桜の奇跡   作:海苔弁

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光が弱くなり、秋羅達はゆっくりと目を開けた。


「……何だ、この部屋」

「広ーい!」


暖炉を前に、ローテーブルとシングルソファーとダブルソファーが置かれた部屋……
様々な置物が飾られた棚に、花が飾られた花瓶、更には高そうな壺や甲冑、置物が置かれていた。

走り出そうとした美麗を、傍にいた愁は抱き上げ阻止した。


「何か、マリウスさんの家で似たような部屋がありましたけど……

翠さんて、外国出身?」

「そんな話は聞いたこと……」

「邦立さん、ここにいる私達はこの世界にいる人からは見えているの?」

「いえ、見えてないです。

透明人間だと思って貰えれば良いかと」

「分かったわ。

部屋を探索してみましょう。とにかく、この世界にいる翠を探すのよ」

「はい」

「愁はそのまま、美麗を抱っこしててちょうだい」

『分かった』
「えぇ!降りるー!」

「今は駄目よ。

私が良いと言うまで、大人しくしてなさい」


優しく言う保奈美の、見たことの無いオーラに美麗は怯え愁に抱き着いた。


「そう、それでいいの」

(何か、一瞬夜叉を見た……様な気が)

(怖ぁ……)


身長と母性

廊下を歩く秋羅達……その時、どこからかピアノの音が聞こえてきた。

 

 

「この音色……」

 

 

音を頼りに歩いていると、ある部屋の前へ来た。ソッとドアを開け中を覗くと、中には大きなグランドピアノが置かれており、その前にピアノを弾く1人の少女がいた。

 

深い緑色の髪をお下げに、長袖の白いフリルが着いた青いワンピースに身を包んだ少女は、ピアノを弾き終わると閉じていた青緑色の目を開いた。

 

 

「……もしかして、翠?」

 

「何か、今と全然容姿が……」

 

 

『私に、何か御用?』

 

 

その言葉に驚いた秋羅達は、すぐに顔を上げた。席から立った翠は、まるで自分達が見えているかのようにこちらを見つめながら不思議そうな表情を浮かべていた。

 

 

「……おい邦立、俺等見えないんじゃ」

 

「そのはず……なんだが」

 

「名前、何て言うの?」

 

 

知らぬ間に愁から降りていた美麗は、幼い翠の所へ行き質問した。

 

 

『私?

 

 

私はヴェルディアナ・ヴィスコンティ』

 

「え?ヴェルディアナ?」

 

「翠って名前じゃないの?」

 

『みどり?

 

私はヴェルディアナよ。誰かと間違えているのかしら?』

 

「……保奈美、本当にこいつ翠なの?」

 

「その話は後にしましょう。

 

愁、美麗を」

 

 

保奈美がヴェルディアナの傍へ行くと共に、愁は美麗を抱き上げ彼女の傍から離れた。

 

 

「あなたは、私達が見えるの?」

 

『え、えぇ……

 

 

また、その類いなの?あなた方は』

 

「類い?」

 

『幼少の頃から、ずっと普通の人には見えない生き物……

 

日本で言う、妖怪と言ったものが見えるんです』

 

「そう……

 

何故、私達が日本の人って分かるの?」

 

『雰囲気が、そんな感じしたので……

 

それに以前、父の仕事関係で日本人がいたので』

 

「そう……

 

あなた、歳はいくつ?」

 

『8歳です』

 

 

そう答えるヴェルディアナに、保奈美は戸惑ってしまった。

 

8歳にしては、小柄な体型をしていた。背は低く見た目からは4歳から6歳ぐらいの少女にしか、見えなかった。

 

 

『……あの、よろしければ私の部屋へ行ってお話しますか?』

 

「え?

 

え、えぇ。そうさせて貰うわ」

 

『それでは、今使用人にお茶を持ってくるよう頼んできます』

 

 

秋羅達に一礼すると、ヴェルディアナは部屋を出ていった。

 

 

「……おい、邦立。

 

ここ、本当にお前の先生の記憶か?」

 

「そのはずなんですが……」

 

「でもあの子、名前が『翠』じゃなくて『ヴェルディアナ』って……」

 

「保奈美さん、何か知ってますか?」

 

「いいえ。

 

彼女のことに関しては、施設の人達何も話さなかったから」

 

「何で?」

 

「さぁ……

 

あの頃は、私達はまだ幼かったから詳しくは……」

 

 

鍵盤の音が響いた……振り返ると、そこには美麗が椅子に座り鍵盤に触れていた。

 

 

「美麗!」

 

「秋羅、これ何?」

 

「ピアノって言う楽器だよ。

 

ほら、降りる」

 

 

美麗を持ち上げ、秋羅は彼女を降ろし傍にいた愁に渡した。

 

 

「……俺、どっかでやり方間違えたんですかね?」

 

「あなたが分からなければ、誰にも分からないわよ」

 

「うぅ……そうですね」

 

「ねぇ、名前変えたんじゃないの?翠」

 

「え?」

 

「私、そんな話聞いたことは……邦立は?」

 

「自分もその様な話は全く……」

 

「美麗、何でそう思うんだ?」

 

「昔読んだ小説にあったの。

 

 

とある王族の姫が、お城から抜け出して名前を変えて町娘として生きる物語」

 

「何だ?その話」

 

「邦立、昔の小説だ。あんまり突っ込むな」

 

 

『お待たせしました。

 

用意が出来たので、部屋へ』

 

 

戸が開きヴェルディアナが、姿を現し秋羅達を自身の部屋へ案内した。

 

 

 

案内された部屋には、天井突きベッドを中心に右に衣装戸棚に硝子細工が飾られた棚が置かれ、左には勉強机に書棚が置かれていた。

 

中央には丸いテーブルが置かれ、その上には可愛らしいティーセットにクッキーが用意されていた。

 

 

「凄ぉい……

 

 

アリサの家みたい」

 

『どうぞおかけ下さい』

 

 

ヴェルディアナに言われるがまま、3人は椅子へ座った。美麗は愁に降ろさせて貰うと、一目散に書棚へ駆け寄り棚から1冊本をとり、中を読み出した。

 

 

「コラ!美麗!」

 

『気にしなくていいですよ。

 

あの書棚にある本はほとんど読んでしまいましたから』

 

「……アンタが、そう言うなら」

 

『それで……

 

 

あなた方は何故、私の家に?』

 

「そ、それは……」

 

「その前に、いくつか質問してもよろしいかしら?」

 

『答えられる範囲なら』

 

「では……

 

ここはどこ?」

 

「イタリアの北部にある小さな土地です。

 

私の家が地主で、父はここから少し下った先にある村を管理しています」

 

「そう……

 

あなたは、いつも1人でいるの?」

 

『はい。

 

 

私は上流階級の女性です。余り、外へ出ることは許されていません。

 

学校も行ったことがありません。そのせいで、友達もいません』

 

「……あなた、ピアノが上手なのね。

 

いつから、習っているのかしら?」

 

『物心ついた頃からです。

 

母と弾いたのが、一番楽しかったです』

 

(8歳なのに、滅茶苦茶しっかりしてる)

 

 

「ヴェル、この本読めない」

 

 

ヴェルディアナのスカートの裾を引っ張りながら、美麗は本を持ちページを見せながら、彼女に話し掛けた。

 

 

(ヴェルって……)

 

「美麗、自由奔放過ぎません?」

 

「幸人がいないから、半分暴走だ」

 

「監視役がいないと、自由人って凄く自由人になるのよ。

 

簡単に言えば、陽介がいない幸人がそんな感じね」

 

「え、そうなんですか?」

 

「そうよ」

 

 

美麗に本を読むヴェルディアナ……美麗は、傍にあった椅子に座り話を聞いた。

 

その姿を見た邦立の目には、一瞬自分と翠の姿に写った。

 

 

「……やっぱり、ヴェルディアナは先生だ」

 

「……」

 

「俺、小さい時に先生が引き取ってくれたんだ。

 

新しい土地に、中々馴染めなくて……

不安で夜眠れなくて……そんな俺に、先生は毎晩本を読んでくれた。俺が眠くなるまで何冊も…

 

 

本読んでる時の顔が、ヴェルディアナと同じなんだ。先生と」

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