桜の奇跡 作:海苔弁
馬小屋でエルと眠っていた紅蓮は、不意に吹く生暖かな風に目を覚ました。
(……何だ、この気配)
立ち上がった紅蓮は、馬小屋から出て行った。
宿の後ろに広がる牧場に、降り立つ3匹の妖怪……そこへ紅蓮は、炎の玉を放ち彼等に攻撃した。当たる寸前に、彼等は飛び上がり攻撃を避けた。
『どういうつもりで、ここへ来た?』
そう言いながら、紅蓮は口から煙を吐きながら3匹を睨んだ。
『我々は、使命のために来ただけだ』
『使命だと?』
『いるんですよね?
闇の力を多く持った、倭国の妖怪の総大将曾孫様が』
『……(やはり狙いは、美麗か)』
『さぁ、死にたくなければ早くここから立ち去りなさい』
『テメェ等に主を渡す気はない』
『あ~らら、話が通じねぇ見てぇ。
ちょいと痛め付けるか……
良いか?』
『殺すなよ?』
武器を出す2匹を前に、紅蓮は攻撃態勢を取り口に炎を溜め、作り上げた玉を放った。
「……?」
外から聞こえる騒音に、美麗は気付き目を覚ました。
「……何だろう……
凄い妖気……」
服に着替えた美麗は、ソッと部屋を出ていき表へ出た。
静けさが漂う暗い外……辺りを警戒しながら、美麗は気配を感じた馬小屋の方へ向かった。
馬小屋へ行き中へ入った美麗は、自身の気配に気付いたのか起き上がったエルの頬を撫でながら、傍にいるはずの紅蓮を探した。
「紅蓮?」
彼を探すべく、美麗は小太刀の束を握り外へ出た。
「総大将曾孫、見っけ」
「!?」
背後から声が聞こえ、素早く振り向いた美麗は小太刀を構え後ろにいる敵に目掛けて、勢い良く突いた。突かれた小太刀は、2本の指で止められ防がれていた。
「え……嘘……」
呆気に取られている時、目の前から突き出された手が美麗の口を覆い掴み持ち上げられた。
(ち、力が)
『武器持ってるなんて、聞いてねぇぞ』
『か弱い少女と感じましたが、戦える女性みたいでしたね』
『あんま暴れると、怪我するぞ?』
足をばたつかせ、口を塞ぐ手を外そうと美麗は手を動かした。
『オーオー、元気良いねぇ』
『時間の無駄だ。
とっとと……?!』
“バーン”
突如銃弾が3人の間を通り、後ろの地面に打ち込まれた。前方を見ると、そこには銃口を自分達に向けた幸人と陽介、鉄扇を構えた花琳が立っていた。
「何人の者、盗ってんだよ」
「窃盗で捕まりたいのか?」
『気配は消していたはずなのに』
『さっきの戦闘で分かったんじゃねぇの?』
『軽めにしろと言ったはずが、どういう訳か力を解放したせいだろうな』
『力なんざ、ほんの5割程度だ』
『それが駄目なんだよ!!』
「ごちゃごちゃ喋ってないで、さっさとその子を返しなさい」
『だってよ。どうする?』
『お前は先に行っていろ。
ここは俺等が……!?』
『うわっ!!な、何だ!?』
突如地面に生えている草が伸び、3人の体に巻き付き動きを封じた。敵の力が緩んだ隙に、美麗は握っていた小太刀で口を封じている手を刺した。
痛みで敵は手を離し、美麗は解放され地面に落ちた。その瞬間、彼女の周りに草が伸び包み込んだ。
『ヤベ!』
『何離してるんだ!?』
『こいつが手を刺したんだ!!』
身動きが取れない彼等に、突如火の玉が飛び彼等の腕や足に当たった。
『熱っ!!』
『人の主を断りも無しに奪おうとは、良い度胸してるじゃねぇか?』
傷だらけになった紅蓮と、木で作り上げた弓矢を持った愁がそこに立っていた。
『チッ!出直しだ!!』
手から光の玉を出した男は、それを地面に叩き付けた。その瞬間、辺り一面に強烈な光が放たれ幸人達は目を瞑った。
『主を守りたいのは、俺達も一緒だ』
『我々も、主を救いたいんですよ』
『その為には、総大将曾孫が必要なんだよ』
光が治まり辺り見回したがそこに、3人の姿は無かった。その言葉を残したまま……
「クソ!」
「逃げられたか」
「でも、美麗は奪われてないわ」
伸びていた草が枯れ、草に包まれていた美麗は駆け寄ってきた愁に抱き着いた。
無事を確認した紅蓮は、力尽きたのかその場に倒れた。
「紅蓮!!」
すぐさま幸人達は駆け寄り、紅蓮を診ると体中に切り傷があった。
「傷だらけじゃねぇか」
「さっきの奴等にか?」
『ちょっとやり合っただけだ……』
「紅蓮……」
「一旦馬小屋に行く。紅蓮立てるか?」
幸人の声に、紅蓮はふらつきながら立ち上がり、彼に支えられながら馬小屋へ向かった。その間に、花琳は水輝を起こしに部屋へと戻った。
しばらくして、花琳は水輝を連れて戻ってきた。
「凄い傷だらけ……(でも、ほとんどが致命傷って訳じゃない……
殺す気なんてないって感じ……)」
「傷の具合はどうなんだ?」
「傷口が塞がるまで、安静。
致命傷じゃないけど、良いって訳でも無いから」
『美麗……いるのか……』
「いるよ。愁が抱っこしてる」
傷の手当てをする水輝の横に、愁は歩み寄りしゃがみ抱いていた美麗を降ろした。
「……紅蓮」
『無事で……よかった……』
頭を起こした紅蓮は、美麗の頬を舐めた。美麗は愁の服を掴みながら、紅蓮の頬を撫で頭を撫でた。撫でられた紅蓮は安心したのか、横になった。
「ここは私に任せて良いから、皆はもう寝て良いよ」
「そうだな……明日も早いしな」
「部屋に戻って休みましょう」
「……愁と一緒がいい」
愁にしがみつきながら、美麗はボソッと言った。
「無理だぞ。宿の決まりで」
「嫌だ!一緒に居る!!」
「ちょっと、聞き分けないこと」
「嫌だ!!」
しがみつく美麗の様子に、3人は驚き互いを見合った。
「手当て終わったら、私が後で部屋に連れて行くから」
「良いのか?」
「別に構わないよ。
ミーちゃん、あとで一緒に行こうね」
手当てを始めた水輝と美麗達を残して、幸人達は部屋へと戻った。
『クソ、まだ痛むぜこの傷』
『後で手当てしますから、あまり触れないで下さいよ』
『あぁ……
にしても、飛んだ邪魔が入ったな』
『そうですね……こっそり連れて行くつもりが、こんな大事になるとは』
『捕まえるチャンスはまだある。
俺は一旦アジトへ戻るが、追跡と見張りは任せたぞ』
『りょーかい』
『早く手に入れたいものですね。
彼女の力があれば、もう一度主に会えるんですから』
『どんなことをしてでも、主を蘇らせるのが俺等の使命ってもんよ』
『長い年月を掛けたからな……』
3人の記憶に蘇る風景……
1人の法師を中心に、彼等は寄り添っていた。そして、いつも笑みが絶えなかった。
『必ず、成功させたいですね』
『させたいんじゃなくて、するんだよ』
『あの日々を、取り戻すために』