桜の奇跡 作:海苔弁
炎に包まれた城へと着く、悟空達……
城にあるバルコニーに降りると、彼等は中へと入った。
八戒の腕の中で眠る美麗を、沙悟浄は何気なく見た。
『すっかり寝ちまってるわ、総大将曾孫』
『さっきまで散々はしゃいでましたからね。
疲れたんでしょう』
『その辺は、普通のガキと変わらねぇな』
『あれ?やっと連れてきてくれたんですか?』
その声に、眠っていた美麗は目を覚ました。覚ました彼女の頬を、寄ってきた者は撫で頭を撫でた。
『君等、何か術使ったんすか?』
『一時的に記憶を封じてます』
『そうなんすか……
とりあえず、実験室に運んで。どれくらい力を持ってるか調べたいから』
『そのつもりだ』
不安げにする美麗の頭に、悟空は手を置きながら答えた。
『随分と、懐かれたみたいっすね?』
『チビの割に、誰にも人見知りしねぇんだよ』
『フーン……』
先を歩き出す者の背を見つめる美麗に、答えるようにして八戒は言った。
『あの人は、如意真仙。牛魔王の弟さんだよ』
『三蔵の件が無ければ、あんな奴とっくにあの世行きだ』
『悟浄』
『冗談ですよ、冗談』
実験室に入ると、目の前に経文で体を封じられた巨大な妖怪が座っていた。その威圧に、美麗は身を縮込ませた。
『怯えることないっすよ。
兄君は、300年前からずっとこの経文により深い眠りに付いてるんすよ』
『……』
『彼女をその台に置いて下さい』
指差す台に、八戒は美麗を座らせた。座らせた彼女に、その者はテープの着いたコードを体中に貼っていった。
『悟空、ちょっと彼女を抑えてて下さい』
コードを引っ張り取ろうとする美麗の手を、悟空は抑えた。
『猪八戒、台に設置している枷を彼女の手足に着けて下さい。
今から動きを封じます』
『そこまですることですか?』
『暴れてコード外されるの、困るんすよ』
『……』
設置されている枷を、八戒は美麗の足首に着けた。枷が着けられた音に、美麗は怯えだし外そうと悟空の手を振り払おうとした。
『おい!暴れるな!』
『悟空、そのまま抑えてて下さい』
脚の枷を着け終えた八戒は、目の色を変え美麗の目を見つめた。不気味な光を放った途端、彼女は意識を無くし悟空に寄り掛かるようにして倒れた。
『流石、猪八戒。
幻術には、長けてますね』
『あまり、女子供に使いたくはないんですが』
『それはそれ。
子供と言っても、彼女確か100年は生きてますよ?』
『は?このチビが?
何かの間違えだろう?』
『いいえ。
藤閒が、この国に訪れたのは500年か600年……もっと前かも知れ無いっすね
その次に来た、藤閒の孫だと言っていた麗桜が来たのが、200か300年くらい前。
その後に確か、英国の妖精王の血を引く女とくっつき、子供が産まれたって風の噂で聞きましたから』
『……』
『そろそろ数値測るんで、離れていて貰って良いですか?』
言われた悟空と八戒は、枷を着け終えると美麗を台の上に寝かせ離れた。
如意真仙が機械のスイッチを入れ、ガチャガチャと機械を操作しているとコードに電気が流れた。
流れ出て自身の体を包む電気に、美麗は激痛を感じるのか悲痛な叫びを上げながら、体中に貼っていったコードを外そうと枷で封じている手足を激しく動かした。
『おいおい、尋常じゃねぇぞ。この苦しみ方……』
『いくら何でもやり過ぎだ!止めろ!!』
『これが普通なんですよ。
何せ、彼女の中には闇の力が存在してるんですから』
『闇の力?』
『妖怪の世界には、禁断の力……闇の力が存在するんですよ。
悟空、君の頭に着けている緊箍児(キンコジ)。それも本来の君の力を封じているもの。何故封じているか、ご存じですか?』
『それは……』
フラッシュバックで蘇る過去……緊箍児が外れ、大暴れした自分を止める三蔵達。
『ご存知のようですね?
まぁ、その力が彼女の中に眠ってるんですよ。それを覚まさせて、力が発動したらそれを兄君に送るんですよ。
こんな小さいのに、凄い量の力ですね……
体力的に、持ちそうにもないので力を兄君に与えるのは明日にしましょう』
機械のスイッチを切ると、電気は消え苦しんでいた美麗は乱れた息をした。倒れた瞬間、悟空達の目にある者が映った。悲しそうな表情を浮かべる者……3人を見たその者は、静かに倒れ美麗の中へと入って行った。
『用意した部屋に、入れといて下さいね』
紙に何かを書きながら、如意真仙は実験室を出て行った。
残った3人は、呆然と台の上で気を失う美麗を見ていた。
『……おい、さっき見えたか?』
『えぇ……見えましたよ』
『何故こいつの中にいるんだ?
三蔵……』
『とりあえず、枷を外しましょう』
八戒の呼び掛けに、悟浄は枷を外した。同時に悟空と八戒は体中に貼られていたコードを外した。
『ガキ起きそうか?』
『いえ、気を失っていますね……』
『そりゃそうか……あんだけの電撃食らったんだもんな』
『意識あったら、化け物ですよ』
意識が無くなった彼女を、八戒は持ち上げ抱いた。八戒の腕の中で眠る美麗を、悟空は疑いの目を一瞬向けたがすぐに逸らし、彼等と共に実験室を出た。
あなた、記憶を封じられているのね。
凄い頑丈な封印……解かない方が良さそうね。
でも、少し妖力を解放させて貰うよ。
大丈夫……私が付いているから、安心して使いなさい。
自室で資料を眺める如意真仙……
『わぁ……凄い数値。
闇の力をここまで持っているとは、なかなかの大物っすねぇ。
あんな小さい子供の中に、これだけの闇があるとは……
何か、暗い過去でもあるんですかねぇ……』
赤い目を不気味に光らせながら、如意真仙は窓の外を眺めた。外は曇1つない夜空になっており、空には満天の星が輝きその中心に月が輝いていた。
その月を屋上から、悟空達は眺めていた。
『お!綺麗な月』
『今晩は満月みたいですね』
『……懐かしいな……
よく三蔵と、星空見たよなぁ』
『今日みたいに、晴れた日に皆で横になりましたね』
『そういやお前、月見た時『太陽みてぇ』って言ったよな?』
『あれは直感的に、そう思っただけだ!』
『お子様だねぇ、悟空君』
『悟浄、これ以上俺も馬鹿にするなら、ただじゃ置かねぇぞ』
『オ~、おっかねぇ』
2人のやりとりを見て、猪八戒は噴いた。彼に釣られて悟空も沙悟浄も噴き笑い合った。
笑い合う中、悟空はふと目を開けた。自分達の輪の中に、笑う三蔵がいた。ハッとしそこを見るが、そこにはもう三蔵の姿は無かった。
『……何で、俺達は行けなかったんだろうな』
『……』
『牛魔王を倒せば、三蔵と一緒に天界へ行けたはずなのに』
『……まだ、罪が重たかった……
そういう事じゃないでしょうか?』
『……』
『神様も、酷ぇなぁ……
三蔵いなくなっちまったら、路頭に迷うの分かってるくせして』
『そうですね……』