桜の奇跡 作:海苔弁
すると氷象は突然、氷の礫を放つのを止めた。
「何だ?急に動き止めて」
「エネルギー切れ?」
動きを止める幸人達……ピクリとも動かない氷象は、目を赤くしそして、鼻から赤い吹雪を放った。猛吹雪に、幸人達は顔の前に、腕を持っていき風を防いだ。
「な、何だ!?この吹雪!」
『翠』
「!?」
その声に、翠は怯えだした。そして、恐る恐る後ろを振り向いた。
そこにいたのは、体中から血を流した男だった。
「な、何で……アンタが……」
『テメェ、よくもこの俺に』
「止めて、来ないで!!」
『許さねぇ……絶対に、許さねぇ』
「イヤァァア!!」
耳を手で塞ぎ、目を固く瞑った翠はその場に座り込んだ。
「師匠!!」
「アイツ、まさか……
邦立!翠の傍に行け!!」
「は、はい!」
「クッソ、何がどうなってんだ……」
『どうして』
「?!」
聞き覚えのある声……幸人は顔を上げた。そこにいたのは、血塗れになりぐちゃぐちゃになった体をした、愛が目から赤い涙を流して立っていた。
「あ、愛……何で」
『どうして、私を助けてくれなかったの』
「そ、それは」
『どうして、あなたは生きてるの?』
「……」
『どうして、私は死んだの』
立ち尽くす幸人……自然流れ出てきた涙に、秋羅は驚き彼の肩を掴み揺らした。
「幸人!どうした!?」
「俺は……俺は」
「こんな時に、何言ってんだよ!!」
「わ、悪い愛……俺は……俺は」
「幸人?」
辺りに響き渡る咆哮……氷象は動けなくなっている秋羅達に目掛けて、氷の礫を放った。当たる寸前、彼等の前に氷の壁が作られ礫を防いだ。
『一旦城へ戻る!
来い!』
動けなくなった幸人と翠を、駆け寄ったエルと紅蓮の背に乗せると、秋羅達はその場から立ち去った。
『お前、また変な奴に懐かれたな』
ほっとけ
『何か、妹みたい』
うるせぇ
『愛、幸人離れしてみれば』
『嫌』
『即答かよ』
『まぁ、良いんじゃねぇの?
先生達の話じゃ愛の奴、幸人と同じ部屋にしてから1回も夜泣きしてないって、感心してたし』
『オー、凄い成長』
城へ戻ってきた幸人達……意識を失った幸人と翠は、氷の台に寝かされていた。2人は、悪夢でも見るようにずっと魘されている状態だった。
『氷象の赤い吹雪に当たったようだな?この様子だと』
「赤い吹雪?」
『氷象の技だ』
『一番心に残った深い傷の原因になっている人物が、死んだ当時の姿で現れて……ずっと、責めるんだ』
「……2人は、それに」
『そうだろうな』
「どうすれば、治ります?」
『正直無い。
赤い吹雪の毒が抜ければ、治るとは思うが……
大抵の人間は、耐えきれず自害する』
「……」
猛吹雪となった外を、秋羅達は城の中から眺めていた。この吹雪により山へ入っていた村人達は皆、無事に村へ戻ったと、保奈美達から伝えられた。
氷の台に寝かされた2人を、秋羅達はジッと眺めていた。
「……どうすれば良いんだ……」
「薬か何か、あれば良いんだけど……
治療法が無いとなると何も出来ないわ」
「……」
「ねぇ、美麗が使える技で悪夢から目覚めさせるやつとかないの?」
「思い当たるの無い……」
「……やっぱり、先輩方が起きるの待つしかないッスね」
「いや……
1つだけ、方法がある」
「え?」
「夢祓いって、知ってるか?」
「夢祓い?」
「確か、人の夢の中に入って悪夢を祓う……だったかしら?」
「はい、そうです」
「それをやるって言うのか?」
「はい」
「いやいや待て、邦立君。
その技を使えるのって、春日原っていう一族しかつかえないんスよ!
まぁ、生き残りがいればの話だけどね」
「今はいないの?」
「10年ほど前、妖怪の襲撃に遭って全滅したって話ッス」
「それはそっちの記録ですよね?」
「?」
「邦立さん、どういう意味?」
「……俺、今は木影ですけど……
木影になる前は、春日原だったんです」
「……え?
それって」
「俺、春日原の生き残りなんです。
妖怪の襲撃に遭う前に、俺は師匠の元へ行きました。その数年後です……里が襲われて全滅したのは」
「……ちょっと研究員、あなた達どんな調査をしているの?」
「さ、さぁ……」
「仕事放棄しない!使えない研究員のくせして!!」
「コラ!!大人を馬鹿にするな!!」
「杜撰な調査をした結果が、生き残りまで殺していたってことか」
「うるさい!!」
「出来損ない研究員!」
「んだと!!このクソガキ!!」
「2人はほっといて、早くやっちゃいなさい。邦立」
「あ、はい。
準備するんで、少々時間下さい」
数時間後、氷の台に寝かされた2人を中心に、大きな陣を描いた邦立は一息入れながら立ち上がった。
「準備できました。
皆さん、離れて下さい」
両手を合わせた邦立は、意識を集中させた。すると、陣が光り出した。
「天つ神天の磐門押し開き天つ神八雲をかき分け聞こしめさむ夕霧朝霧書き散らし、天つ神ここに待ちいでなむ。祓い給え清め給え!」
2人の体から透明な球体が浮き出てきた。不思議な球体を見ながら、秋羅は邦立に話し掛けた。
「な、何だ?この玉」
「先生達が今見ている夢だよ。
ほら、さっき一番心に残った深い傷の原因になっている人物が、死んだ当時の姿で現れてその人を責めるって」
「じゃあ、この玉に映ってる映像が……」
「先生達のトラウマです」
「……」
「これって、どうやって祓うわけ?」
「今浮いている球体に入り、その原因となっているやつを祓うんです」
「全員で?」
「いえ、全員じゃなくていいです。
4、5人いればよろしいかと」
「何で人数制限?」
「俺に全員を運ぶ力が少ないからです」
「とりあえず、翔はここに残りなさい。
行くのは、私と秋羅と邦立、それから美麗と愁」
「何で美麗と愁まで?」
「美麗を連れて行けば、何かの助けになるわ。
愁は彼女の見張り台」
「……」
「奈々はここに残って、私達の援護をお願いね」
「はい!」
「これ、術者がいなくて平気なのか?」
「一応、平気ですよ。
陣を勝手に消さなければ」
「……あの獣妖怪3匹が、陣を消しそうで怖いんですけど」
「エル達はアンタみたいに、馬鹿じゃないから平気よ」
「んだと!このクソガキ!!」
「何よ!!杜撰な捜査したヤブ研究員のくせに」
「うるせぇ!!」
「奈々!馬鹿に付き合わなくていいわよ」
「保奈美先輩!!今、馬鹿って言いました?!」
「あの、早く行きませんか?
時間、余りありませんよ?」
モヤモヤとした霧が流れる空間へ、秋羅達はやって来た。辺りをキョロキョロと見回していると、遅れて邦立が現れ出た。
「な、何とか成功した……」
「練習中だったのか?」
「まだまだ、未熟なんで」
「ねぇ、あの玉何?」
宙に浮かぶ二つの玉……その背後に、翠と幸人が目を閉じて立っていた。
「この玉に触れれば、先生達が見ている夢の中へ行けるんだ」
「へー」
「それで、誰から助けに行く?」
「先に翠さんでいいよ。
幸人だったら、多分持つだろうし」
「いいのか?本当に、俺の師匠が先で」
「平気だ。
図太い神経持ってる先生だから、俺の」
「……」
「それじゃあ、先に翠の方へ行くわよ」
「あ、はい」
翠の前に浮かぶ玉に、5人は手を触れた。玉から強烈な光が放たれ、彼等を包み込んだ。
夢祓い
趣は悪い夢を消していい夢を見せることで開運に導く祓い。
しかし本当は、幻術にかかった者を治すために、かかった者の中へ入り、見せられている記憶からその者を助ける、言わば幻術解除の祓い屋。
だが10年前、妖怪の手によりその血を継いだ集落が消され、生存者0とされている。