桜の奇跡   作:海苔弁

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飛行している時だった……


「……?」

「何か、空気変わってない?」

「やけに静かね……」


三蔵法師

別ルートを飛んでいたネロは、異様な気配を感じ突如地面へ降り立った。彼に続いて陽介達も地面へ降りた。

 

 

「ど、どうしたの?ネロちゃん」

 

「分からん」

 

 

ネロの背中から降りる愁と紅蓮……美麗が降りようとした時だった。

 

 

『成る程、別ルートで行っていた訳か……

 

道理であいつ等の所にいないはずだわ』

 

 

聞き覚えのある声に、美麗は小太刀の束を握りながら振り返った。

 

 

黄色い曇から降りる男……彼の姿に紅蓮は唸り声を上げながら、愁と共に美麗の前に立った。

 

 

「大地、すぐに彩煙弾を打て!」

 

「今用意してるわよ!」

 

 

片耳を塞ぎながら、大地は空に向かって彩煙弾を放った。

 

 

陽介は銃を構えながら美麗と愁を、自身の後ろへ行かせた。

 

 

「貴様に問う。名は?」

 

『……名乗ってどうするんだ?

 

 

この俺を捕まえるのか?』

 

「良いから名を名乗れ」

 

『……斉天大聖……

 

 

俺は、斉天大聖・孫悟空だ』

 

(やはり……)

 

「孫悟空って、まさか明依ちゃんのところで見たあの三蔵法師の式神の1人、猿の容姿をしたあの?!」

 

「貴様等、主を救うには彼女が必要だと言っていたが、彼女の何が必要なんだ?」

 

『さぁな。

 

俺等は、主……三蔵を救うには総大将曾孫の力が必要だと、聞かされているだけだ』

 

(聞かされているだけ?

 

やはり、彼等だけで動いているのではなく、バックがいたという事か)

 

『お喋りはここまでだ。

 

とっとと、総大将曾孫を渡して貰おうか』

 

「残念だが、渡せないな。

 

と言うより、彼等が彼女を渡さないさ」

 

 

紅蓮の横に立つネロは、荒い息を吹きながら悟空を睨んだ上で、咆哮を上げた。ネロに続いてゴルドも咆哮を上げた。すると2匹は口に妖力を溜め、玉を作り出すとそれを悟空目掛けて放った。

 

 

爆風と煙が立ち上がる中、そこに無傷の悟空が如意棒を手に持ち立っていた。

 

 

「嘘!?」

 

「全然効いていないだと」

 

『テメェの力は、そんなモノか?』

 

 

その言葉にネロは目の色を変え口に妖力を溜め、ネロに合わせて、紅蓮も口に炎を溜めた。それを見たゴルドは、ネロの傍にいる美麗と愁、陽介を連れて遠くへ飛んだ。

 

 

「ちょ、ちょっと!!置いて行かないでちょうだい!!」

 

「ゴルド、戻って!!ネロと紅蓮が!」

 

 

遠くへ離れた時だった……放たれる炎の玉と特大の妖力玉。二つの玉が混合し一つの玉となり、それは悟空に当たった。

 

 

「す、凄ぉい……あんな特大な妖力玉、初めて見たわ」

 

 

鳴き声を発したゴルドは、ネロ達がいる付近に戻り降り立った。ゴルドの背中から降りた美麗は、煙が立ち上がる中へ駆け込み紅蓮達を探した。

 

 

「紅蓮!ネロ!」

 

『美麗、待って!』

 

 

徐々に晴れていく煙……その中から、影が見えた。

 

 

「ネロ?紅蓮?

 

だいじょ……!?」

 

 

傷だらけになり、倒れるネロと紅蓮……ネロの体に腕に火傷を負った悟空が座っていた。

 

 

「これは……」

 

「ちょっとちょっと……竜谷を作ったと言われてるあの伝説の竜が、こうも簡単に……

 

 

 

!!

 

ぬらちゃん、駄目よ!」

 

 

2匹の元へ駆け寄ろうとした美麗を、大地は慌てて抑えた。

 

 

「何という強さだ……ちょっとやそっとじゃ敵わないぞ……(幸人達は何をしているんだ!?)」

 

『言っとくが、仲間は来ないぜ。

 

 

俺の仲間が、あいつ等を足止めしている』

 

「!?」

 

「三蔵法師を復活させるには、彼女の力が必要だと言っていたが……一体、誰が貴様等に言ったんだ?」

 

『何故知る必要がある?

 

テメェが知る必要は無い』

 

「なら、貴様に彼女を渡すわけにはいかない」

 

 

銃を構える陽介……悟空は陽介を見ながら、ネロの体から降りゆっくりと歩み寄った。

 

 

 

降りたのを見た美麗は、大地の手を振り払いネロ達の元へ行った。

 

 

「ネロ!紅蓮!」

 

 

美麗の呼び掛けに、ネロはゆっくりと目を開けた。紅蓮はふらつきながら立ち上がり、ネロの元へ歩み寄った。

歩み寄ってきた紅蓮を、愁は撫でながら座らせ横にならせた。

 

 

「ネロ……ネロ?」

 

『平気だ……』

 

「ネロ……」

 

『紅蓮……ゴルド……

 

早く美麗と愁を連れて、ここから逃げろ』

 

『そのつもりだ』

 

「ネロ動いちゃ駄目!!

 

そんな傷で……待って、治療するから!」

 

 

小太刀を抜くと、美麗は腕を切り血を出した。垂れる血を彼女は、ネロの体に垂らした。

 

美麗の血に触れたネロの傷口は、すぐに塞がり跡形も無く治っていった。

 

 

『変わりの無い力だ……』

 

 

そう言うと、ネロは頭を降ろし目を閉じ眠ってしまった。傷口を全て塞ぐと、美麗が紅蓮の方を向いた時だった。

 

 

“バーン”

 

 

聞こえる銃声……振り返るとそこには、如意棒に腹を突かれたのか、腹を抑えながら倒れる陽介と腕から血を流す悟空がいた。

 

 

「陽介!!」

「陽君!!」

 

『邪魔者は消えた……さてと』

 

 

振り向く悟空……愁は美麗の小太刀を鞘から抜き、彼女の前に立ち、歩み寄ってくる悟空を睨んだ。

 

 

“バーン”

 

 

「!?」

 

「それ以上、うちの総大将に近寄るならこっちも容赦しねぇぞ?」

 

 

目付きを変えた大地が、陽介の銃口を悟空に向けて立っていた。

 

 

『使えねぇ研究員かと思えば、何だ……普通に戦えるのか?』

 

「研究員やる前、俺ちょっとは名の知れたアサシンなんだよね~」

 

 

白衣の懐にしまっていたナイフを出しながら、大地は美麗と愁の前に立った。

 

 

「……大地?」

 

「愁君、ちょっとの間ぬらちゃんの目を塞いでてちょうだい」

 

「……」

 

「俺が良いって言えば、もう終わってるから」

 

 

あまりの変わりように、美麗は手で耳を塞ぎ目を瞑った。愁は目を瞑った彼女を抱き寄せ、大地に背を向けた。

 

 

「さぁて、ゲームを始めようじゃない」


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