桜の奇跡 作:海苔弁
「何か、ここ最近とても地面が恋しいわ」
「ずっと空の旅だからな」
「陽君、顔色少し悪いわよ?」
「半分、酔っているからだ……」
「酔い止め、もう1錠飲む?」
「貰う」
湖の水を飲むネロの傍ら、目を覚ました紅蓮を美麗はずっと彼の頭を撫でていた。
「傷、痛い?」
『昨日よりはマシだ』
「その様子だと、傷はもう大丈夫そうだね」
傷薬を持ってきた水輝は、2人の様子を窺いながら歩み寄ってきた。
「紅蓮、包帯取るから体触るよ」
『頼む』
「水輝、紅蓮はもう平気なの?」
「傷口がもう、かさぶたになってるから平気だよ。
ただ、無理は禁物。なるべく安静にね」
「……」
「さ、次はミーちゃんの番だよ」
頬に張ってある湿布を、水輝は取り痣の状態を見た。
「(腫れは治まってるなぁ……)
ミーちゃん、頬痛い?」
「少し……押すとまだ痛い」
「そっか……また湿布貼っとくね」
湿布を貼る水輝の元へ、愁の肩に留まっていたアゲハが飛び寄った。
「アゲハ、大丈夫だよ。
湿布、貼り替えただけだから」
『キー?』
貼り終えると、アゲハは美麗の頭に乗った。自身の頭に乗ったアゲハを、美麗は撫でてやった。
その時、水を飲んでいたネロが唸り声を上げながら攻撃態勢に入った。ネロに続いて、ゴルドにプラダ、花琳の竜達も唸り声を上げながら攻撃態勢に入り、秋羅の傍にいたエルは美麗の傍へ行った。
「何だ?一体……」
「妖気は感じないけど……」
「……いや、いるよ」
首から下げていた十字架を手にして、ランスは湖の畔を歩き自分達に近付く妖怪の方を向いた。
「いつの間に?!」
「あれは人から妖怪になった者だよ。
ここは僕に任せて」
十字架を翳すランス……何やら呪文を唱えると、十字架が光り出した。その光に、妖怪は嫌がるようにして顔を腕で覆い、後ろへ下がった。
「さぁ、もう苦しむことはありません。
逝きなさい」
更に強くなった光に、妖怪は叫び声を上げながら消滅した。消える中、人の姿が現れその者も安心したかのような表情を浮かべて、彼等の前から消えた。
「消えた……」
「妖怪になった人は、二度と人には戻れません。
共にあの世へ逝かせるのです」
「……」
『ヒャー、危うく当たるところだった』
空の上……青い雲の上に乗る、昨夜美麗を襲った男達が彼等を見下ろしていた。
『また面倒な輩を連れ込みましたね』
『総大将曾孫、かなり警戒しまくってるな』
『彼女だけじゃありません。
周りにいる者達も、僕等に警戒していますよ』
『襲うのは無理そうだな……』
『隙が出来れば、襲えますよ。
それまで見張りです』
『ヘイヘイ』
夜……荒野にあった森に、幸人達は休んでいた。メラメラと燃える焚き火を囲いながら、彼等は辺りを見回していた。
「こんな所で、まさか野宿なんて」
「当たり前でしょ。
1日で着けるわけなじゃない」
「う……」
「まぁまぁ、気ままに行きましょうよ!」
「そういや、さっきやってた祓い方やっぱこっちと違うな?」
「俺等のやり方って、数珠と札を使って封印するか結界張ってそこで倒すかのどっちかだもんな」
「他にもあるけどな」
「我々の方では、祓い屋のことを悪魔祓いと呼ばれています」
「悪魔祓い?
確かそれって、マリウスの国にいる奴等のはずじゃ」
「どこにでもいますよ。
僕は、ここで祓い屋をやっているだけなので」
「ランスさんって、生まれは?」
「さぁ……元々捨て子だったので。
教会にいた牧師様が、僕を拾ってくれて。それからずっと」
「そのまま引き継いだって事か?」
「まぁ、そうですね」
バチバチと焚き火が鳴り響いた……幸人の傍に座っていた美麗は、辺りを気にしながら彼にしがみついた。
「何か、総大将曾孫の割にはビビりだね」
「普段ビビりじゃないわよ。
記録だと、大型妖怪に立ち会ったくらい逞しい子よ」
「うっそー?!」
「本当本当」
「前夜の事が原因か?」
「だろうな」
すると彼女を慰めるようにして、ゴルドとプラダが彼女の元へ寄ると、頭を擦り寄せた。擦り寄ってきた2匹の頭を、美麗は撫でてやりそのお返しに2匹は交互に彼女の頬を舐めた。
「すっかり甘えちゃってる、2匹共」
「本当に好かれるのね、美麗って」
寄ってきた自身の竜を、花琳は撫でながら美麗を見つめた。
夜が老けた頃……
幸人と陽介は見張り役として起き、それ以外の者は眠りに付いていた。美麗は紅蓮に抱き着くように眠り、彼女を守るようにしてエルが傍で眠り、エルの胴を枕代わりに愁は眠り、彼等を囲うようにしてゴルドとプラダ、ネロが丸まって眠っていた。
その様子を、空から彼等は眺めていた。
『夜になれば少し隙が出来るかと思ったが……完全守備で、隙がねぇ』
『仕方ないですよ。
前夜の事もありますからね』
『ま、まぁな……
そういや、キャプテン遅いな?』
『えぇ。
もう、戻ってきていいはずですが』
『……アイツ、またあそこにいってんじゃねぇだろうな?』
『可能性高いですね。
三蔵と一番長くいたのは、彼ですから』
『……』
『あなたが、総大将……藤閒の曾孫ですか?』
誰?
『その髪、藤閒ソックリですね』
曾祖父ちゃん、知ってるの?
『えぇ……一時、お世話になりました。
少しの間、あなたの中にいさせて下さい。
何、悪いようにはしませんよ』
何かするの?
『時が来た時、あなたの身体をお借りします。
私には使命があるんです……
彼等を導かなければならない使命が』
「……」
目を覚ます美麗……既に起きていたアゲハが、触角で彼女の頬を撫でていた。
「ん~……アゲハ、くすぐったい」
アゲハの触覚を手で退かしながら、美麗は起き上がった。寝惚ける彼女の前に、花琳の竜が寄り鼻で頬を突っついた。突っつかれた美麗は後ろに倒れ、それを見たゴルドとプラダは鳴き声を発しながら、守るようにして彼女の前に立った。
「ゴルド、プラダ、大丈夫だから退いて」
「あら、ぬらちゃん起きたの?」
近寄ってきた大地に、美麗は身を引き歩み寄ってきた幸人の元へ駆け寄り彼にしがみ付いた。
「あ~、ぬらちゃん」
「気色悪い声を出すな」
「だって~」
「水輝の所に行ってろ」
大地を気にしながら、美麗は水輝の元へ駆け寄った。水輝の元へ寄ってきた美麗に、明依はジーっと見つめながら寄ってきた。
「ちょっと明依、寄り過ぎ。
怖がってるよ、ミーちゃん」
「寝起きの顔って、ずいぶん不機嫌な顔ね。総大将曾孫」
「ミーちゃん。朝苦手みたいだからね」
目を擦っていた美麗は、茂みから出てきた愁の姿を見るなり、彼の元へ駆け寄り抱き付いた。
「ねぇ、あの愁って曾孫の兄弟か何か?」
「いや違うよ。
彼は桜の守。名前くらい、聞いたことあるよね?」
「闇を消す妖怪だっけ?
でも、ずいぶん前に絶滅したって聞いたけど」
「何か、生き残ってたみたいだよ」