桜の奇跡 作:海苔弁
プラダに乗った美麗は、幸人と花琳が乗る竜の周りを飛び回っていた。
「また竜達に乗って旅とは……」
「気持ち良くていいじゃない」
「乗り慣れている貴様等からすればな」
「陽君、顔色悪いわよ?」
「少し黙れ」
「はい」
「地上に降りたら、酔い止め飲む?」
「飲ませて貰う」
「ところで陽君……
何で水輝までついてきてるの?今回の任務、メンバーは確か幸君達と陽君、花琳達と僕チンのはずじゃなかったかしら?」
「医学に長けた者が必要だと、上から命令が下ってな。それで水輝にしたまでだ。
知っている彼女の方が、素直に診察を受けてくれるだろう?美麗が」
エルに乗る水輝の周りを、プラダに乗った美麗は飛び回り遊んでいた。
「ぬらちゃんはいつになく、自由人ねぇ」
一通り飛び回ると、美麗はネロの元へ行きプラダから降りると愁の前に座った。振り返り自身に笑みを見せる彼女を愁は微笑みを浮かべながら、頭を撫でてやった。
夕方……
夕日に染まる荒野の岩場に、ネロ達は羽を休ませていた。
「一日中空の上は、流石にキツい……」
「ほれ陽介、水」
「情けないわね。
仮にも討伐隊の准将でしょう?」
「馬鹿野郎。
今は少将だ」
「あら?いつの間に上がったの?」
「今の討伐隊どうなってんだ?」
「ここ最近、やたらと妖怪共が凶暴化してな。
任務も増えたんだ。その実績の結果だ」
「凶暴化?」
「黒い霧を纏った妖怪だ……
感情が無く、殺戮マシーンのように次々と人を殺していく。人だけでなく、仲間である妖怪ですら」
「そんな狂暴な」
「俺等祓い屋には、まだ情報が来てねぇぞ」
「次の会議に提示する予定だ。
貴様等はもう、頭に入れておけ」
「強引な奴」
「あのー、お三方……
休憩中申し訳ないんだけど、そろそろ出発しない?」
気まずそうに、大地は幸人達に声を掛けた。彼の声に、アゲハと遊んでいた美麗は気になり、幸人達の元へ駆け寄った。
「もう今日は飛ばないわ」
「は?!」
「今夜はここで野宿。
一応結界は張っとくけど、どうする?
不安なら交代で見張りを付けるけど」
「イヤイヤ!!ちょっと待ちなさい!!」
「何よ?」
「妖怪の巣窟と呼ばれているこの地に、よく野宿しよう何て言えるわね!!」
「仕方ないじゃない。
これ以上、竜達を飛ばすのは無理よ。早朝からずっと飛ばしっぱなしなんだから」
「昼休憩は取ったがな」
「一番近い村と町は?」
「今日中には着かないわ。
明日の昼頃には、大きな町に着く予定よ」
「珍しいね。こんな荒野に村が1つもないなんて。
あってもおかしくないのに」
「全部妖怪に襲われて崩壊したの。
跡地ならあるけど……行く?」
「好んで食われるようなところに、行きたくはない」
「俺もだ」
「あんた方がよくても、僕チンは不安で堪らんの!!」
夜、皆が寝静まる中寝られない幸人は1人、空に浮かぶ満面な星空を眺めていた。
(何にもねぇから、星が綺麗に見える……)
「何だ?貴様も起きていたのか」
口に煙草を加えた陽介は、幸人の隣に立つと煙草に火を点けふかした。
「ちょっと寝られなくてな。
俺にも火貸してくれ」
「ほらよ。
しかし、荒野の夜はいつ見ても綺麗だな」
「全くだ。
今回で何度目だ?ここへ来たのは」
「5回目だ」
「流石少将。俺なんざ、1回で終わった」
「それは貴様が部隊を除隊したからだろうが」
「う……」
「ったく……
まだ恨んでいるのか?元帥と大将を」
「そりゃあね。
でなきゃ、除隊するわけねぇだろう」
「確かにな」
煙草をふかす幸人と陽介……
その時、微かな物音に2人は気付いた。すぐに煙草の火を消し懐から拳銃を取り出すと、音がした方を警戒しながらゆっくりと歩み寄った。
そこには、小石を弄るルイと眠そうにあくびをしながら、ルイと同じく小石を弄りそれを手に取ると軽く岩に投げる美麗がいた。
「何やってんだ?美麗」
「何か目が覚めた」
「何かって……
もう少し寝てろ。明日もまた早いんだから」
「ヤダ……もう少し起きてる」
目を擦りながら、美麗はルイの尻尾を掴み撫でた。軽く溜息を吐いた幸人は、彼女を抱き上げ背中を摩った。
「まるで赤ん坊だな」
「晃の記憶が戻ってから、ずっとこの調子だ」
「仕方ないことだ。
親が死んだ後は、寂しくなる」
「……陽介は寂しかったの?天花が死んだ後」
「……
あぁ……寂しかったな……
突然、胸にポッカリと穴が開いたようになって」
「それをいつも、何かで埋めようとしていた……」
「貴様が共に過ごしていた頃の曾祖母は、どんな人だった?」
「えっとね……
凄い優しくて、強くて……晃や私がいけないことすると、頭に一発殴って怒ってくれて」
(俺等の時と変わらねぇ……)
「天花と一緒にいた時ね、ママが居たらこんな感じなのかなって思った」
思い出す過去……自分を真ん中に、右に晃、左に天花がおり彼等と楽しく森の花畑を歩いていた。
美麗だけでなく、陽介と幸人も過去を思い出していた。
岩を背もたれにして地面に座った幸人達は、夜空を見上げた。空に輝く星々を見ながら、美麗は何かを思い出したかのようにして話した。
「小さい頃夜寝られなかった時ね、私と晃と天花の3人で夜の森で星見たんだ。今みたいに、空に満面に輝く星を、リルや天狐、地狐に空狐、ネロ達と一緒に」
「俺等も、ガキの頃よく婆と見てたな」
「本当?」
「あぁ……
俺達も、夜寝られなくてな。そんな時曾祖母が外に連れ出して今日みたいな、星空を一緒に眠くなるまで眺めたものだ」
「天花、よく言ってた……
星は……亡くなった人が……自分達の大切な人に『自分はいつもここから見てる』っていう合図で…輝いてるって……
ママも晃も……この……星の……」
喋っている途中で、美麗は幸人の膝を枕にして眠ってしまった。
「やれやれ、寝たか」
「婆が言った通りだな……
喋らせておくと勝手に寝るって」
「だな。
俺等もそろそろ寝るか」
「そうだな。明日も早いだろうし」
立ち上がった幸人は、美麗を抱き上げ寝床へと向かった。
彼等の足音に、寝ていたネロは目を覚まし唸り声を上げた。
「唸り声を上げるな。
お前の主、返しに来たんだ」
ネロの傍で添い寝していたエルの胴を枕に、幸人は美麗を寝かせた。エルは小さく鳴き声を発し、その鳴き声にネロは横になると眠りに付き、エルも美麗の頬を嘴で一撫ですると眠りに付いた。
「……そういや、紅蓮の奴どこ行った?」
「別の場所で寝てるんじゃないか?見張り台みたいに」
「そうしとくか……
俺等も寝ようぜ」
「あぁ、そうする」
明け方……
どこからか戻ってきた紅蓮……眠る美麗と愁に体を擦ると、ネロの元へ行き横になった。
『……随分とお疲れのようだな?』
『何だ?起きてたのか』
『まぁな』
『テメェの背中から地上を見た時、群れを何個か見掛けてな』
『それで殲滅か?』
『あぁ……
ほとんどの奴等が、美麗の妖力を狙いにここへ向かっていた』
『そうか……
私も参戦できれば良いのだが……』
『テメェは大人しく寝ておけ。
この地にいる間は、空を飛び続けるんだから体力の温存のためにも』
『申し訳ないな』
『美麗の守りたい気持ちは一緒だ。
もう少し寝てろ。また今日も飛ぶんだから』