桜の奇跡 作:海苔弁
魑魅魍魎は、恐怖に怯える人々の間に身を潜み機会を伺い、この世界の秩序は危機に晒されていた。
そんな魑魅魍魎から、人々を救う祓い屋がいた。
自身の能力を駆使し、この世界の均等を保つ為に命を賭けて戦っていた。
地下の売り場……
牢屋に閉じ込められた人々を見る、金持ちの男女。
書類に目を通したり、紙にサインして一人、また一人と連れて行かれた。
その中にいた一人の子供は、蹲り顔を伏せながら連れて行かれる人達を見届けていた。
「え?あの子供ですか?」
オーナーである人に、とある二人の男の話し声が聞こえた。
「100万でどうだ?」
「し、しかし……」
「何だ?足りないのか?
なら、もう100」
「違います!違います!
あの子供を買うと、あの子に着いてる黒大狼まで一緒に着いてくるんです!」
「何で?」
「引き離そうとすると、牙を向けてきて何人もの役員が大怪我をして……中には命まで奪われ掛けたとかで」
「……」
「それに、あの子供も相当扱い難い子かと……」
子供を見る二人……傍にいた黒大狼は、彼女に甘えるようにして、鼻で顔を突っつき膝の上に頭を乗せた。子供は無表情のまま、自身の膝に乗った黒大狼の頭を撫でた。
「幸人!」
「だな……
200万で、あいつ買います」
「ほ、本当によろしいんですか?!
うちでは、一切返品を受け付けていませんが」
「倅が気に入った。
早く、手続きさせろ」
「……か、かしこまりました」
書類にサインをする男……もう一人の男が、檻から出した子供の元へ駆け寄った。首に鎖を付けられ、黒大狼と共に出て来た子供は、駆け寄ってきた男を見上げた。
「……本当珍しいな。
赤目に白髪なんて」
「……」
「秋羅、行くぞ!」
「あ、はーい!
行こう!」
差し伸ばした手を、子供は恐る恐る手を伸ばしゆっくり握った。ふと、顔を上げると彼の顔は微笑んでおり、彼に引っ張られるようにして、歩み出した。
馬車の中、黒大狼は子供を乗せて馬の隣を歩いていた。子供は大狼の背中に倒れるようにして、眠っていた。
その間、一緒に乗っていた男は、袋の中にあった物を一式出し見ていた。
「なぁ!これ、本当にこいつの物?」
馬車を動かしていた男に、彼は声を掛けた。
「そうらしい。
森にいたところを捕まえて、そのまま売買に回した。
持っていたのは、その袋に入ってる物だけだそうだ」
「……フーン。
何か、見たことも無い物ばかりだな」
「家に帰ったら、それ類全部調べる。
一部の物は、見たことあるしな」
「……」
その時、一緒に歩いていた大狼が、耳を立てて立ち止まった。それに合わせて、子供も眠い目を擦りながら起き上がった。
それと同時に、馬車が止まった。
「?
どうした?幸人」
「お出ましだ……秋羅!戦闘用意!」
「了解!」
「って、おい!!」
子供を乗せた黒大狼は、現れた妖怪達に向かって駆けて行った。妖怪達は、子供と黒大狼に気付くと一斉に襲い掛かった。
二人が助けに行こうとした次の瞬間、子供は黒大狼から飛び降り、黒大狼はそれを確認して体に赤い炎を纏わせて、口から炎を吹き出した。一部の妖怪達が焼き殺されていく中、子供は残っていた妖怪に蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされ、倒された妖怪に子供は隙を狙い、馬車の中から紙を出し放った。紙は邪気を吸い取るようにして妖怪を消し去った。
襲いに来た妖怪達は、跡形も無く消えた……その様子に、男二人は口を開けて驚いていた。
「凄え……」
「……まさか、俺等以外にいたとはな。
祓い屋が」
炎を消し、黒大狼は子供に駆け寄った。子供は軽く溜息を吐くと、その場に座り込んだ。
「大丈夫か?」
「……ヘッタ」
「?」
「腹……減った」
川辺に馬車を止めた彼等は、海苔が巻かれたおにぎりを食べていた。
「そういや、自己紹介まだだったな。
俺は月影秋羅(ツキカゲアキラ)。よろしくな!
そんで、このオッサンは」
「月影幸人(ツキカゲユキヒト)。
お前さん、名前は?
と言うか、あるのか?」
「……紫苑」
「紫苑……へ~」
「その相棒の名前は?あるのか?」
「……紅蓮」
後ろで伏せていた黒大狼は、顔を上げ鳴き声を出しながら、紫苑に顔を擦り寄せた。
「なぁ、紫苑は祓い屋か?」
「はらいや?
何?それ」
「……難しい話は、家に帰ってからだ」
「へ?何で?」
「雨が降る」
空を見上げると、黒い雲が空に広がってきていた。
数分後、大粒の雨が降り出した。紫苑は馬車の中へ入り、紅蓮は馬車の傍を歩いた。馬車に入った紫苑は、傍にあった箱に凭り掛かるようにして眠りについていた。
「こいつ、よく寝るなぁ」
「さっき、妖怪退治した時にでも体力使って、疲れたんだろ?」
「……」
「お!着いたぞ」
馬車を止めると、幸人は門を開け馬の手綱を引っ張り、馬を馬小屋へ入れ馬車を倉庫へ戻した。
幕を上げると、馬車から荷物を取り出し秋羅と共に家の中へと入った。物音に紫苑は起き、大あくびをしながら眠い目を擦った。
「起きたか。
着いたぞ。今日からここがお前の家だ」
馬車から恐る恐る降りる紫苑……
目の前には、広い庭と三軒の小屋に大きな二階建ての家が建っていた。
「広くて驚いたか?」
「……」
「ほら、中に入れ」
中に入ると、二本の尾を持った猫が、紫苑に寄り体を擦り寄せた。
「留守番ご苦労だったな、瞬火!」
「……また?」
「瞬火だ」
家の中へ入った秋羅は、横に置かれていたタオルを紫苑に渡した。
「それで、紅蓮の体を拭いてやれ」
「……」
拭こうとした瞬間、紅蓮は体を激しく揺さぶり水飛沫を飛ばした。
「や、やられた……」
「……紅蓮」
夜……
幸人は自身の部屋で、紫苑の私物を調べていた。
「幸人、何か分かったか?」
「凄いな……」
「え?何が?」
「この小太刀、黒曜石で出来てる」
「……ハァ!?
黒曜石ってあの!」
「今は鉄類で武器を作るが、黒曜石で作るなんて百年前の人間がやることだぞ」
「じゃあ、紫苑は百年前のガキなのか?」
「んな訳ないだろ。
とりあえず、明日の朝もう一度店に行って、オーナーに詳しく聞いてみる」
「他にも、気になることがあるのか?」
「大ありだ。
まず、この歳で祓い屋が少しおかしい。
祓い屋になるには、最低でも15年修行しなきゃならない。修行を終えても自身の師である人と共に過ごし、師が亡くなって初めて祓い屋となる……が、あいつの年齢は14歳。
パッと見、先生と呼べる奴がいたとは、考えにくい」
「師が亡くなって、初めて祓い屋になるか……よし」
「変なこと考えてないで、とっとと寝ろ」
斧を手にした秋羅に、幸人は呆れながら彼に言った。