桜の奇跡 作:海苔弁
生まれて教えて貰ったこと……生きるには、人を殺すしかない。
『ガキのくせして、良くやるよな?』
あの中での唯一の楽しみ。それは本。
『また難しい本を読んでるな、お前。
って、お前もかよ!』
本を読んでいる間、『人』になれた。ここしか知らない俺を、未知の世界に連れて行ってくれた。
『本は良いよね。
読んでいる時が、一番幸せだった』
誰かがそう言った……
その後、所属していた組織は壊滅した。
生き残ったのは、俺等2人だけ……そのまま、施設へ行かされた。
目を覚ます陽介……起き上がり、辺りを見回した。
「……?」
生暖かい液が、手に触れた……陽介は手に着いた液を見た。
「……ハ?」
赤黒く染まった手……その時、脚に重みを感じ目線をやった。
首から血を流す梗介……彼と自分を中心に、辺りには部下が血を流し倒れていた。倒れる部下の中に、如意棒を持った悟空と武器を持つ他の2人。
振り向いた3人は振り返ると、ニタァと笑った。
「!?」
「やっと起きた……
陽介、大丈夫?」
「水輝、何で……痛!!」
腹を抑えて陽介は丸くなった。何とか痛みを我慢しながら起き上がり、彼は周りを見た。
「まだ起きちゃ駄目だよ!」
「美麗は!?愁は!?大地は!?」
「いっぺんに聞かない!
大地なら、隣で寝てるよ」
「え?」
「ウ~……死ぬぅ……」
「何かやったみたいだよ?
こっちに駆け付けた時には、誰かのナイフを赤黒く染めて倒れてたし」
「……美麗と愁は?」
「ミーちゃん達なら、あそこ」
水輝が指差す方向には、目が覚めているネロの頬を撫で、彼女に気を取られている隙に、花琳と幸人はネロの傷の手当てをしており、梨白と秋羅は愁と共に紅蓮の手当てをしていた。
「貴様等、何故こっちに……」
「血塗れになった孫悟空が、息ガラガラで私達の元に現れて、ボロボロになりかけていた2人を連れて逃げてったの」
「……血塗れ?
誰にやられた?」
「それが分からないんだよ。
ミーちゃん達が落ち着くまで、何があったか聞けないし」
「……」
夜……腹を抑える陽介に、水輝は飲み物をあげた。
「お前、相変わらず鳩尾弱いな?」
「ほっとけ……痛……」
「水輝~……僕チンにも飲み物を……」
「ヘイヘイ」
「お前は何にやられたんだ?」
「それ、聞かないで……何れ話すから」
「……」
「やれやれ、やっと終わったわ」
手を拭きながら、花琳は幸人達の元へ戻ってきた。
「何が終わったの?」
「ネロの治療。
やっと落ち着いて、今眠ったのよ。
美麗の膝に頭乗せてね」
「容体はどうなんだ?」
「一命は取り留めてるわ。二三日安静にしとけば完治するわ」
「そんじゃあ、ここに二三日留まるって事か」
「まぁ、そうなるわね」
「ミーちゃん、落ち着いてる?」
「えぇ、一応」
「陽介、聞きに行く?」
「あぁ」
幸人の手を借りて、陽介は立ち上がり美麗の元へ行った。残っていた明依は、弱くなる焚き火に枝を追加した。
「ハァーぁ、何か長旅になりそう」
「そうですね……
しかし、あの3匹はどうして三蔵法師と共に、天界へ帰れなかったのでしょう」
「天界へ?」
「西遊記の最後はご存じですか?」
「牛魔王を倒して、天竺に到着してお経を貰うじゃなかったかしら」
「そうです。
お経を貰った後、彼等は天界へ帰り神になったと言われています」
「ランスと花琳、半分正解だよ」
「半分?」
「あの4人は、元々前世で出会ってたんだよ。
悟空はあのままだけど、三蔵法師と猪八戒、沙悟浄は元々天界で地位の高い者だった。
ところが、罪を犯したことにより彼等は天界から追放され人へと転生した」
「悟空はあのままって、彼何年生きてるの?」
「斉天大聖・孫悟空。
彼は、岩から生まれた異端な存在。
人でも妖怪でも無い彼は、自然が生み出したものだった。生まれながらに災いの象徴として、天界へ連れて来られたのが、500年前とされているわ」
「そんな昔から」
「美麗と、あまり年齢変わらないのね……」
「けど残念なことに、彼等には天界での記憶1つも無い。
覚えも無いから、出会ったのは運命でしょうね」
眠るネロの頭を撫でる美麗……歩み寄ってくる陽介達に、彼女の膝で眠っていたネロは目を開け、唸り声を上げながら頭を上げようとした。
「駄目だよ!まだ動いちゃ」
「これだけの傷を負っても尚、美麗を守ろうとは」
「ネロ、寝てて良いよ。
敵、いないから」
撫でられるネロは、頭を美麗の膝に乗せ目を閉じ眠りに入った。ネロを撫でながら、彼女は幸人達の方に顔を向けた。
「傷は負ってないみたいだな……良かった」
「大地がアイツを追っ払ってくれたみたいだから」
「大地が?」
「大地、突然目付き変えて陽介の銃を撃った後、白衣の懐からナイフを取り出した。
こっから見てない。大地が、良いって言うまでずっと目ぇ瞑ってたから」
「そうか……」
『一部始終なら、俺見てた』
紅蓮の手当てを終えた愁は、立ち上がりながら幸人達に言った。
「話はあっちで聞く」
『分かった』
幸人達と焚き火の方へ行く愁を、美麗は不安そうな表情を浮かべて見た。そんな彼女を慰めるようにして、エルと共にやって来たアゲハが、美麗の頭に乗りエルは彼女の後ろに腰を下ろし嘴で頬を撫でた。
焚き火の場所へ来た愁は、見たままの光景を幸人達に話した。傷だらけとなった悟空は、息カラカラそこから逃げていった。去って行く彼を見送った大地は、赤黒く染まったナイフを、手から落とすとまるで電源が落ちたかのようにして、その場に倒れてしまった。
「……だ、大地の豹変振りに、私凄い驚いてるんだけど」
「俺もだ……」
「アイツが元アサシンだったとは……」
『秋羅、アサシンって何だ?』
「暗殺者のことだよ」
「この研究員、何を隠してるんだ?」
少し離れたテントの中で、未だに眠っている大地に目を向けながら、幸人は呟いた。
全員が寝静まった頃……見張りとして起きていた愁は、毛布を手にネロの元へ行った。ネロの傍で眠っている美麗を抱き上げると、彼女を眠っているエルの胴の上に頭を乗せ寝かせ、毛布を掛けた。
美麗を撫でると、愁はネロの頭に自身の額を当てた。
『ネロ、美麗にはまだお前が必要だ。
だから、早く治って。美麗が待ってるよ』
合わせている額から、一瞬淡く光り消えた。額から離すと、愁は焚き火のところへ戻っていった。
彼等を見下ろす沙悟浄……岩の影で岩に寄り掛かり座る悟空を手当てする猪八戒に話し掛けながら、彼は歩み寄った。
『悟空の容体は?』
『今やっと、呼吸が安定してきました』
『そうか……』
安定した呼吸をしながら、悟空は眠りに付いていた。
『しっかし、何にやられたんだが……
総大将曾孫と一緒に居た奴の中に、こんな凄い奴いたか?』
『さぁ。
僕等も僕等で、やられ掛けていましたけどね』
『まぁな……
祓い屋5人を相手にするのは、ちょっと荷が重過ぎた』
『彼等が辿り着く前に、彼女を連れて行こうと思いましたが、無理そうですね』
『悟空がこんなんじゃ、無理だろ?
せめて、総大将曾孫が1人になれば連れて行くの簡単なんだけどな……』
『少々荒くなりますが、1つだけ手段はありますよ?』
『お前の荒いって言うのは本当に荒いから……』
『大丈夫ですよ。
殺しはしません。少し離れさせるんです。その隙に、彼女を連れて行くだけです』