桜の奇跡   作:海苔弁

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目をゆっくりと開ける幸人……


目の前には秋羅が、心配そう表情で顔を覗かせていた。


「……秋…羅」

「幸人!」


秋羅の手を借りながら、幸人は起き上がった。傍に座っていた保奈美は、ホッとしたように胸をなで下ろした。


「全く、師匠が弟子に心配掛けてどうするのよ」

「ほっとけ……

秋羅、心配掛けたな」


涙ぐむ秋羅の頭に、幸人は手を置きながら言った。


「そういや、翠は?」

「あなたより先に起きて、今邦立さんとお話してるわよ」

「……あれ?

美麗は?」

「彼女なら、あそこよ」


保奈美が指差す方に、美麗は愁の脚に頭を置き寝息を立てて眠っていた。


「翠とあなたを眠らせた原因を、あの子が全部取り払ったのよ」

「そうか……

寝込んで何日経つ?」

「まだ数時間よ。

でも、体のことを考えると今日1日はゆっくり寝なさい」

「……」

「あぁそうだ、俺氷柱さん達に幸人達が目が覚めたこと伝えてきます」

「お願いするわ」


袖で涙を拭った秋羅は、部屋を出ていった。起き上がっていた幸人は、再び横になり腕でで目を覆った。


「長い夢を見ていた……」

「……」

「最悪なことに、あの事故の時の夢だ。


事故の前と事故が起きた時の光景が、いつも毎晩見る夢の中で、広がってた」

「そう……


ずっと、罪意識でもあったの?愛に対して」

「……あったさ。


隣にいたくせして、体が変化していくアイツの手をただ握り締めて、ずっと呼び掛けることしか出来なかった。


次に意識を取り戻した時には、愛は消えていた……

夕陽と同じ色の髪の毛も、桃の花と同じ目の色も……何もかも、消えていた」

「……」


「あ!幸人、起きてる!」


起き上がった美麗は、幸人の元は駆け寄り彼に飛び付いた。飛び付いてきた彼女の頬を、幸人は撫でながら笑みを溢した。


「体の方は良いのか?」

「全然平気だよ!

幸人はもう平気なの?体」

「あぁ、テメェ等のおかげでな」

「……幸人」

「?」

「愛って子が言ってたよ」

「え?」

「『大好きだよ!』って」


一筋の涙が、不意に幸人の頬を伝った……笑いながら、幸人は顔を手で覆った。


「幸人?どうかしたの?」


美麗の質問に、幸人は答えられなかった……傍にいた愁は彼女を抱き上げると、保奈美と共に部屋を出ていった。

1人になった幸人は、目から流れ出る涙を拭きながらしばらくの間、涙が止まるのを待ち続けた。


氷華の封印

翌朝……

 

 

「よっしゃー!復活!」

 

 

小降りの雪の中、クロスボウガンを片手に翠は仁王立ちした。

 

 

「病み上がりのくせに、元気ですこと」

 

「とっとと氷象、封印して温泉入るよ!」

 

「何だ?温泉あるのか?」

 

「駅近くにあるらしいわよ。

 

名所の温泉が」

 

『今、村付近の森に吹雪を起こしているから、村人が森に入ってくることは無い。

 

今の内に、封印して貰う』

 

「分かった」

 

「あれ?

 

そういえば、秋羅君達は?」

 

「奴等には封印の準備をして貰っている。

 

 

けど今回、封印を行うのは美麗だがな」

 

「とりあえず、あの赤い吹雪に気を付けないと!」

 

「病み上がりでもテンション高ぇな、アイツ」

 

「温泉が楽しみなんでしょ?」

 

 

 

封印の陣を作り終える美麗……一息する彼女の元へ、秋羅は駆け寄った。

 

 

「これで陣は完成か?」

 

「うん。

 

あとはあの氷象が来れば」

 

 

“ドーン”

 

 

突然振ってきた氷の礫……雪飛沫が上がる中、美麗は小太刀を抜き礫が飛んできた方を見た。そこには、鼻から再び氷の礫を放つ、氷象の姿があった。

 

 

「氷象、見っけ!」

 

 

放ってきた氷の礫を跳び避けた美麗は、いつの間にか作っていた炎の槍を、氷象目掛けて投げ飛ばした。飛ばされた槍に、氷象は難なく鼻から氷の息を吐き槍を凍らせた。

 

 

「ありゃ!?火が効かない!!」

 

「一晩休んだから、少しパワーアップしたのかもしれないですね」

 

「なら、こっちもパワーアップ!」

 

 

そう言って、美麗はブレスレットを外した。溢れ出る妖気を身に纏いながら、彼女は特大の炎を作り出すと、それを思いっ切り投げ飛ばした。

 

投げ飛ばされた炎は、氷象の背後の雪の上に落ち雪飛沫を起こした。飛んできた火玉に氷象が気を取られている隙に、美麗はそこから勢い良くジャンプし空中で、大量の氷槍を作り出した。

 

 

「氷術…氷姿雪魄!!」

 

 

振り下ろす手と共に、宙に浮かぶ氷槍は一斉に氷象目掛けて雨のように降り注いだ。

 

 

「美麗の奴、凄え……」

 

「アイツ、何かいつもと違うような気が……」

 

「そんなの気にしない気にしない!

 

遅れ取らないでね!」

 

 

クロスボウガンを氷象に向けた翠は、矢を放つと手から木の葉と花弁を出すと、目眩ましにそれを放った。

 

 

氷槍と矢に当たった氷象は、咆哮を上げながら攻撃を避けようと巨大な体を動かした。

 

 

「怯みだした!」

 

「後方に回って、陣へ誘導しろ!」

 

 

全員が、氷象の背後へ回り攻撃をし陣へと誘導した。

 

 

陣近くに降り立つ美麗……その時、背後に何かが現れ彼女は素早く振り返った。

 

 

白掛かった青い長髪に雪の結晶の髪飾りを着け、白と水色の着物姿をした女性が、そこに立っていた。

 

 

「……誰?」

 

『アンタの体、少し借りるよ』

 

「え?」

 

『大丈夫だ。

 

アタシは、あの氷象を封印したいんだ。その為に、体を貸しておくれ』

 

 

美麗に目線を合わせる様にして、女性は座り彼女の手を握り頬を撫でた。

 

 

「……氷華?」

 

『あら嬉しい。

 

アタシの名前を知ってるなんて』

 

「じゃあ、パパのお祖母ちゃんだから……」

 

『アンタの曾祖母ちゃんだよ』

 

 

パァっと明るくなった美麗は女性…氷華に飛び付いた。氷華は飛び付いた彼女の頭を撫でると、体に憑依した。

 

 

赤い目から黄色の目へと変わった美麗は、振り返り近付いてくる氷象を見つめた。

 

 

「『やれやれ、また大暴れとは良い度胸じゃないか?』」

 

 

氷象が完全に陣の中へと入った瞬間、美麗……氷華は雪の結晶を手に作り出すと、それを陣に重なるようにして空に広げた。

 

 

「いつの間に、あんな技を?」

 

「さ、さぁ……」

 

 

その時、雪の結晶から氷の礫が雨のように地面へ落ち氷象の足下に落下した。落下した氷から鎖が伸び氷象の開きや体に巻き付き、動きを封じた。

 

 

「『氷術極氷棺!!』」

 

 

足から凍っていく氷象は、咆哮を上げると目の前にいる氷華を見た。

 

 

「『もう眠りな。人を消すなんて、出来ないよ。

 

その行いは、大将……藤閒の役目だから。

 

 

 

 

氷術究極奥義!!

 

 

永久凍土!!』」

 

 

凍らせた氷象の回りを更に凍らせた。そして辺り一面に、人が入れないよう氷山を作り上げた。

 

 

 

 

吹雪が止み、雪が深々と辺りに降った。

 

 

『姉上!!』

 

 

血相を掻いて、氷柱はそこへ駆け付けた。雪の上へ降りてきた氷華は、美麗から離れると彼女と手を繋ぎ駆け寄ってくる氷柱を見た。

 

 

『氷柱か。立派になったな』

 

『姉上……

 

 

子孫がいたからですか?』

 

『そうだな。

 

彼女の体を借りられたから、封印が出来た』

 

「……あ!

 

幸人!」

 

 

いち早く駆け付けてきた幸人の元へ、美麗は駆け寄り抱き着いた。自身に怪我がないのを確認する幸人に、彼女は氷華達を指差しながら手を引っ張り、傍へ歩み寄った。

 

 

「ほら幸人!見てみて!

 

美麗の曾祖母ちゃん!」

 

「曾祖母さんって事は……

 

藤閒の」

 

『氷華だ。

 

アンタ達かい?美麗と一緒に居るのは』

 

「まぁな」

 

『良い人そうでよかったよ。

 

アンタ達からは、嫌な人間の気配がしないから』

 

「……」

 

 

その時、氷華の体が雪の結晶となっていき消えようとしていた。

 

 

『おや、時間のようだね』

 

『姉上、妾達はこれからもこの地を守っていく。

 

だから』

 

『大丈夫。アンタはしっかりしてるから、アタシがいなくてもやっていけるよ。

 

 

まぁ、姉として心配だから時々様子を見に来るよ』

 

『はい!』

 

「曾祖母ちゃん、もう逝っちゃうの?」

 

『時間だからね。

 

美麗、もう一度顔を見せてくれ』

 

 

そう言いながら、氷華は膝を付き美麗の頬を撫でた。するとそこへ、愁が遅れて駆け付けた。彼の姿を見た氷華は、目を見開いて驚いた表情をしていたが、すぐに笑みを浮かべると彼の元へ歩み寄った。

 

 

『アンタが、美麗の桜の守かい?』

 

『うん……』

 

(美麗の?)

 

『可愛い曾孫のこと、頼んだよ』

 

 

愁の肩に手を置き、笑顔を見せた氷華はそのまま雪の結晶と共に消え、空へと上がっていった。




氷華を見送って数分後、空からエルが舞い降り美麗の元へ駆け寄ると、嘴を寄せ甘え声を出しながら体を擦り寄せた。
エルの後から、秋羅達が駆け寄ってきた。


「さてと……


翠、どうする?一旦村に帰るか?」

「村通過して、駅近くに行こう!そんで、温泉入ろう!」

「そういえばそうだったな」

「温泉?!行きたい!」

「それじゃあ、村に行って報告しましょうか。

雪女はもう、吹雪は起こさないって」

『氷雪花を採り過ぎない限りな。

氷雨、皆を麓まで送れ』

『はい』

「世話になったな」

『こちらこそ。

美麗、またいつでも遊びにお出で』

「うん!」


嬉しそうに返事をする美麗を、氷柱は愛おしく頭を撫でた。


そんな彼女達を、保奈美な不思議そうに見つめていた。傍にいた幸人は、小声で彼女に話し掛けた。


「どうかしたのか?」

「……私の目がおかしいのかしら。


何だか、美麗がとても幼く見えるの」


保奈美に言われた幸人は、美麗の方に目を向けた。着ているコートが少し大きいのか、先程まで袖から出ていた手が、袖の中に隠れており紅蓮達を撫でる度に、袖を捲り撫でていた。


「言われてみれば、そうだな……」

「薬の副作用ッスかね?」


隣で顎を持ちながら考える仕草をする翔は、彼女を見ながら言った。


「最近の研究で、分かったことがあるんですよ。


妖力を使い過ぎた人型の妖怪は、一時的に幼児化するって」

「ほぉー。

つまりテメェが飲ませた薬の影響で、本来使うはずの無い妖力を大量に使ったから、背が縮んだと」

「まぁ、結論からするとそーッスね……って、俺のせいじゃないッス!

あの薬は所長が!」

「責任逃れをするんじゃねぇ」
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