桜の奇跡   作:海苔弁

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“カコン”


日が傾き、段々と暗くなる空を覆い隠すように舞い上がる湯煙……





幼き記憶

「あ~~~極楽~」

 

 

露天風呂に浸かる翠は、体を伸ばしながら言った。その隣に、体にタオルを巻いた保奈美は浸かり、一息吐いた。

 

 

「やっと一段落ついたわね」

 

「そうですね~(保奈美先輩、いつ見ても綺麗だなぁ)」

 

「私の体に、何か付いてる?」

 

「な、何も!」

 

 

「プハー!」

「プハー!」

 

 

浸かる2人の前から、潜っていた美麗と奈々は息を吸いながら出て来た。

 

 

「何やってんの?アンタ達」

 

「どっちが潜って長く耐えられるか、競争してたの!」

 

「そう言うのは危ないから止しなさい」

 

「平気だよ!今は、ママ達がいるんだから」

 

「奈々、もう一回!」

 

「こら!

 

大人しく浸かってなさい」

 

「ハーイ……」

「ハーイ……」

 

「師弟というより、親子みたいですね」

 

 

談話する保奈美達を見ながら、美麗は桶に入っているアゲハに少しずつ温泉をかけた。アゲハ気持ち良さそうに、触覚を動かし羽をバタつかせた。

 

 

「気持ちい?」

 

『キー!』

 

「あら?アゲハを入ってるの?」

 

「うん!」

 

「今日はお客さん、私達だけみたいなんで特別にと」

 

「そう」

 

 

再び湯に浸かる保奈美……熱くなったのか、翠は並べられている岩に座り、足を浸けながら夕陽を眺めた。

 

 

「……先輩、私の記憶見ました?」

 

「どうして?」

 

「目が覚めた時、邦立から聞いたんです。

 

夢祓いを使ったと」

 

「……」

 

「いや、いいんです!見たら見たで!

 

話さない、私がいけない」

「ヴェルディアナ・ヴィスコンティ」

 

「!!」

 

「夢祓いで、あなたの過去を見たわ。

 

 

でもいいじゃない。過去なんて……今のあなたは、『翠』として生きているわ」

 

「先輩……」

 

「あそこ(アスル・ロサ)にいた子達は、皆何かしらの暗い過去を持っているわ。特に、私達のグループは。

 

 

だから、今更過去を話しても何も変わらないわ。昔も今も」

 

「……」

 

 

水が流れる音が、静けさが増す外に響いた。

 

縁に腕を置き眠そうにあくびした美麗は、幼き頃の記憶を思い出していた。

 

 

森の奥深くにある、温泉……幼い美麗は、晃と天狐、地狐、空孤、2匹の大黒狼と一緒に浸かっていた。

 

 

 

思い出に浸っている美麗を、保奈美は横目で見た。

 

 

「!?」

 

 

自身と同じ背丈の彼女が、湯に浸かっていた。白い肌にスレンダーな身体、下ろされた長い白髪は半分が湯に浸かっており、もう半分は湯の外から出ていた。髪の間から見える青い目は、どこか思い詰めているように一点を見つめていた。その隙間から見える顔立ちは、少し大人びていた。

 

 

目を疑った保奈美は、瞬きをし目を擦りもう一度美麗の方を見ると、彼女はいつもの姿に戻っていた。

 

 

(今のって……)

 

「ママ、どうかしたの?」

 

「な、何でも無いわ」

 

 

 

その頃、男湯では……

 

頭を洗った愁は、お湯を頭から掛け水気を切るようにして頭を振った。

 

 

縁に腕を置き豪快に浸かる幸人を、翔は鼻まで潜りながらジーッと見ていた。

 

 

「何見てんだよ。珍しくねぇだろう?

 

施設にいた頃、ずっと一緒に入ってんだから」

 

「いや~改めて見ると、逞しい体だなぁって」

 

「変態か?」

 

「違ぇよ!!

 

 

まぁ、施設の頃より更に鍛え上げてはいますね!

 

何せ、元討伐隊の軍曹なんスから」

 

「へー、幸人って軍曹まで上がってたのか」

 

「まぁな」

 

「そういや先輩、俺聞いてないんですよね……

 

先輩が討伐隊員を辞めた本当の理由」

 

「聞く必要は無い」

 

「教えてくれたっていいじゃないッスか!!

 

皆知りたがってましたよ!特に、先輩の下に就いていた隊員達は!」

 

「いいんだよ、知らなくて」

 

「先輩、隠蔽はよくないです!」

 

 

幸人達が賑やかに話している中、愁達はいつの間にか温泉に入ってきていたエルと紅蓮を洗っていた。

 

気持ち良さそうに、エルは鳴き声を上げると洗う秋羅の頬を舐めた。

 

 

「気持ちいいか?エル。

 

 

それにしても、入れていいのか?動物を」

 

「お客さんは、俺等だけみたいなんでお湯に浸からせなければ問題無いと」

 

「へー」

 

 

洗い終えたエルの体を、秋羅達はお湯で流した。水気を払おうと、エルは体を激しく振った。エルに続いて紅蓮も体を激しく振った。

 

 

顔に付いた水を手で拭きながら、愁達は温泉に体を浸からせた。浸かった愁は、縁に凭り掛かるようにして腕を置き浸かり、彼の傍に紅蓮とエルは座り伏せた。

 

 

「グリフォンにしては、凄い人に懐くな」

 

「お前の知ってるグリフォンとは、やっぱり違うのか?」

 

「辞典に書かれていた説明文には、『自分が許した者以外、決して懐くことも己に触ることも許さない』と。

 

 

だから、初めてエルに会った時珍しいなぁって」

 

「こいつの場合、多分美麗が良ければ自分も良いって思ってんだろうよ。でなきゃ、俺等を乗せることはねぇよ」

 

「そうだよな」

 

 

愁に撫でられるエルは気持ち良さそうな表情を浮かべ、嘴で撫でる彼の頬を軽く突っ突いた。

 

 

 

数時間後……

 

 

宿のロビーで、ソファーに横になる翔。彼の目の上には、タオルが置かれ唸り声を上げていた。

 

 

「全く、サウナで男気対決とか……何やってんだか」

 

「何か、空気がそうなったんで」

 

「そんで、長くサウナ室にいたのが翔と……

 

本当、昔から負けず嫌いだね」

 

「ほ、ほっとけ~」

 

 

向のソファーでは、奈々と美麗は買って貰った牛乳を飲みながら、伸びる翔を眺めていた。

 

牛乳を飲み干した美麗は、眠そうに大あくびをし目を擦った。

 

 

「美麗、眠い?」

 

「ううん……」

 

(絶対眠いじゃん)

 

 

すると、秋羅の隣に立っていた愁が眠そうにしている美麗の様子に気づいたのか、彼は彼女の元へ歩み寄った。

 

 

「愁さん、美麗なんか眠そうです……?」

 

 

目を擦る美麗を、愁は抱き上げ自身の膝に乗せると、奈々の隣に座った。彼女は大きくあくびをすると、愁の腕の中で寝息を立て眠ってしまった。

 

 

(何か、美麗が凄い幼く見える……)

 

「あれ?美麗の奴、眠っちまったのか?」

 

「さっき眠っちゃいました」

 

「そりゃそうだろうな。

 

変な薬飲まされてそれで妖力全快の一歩手前まで解放されて、先生達の幻術解いて、そんで最後は氷象の封印ですからね」

 

「普通に疲れるな」

 

「先に部屋戻って寝てろ。

 

秋羅、頼む」

 

「分かった。

 

愁、行くぞ」

 

 

眠った美麗を持ち上げ、愁は先に行く秋羅の後をついて行った。

 

 

「この馬鹿ほっといて、俺等ももう休もう」

 

「そうね」

 

「酷くねぇッスか?!俺の扱い!!」

 

「邦立、部屋戻るよー」

 

「了解でーす」

 

「翠!!少しは同期の心配もしろ!」




『人を信じなければ、アイツは死なずに済んだ』


『俺はとうとう、闇に手を染めた……


もう愛するアイツの傍にはいられない。



悲しい……淋しい……かなしい。

 

許さない……許さない』




「……」


目を覚ます美麗……床に敷かれた布団を見ると、向の床には秋羅と幸人が眠っており、自分の隣には愁が眠っていた。


「……愁」


小さい声で彼の名を呼ぶと、愁はすぐに目を開け起きた。


「そっちで寝ていい?」

『うん……』


捲った愁の布団の中に、美麗は潜り込んだ。愁は布団を掛けると、彼女の頭を撫でた。


「……愁はさ、寝てる時に変な声が聞こえてくること無い?」

『声?

どうして?』

「翔に変な薬飲まされてから、何か声聞こえるの。

聞き覚えの無い声でね……」


眠い目を擦りながら、美麗は自身の頭を撫でる愁の手を握り指を弄った。


『……俺も、時々夢を見る。

毎晩同じ夢を』

「夢?どんなの?」

『黒い人を前に、俺がそこに立っていて……その人に向かって何か叫んでんだ。でも、何を叫んでいるか分からない。


黒い人は、振り返ろうとするけどすぐに前に向き直って、そのまま……』

「……そのまま歩いて行っちゃうの?」

『うん……手を伸ばしても』

「届かない?」

『……うん』

「愁に会う前、ずっと夢見てた。

晃がずっと遠くにいて、寄ろうとして走るんだけど……

全然追い付かなくて……」


弄るのを辞めた美麗の目に、いつの間にか涙が溜まっていた。


『美麗?大丈夫?』

「ひか……晃……


晃……」


泣きながら、美麗は愁の胸に顔を埋めた。愁は泣く彼女を優しく抱き締め、泣き止むのをただジッと待った。
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