桜の奇跡   作:海苔弁

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蝉の鳴き声が響く真夏日……


熱い日差しの中、すっかり体調が元通りになった美麗は愁と共に馬達の水浴びをしていた。


馬達と一緒に水浴びをしていたエルは、翼に着いた水気を吹き飛ばすようにして羽ばたかせた。びしょ濡れになった美麗は、顔に着いた水を腕で拭き彼女の傍にエルは擦り寄り甘えるようにして頬摺りした。

その光景を見た愁は、微笑を浮かべ水浴びをする馬達の体を洗ってあげた。




響き渡る蝉の鳴き声……馬達の水浴びを終えた愁は木陰で美麗に膝枕をしながら、本を読んでいた。牧場では、放し飼いにした馬達が走り回り、牛達は草を食べていた。


『……?』


不意に吹く風に、愁は読書を辞め空を見上げた。二羽の鳥が空を自由に飛び交う中、空から5匹の竜が牧場に向かって下降してきた。


『……

美麗、起きて』

「ん~~……な~に?」

『ネロ達…』

「え?」


寝惚けた表情をしながら、美麗は空を見上げた。牧場を駆け回っていた馬達は、愁達の元へ駆け寄り愁は怯える彼等を落ち着かせるかのようにして、体を撫でてやった。


「ネロ!プラダ!ゴルド!」


舞い降りたネロ達の元へ、美麗は嬉しそうに駆け寄りネロの頭に飛び付いた。ネロの傍にいたプラダ達は、彼女の元へ駆け寄り頬を舐めた。


「この辺りで竜を飛ばしてると、必ずこの子達がついてくるシステムなのかしら?」


離れた所に降りた竜から飛び降りた花琳は、そう言いながら牧場を見回した。


「あ、花琳」

「久し振りね、美麗。

幸人は在宅かしら?」

「いるけど……

今、陽介が来てるよ」

「あら好都合。

お邪魔するわよ」


西領域

家の中へと入って行く花琳達の後を、美麗達は追い駆けていった。

 

 

 

家の中へ入ると、リビングには面倒くさそうに頭を掻く幸人とやって来た花琳達に資料を渡す陽介がソファーに座っており、奥の台所では食器を洗う秋羅と彼を手伝う瞬火が立っていた。

 

 

美麗はふと花琳の肩から降りた白い小猿に興味を持ち、小猿は彼女に気付くと恐る恐る近寄り差し伸べてきた手のにおいを嗅ぐと、ヒョイと肩に飛び乗った。

 

 

「あら?この子が私達以外の人に懐くなんて」

 

「人と言っても、半妖だからな」

 

「そうだったわね」

 

「花琳、こいつ何?」

 

「猿の妖怪よ。体は小さいけど50年以上は生きているのよ」

 

「名前は?」

 

「ルイって名前よ」

 

「花琳、無駄話してないで話を戻すぞ」

 

「ハイハイ。

 

話し中、ルイの面倒をお願いして良いかしら?」

 

「うん!」

 

 

自身の肩を移動するルイと共に、美麗は愁と一緒に再び外へと出た。

 

 

「さてと、お邪魔虫は消えた……

 

 

陽介、花琳も来たことだからもう一度一から話せ」

 

「そのつもりだ。

 

 

事件の発端は、志那国から遙か西の地域。

 

 

かつて大昔、凶悪な妖怪・牛魔王に支配されていた。ある日、3匹の式神を連れた法師の手により牛魔王は倒され、西領域は平穏な日々を送れるようになった」

 

「ところが、その牛魔王の弟である如意真仙が、その牛魔王を復活させようとしているという情報だ……

 

噂では、かつて法師の式神であった3匹の妖怪を手下にしたという話だ」

 

「随分と、大変なことになっているようね……

 

 

それで、何で私達が呼ばれてこんなに詳しく話を聞かされているのかしら?」

 

「察しろ」

 

「花琳、貴様は志那国を中心に動いている祓い屋だ。

 

外国から依頼が来たんだ。祓い屋を2人雇いたいとな」

 

「フーン。

 

私は良いとして、何で幸人まで?」

 

「こいつは1度、志那国の西領域に行ったことがあるからだ」

 

「あら、そう」

「嘘!?」

 

「行ったって言っても、もう10年以上前の話だ」

 

「今回の任務には、俺と大地が同行する。

 

そこで貴様等に相談だが……」

 

「?」

 

「今回の任務は、志那国の西領域。

 

花琳は既に把握はしているかもしれないが、あの辺りは別名妖怪の巣窟と呼ばれている程、跋扈している。

 

 

そこへ、今回美麗を連れて行くかどうかだ」

 

「確かにそうだな。

 

一応、この日本妖怪の総大将の器だが」

 

「果たして、それが海外で通じるかどうか」

 

「英国に行った時はどうだったんだ?」

 

「あの時は、美麗の母親があそこの妖精王の孫だった事もあって、妖怪に襲われる前に妖精達が助けてくれたから」

 

「既に助っ人がいたと……」

 

「あなたも分かっているとは思うけど、志那国の時はあなた達の曾祖母がずっと一緒に居たから、襲われることはまず無かったわ」

 

「英国の時も、途中から婆がいたからな」

 

「……」

 

「お前はどうしたいんだ?陽介」

 

「討伐隊の隊員としては、是非連れて行きたい。貴重なデータが取れるかもしれないからな。

 

 

だが本音は、正直連れて行きたくない。そんな危険な領域に何でわざわざ餌を放り込まなきゃいけないんだ」

 

「テメェが真面な回答をしてくれて良かった」

 

「それじゃあ、今回は留守番させます?」

 

「幸人、宛はあるか?」

 

「水輝達に頼んでみる。

 

それで駄目なら……秋羅、今回残れ」

 

「平気なのか?それ」

 

「やむを得ない」

 

「わ、分かった」

 

「決まりだな。

 

では」

「ちょっと待ちなさい!!」

 

 

突然、陽介の肩を掴み息を切らしながら大地は話を阻止した。

 

 

「び、ビックリした……」

 

「お前、いたのかよ」

 

「正確には、さっき走ってきて勢い良く飛び込んできたって感じね」

 

「何故来た?

 

話は俺が進めるから、貴様は来なくて良いと」

「行くって言ったでしょうが!!

 

何話進めてるのよ!

 

 

第一、今回はぬらちゃんいないと話が進まないでしょうが!!」

 

「話が進まない?

 

何のことだ?」

 

「ヤバっ!」

 

「大地、あなた何か隠してる?」

 

「い、いや、そ、それは……」

 

「正直に吐け。

 

吐かなければ、今後一切テメェ等の研究に美麗は貸さない」

 

「そんな幸君!!」

 

「この俺にも話せない事か……

 

 

大地、選択肢を与える。今ここで正直に吐くか、この俺に脳天をぶち抜かれたいか……どっちがいい?」

 

 

懐から銃を取り出した陽介は、銃口を大地の額に当て睨み付けた。大地は冷や汗を掻きながら震え声で正直に幸人達に話した。

 

 

「つまり、あっちにいる貴様の研究員仲間が美麗の話を聞いて、ぜひ総大将の娘である彼女に会いたいと……」

 

「だけど、単独で連れ出すのは無理な上、この事を俺等に話せば確実に阻止される……」

 

「そんな時、そこ地域から依頼が入りこれは絶好のチャンスだと思った……

 

 

こんな感じかしら?大地」

 

「はい、そうです」

 

 

その時、草花を手に持った美麗が裏口から入り帰ってきた。彼女の姿を見た大地は一目散に飛び付こうとしたが、その瞬間後ろからついて入ってきた愁が美麗を持ち上げその行為を阻止した。突っ込んだ大地は顔面を壁にぶつけ、鼻から血を出しその場に伸びた。

 

 

「何やってんだが……あの馬鹿は」

 

「幸人、薬草採ってきた!」

 

「おう、サンキューな」

 

『どっか行くのか?』

 

「依頼でまた海外にな」

 

「ぬらぢゃん、一緒に行ぎまじょう」

 

 

顔面血だらけになった大地に、美麗は幸人に抱き着き怖がった。

 

 

「鼻血を止めろ!大地!」

 

「美麗が怖がってるわよ!!」

 

「大地さん、とりあえずティッシュ」




鼻にティッシュを詰めた大地は、大人しく席に座った。美麗は秋羅から林檎を貰い、それを幸人の隣の席に座り食べていた。


「落ち着いた?」

「落ち着きました……」

「海外ってどこ行くの?」

「志那国から遙か西の地域よ」

「天竺のこと?」

「……そ、そうね」

「美麗、よく知ってるな?」

「昔読んだ本に書いてあった。

志那国の西領域、天竺を中心とした所は妖怪の巣窟だって」

「流石本の虫」

「そこ行くの?」

「まぁね。

あなたはお留守番だけど」

「委員長!!」

「えぇ!何で!!」

「今回の所は危険過ぎる。

英国や志那国の時は、テメェの母親や婆が居たから安全だったが……今回はそうはいかない」

「嫌だ!行きたい!!」

「我が儘言うな。

今回は無理だ」

「嫌だ!!」

「美麗!!」

「っ……」


頬を膨らませながら、美麗はソファーの上で体育座りをし幸人から目を逸らした。

それを見て陽介は、軽く溜息を吐いた。その時、嫌な視線を感じ彼は目だけで隣を見た。キラキラと目を光らせた大地の目線が、ずっと自分に向けられていた。


「陽くーん」

「気色悪い声を出すな!」

「じゃあ」

「……ハァ。


幸人」

「?」

「美麗の同行を、こちらか許可する」

「……ハァ!?」
「ヤッター!」

「但し、条件だ。

美麗」

「?」


彼女の額に銃口を当てながら、陽介はドスの利いた声で言った。


「向こうに行ったら、決して幸人達の傍から離れたり隠れたりしないように。単独行動は無論禁止だ。

した場合、どうなるか分かっているよな?」

「……は、はい……」

「ちょっと、美麗怖がってるわよ」


銃口を外された美麗は、隣にいた幸人の腕にしがみついた。幸人は怖がる彼女を宥めるようにして、頭を撫でた。
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