桜の奇跡   作:海苔弁

2 / 228
この世界は、人と妖が共に住んでいた。


魑魅魍魎は、恐怖に怯える人々の間に身を潜み機会を伺い、この世界の秩序は危機に晒されていた。


そんな魑魅魍魎から、人々を救う祓い屋がいた。
自身の能力を駆使し、この世界の均等を保つ為に命を賭けて戦っていた。


出会い

地下の売り場……

 

 

牢屋に閉じ込められた人々を見る、金持ちの男女。

 

書類に目を通したり、紙にサインして一人、また一人と連れて行かれた。

 

 

その中にいた一人の子供は、蹲り顔を伏せながら連れて行かれる人達を見届けていた。

 

 

「え?あの子供ですか?」

 

 

オーナーである人に、とある二人の男の話し声が聞こえた。

 

 

「100万でどうだ?」

 

「し、しかし……」

 

「何だ?足りないのか?

 

なら、もう100」

「違います!違います!

 

 

あの子供を買うと、あの子に着いてる黒大狼まで一緒に着いてくるんです!」

 

「何で?」

 

「引き離そうとすると、牙を向けてきて何人もの役員が大怪我をして……中には命まで奪われ掛けたとかで」

 

「……」

 

「それに、あの子供も相当扱い難い子かと……」

 

 

子供を見る二人……傍にいた黒大狼は、彼女に甘えるようにして、鼻で顔を突っつき膝の上に頭を乗せた。子供は無表情のまま、自身の膝に乗った黒大狼の頭を撫でた。

 

 

「幸人!」

 

「だな……

 

200万で、あいつ買います」

 

「ほ、本当によろしいんですか?!

 

うちでは、一切返品を受け付けていませんが」

 

「倅が気に入った。

 

早く、手続きさせろ」

 

「……か、かしこまりました」

 

 

書類にサインをする男……もう一人の男が、檻から出した子供の元へ駆け寄った。首に鎖を付けられ、黒大狼と共に出て来た子供は、駆け寄ってきた男を見上げた。

 

 

「……本当珍しいな。

 

赤目に白髪なんて」

 

「……」

 

 

「秋羅、行くぞ!」

 

「あ、はーい!

 

行こう!」

 

 

差し伸ばした手を、子供は恐る恐る手を伸ばしゆっくり握った。ふと、顔を上げると彼の顔は微笑んでおり、彼に引っ張られるようにして、歩み出した。

 

 

 

馬車の中、黒大狼は子供を乗せて馬の隣を歩いていた。子供は大狼の背中に倒れるようにして、眠っていた。

 

 

その間、一緒に乗っていた男は、袋の中にあった物を一式出し見ていた。

 

 

「なぁ!これ、本当にこいつの物?」

 

 

馬車を動かしていた男に、彼は声を掛けた。

 

 

「そうらしい。

 

森にいたところを捕まえて、そのまま売買に回した。

 

 

持っていたのは、その袋に入ってる物だけだそうだ」

 

「……フーン。

 

 

何か、見たことも無い物ばかりだな」

 

「家に帰ったら、それ類全部調べる。

 

一部の物は、見たことあるしな」

 

「……」

 

 

その時、一緒に歩いていた大狼が、耳を立てて立ち止まった。それに合わせて、子供も眠い目を擦りながら起き上がった。

 

それと同時に、馬車が止まった。

 

 

「?

 

どうした?幸人」

 

「お出ましだ……秋羅!戦闘用意!」

 

「了解!」

 

「って、おい!!」

 

 

子供を乗せた黒大狼は、現れた妖怪達に向かって駆けて行った。妖怪達は、子供と黒大狼に気付くと一斉に襲い掛かった。

 

二人が助けに行こうとした次の瞬間、子供は黒大狼から飛び降り、黒大狼はそれを確認して体に赤い炎を纏わせて、口から炎を吹き出した。一部の妖怪達が焼き殺されていく中、子供は残っていた妖怪に蹴り飛ばした。

 

蹴り飛ばされ、倒された妖怪に子供は隙を狙い、馬車の中から紙を出し放った。紙は邪気を吸い取るようにして妖怪を消し去った。

 

 

襲いに来た妖怪達は、跡形も無く消えた……その様子に、男二人は口を開けて驚いていた。

 

 

「凄え……」

 

「……まさか、俺等以外にいたとはな。

 

祓い屋が」

 

 

炎を消し、黒大狼は子供に駆け寄った。子供は軽く溜息を吐くと、その場に座り込んだ。

 

 

「大丈夫か?」

 

「……ヘッタ」

 

「?」

 

「腹……減った」

 

 

 

川辺に馬車を止めた彼等は、海苔が巻かれたおにぎりを食べていた。

 

 

「そういや、自己紹介まだだったな。

 

俺は月影秋羅(ツキカゲアキラ)。よろしくな!

 

 

そんで、このオッサンは」

 

「月影幸人(ツキカゲユキヒト)。

 

お前さん、名前は?

 

 

と言うか、あるのか?」

 

「……紫苑」

 

「紫苑……へ~」

 

「その相棒の名前は?あるのか?」

 

「……紅蓮」

 

 

後ろで伏せていた黒大狼は、顔を上げ鳴き声を出しながら、紫苑に顔を擦り寄せた。

 

 

「なぁ、紫苑は祓い屋か?」

 

「はらいや?

 

何?それ」

 

「……難しい話は、家に帰ってからだ」

 

「へ?何で?」

 

「雨が降る」

 

 

空を見上げると、黒い雲が空に広がってきていた。

 

数分後、大粒の雨が降り出した。紫苑は馬車の中へ入り、紅蓮は馬車の傍を歩いた。馬車に入った紫苑は、傍にあった箱に凭り掛かるようにして眠りについていた。

 

 

「こいつ、よく寝るなぁ」

 

「さっき、妖怪退治した時にでも体力使って、疲れたんだろ?」

 

「……」

 

「お!着いたぞ」

 

 

馬車を止めると、幸人は門を開け馬の手綱を引っ張り、馬を馬小屋へ入れ馬車を倉庫へ戻した。

 

幕を上げると、馬車から荷物を取り出し秋羅と共に家の中へと入った。物音に紫苑は起き、大あくびをしながら眠い目を擦った。

 

 

「起きたか。

 

着いたぞ。今日からここがお前の家だ」

 

 

馬車から恐る恐る降りる紫苑……

 

目の前には、広い庭と三軒の小屋に大きな二階建ての家が建っていた。

 

 

「広くて驚いたか?」

 

「……」

 

「ほら、中に入れ」

 

 

中に入ると、二本の尾を持った猫が、紫苑に寄り体を擦り寄せた。

 

 

「留守番ご苦労だったな、瞬火!」

 

「……また?」

 

「瞬火だ」

 

 

家の中へ入った秋羅は、横に置かれていたタオルを紫苑に渡した。

 

 

「それで、紅蓮の体を拭いてやれ」

 

「……」

 

 

拭こうとした瞬間、紅蓮は体を激しく揺さぶり水飛沫を飛ばした。

 

 

「や、やられた……」

 

「……紅蓮」




夜……


幸人は自身の部屋で、紫苑の私物を調べていた。


「幸人、何か分かったか?」

「凄いな……」

「え?何が?」

「この小太刀、黒曜石で出来てる」

「……ハァ!?

黒曜石ってあの!」

「今は鉄類で武器を作るが、黒曜石で作るなんて百年前の人間がやることだぞ」

「じゃあ、紫苑は百年前のガキなのか?」

「んな訳ないだろ。

とりあえず、明日の朝もう一度店に行って、オーナーに詳しく聞いてみる」

「他にも、気になることがあるのか?」

「大ありだ。

まず、この歳で祓い屋が少しおかしい。

祓い屋になるには、最低でも15年修行しなきゃならない。修行を終えても自身の師である人と共に過ごし、師が亡くなって初めて祓い屋となる……が、あいつの年齢は14歳。
パッと見、先生と呼べる奴がいたとは、考えにくい」

「師が亡くなって、初めて祓い屋になるか……よし」

「変なこと考えてないで、とっとと寝ろ」


斧を手にした秋羅に、幸人は呆れながら彼に言った。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。