麗に寄せた。
「……美麗」
「?」
「寝る前のこと、覚えてるか?」
「寝る前?ううん」
「そうか……」
「でも……
ブレスレット取った途端、何か目の前が真っ暗になって……
頭の中で、何かがグルグルして……
気が付いたら、寝てた」
「……」
「でね!
夢に、晃が出て来たの!」
「晃が?」
「うん!
ずっとね傍にいてくれてた。昔みたいに、晃の膝に頭置いて横になって、晃に頭を撫でて貰って!」
嬉しそうに話す美麗を、幸人は鼻で笑い彼女の頭を一撫ですると、立ち上がった。
「先輩!大変です!」
翠は慌てた様子で、幸人の元へ駆けてきた。美麗はその間に立ち上がり、アゲハを愁の鞄の中へ入れながら、不安げに2人を見た。
「村人が山の中に入ったって、氷雨が」
「は?!」
「それで氷雨、出口を防ぎに森全体に吹雪を起こすって」
「あの村長、何考えてんだ……」
「氷象が襲う前に、私等で食い止めましょう!先輩!」
「言われなくともそうする」
外へと行く幸人達の後を、美麗は身を屈める紅蓮の背中へ乗り、愁は鞄の隙間から出してくるアゲハの触角を撫でながら、エルの手綱を引きついて行った。
出入り口付近に着くと、外は猛吹雪になっていた。
『仲間からの連絡で、村人は4人この森に入ったらしい』
「何で入ったんだ、村人の奴等」
「吹雪が止んだからじゃないの?
さっきまで、太陽出てたし」
「そういう事か」
「……?」
何かの音に、美麗と紅蓮は反応した。その音は、愁とエルにも聞こえていた。
美麗は、目を凝らして猛吹雪の中を見た。その時、吹雪の中を突っ切った何かの破片が、美麗の頬を掠り幸人の頬を通り過ぎた。
「な、何だ!?」
「あそこ!!」
美麗が指差す方向には、吹雪の中氷の礫を飛ばす氷象がいた。
「嘘でしょ……氷雨、何とか吹雪を止ますことは出来ない?!」
『無理だ!
今止ませば、村人がこの地に入ってくる!』
「あ~!!面倒な、村人!!」
「氷雨!
あいつの気、私が引くから吹雪止ませて!」
『え?!』
「何考えてんのよ!そんな事すれば」
「何もしないよりは、マシ!」
そう言って、美麗は紅蓮を走らせ吹雪の中へ出て行き、出たのを見た氷雨は、慌てて吹雪を止ませた。止んだと同時にエルの背中に飛び乗った愁は、彼女達を追い駆けていった。
「愁!!」
「何であの二人、自分勝手なんスか!」
「知るか!!
保奈美と奈々は、氷雨と一緒に村人の救出!」
「分かったわ!」
「他の奴等は、美麗達を追い駆けるぞ!」
「え~」
「文句言う奴は、脳天ぶち抜く」
「はい!今行きます!」
これ以上、人を襲うならアタシが許さないよ。
永眠するがよい……もしこの氷が溶けても、私の子孫が必ず氷漬けにする。
氷象の目に映る、美麗……解けた長い髪が、風に靡きその姿が氷華と重なって、氷象の目に映った。
その姿に、氷象は鼻を上げ咆哮を上げた。咆哮が辺りに響くと、氷象は前足を上げ、美麗を潰そうと思いっ切り踏んだ。彼女はすぐに転がり避け、そして手の平から氷の礫を放った。
「紅蓮!下がって!」
氷で陣を描く美麗の傍へ来た紅蓮は、彼女の後ろへ行き身構えた。
「悲しき火の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ!
炎の精霊よ、我が手に集い来たれ、敵を貫け!」
炎は弓矢の形に変化し、炎の矢を美麗は氷象に向けて放った。矢は氷象の耳に当たり、氷象は悲痛な咆哮を上げると、鼻を振り美麗を攻撃した。鼻に当たった彼女は、吹っ飛ばされ雪に埋もれた。
美麗は顔に付いた雪を振り払い、起き上がろうとした時だった。
「そのまま伏せて!」
翠の声に、美麗はすぐに伏せた。すると頭上を、矢が通り過ぎ矢は、氷象の鼻に突き刺さった。
「やっと刺さった!」
起き上がろうとした美麗の頭に、駆け付けた幸人は拳骨を食らわせた。ジンジン痛む頭を押さえながら、美麗は駆け付けてきた愁に抱き上げられた。
『美麗、保護』
「そのまま抱っこしとけ」
『うん』
「動き止めるまで、大人しくしてろ」
「準備できたら、お前の出番だ!」
「えー、戦いたい!
妖気放ちたい!」
「大人しくしてろ!さっきまで寝てただろうが!」
「ブー」