桜の奇跡   作:海苔弁

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休憩室から出て来た幸人達は、実験室に連れて来られた。

そこは、硝子張りの部屋になっており中には人数分の台が置かれていた。幸人達は台の上に座ると、研究員から様々なコードが、体中に張られていった。


『モルモットみてぇだな?俺等』

『時間がない。

とっとと作業を開始しろ』


マイク越しに聞こえる奏歌の声に、傍にいた研究員は、注射器を取り出し、乗った彼等の腕に液体を注入しようとした。


『大地、水輝寄こせ。

愛が暴れてるぞ』


注射器を持った研究員を蹴り飛ばした愛は、隣にいた幸人の台に乗り彼に抱き着いていた。


『しまった……また言うの忘れてた』

『所長~』

『水輝、お願いできるかな?』

『ハーイ。

幸人、愛をそのまま腕から目を逸らしておいて』


実験室へと入ってきた水輝……彼女が入ってくる音に、愛は振り向こうとしたがその行為を、幸人は阻止し自身の方に向かせた。


『しばらくこっち向いてろ』

『な、何するの?

注射は』
『愛、こっち見てろ』


水輝に合図を送った幸人は、顔を向かせないよう両手で愛の頬を触り、自身の額を彼女の額に当てながら宥めた。その間に、水輝は注射針を愛の腕に刺し液体を注入した。
同時に、研究員全員が幸人達の腕に液体を注入した。終えると、幸人達以外の者達は皆部屋の外へと出た。


『これで全員打ったと……

状態は?』

『心拍数、脳波、共に問題ありません。脈のズレもありません』

『今の所、問題無しか』


資料を書き込んでいく、研究員達……その光景に、美麗は愁から離れようとせず、ずっと体を震えさせていた。


「美麗の奴、ここに来てからずっとこの調子だ」

「もう少し、我慢してね。

幸人を助けるためだから」

「……うん」


愛する者の死

刻々と時間が過ぎていく……外から愛の様子を見ていた刹那は、何かを悟ったのかモニターに近付き見た。

 

 

『どうかしましたか?刹那さん』

 

『他の奴と比べて、愛だけ異様に心拍数が早い』

 

『緊張してからじゃなくて?』

 

『いや違う……

 

 

愛、どうした?何か変か?』

 

『……何か、変な声が聞こえる』

 

『声?』

 

『それどんな声だ?』

 

『分からない……変な言葉で、理解できない』

 

『……妖怪の言葉かしら?』

 

『可能性としては高い』

 

『……!?

 

愛!!どうした、その顔は!?』

 

 

腫れ上がる愛の顔……触ると、愛の手に血が付いていた。

 

 

『愛?』

 

『幸人、何か変……

 

私……何か……ガハ!!』

 

 

口から大量の血を吐き出す愛……幸人は台から降り、すぐに愛の元へ駆け寄った。

 

 

『な、何だ!?一体!!』

 

『すぐに実験を中止しろ!!

 

幸人!愛を頼む!!』

 

『た、大変です!!

 

冥影愛さんの脳波に異常が見だしてます!!

 

 

彼女に続いて、他の方達の脳波にも!!』

 

『え?!』

 

『直ちに中止!!

 

水輝!暗輝!すぐに薬の用意を!』

 

『すぐに睡眠薬を部屋に!!』

 

『は、はい!』

 

 

慌ただしく研究員が操作をしている間、愛の体はどんどん膨れていった。膨れていく彼女の手を、幸人は握り締め呼び掛けた。

 

同時に、保奈美達の体にも異変が起きた。苦しみ出す彼等の体から、角や爪が生えたり体の一部が変色したりとし始めた。

 

 

『な、何?これ……こんなはずじゃ』

 

『愛!!』

 

『刹那さん!駄目です!!部屋に入っては!』

 

 

扉を開け、中へと入る龍輝と刹那……

 

幸人の背中から禍々しい翼が生えた時だった……微かに意識がある中、幸人は息を切らしながら顔を上げた。

 

 

『あ、愛……』

 

『…ゆ……ユギ…ヒ……ド』

 

 

“ドーン”

 

 

愛の体が爆発した……爆発が起こる寸前、龍輝は扉を勢い良く閉めた。だが、爆発の勢いにより硝子が飛び散り、その欠片が奏歌の目に突き刺さり、その直後に院瀬見が彼女を守るようにして抱き伏せた。暗輝は龍輝を追い掛けようとした水輝を地面に伏せさせ破片から身を守り、陽介もすぐに地面に身を伏せ手で頭を守った。大地と翔もテーブルや椅子、機械の影に隠れ身を守った。

 

部屋の外からその様子を見ていた、幸人達の師匠達も爆風から身を守ろうと地面へ伏せた。

 

 

「な、何で……何で、愛さんの体は」

 

「……推測としてあったのは……

 

愛は異様な恐怖心を持っていて、それが糧となって妖怪に取り憑かれたんじゃないかって」

 

「……」

 

 

数分後、実験室へ駆け付ける兵士達……外で伏せていた師匠達は、すぐに起き上がると中へ入って行った。

 

愁の傍にいた美麗は、彼から離れ中へ入った。

 

 

「美麗!」

 

 

中へ入って行く彼女を、秋羅と愁は慌てて追い駆けていった。

 

 

『すぐに怪我人を運べ!』

 

 

駆け付けた兵士達に、陽介はすぐに指示を出した。彼は目から大量の血を流しながら、彼はすぐに実験室へ入った。

 

院瀬見は気を失っている奏歌を抱き上げ、駆け付けた医療班に彼女を託した。水輝と暗輝は頭に包帯を巻き、陽介の後に続いた。

 

 

実験室には、傷だらけとなり床に横たわる保奈美達の姿があった。先に着いていた師匠達は、彼等を抱き上げ必死に声を掛けていた。壁には変わり果てた姿となった、龍輝と刹那が横たわっていた。

 

 

『嘘だろう……』

 

『父さん!!刹那さん!!』

 

 

一目散に、水輝は父・龍輝と刹那の傍へ駆け寄り脈を測った。

 

 

『……そんな……』

 

『水輝!

 

親父達は……』

 

 

手で顔を覆い涙を流す水輝の様子に、暗輝は言葉を失った……息絶えている龍輝と刹那の顔に、彼は白衣とジャケット被せ、水輝と共に涙を流した。

 

 

『医療班!早くこっちに来い!!』

 

『早く弟子を診てやってくれ!!』

 

 

遅れて入ってきた医療班は、弟子を抱き上げる師匠達の元へ駆け寄りすぐに応急処置をすると、担架に乗せ治療室へと運んでいった。

 

運んでいく中、陽介は瓦礫を避けながら幸人と愛を探した。

 

 

そして、そこにいた……

 

 

『……幸人?

 

 

それは、何だ……』

 

 

彼の手に握られている手らしき肉の塊……座り込むその体には大量の血が浴びられ、幸人は一点を見つめながら原形を保たない人の死体を、ずっと抱き締めていた。

 

 

『……よぉ、陽介。

 

 

俺は平気だ……愛を……

 

 

愛を診てやってくれねぇか?こいつ、心臓の音も呼吸音も聞こえねぇんだ。

 

それだけじゃねぇ……

 

 

さっきまであったはずの髪の毛も、目玉も、歯も抜けちまったらしくてな』

 

 

笑顔を見せる幸人に、陽介は一瞬恐怖を感じた。

 

 

その光景に秋羅は、涙を流して彼の肩を掴み膝を付いた。

 

 

「こんなの……無理に決まってるよ……

 

 

精神、保ってられねぇよ……

 

幸人……俺、何にも知らなくて…お前の所に来た時、ずっとお前に俺の親父の死に様を……

 

 

お前だって、こんな……愛する者の死を目の当たりにしてたのに……」

 

 

幸人の手に残る愛の手……美麗はそれに触れながら、彼女の遺体を見た。

 

 

「……これ……

 

?」

 

 

肩を叩かれ、美麗は後ろを振り返った。そこには、笑みを浮かべた愛が立っていた。

 

 

「……」

 

『あれ、倒して』

 

 

指差す方向には、黒く染まった愛が幸人に抱き着いていた。

 

 

「……え?

 

何で、2人?」

 

『あれは闇……

 

突然、入り込んできたの。あれが無くなれば、私が幸人の傍にいる。

 

 

あそこは、私の指定席』

 

 

幸人に目を向ける美麗……スッと立ち上がると、手から光の玉を出しながら寄った。

 

 

「……美麗?」

 

「退け。

 

こいつは、私が貰う」

 

「……」

 

 

離れる秋羅……雰囲気の違う美麗は、光の玉を黒く染まった愛の体に当てた。玉は強烈な光を放ち、秋羅と美麗、そして駆け付けた保奈美達を包み込んだ。




『幸人……』


『幸人……』


何だ……この声……


『幸人……

私、幸人に会えて幸せだったよ』


……愛?


『ほら、お弟子さんの所に帰りな!

寂しがってるよ』


……俺のせいでお前は…


『私は、幸人のせいで死んだなんて思ってないよ。


幸人が傍にいて、ずっと私の手を握っててくれたから、凄く安心できた。




大好きだよ!幸人!』


満面な笑みを浮かべた愛は、幸人の体を押した。


『大丈夫。姿が見えなくても、私はちゃんと幸人の傍にずっといるよ』
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