桜の奇跡 作:海苔弁
「……消えた」
「これで多分、成功したんだと思います。
1回外に出ますか?」
「そうしましょう。
翠が多分、目を覚ましていると思うわ」
そう言って、邦立は術を解き元の世界へ戻ってきた。
球体から出て来た邦立達に、翔は驚きながらも彼等の元へ駆け寄った。
「どうだった!?」
「一応、元凶となるものはやったわ。
後は、彼女次第」
「そ、そうッスか……
あぁ、そうだ。翠の奴、さっき呼吸が安定して眠ってます」
寝かされている翠は、穏やかな表情で寝息を立てていた。保奈美はそんな彼女を見て、微笑を浮かべて頭を撫でた。
「彼女はもう平気ね。
邦立さん、幸人の元へ行きましょう」
「は、はい」
「美麗、どうする?幸人起こしに行くけど」
「行く!」
元気よく返事をした美麗の目は、いつの間にか元の色に戻っていた。
「……お前、体調の方は大丈夫か?」
「平気!」
「なら良いけど」
再び夢の中へと入った秋羅達……
幸人の元へ行き、彼の前に浮かぶ玉に5人は手を触れた。玉から強烈な光が放たれ、彼等を包み込んだ。
光が弱くなり、秋羅達はゆっくりと目を開けた。
「……ここは」
「討伐隊本部?」
「研究室みたいね。見た所」
研究員の休憩室なのか、その部屋には簡易流し台に小さな冷蔵庫、ローテーブルとソファー、ソファーの上には枕と毛布が無造作に置かれていた。
「……完全な翔達の休憩室ね、ここ」
「見覚えあるんですか?」
「一応」
「ここ嫌い」
愁にしがみつきながら、美麗は言った。愁はしがみつく彼女を抱き上げた。
「そういえば、以前来た時もそんな感じだったな?」
「美麗にとって、ここは何か因縁があるみたいだからな。
愁、そのまま美麗を頼んだぞ」
『ったく、長ぇんだよ。検査』
文句タラタラと言いながら、休憩室に入ってきたのは若かりし頃の創一郞だった。その次に、彼を宥めるようにして話す、葵が部屋へと入ってきた。
『そう文句言わない。
検査は大切だよ?』
『そうそう!
備えあれば憂い無しってね!』
『迦楼羅、使い方間違ってるわよ』
『え?そう?』
『相変わらずですね!迦楼羅先輩!』
『オメェも変わらず、背が小せぇこと』
『背のことは言わないで下さい!!』
『迦楼羅!後輩を虐めない!』
『へいへい。
相変わらず、うるせぇな?花琳は』
『君、もう少し大人になったらどうです?』
『お前は一言余計だ!えっと……湊都?』
『マリウスです!』
「に、賑やかですね……」
「皆、若い……」
「検査って事は、恐らく15年前の実験……
多分、19と20の時よ」
「て事は……幸人達が、今の俺等くらいの時」
『注射するなんて、聞いてない!』
部屋へ入ってくる4人の男女……1人の女が泣きながら、先に入ってきた若い頃の水輝と暗輝にそう訴えていた。
『だから、悪かったって!
俺達だって、注射使う検査だとは思わなかったんだ』
暗輝は宥めるようにして、若い頃の幸人の腕にしがみつく、涙を浮かべた女性に謝っていた。
『暗輝の嘘吐き!』
『本当に悪かったって!!』
『その辺にしとけ。
注射やられてねぇんだから、それぐらいで良いだろう?』
『ウ~』
『幸人が宥めると、すぐ大人しくなるんだからこいつ』
『相変わらずだね、愛』
『検査ご苦労様、皆』
そう言って入ってきたのは、白髪交じりの黒髪を耳下で結った男だった。その後から、50代の男女9名が幸人達の傍へ立った。
『所長』
『ごめんね、注射の件。伝えたつもりになっていたんだけど……』
『……もういいです』
少し膨れながら、愛は幸人の腕を抱き締め引っ付いた。膨れる彼女の前に、灰色のボブカットに黒いサングラスを目に掛けた女性が、飴玉を見せ付けた。
『これ舐めて、少しは機嫌直しな』
『ワーイ!先生、ありがとう!』
『お前、本当に19か?』
『あと二ヶ月で、20歳だよ!』
『それじゃあ、二ヶ月後に皆で集まって誕生日会でもする?愛の』
『良いの?!』
『賛成!
先生、集まって良いか?』
『別に構わないが』
『仕事を頑張ったら、良いわよ』
『ヤッター!
ねぇ、幸人も来るでしょ!?』
『えー、俺か?
どうしようかなぁ……』
『絶対来てよ!ねぇ!』
『辰幸、お前さんところ別に仕事ねぇだろう?』
『二ヶ月後ねぇ……
まぁ、予定は空けといてやるよ』
『ヤッター!!』
『爺!』
『交流は大事だぞ?幸人』
『っ……』
『楽しみー!
ねぇ!陽介も来てよ!』
『休みが取れ次第だ』
『来るって約束してよね!
幸人だって来るんだから!』
『……まぁ、頑張ってはみるが』
『決まり!』
賑わう部屋……保奈美は懐かしそうに、その光景を目にし口を開いた。
「本当に楽しかったわ。
先生達の代はあんまり交流が無かったけど、私達の代は皆顔見知りだったから、いつも集まってた」
ソファーに座る若い幸人の隣に、愁から降りた美麗は近寄り彼の顔を覗き込んだ。
「……?」
美麗の方を見つめる幸人……手を伸ばしてきて、美麗は咄嗟に後ろへ下がった。伸ばしてきた手は、地面に落ちていた煙草の吸い殻に触れ、それを傍に立っていた水輝に幸人は渡した。
「……どうやら、俺達の姿は見えてない…みたいですね」
「これで見えてたら、誤魔化しようが無い」
「秋羅、別の部屋がいい。ここ嫌い」
「もうちょっとな」
嫌な顔をする美麗に、秋羅は宥めるようにして頭を撫でた。
全員が寛いでいる時だった……突然戸が開き、外から胸下まで伸びた紫色がかった黒髪を下ろした者と、左側の茶色の横髪をピンで留め右目を隠すように前髪を垂らした男、そしてウェーブのかかった赤茶色の短髪に、水色の目をした女性が入ってきた。
3人の姿を見た美麗は、秋羅から離れ愁にしがみついた。彼は彼女を抱き上げると、目付きを変えて3人を睨み付けた。
『検査、お疲れ様!
良いデータが取れたよ!』
『オカマ、お前消えろ』
『煙草が不味くなる』
『ここは禁煙ッスよ!創一郞先輩!』
『月影も吸ってるじゃねぇか。火影も』
『ここ禁煙!!早く消して!!
じゃないと』
『とっとと消せ。話が出来ないだろうが』
煙草を口に銜えた、若い姿をした元帥が3人を睨みながら言った。
『ギャー!!出たぁ!!』
『貴様!元帥に向かって!!』
『陽介、銃を下ろせ!!
愛、テメェは引っ込んでろ!』
『そんな怖い顔してたら、子供が怖がっちゃうよ。
院瀬見君』
水輝と暗輝の傍にいた父親…龍輝は、院瀬見に優しく言った。
『元帥、お話があるのであちらへ。
雲雀、後は頼んだぞ』
『了解でーす』
院瀬見を連れて、女性…奏歌は部屋を出ていった。子鹿のようにして怯える愛を、幸人は宥めながら煙草の火を消した。
『相変わらず、迫力のある元帥だ』
『あんな顔されちゃ、誰だって怖がるっつうの!』
『水輝!』
『うっ』
「この実験の後、私と葵、迦楼羅と愛と幸人の5人で依頼を受けるつもりだった……
いつも通りの実験だったら、あと数時間で終わる予定だった。
終われば、この日からの二ヶ月後……皆で集まって、愛の誕生日会を開こうと思ったわ。
休憩室で、私は翠と花琳でその話で盛り上がってた。
でもまさか、あんな悲劇が待っていたなんて……
誰も、想像がつかなかったでしょうね……」