桜の奇跡 作:海苔弁
あんな変人夫婦の子供、引き取りたくも無い。
何考えてるのか、分からないし。
町長さん、引き取ってはどうです?
いや、私は……
一人でやっていけるんで、別に世話とかいいです。
街路を歩く一人の長い白髪を一つ三つ編みにし、先を赤い結い紐で結った少女。出ていた店に持っていた買い物籠とメモを主人に渡し、売り物を詰めて貰った。
「しっかし、彼が面倒見ると言っときながら、結局美麗ちゃんが面倒見てるんだね」
「別に。
互いに見合ってるって感じですよ」
「そうかなぁ……何か、見てる感じだと君に世話になってるって感じだけど。
あ、はい。これで全部ね」
「どうも。
そう見えてるんなら、私はあいつに恩返し出来てるって事ですよね!」
「……」
「じゃあ」
主人に笑顔を見せて、美麗という少女は帰って行った。帰って行く彼女の後ろ姿に、主人はやれやれと頬を掻きながら見ていた。
「何だ?美麗ちゃん、来たのかい?」
「まぁな」
「よくもまぁ、あの変人と一緒に住めるよな」
「確かに。俺、絶対無理だわ」
「……」
「でも、世話になったんでしょ?彼女の両親に」
「その恩返しだって言ってるんですよ。美麗ちゃん」
「本当、しっかりした子に育ったよ」
町から離れ、林道を歩く美麗。彼女を出迎えるかのようにして、子供の黒狼が駆け寄り一緒に歩いた。
『何か買ったのか?』
『何々?』
「野菜とお肉」
『肉!!』
「言っとくけどあげないよ。
私達の夕飯が無くなっちゃうから」
『うっ……』
「材料あるから、林檎パイ作ってあげる。それで許して」
『林檎パイ!』
『林檎!』
彼女の周りを駆け回りながら、黒狼達は大喜びした。
林道を抜けた先には満開の桜の木が生えた、二階建ての家が建っていた。
門の戸を開け敷地内に入り、玄関の戸を開けた。
「ただいまぁ」
入ったと共に、突然何かが崩れ落ちる音が聞こえた。美麗は買い物籠をテーブルに置くと、すぐに二階に駆け上りある部屋の戸を開けた。
中には棚から落ちたのか、大量の本が散らばっておりその中に生き埋めになっていた、無造作に肩まで伸ばした黒髪を、耳下で結った男がヒョッコリと顔を出した。
「だ、大丈夫?」
「本取ろうとしたら、崩れ落ちて来ちゃって……」
「……だからいつも言ってるじゃん。
月一でいいから、整理しろって」
「仕様が無いだろう?
明日までに、書かなきゃいけない資料があってね」
「また討伐隊から?」
「そう。
この頃酷いらしいからねぇ」
「フーン……
ほら、手伝うから一緒に片付けよう」
「ハーイ」
数分後……
持っていた本を棚に戻し、一息吐きながら美麗は綺麗に部屋を見回した。
「フー、片付いた」
「何もやってないじゃん!」
「やったじゃん」
「どこが!
やってる最中、普通に本読んでたの誰!」
「……僕?」
「分かってんなら、言わせないで!」
「……林檎パイ食べたい」
「話聞いて!」
「林檎、取りに行くよ」
「晃!!」
森の奥へと行き、大きな林檎の木に登った美麗は、手慣れた手付きで、林檎を取り下にいる晃に渡していった。
籠一杯に盛られた林檎を見ると、晃は見上げて木に登っている美麗に声を掛けた。
「籠一杯になったから、そろそろ帰ろう」
「ハーイ」
軽々と木から下りると、先を歩いて行く晃の元へ、美麗は追い駆けた。
森を歩く2人……晃の隣を歩いていた美麗は、彼の手を握り歩いた。
「……君、本当好きだね。
僕と手、繋ぐの」
「いいじゃん!私は、こっちの方がいいの!」
「……まぁ、僕は嫌いじゃ無いけど」
「それに、書いてあったよ?本に。
兄妹は仲良く、手を繋ぐって!」
「……あのねぇ、何度も言ったけど僕と君は、血の繋がってない兄妹。
君のお母さんが、僕を引き取って養子にしたから、義兄だよ」
「繋がって無くても、晃は私のたった一人の家族だもん。だからいいの!」
そう言って手から腕に、美麗はしがみついた。そんな彼女を、晃は笑いながら頭を撫でた。
森を出る2人……ふと、家の方を見ると玄関ドアの前に立つ2人の男。彼等の姿に、美麗は怯え晃の後ろに隠れた。
「大丈夫だよ」
「……」
男の元へ歩み寄る晃達。彼等の姿に、2人は気付くと被っていた帽子の鍔を持ちながら、そちらに向いた。
「何か用ですか?」
「妖怪の資料を、受け取りに来た」
「明日までだと、聞きましたけど」
「急遽早まった。
出来ているのか?」
「……ちょっと待ってて下さい」
家の中へ入ると、晃は二階へと上がった。その間、美麗は籠をテーブルに置いた。その時、突然背後から片腕を掴まれた。
「お前等、兄妹と聞いているが……戸籍上は、赤の他人みたいだな?」
「……」
「お前の両親はどうした?
あいつが、俺等討伐隊に協力するようになった頃には、もう傍にいたよな?」
「……」
「何者だ?」
「……えっと……その」
「人の義妹、いじめるのやめて貰いますか?」
二階から降りてきた晃は、階段の上から2人を睨みながら言った。彼の姿に、美麗は手を振り払い降りてきた晃の後ろへ隠れた。
「はい、資料。
義妹いじめた罰として、上の方に今回の給料上げろと報告しておきますね?」
「っ!」
「それが嫌なら、上層部に大空天花と言う女性がいますから、その人を今度からこちらに寄越して下さい」
「……」
「さぁ、とっとと帰って下さい。
怯えてるんで」
不機嫌そうな表情を浮かべて、2人は出て行った。
「……フー。
さて、林檎パイ作ろっか」
「うん!」
パァっと明るくなった美麗。彼女に釣られて、晃は微笑んだ。
台所で生地を捏ねる美麗の顔には、白い粉塗れになっていた。そんな彼女の頬を、手で拭きながら晃は美麗と笑い合った。
(たった一人の僕の家族……
何があっても、必ず守るからね)
早朝……
(夢?)
目を開ける紅蓮……
酸素マスクを取りふと横を向いた。自分の手に頭を乗せ眠る紫苑がいた。そんな彼女を、紅蓮は撫でた。
(……俺が傍にいねぇと……こいつは何も)
「……紅蓮?」
眠い目を擦りながら、紫苑は起き上がった。目が覚めていた紅蓮に、彼女は泣きながら掛けていた毛布を捨てて彼に抱き着いた。
抱き着いてきた紫苑を、紅蓮は腕に繋がっていた管を抜き、彼女を抱き締めた。
「紅蓮…紅蓮……」
「ごめん……」
抱き締める紫苑……彼女の手に嵌めていたブレスレットが、淡く光った。