桜の奇跡 作:海苔弁
「こ、腰が痛い……それに足も」
起きて早々、大地は腰を抑えながら言った。長い髪を梳かしていた花琳は呆れるようにして、溜息を吐きながら言った。
「全く情けないわね。たかが地面で寝ただけなのに」
「これだったら、ソファーの上で寝た方がよっぽど良いわよ」
「文句言ってないで、とっとと支度しなよ!」
大地が眠たそうに大あくびをしながら体を伸ばしていると、ふと美麗が目に入った。ネロの尻尾を滑り台のように滑っては地面に落ち、またネロによじ登るとまた滑って遊んでいた。
「朝から元気ね、ぬらちゃん」
「診察したけど、いたって平常。
問題はないみたいだよ。朝ごはんもしっかり食べてたし」
「いつの間に!?」
「アンタがブーブー文句を言っている間に、ちゃっちゃかやっといたよ」
「キー!!僕チンも一緒に診察したかった!!」
陽介と共に乗る大地は、頬を膨らませながら頭上を飛ぶネロを見上げていた。
「何を膨れているんだ?」
「せめて頭上じゃなくて、横を飛んで欲しい」
「無理だ。サイズが違うだろう?」
「ブー」
ネロの背中で美麗は、被っていたフードを取り風に当たり髪を靡かせた。
「気持ちいい!」
『美麗、フード』
外れていたフードを愁は、美麗の頭に被せた。立っていた美麗は、愁の前に座り被ったフードの鍔を掴みながら振り返り笑みを見せた。愁は彼女に釣られて笑い、フードを被った頭に手を置いた。
空を飛んでいたネロは突然目付きを変え、鳴き声を発しながらゆっくりと下降した。
「?
ネロ、どうしたの?
!?」
何かの気配を感じ取った美麗は、立ち上がり辺りを見回した。彼女に続いて、花琳や幸人、秋羅、梨白、陽介も気配を感じ取り、武器に手を掛け辺りを見回した。
「何々?何か気配感じるの?陽君」
「少し黙っていろ」
「……」
「……!!
うわっ!!」
突如愁の前から美麗が消えた。キョロキョロと見回した愁は、空を見上げた。
無数に飛ぶ妖怪の群れ……その中に、美麗は捕らわれていた。
「美麗!!」
「秋羅、掴まってろ!」
竜の綱を引っ張り向きを変えさせると、梨白は妖怪の群れに突っ込んでいった。梨白に続いてエルに乗っていた幸人も突っ込んでいった。
「幸人!秋羅!梨白!」
「ギャー!!ぬらちゃんが妖怪の餌食にぃ!!」
「貴様は黙っていろ!!」
近寄ってきたプラダの背中に、陽介は飛び移ると美麗の元へと向かった。
「空の方が安全じゃないの?!花琳!!」
「空からの襲撃なんざいくらでもあるわ!!
それくらい分かりなさいよ!研究員が!」
捕らわれた美麗は激しく暴れ、自身を捕らえる妖怪は彼女から攻撃を食らい、手を緩め離してしまった。すると、落ちる美麗を別の妖怪が掴み捕らえた。
「離して!!」
思いっ切り妖怪の腹に、美麗は蹴りを入れた。妖怪は痛みから彼女を離し、美麗は下へと落ちていった。
「秋羅!受け取れ!!」
秋羅と梨白を乗せた竜が通り過ぎ、落下していく美麗を彼等はキャッチした。
「美麗、無事か!?」
「な、何とか……」
「秋羅、そっち任せたぞ!」
「あ、あぁ」
エルを飛ばす幸人はプラダを飛ばす陽介と共に、銃を持ち構えながら群れの中へと突っ込んでいった。
乱射する銃声を背に、秋羅達は下へと降りて行った。寄ってきたネロの背中へ、美麗は飛び移った。
数分後、倒した群れから戻ってきた幸人はエルを花琳が飛ばす竜に寄せた。
「一旦、地上に降りるわよ!
さっきの戦いで、飛行妖怪がこっちに向かってるわ!」
「分かった!」
地上へ降りる竜達……先に降りた美麗はネロの足下へ移動し、ネロは自分達向かって突進してくる飛行妖怪達に向けて妖力玉を放った。
その玉に怯んだ飛行妖怪達は、尻尾を巻いて逃げていった。ネロは自身の足下にいる美麗に顔を近付け、口先で頬を撫でた。
「凄え、ネロの力」
「本当」
「空を飛ぶのは危険ね……あいつ等、まだ飛んでるわ」
「歩いた方が良さそうだな」
「え?!歩くの!?」
「もうそんなに遠くないわ。
3時間くらい歩けば、もう町に着くわ」
「なら、歩きだな」
「そんなに歩くの?もう少し空を飛んでからの方が」
「梨白、あなたは竜に乗って空からの見張りをお願い。
1匹だけなら妖怪共も襲っては来ないでしょう」
「はい」
「僕チンも空の見張りが」
「貴様は俺の目の届く範囲にいるのが条件で、今回連れて来ていることを忘れるな」
「は、はい」
「秋羅、テメェも空からの見張りで頼む」
「分かった」
梨白の元へ行った秋羅は、彼から竜の綱を受け取り竜に乗ると彼等と共に空へ飛びそれに続いて、美麗に撫でられていたネロ達も飛んで行った。そんな彼等を恨めしそうに眺める大地を無視して、花琳は竜の頭に乗り先頭を歩き出し、幸人は紅蓮に乗った美麗を誘導しながら歩き愁はエルの綱を引きながら水輝と陽介の後をついて行った。
「……ちょっと!!置いて行かないでよ!!」
先行く彼等の後を、大地は慌てて追い駆けていった。
荒野を歩く一行……
「暑ーい」
紅蓮に乗っていた美麗は暑そうに、フードをばたつかせ風を起こしていた。
「町に着くまでの辛抱だ。もう少し我慢しろ」
「ウ~……」
「妖怪共の気配は感じるが……なかなか姿を見せないな」
「普通に考えて空にも地にも竜がいて、最高級の餌の傍には大黒狼とグリフォンがいるんじゃ、襲いたくても襲えないでしょう。
普通に返り討ちに遭うに決まってるじゃない」
「フーン」
その時、空からプラダが舞い降り美麗の周りを飛び回ると、彼女のフードを引っ張り出した。
「プラダ、引っ張らないで!」
「ぬらちゃんとお空のお散歩をしたいみたいね」
「ほら、ネロ達の所に戻って!」
押し返すも、プラダは甘えるようにして美麗に頬摺りした。
「甘えん坊ちゃんね、プラダちゃん」
「も~……」
後ろを歩いていた愁は水輝にエルの綱を渡し、彼はプラダの元へ駆け寄り頬を撫でると、プラダに乗った。首を撫でるとプラダは美麗の頬を一舐めし、そのままネロ達の元へ飛んで行った。
このフードを被った少女が?
そう……日本、または倭国の妖怪の総大将の娘であり君達が会ったことのある、初代総大将の藤閒の曾孫。
確かに強い妖気を感じるな。
周りだけでなく、奥底に邪悪な妖気を感じる。
本当にこいつをさらえば良いのか?
もっちろん。そうすれば、君達の主を呼び戻してあげますよ。