桜の奇跡 作:海苔弁
「つ、着いた~」
町を囲う外壁を前に、幸人達は目的地の町に到着した。
空を飛んでいた竜達は地面へ降り立ち、乗っていた秋羅と梨白、愁は竜から降りた。
「門番に話を付けてくるから、ちょっと待っててちょうだい」
「分かった」
花琳と梨白は、門へと向かった。幸人の傍にいた紅蓮は地面に伏せ、紅蓮に乗っていた美麗は彼から降りると彼の頭を撫でた。
「お疲れ、紅蓮」
『早く寝たい』
「もうちょっとしたら、寝られるよ」
撫でる紅蓮を羨ましく思ったのか、愁に撫でられていたエルが彼女の元に歩み寄り、嘴で頬を突いた。突いてきたエルの頬を、美麗は撫でてあげた。エルに続いてプラダとゴルドが彼女の元に擦り寄ってきた。
「皆、すっかりミーちゃんに甘えちゃって」
体を伏せ休んでいたネロは、ふと目を開け体を起こすと3匹に埋もれている美麗を加え、自身の足下に置いた。
「どうしたんだ?ネロの奴」
「上見て見ろ」
幸人に言われ秋羅は上を見た。空には先程襲ってきた飛行妖怪が、自分達の上を飛び交っていた。
「げっ、まだいたのかよ」
「懲りない奴等ねぇ」
「許可は取ったけど……
問題が2つ出来たわ」
紐の着いたベルトを持ちながら、花琳は機嫌悪そうに言った。
「何だよ、問題って」
「1つは言うまでもなく、2人ここに残って竜達の見張り役。
これはまだ良いわ。
問題なのは、美麗よ」
「?」
ネロの顎を撫でていた美麗は、花琳の声にこちらへ顔を向けた。
「……どういう事だ?それは」
「私としては、そのベルトが凄い疑問なんだけど」
「あの町、今現在15歳以下の子供の外出を禁止しているの」
「ぬらちゃん、117歳よ?」
「見た目を見なさい!見た目を!
どう見たって、12・3歳の少女でしょうが!」
「何で禁止なんだ?」
「子供をさらう妖怪がいるみたいでね。
町のルールに、15歳以下の子供は特別な用がない限り外出禁止にしているのよ。
どうしても子供と移動したいというのならば、このベルトを子供の腰に着けて……まぁ、犬みたいにリードを引いて移動する手段しか無い」
「マジかよ……
大地、美麗ここに置いていって良いか?」
「連れて行きなさい!!
目を離して、もしも何かあったらどうするのよ!?」
「うるせぇ……」
「陽介、依頼人とはどこと待ち合わせなの?」
「この町の中にある、役所の中だ」
「大地の研究員仲間は?」
「あの町から少し離れた森の中に住んでるわ」
「仕方ねぇ……
秋羅、ここで愁と水輝と一緒に待機しててくれ」
「分かった」
「美麗はベルト着けての移動だ」
「えー、嫌だ~!」
「我が儘言うな!」
『幸人、俺も一緒に』
「ネロ達の言うこと聞くのは、お前と美麗ぐらいだ。
だから残れ」
自身の服の裾を引っ張るゴルドの頭を、愁は撫でながら幸人の言葉に渋々頷いた。
「ベルト着けて移動なら、私も残りたい」
「ぬらちゃん、ちょっと間我慢しててね」
「お前に言われると、余計嫌だ」
「ぬらちゃん!!その口の利き方は何?!」
「暗輝の影響だね」
「花琳、ベルト貸せ」
頬を膨らませる美麗の腰に、幸人はベルトを着けた。腰に着けられたベルトを、彼女は不機嫌そうに触り弄った。
「少しの辛抱だ。我慢しろ」
「ウ~……」
「じゃあ、ここ頼んだぞ」
「分かった」
「何かあれば、ここから離れるようにしとくから」
「あぁ」
「愁、ネロ達お願いね」
『うん。
美麗、気を付けて』
「うん!」
花琳を先頭に、幸人達は歩き出した。美麗は幸人の元へ駆け寄り、彼の服の裾を掴み歩いて行った。
賑わう町中……多くの人々が歩く中を、花琳達は歩いていた。人混みのせいか時折姿が見えなくなる美麗を、幸人は途中から抱き上げ歩いた。
しばらく歩いて行くと、鉄の柵に囲われた建物に辿り着いた。
「ここか?役所って」
「地図だと、ここみたい」
「中入ろう。人多くて外嫌だ」
「だな」
「君等ですか?
日本から来た祓い屋と討伐隊員というのは」
声を掛けられ振り向くと、そこには金色の髪をハーフアップにし、青い目に眼鏡を掛け紺色の神父姿をした男が立っていた。
「……あなたは?」
「申し遅れました。
僕はこの西領域を任されております、悪魔祓いのランス・フリードと申します」
「祓い屋……じゃああなたが、私達に依頼をしてきた」
「はい。
というより、僕に依頼してきた者がいて手が足りないと思い君達をここへお呼びしたのです」
「依頼主は別にいるという事か?」
「そうですね。
とりあえず、その依頼主のところまでご案内します」
ランスはそう言いながら先を歩き出し、幸人達を連れて役所を出た。
「ところで、あなたの傍にいるその子供は?」
町外れの道を歩いていたランスは振り返り、幸人の傍を歩いていた美麗に目を向けながら、質問した。
「訳あって、俺等と暮らしてるガキだ」
「へー……お嬢さん、お名前は?」
「……美麗」
「ミレイ……どういう字を書くのかな?」
「字?」
「『美』しいに綺麗の『麗』だ」
「綺麗な名前だね。
美麗……
確か、桜の花言葉であるね」
「え?そうなの?」
「ぬらちゃん、自分の名前の由来くらい知っときなさい」
「晃から聞いてたのと違うんだもん」
「晃?
それって、妖怪辞典を作ったあの夜山晃のことですか?」
「そうだよ」
「……君、いくつ?」
「え、ひ」
答える前に、幸人が美麗の口を手で塞いだ。そして、2人の前に陽介は立ち説明した。
「申し訳ありません。
この子に関する情報は、国家機密なのでこれ以上の模索はご遠慮頂きたい」
「わ、分かりました」
後ろの方で、人差し指を口の前で立てながら、幸人が美麗に何かを話す光景を、ランスは目にしつつも先を歩いた。
しばらく歩いていると、町外れの森の中へと入り少し歩いた先に、木で出来た家が一軒ポツンと建っていた。
「町外れの」
「森の中に住んでいる……
大地、貴様の研究仲間は」
「ここね……普通に」
「ランスの雇主って、大地の研究員仲間だったのね……」
「明依さーん、連れて来ましたよー!日本の祓い」
ドアを叩きながらランスが言っていると突然勢いよく戸が開き、彼は戸に顔面をぶつけた。中から出てきたのは、ぼさぼさの長い髪を結い、口に煙草を加えチューブブラに長ズボン、ズボンの裾を入れるようにしてブーツを履き、その上から白衣を着た女性だった。
「誰?あんた等」
「日本から来た祓い屋の者ですが……」
「祓い屋……日本……」
「明依ちゃーん!久しぶりー!」
「あら!大ちゃん!」
後ろにいる大地に向かって、明依は駆け出し思いっきり飛びついた。
「もう!着いたなら着いたって連絡くれればよかったのに!」
「できるわけないでしょ……連絡手段、何もないんだから」
「あ、それもそうか!
ねぇねぇ、それよりどこ?総大将の曾孫」
「え?総大将の曾孫?」
戸にぶつけた鼻を撫でながら、ランスは涙目で首を傾げた。悪寒がした美麗は、被っていたフードを深く被り幸人にしがみついた。
「強烈なあなたにビビって、幸君の後ろに隠れてるわよ」
「幸君?誰のこと?」
「討伐隊の後ろにいる、オッドアイの男よ」
跨がっていた明依は立ち上がり、幸人に歩み寄った。そして彼の後ろに隠れている美麗を見るなり、目を輝かせながら抱き着こうとした。着く寸前に、美麗は幸人から陽介の元へと逃げ彼の後ろに隠れた。
「あらあら、かなりの人見知りなのね!」
「普通に言って、テメェの行動が異常だからだ」